戦利品とご褒美・前編
こちらは前編です。
後編を同日に出しますので、ご安心を。
「ん......おはよう」
「おはようソル。まだしんどいだろ? 横になってな」
「うん......」
ソルが重度のMP切れから回復したが、まだ表情が怠そうだ。MPも全然回復していないし、ゲージ的にマイナスからゼロに戻ったタイミングなのだろう。
「これ付けとけ。あとマナポ」
「ありがと......ふふっ、何だか看病されてるみたい......」
「看病してるんだよ」
俺はソルの首にブリーシンガメンを掛けてあげ、胸の前まで特製マナポーションを持って行き、コルクを開けてあげた。
そしてポーションを受け取ったソルは、俺の予想通りの反応を示した。
「うぅん......飲ませて〜」
「言うと思った。だが残念な事にポーションは無理だ。口に入れた人間に効果が掛かっちまうから、口移ししても意味が無い」
「んなぁ......むぅ。仕方ない」
やれやれといった感じにポーションを飲むと、凄まじい勢いでMPが回復していった。
やはり、マモン戦で俺が早く起きれたのはブリーシンガメンの力が大きかったのだろう。
自動でMPを回復させるアイテムって、かなりの需要がありそうだ。
いや、『ありそう』というか『ある』んだけどさ。
「復活のソルちゃんです!」
「快復おめでとう。でも暫くゆっくりしとけよ?」
「うん! ありがとね!」
ベッドに寝たまま俺に抱きつき、ソルは感謝を伝える様にキスをした。
「うっへっへ。今度リアルで風邪引いたら、治った時にもしよ〜っと」
「それで感染されたら困るんだがな。まぁいいか。ありがとう。じゃ、リビングに居るから」
「うん!」
ソルの綺麗な白い耳を撫でると、俺はリル達の待つリビングへと赴いた。
「──あっ、父様! 母様の具合は?」
「大丈夫だよ。もう元気になってる」
「よかった〜。ママ、きゅうにたおれちゃったもんね」
「仕方ないですよ。母様はあれだけ強力な魔法を使ったんです。反動も大きいのでしょう」
そう、ソルが倒れた原因にある『強力な魔法』だが、これはソルがレヴィアタン戦で使っていた『狐式』という魔法が大きな要因のようだ。
実は先程、ソル以外にも妖術を使っていると言う真白さんに聞いて、狐式がどういう物かを知ったんだ。
まず、『狐式』とは式神召喚の1つとの事。
呪文的に言えば『狐式:○○』と、狐式の後に召喚する式神を選べるらしい。
ソルは最初、妖をランダムに召喚して、その式神に応じたレベルの強化をしたのだが、アレでは威力が足りなかった。
そして、次にソルが召喚した『稲荷』は、あのお稲荷さんだ。
お稲荷さんと仲が良い事を理由に、あの場にあの一瞬だけお稲荷さんを召喚し、神レベルの強化を施した妖術を使ったんだ。
そして、お稲荷さんを呼んだ反動が思いの外大きく、ソルのMPが足りずにぶっ倒れたとの事。
いやぁ、強い。ソルはとんでもなく強くなっている。
今の俺と真正面から戦えば俺が勝てるだろうが、瞬間火力の勝負に持ち込まれたら、アッサリと負ける未来が見える。
こりゃ武術大会での要注意人物の1人だな。ソル。
「さ、報酬を確認するか。リル、宝箱の中身はなんだったんだ?」
「はい、コレです」
「ん〜?」
リルが机の上に置いたのは、どこからどう見ても『猫耳カチューシャ』にしか見えないアイテムだ。
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『猫耳カチューシャ』(変装アイテム)
Rare:50
付けると猫獣人の見た目になれるアイテム。
尻尾まで再現されるので、あなたが別の種族
だと疑われる心配は消えます。
これをどう使うかはあなた次第。ウフフ。◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
「おい誰だよコレ作った奴! 完全にコスプレ目的じゃねぇか!」
何が『ウフフ』だよ!あんなモンスターと戦った後に、宝箱を開けたら猫耳カチューシャ?とんだ大ハズレアイテムじゃねぇか!
いや......宝箱に何を求めてんだって話にもなるけどさぁ。
「まぁまぁ。これは父様かメルちゃんが付ければ良いのです」
「良くねぇわ!」
「なら私が付けましょう」
したり顔で言い放ったリルにツッコミを入れていると、後ろからスっと伸びた手が猫耳カチューシャをかっさらった。
「どうですか? にゃんにゃん」
後ろに振り返ると、綺麗な半透明の蒼い髪に完全調和した、猫耳メイドのフーが立っていた。
それに、ご丁寧に猫の手ポーズをしている。
「可愛いな」
「とっても素敵です!」
「にあってる」
俺達は口々に素直な感想を伝えると、フーは顔を真っ赤にして俯いた。
「る、ルナさんに『可愛い』って、初めて言われたかもしれません......!」
「かもな。『猫耳を付けている時の』フーは可愛いよ」
「グフッ!......こ、これ......頂いても......?」
「ダメだ。お前が味をしめたら俺がソルに怒られるだろうが」
「でしょうね! 分かってましたとも!!! うわぁぁぁん!!!」
フーは俺の頭に猫耳カチューシャを勢いよく付けると、キラキラと光りの筋を残しながら走り去った。
「ふふふ! 可愛いです、父様」
「うんうん。ママとおそろっち」
「マジかぁ。でもソルのは狐耳だからな。もしかしたら狐バージョンもあるのかもしれんが、流石にあのダンジョンは周回出来んからなぁ」
幻獣を何十体も相手した上で、猛毒持ちの巨大蛇と戦うのは些かキツいのではなかろうか。
「それよりメルが付けてみ。きっと似合うぞ」
「そう?.......どうかな」
メルがそ〜っとカチューシャを付けると、可愛い銀色の猫耳がピコピコと動き出した。
「「可愛い」」
「あ、ありがとう......ふへ」
顔を逸らしながらも照れるメルは、中々に可愛いものだ。
それに、顔を逸らしても耳はこちらを向いており、ちゃんと俺達の言葉を聞こうとする姿勢が、何ともメルらしい。
「さて、次は先に称号から見るか。ドロップアイテムは最後に見よう」
「また新しいのを獲得されたんですね!凄いです!」
「ありがとう」
そんな感じで、レヴィアタンを倒した時に貰った称号はこれだ。
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『断罪者』
・大罪の悪魔に与えるダメージが1.5倍。
大罪の悪魔を7回倒す事で獲得。◇━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
「あ〜、サタンは5回倒してるからか。ってか強いなぁ」
1.5倍。それ即ち、今までの4分の3の攻撃回数で倒せるという事だ。
攻撃回数が減れば、必然的に攻略に必要な時間が減り、周回効率が上がる......大罪のダンジョンだけだが。
まぁ、俺がマトモに戦った悪魔がサタンだけだし、そのサタンのダンジョンも、もう行く予定が無いからな。
あと4回しか輝かない、寂しい称号となるだろう。すまんな。
「じゃあアイテムの方に移るか」
「なにひろったの〜?」
「これだよ」
俺は机の上に『悪魔の礼装・嫉妬』と悪魔の魔杖、それから『悪魔大蛇の尾槍』を置いた。
「お〜、今回の礼装はギリースーツか。それに杖は......カッコイイな。尾槍に関しては完全に加工前アイテムだな」
あの毒液塗れの槍の先端がそのままドロップしているからな。コイツを使えば、強力な毒武器になるだろう。
そして悪魔の魔杖は、黒い棒の先端に2匹の蛇が絡み合っているデザインの杖だ。
効果はどんな感じかと言うと......
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悪魔の魔杖
Rare:──
製作者:──
攻撃力:100
耐久値:∞
付与効果:『全魔法攻撃補正:大』
『闇属性魔法補正:特大』『蛇王毒』
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『蛇王毒』
・毒によるダメージが1.3倍。
・麻痺による拘束時間が1.3倍。
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デバフに特化した、絶妙に強い武器となっていた。
「まぁ、大会でネヴァンレインを使う時に出してみるか」
「「うわぁ......」」
「良いだろ?相手の苦しむ時間が減るんだ。相手には感謝して欲しいね」
俺はネヴァンレインと悪魔の魔杖のコンボをイメージしつつ、他のコンボにも応用出来ないか考えた。
これを悪用出来れば、次の攻略に役立つかもしれないからな。
「ま、そんな上手くいかないと思うけど」