大きいソルと小さいソル
楽しんでくれると嬉しいです!
ラース君が進化して、リアルで2日後。
城のソファで、ソルに膝枕をしてもらっていた。
「ねぇルナ君。そろそろコンテスト用の写真撮らなくていいの?」
「あ、忘れてた。期限いつまでだっけ」
「1月7日だね」
「へ〜、あと2日も期限あるのか。じゃあ......」
後でいっか。そう言おうとした瞬間、ソルの真っ黒な笑顔が俺の思考を支配した。
「うふふ......」
「早速取り掛かろうと思います」
「頑張ってね!」
俺の言う『後でやる』が永遠に来ないことを知っているから、こうして早め早めに行動するようにしてくれるのは有難い。
俺の短所を補おうとしてくれるとは、良い彼女ですなぁ。
「リルとメル。それからお稲荷さんに協力してもらうか」
コンテストに出す写真のテーマとして、『和』を使いたい。
お稲荷さんハウス周辺は、紅葉やら渓流やら、和を感じさせるスポットが沢山あるからな。
天狐をあーだこーだ言って誘えば、入れてくれるだろう。
「リル〜、メル〜。ちょっといいか?」
「「は〜い」」
「おわぁぁぁ!!!」
ピギーと変則リズムの攻撃を練習していたリルがこちらへ走り、元々傍で見守っていたメルもやって来た。
「ちょっとルナ! 邪魔しないでよね!」
「すまん。まさかリルが真っ先に来るとは思わなかった」
「もう! で、何する気なの? またダンジョン?」
「いや、コンテスト用の写真を撮りにな。お前も来るか?」
ピギーはお稲荷さんに会ったことが無いだろうし、お稲荷さんに『ウチのパーティメンバーですぅ』って紹介したいな。
多分、お稲荷さんの言葉にたじたじになるだろうな。ピギー。
「う〜ん、行こっかな。ソルちゃんは?」
「上で何かしてる」
「そっか。それで場所は?」
ピギーが質問すると、リルとメルも俺の顔を見てきた。
「神界。お稲荷さんハウスで撮ろうと思う」
「父様、どうしてお稲荷さんの所なのですか?」
「うんうん。しゃしんならどこでもいいんじゃ?」
「ノンノン。2人の魅力を最大限に活かすなら、あそこじゃなきゃダメなんだよ。質問があるなら、写真を撮った後にしな」
「「は〜い」」
ククク......これで素敵なお写真が......!
俺が2人を強引に説得していると、全力で『お稲荷さんハウス』について調べていたピギーが帰ってきた。
「ねぇ、お稲荷さんハウスって何?」
「そのまんま。お稲荷さんの家」
「どこにあるの?」
「初期に飛ばされる神界の島から考えると......東へ数十から数百キロ先?」
「え......どうやって行くの」
「あぁ、別に神界から行かなくていいからな。狐国の神社から神界に行けば直ぐだぞ」
「えぇ?」
「お前も質問は後にしろ。取り敢えず、噴水ワープで狐国まで行くぞ」
そしてピギーと娘2人を連れて狐国に来たのだが、ここで思った。
『もしかして神界って、神龍と戦う為の場所だと思ってない?』と。
もしこの考えが広まっているなら、プレイヤー達は、自分達の視野を狭くしていることに気付かなければならない。
「なぁピギー。お前にとって神界って、どんな場所?」
「神龍と戦えて、大きな街があるエリア?」
「残念な神界だな」
「どういうこと?」
これ、写真云々を除外しても、教えておく価値はありそうだ。
「神界ってのはさ、神が住む場所なんだよ。こっちの世界に現地人が居るように、あっちの神界にも神が居る。
俺達プレイヤー的に言えば、神界は『もう1つのユアスト』だと考えないとダメだ」
あまり、リル達には聞かせたくない話なので少しだけ声を小さくした。
でも、ピギーなら分かってくれるだろう。小さくした意味と、言葉の本質を。
「......そんな風に考えたことないや」
「だろうな」
それから数分ほど歩き、神社の鳥居の前に来た。
「これから行く場所は、言わば秘境だ。空を飛べなければ辿り着けず、許可を貰わないと繋がらない。難易度がえらく高いゲームなんだよ」
そう言ってから3人で鳥居の前で頭を下げた。
これから行く所は神の居る場所。その門とも言える鳥居をくぐるなら、ちゃんと敬意を払わないと。
そしてピギーも頭を下げると、俺達4人は神界へ転移した。
◆ ◇
「な......何ココ! すんごい綺麗......でも、何か......」
「どうした?」
お稲荷さんハウスの前に転移すると、背後に広がる山々の風景を見て、ピギーが考え込んだ。
「あぁ! ルナがマサキに送った風景の場所か!!!」
「うっさ」
声が大きい。これだけうるさかったら、あの子が──
「おに〜〜〜いさ〜〜〜ん!!!!!」
「ヴッ......やぁ、天狐」
小さいソルが、俺の鳩尾目掛けて飛んできた。
流石は下級神だけあって、物凄く力が強い。正直に言って、吹き飛ばなかった俺を褒めてあげたい。
「も〜、天狐〜? どこ行ったん〜?」
「あ、主様が来ます! おにいさん、少し隠れさせてください!」
「ダメだ」
「そんな〜!」
天狐を抱きかかえると、ガラガラと戸を開けて出てきたお稲荷さんと目が合った。
「ルナはん! よう来たねぇ。やっぱり天狐、ルナはんに引っ付いてったんか」
「うぅ......ひどいのです。おにいさん」
「お前が仕事投げ出してこっちに来るからだろ? ちゃんと挨拶しようと思ってたのに、飛び出してきた天狐が悪い」
「ごめんなさい......」
耳をペタンと垂れさせて謝る天狐は、やはりソルに似ていてとても可愛い。
ソルも謝る時は耳を垂れさせるし、どうしてこう、獣人に対する力の入れ具合が素晴らしいんだ運営は。
お陰で楽しいゲームとなってますよ。えぇ。
「よしよし。次からは気を付けるんだぞ?」
「はいぃ......」
「ねぇルナ。その子とそちらのお姉さんはどちら様で?」
そうだった。ピギーについて話すのを忘れてた。いや、ピギーにもこの2人について話すのを忘れてた。
「えっとな、こっちの大きい方のソルがお稲荷さん。小さい方のソルが天狐だ」
「「「え?」」」
「え?」
「「父様...... / パパ......」」
おかしいなぁ。これで伝わると思ったんだが。
「お稲荷さんは神様で、天狐も神様」
「ですです! 下級神です!」
「え〜っと......本物?」
何についての本物なのだろうか。俺にはよく分からない。
「で、お稲荷さん。コイツはピギー。俺の昔からの友人だ。ソルの友達でもあるから、仲良くしてやってくれ」
「あ〜そう! ウチは稲荷言うねん。よろしゅう」
「よ、よろしくお願いします」
あ〜あ。やっぱりたじたじになってらぁ。先に忠告すべきだったかな?
それからある程度会話して、ピギーがお稲荷さんと、ストレス無く話せるようになってから、俺は話題を持ってきた。
「そうだ。写真だ。お稲荷さん、裏の山で写真撮ってもいいか?」
「別にええよ? あそこなら別に、ウチの許可を取らんくても、勝手に入ったらええのに」
「いや〜、一応お稲荷さんの家の近くだし、許可を取るに越したことはないだろ?」
「きっちりしてんなぁ。やっぱ普通の語り人とちゃうなぁ? ルナはん」
そう言ってお稲荷さんは俺の頭を撫でてきた。
悪い気はしないな。最近はソルに頭を撫でられる機会が増えたし、慣れてきたのかもしれん。
というか、普通は許可を取らんかね? ゲーム内とはいえ、社会のマナーは守るべきだろう。
「父様。あの山を撮るのですか?」
隣で俺達の会話を聞いていたリルが質問してきた。
「いいや。あの山をバックに、リル達を撮る」
そうです。いつの時代も、小さい子が好きな紳士が居るのです。
俺はその紳士に向けて、コンテスト用の写真を撮りたいんだ。
次回『変態紳士に捧ぐ天使の写真』お楽しみに!