戦利品とご褒美・後編
後編です。
戦利品のチェックを終えると、リルが俺の袖を掴んで引っ張ってきた。
「父様! お昼寝しましょう!」
「......?」
「お昼寝ですよ、お昼寝。約束したじゃないですか!『ご褒美があるぞ〜』って!」
「あ〜。じゃあ寝るか」
そう言えばそんな事を言ったな。確か、元々はメルだけのご褒美なんだっけ?
その点メルはどうお考えなのでしょうか。
「わたしはこんどでいい。もちこし」
「上手い使い方をするもんだな。じゃあリルは今からお昼寝か?」
「はい! 母様と一緒に寝ます!」
「そうか」
俺はメルの前に紅茶とクッキーを置き、メルの頭を撫でてから寝室へと向かった。
するとベッドで寝転がりながら大量のウィンドウを見ながら、尻尾をゆらゆらと動かしているソルを目撃した。
「ソル、いいか?」
「いいよ〜」
ソルはこちらに気付くと、尻尾を器用に動かし、ソルの隣へとポンポンとベッドを叩いた。
すると真っ先にリルがソルの隣へと飛び込んで行った。
「何を見ているのですか?母様」
「これはね〜、今までに確認されている幻獣の戦闘シーンだね。フェンリルと神龍、宵斬桜にフェニックス。後はコレ」
俺はベッドに座ると、ソルから初めて見るモンスターの映像を渡された。
「これは?」
「『タイタン』だよ。砂漠を更に西に進んだ、大きな平原で湧くの。出現条件要る?」
「欲しい」
「曜日を問わず、お昼の12時にお肉を捨てれば出るよ。どんなお肉でもいいんだって」
「肉......そうか。ありがとう」
映像に映っているタイタンは、名前の通り、巨人のモンスターだ。
10メートルくらいはありそうな巨体が、物凄いスピードで大剣を振り回している。
そしてその大剣に当たったプレイヤーは、面白いくらい綺麗に真っ二つになって死んでいた。
これが俺の知らない幻獣か。かなり恐ろしく感じる。
「恐怖は未知の特権だ。コイツの事を知れば、怖くなくなるはずだ」
怖いという感覚は、『知らない』が故に脳が処理出来なくなった反応だと俺は思っている。
例えば、このタイタン。
俺は巨人と戦ったことなんかある訳が無い。だから、どんな迫力でどんな威力でどんな思考をするかが分からず、脳が処理しきれないのだ。
「大丈夫だよ。タイタンは今のとこ、最弱の幻獣だから」
「ん? そうなのか?」
「うん。足と腕を斬っちゃえば、後は殴り放題だからね。だからフーちゃんを持っ......布都御魂剣を使っているルナ君なら余裕だよ」
お、今フーにヤキモチ妬いたから言い換えたな。
その証拠に、尻尾がピンと立っているぞ。それも綺麗に真っ直ぐ、真上に伸びている。
ちょっと......触らせてもらおう。
「ひゃう! びっくりした!」
「すまんすまん。というか、そんなに尻尾の感覚が鋭敏なのか?」
「うん......なんかね、アップデート後から敏感なの」
「そっか〜」
獣人の感覚にも修正が入ったのか。相変わらず凝りまくっているのな、このゲーム。
「あ、あの......敏感なんだよ?」
「あぁ。それがどうした?」
「ど、どうしてずっと撫でてるの〜!」
「可愛いからな。エロさより可愛さが勝っているから、触りたい欲が出ちゃってるんだ。許してくれ」
「も〜! 発情しても知らないよ?」
「はっ、リルの前で出来るもんならやってみな。情操教育に悪いと分かっていながら、ソルに出来るかな?」
「ぐぬぬ......!」
ソルは歯ぎしりしながら仰向けになると、着ているパジャマを少しだけはだけさせた。
ソルめ、言い訳が出来る加減を調整しながら誘う気だ!
「ふ〜。暑いな〜」
「そうですか? では、私がもう少しくっ付きますね」
「えっ......うん」
フッ、リルに邪魔されてやんの〜。俺を誘惑しようとするからこうなるんだぞ。ちゃんと周りを見てから誘惑することだな。
......あれ?
「じゃ、俺も寝ますかね。一応ご褒美なんで」
俺がリルの隣に寝転ぶと、反対側に居るソルから、綺麗な白い手が伸びてきた。
「......握って」
「そういう所、可愛くて好きだぞ」
「......えへへ」
ソルの手を優しく握ると、ソルは天井を見ながら目を閉じた。
そして間に居るリルはというと──
「私のご褒美が盗られた気がします」
異議を申していた。
まぁな、気持ちは分かるよ。元々リルのご褒美で昼寝をしようとしてたのに、ソルが俺の手を握っているからな。
本来はリルがその立場だっただろうに......すまんな。
「一応、お昼寝には入るんだろ?」
「そうですけど......仕方ありません」
諦めて川の字で寝るのかと思えば、リルは俺のお腹の上に乗ってきた。
「父様をベッドにして寝ます」
あら可愛い。この子、すっごくお父さんっ子だわ!
でも、狭くないのだろうか。俺は横幅には大きくないし、リルのサイズから考えても......ギリギリ収まるくらいか?
多分、起きたら上じゃなくて隣で寝てそうだな。
「何かアレだな。ここまで来ると、最早メルが必要だな」
「ふふっ、そうですね! メルちゃんと一緒が良かったです......でも」
「でも?」
「こうして父様を独り占め出来るなら、私は妹を我慢します」
この子可愛すぎませんか? ちょっと、胸がドキドキして死にそうなんですが。
それにしても、あのリルがメルを置いて俺を取ったか。
俺の中のリルの順位付けは、上から俺、ソル・メル、フー達という感じだと思っていたが、普段はメルを優先すると考えていた。
リルとメル、2人セットのイメージがあったからな。
「よしよし。でも今度、逆の事をメルがすると思うぞ〜」
「そうですね。メルちゃんは賢いので、私がこうすることも予想しているでしょう。でも、今だけは私の父様です」
顔を擦り付けて抱きつくリルの頭を、俺は右手で撫でてあげた。
「今だけだぞ?」
「はい......えへへ」
そのままリルの頭を撫でていると、自然と俺達は眠りについた。
お腹の上にはあたたかい感覚があり、右手にはもふもふ。左手は大好きな人の手と繋がっている。
俺は幸せな気分で、昼寝を楽しんだ。
◇◇
「──きて」
「ん〜?」
「おきて。パパ、おきて」
「......メル?」
メルに顔をペチペチと叩かれ、俺は目を覚ました。
ミニマップに映る時計を見ると、15時になった頃だ。
大体1時間くらい寝たのだろう。頭がスっと冴えてきた。
「どうしたんだ?」
「ラースくんたちがよんでたよ。『進化する〜!』って」
「進化? え、マジで?」
「マジ。はやくきて」
「あぁ」
俺は隣で寝ているリルにそっと布団を掛け、ソルの頭を撫でてからメルと共に外へ出た。
すると5人ほどのラースドラゴンが果樹園の前出座っており、会話に花を咲かせていた。
『あ、マスター! 聞いてください!』
「ほいほい。進化と聞いてるが、どうしたんだ?」
『こっちのラース君が、あと少しで進化するんです!』
ラースドラゴンの1人そう言って、鋭い爪で隣のラースドラゴンを示した。
『ウッス。マスターに追いつこうと頑張っていたら、進化の兆しが見えたッス』
「進化の兆しッスか......」
俺は不思議に思ってラース君のテイム情報を見てみた。
それも、恐る恐る見たんだ。だって、レベルを見るのが怖かったから。
でも、そんな小さな努力は塵となって消えた。
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名前:ラース
種族:ラースドラゴン《進化可能》
レベル:999
テイム主:ルナ(6,255)
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おぉ〜、好感度が6000もあるじゃ〜ん。好かれてんね〜?
『あの、マスター?』
「どうした?」
『俺の進化に関して、何か分かりましたか?』
待ってくれ。レベル999に目を逸らそうと頑張っているんだ。
というか、進化ってどうやるんだ?
助けて! ヘルプさ〜ん!
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テイムモンスターの進化は
《進化可能》の文字をタップすることで出来ます。
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ありがとうヘルプさん! 助かった!
「えっと......進化させてもいいか?」
『ウッス!』
「じゃあ、ポチー」
俺はラース君の情報から、進化可能ボタンを押した。
ラース君の、黒く大きな体が明るく光り、10秒ほど経つと光が真っ黒に染まった。
『お、おぉ! これが進化なんッスね!』
「「......」」
一緒に進化を見守っていたメルと一緒に、俺は口をポカーンと開けた。
何故なら、進化したラース君は──
「神龍になっちゃったかぁ......」
『どうしたッスか? マスター』
ラース君は、いつの日かの神龍となっていた。
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名前:ラース
種族:イラ・ドラゴン
レベル:1
テイム主:ルナ(6,381)
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「あっ」
違った。見た目そっくりの別人だった。やはり神龍はメルだけだ。
そう、メルだけなのだ!!!!!
「まぁ、なんだ。これからも頑張れ」
『ウッス!!』
こうして、俺の仲間が着々と進化していった。
イラドラはシンプルに強くなった黒龍です。
タンクとしても優秀。アタッカーとしても優秀。
ただ、移動速度はアルミラージの方が速いという悲しみを背負ってます。(地上のみ)
飛べば強いんです。飛べば。
次回をお楽しみに!