不思議やなぁ
「ソルさんや。ちと付き合ってくれませんかね」
「あ、告白? よし受け取った! 私も大好き! 付き合おう!」
「いや、そういう意味じゃないから。ダンジョン攻略を手伝って欲しいだけだから。ってか既に付き合ってんだろ。しかも同棲してるだろ」
「いいの〜! その1つの『好き』に、どれだけのエネルギーが詰まってるか、分かってる?」
「あっはい」
家のリビングでメルと本を読んでいたソルを誘うと、テンプレの様でテンプレじゃない展開になってしまった。
やがて一連の流れを死んだ目で見ていたメルが、ソルの膝から降りて俺の元へ来た。
「パパ」
「どしたん?」
「......メルもすき?」
「そりゃあ勿論。好きだよ」
不思議な子だぁ。自分の娘を愛さないパパンがいる訳なかろ?
俺がメルの頭を撫でていると、いつの間にかソルが魔女っ子衣装にチェンジしていた。
「あれ? その衣装、ちょっと変えたのか?」
「うわぁお、よく気付いたね。本当にちょっとだけ変えてるの。具体的に言えば、あの衣装を元に、強いモンスターの素材でもう1つ作ったって感じだね」
「ほぇ〜。可愛いじゃん」
「えへっ、ありがと!」
デザインが大きく変わった訳じゃないが、黒地の漆黒感と言うか、色合いがより美しくなっていると感じる。
金髪とよく似合っていて、凄く好みだ。
それからソルとメルを連れ、城の方でアテナ達と模擬戦をしているリルを回収した。
「ルナ、お前そのメンバーでどこに行く気なんだ? 魔王でも倒すのか?」
「魔王なんて居ねぇだろ。俺が行くのは嫉妬のダンジョンだよ」
「ん? あのダンジョンにそのメンバーって、過剰戦力過ぎるだろ」
「はい? あのダンジョンこそこのメンバーだろう。アレを簡単と言ったお前らに俺はドン引きなんだけど」
大剣から弓に持ち帰る動作を練習しているアテナが、俺の言葉を聞いて首を傾げた。
いや、首を傾げたいのは俺なんだけど。あんな幻獣パラダイスが簡単とか、どうなってんだ?
もしかして俺、皆よりクッソ弱い? マジモンの最弱プレイヤーになってるのか?
そんな事無いよね? 皆を信じてるよ?
「俺の時はワイバーンぐらいだったんだが、お前は違ったのか?」
「は? ワイバーン? こちとら幻獣しか出てこなかったんやが?」
「は? 何だそれ。ただの地獄じゃねぇか」
「そうだよ地獄だよ。だからこのメンバーなんだよ」
アテナはイメージした地獄に目を瞑り、数秒の後に真剣な顔で聞いてきた。
「......そういう事か。よしルナ。今の情報、ちょっと掲示板の方に流していいか? 俺とお前で難易度が違った理由の考察に使いたい」
「ま、まぁいいけど」
「サンキュ。じゃあ頑張ってこい。結果出たら報告する」
「お、おう。じゃあな」
素早くメモを取ったアテナは、集中して考える為に城の中へ入り、それを見送った俺達はインフィル草原のダンジョン前へと転移した。
にしても難易度の差か......気になるところではある。
「父様。先程『幻獣しか出てこない』と言ってましたが、具体的にどのようなダンジョンなのですか?」
「それそれ。私も気になってた。調べた限りじゃ虫のモンスターで溢れてたもん」
「......あっ、わたしはなにも。パパについてく」
俺への質問の流れをメルが華麗に受け流し、メルは目の前のモンスターを焼き払った。
「えっとな、俺が逝った時は幻獣だけで35体居たな。細かく言うと、フェンリル18、宵斬桜9、フェニックス8って感じだな」
「「えぇ............?」」
リルとソルは顔を合わせ、その地獄がどれ程のものかをイメージした。
でもね君達、フェニックスとは戦った事が無いだろう?
アイツの厄介オブ厄介ポイント、不死の性質を知らないと、フェニ太君相手の立ち回りはかなり面倒なんだぜ?
というか、あれだけ数が居れば、運営の温情で不死じゃなさそうなんだけどな。
真偽の程は分からん。
「ん。それならメルひとりでじゅうぶん」
「な訳ねぇだろ。幾らメルでもあの数は大変だっての」
「えへへ」
舌をペロッと出してお茶目アピールをしたメルを見て、俺はテイムしたての時に感じたメスガキっぽさを思い出した。
ここ何ヶ月の生活で変わったと思ったが、ようやく生活に慣れた感じなのだろう。
メルの個性というか、人としての本質が見えてきた気がする。
「取り敢えず、モンスターの強さが変わる原因が分からない限り、幻獣パラダイスは確定だ。皆、死ぬなよ」
「無理かな〜」
「難しいですね〜」
「たのしみ〜!」
「はいメルだけご褒美アリ〜。2人にはあ〜げませ〜ん」
「あ〜げませ〜ん」
「「くっ......!」」
片手間にゴブリン達を倒しながら、メルとコンビを組んだ。
マイナス的思考をせず、リスクを考慮した上で楽しむと言ったメルを、俺ァ評価してぇなぁ。
「ちなみにルナ君。ご褒美とは?」
「んー............メル、ご褒美は何がいい?」
「パパと......おひるね?」
「らしいぞ。ご褒美はお昼寝との事だ」
「ルナ君『と』お昼寝ね。タダのお昼じゃあありませんよ。この報酬なら、私も全力でやらせてもらうね!」
「わ、私もやりますよ! 父様とお昼寝します!」
おぉ、2人がやる気になっている。眩しいね。
「頑張れ。勝てなくてもいいから、負けないでくれ」
敵から逃げてもいい。仲間を見捨ててもいい。自分の生存を最優先で行動してくれ。
生きていれば、勝利のチャンスは見付けられるはずだ。
◇◇
『『『獲物ぉぉぉ!!!』』』
『『『人間ッ!!!』』』
『『『ピィィィ!!!』』』
え〜、嫉妬のダンジョンに入り、3分ぐらいかな。もう既に地獄が出来ていたんだ。
「メル、氷で桜を止めろ。リルとソルはフェンリルを相手してくれ。俺は鳥をやる」
「オッケー!」
「了解です」
「任せて。『オムニオジェリダ』」
メルは氷龍核を齧り、冷気を纏う空色の髪に変化した。右目も蒼く染まり、幻想的な雰囲気を漂わせている。
そして聞いた事の無い魔法を使うと、宵斬桜どころか、何体かフェンリルを巻き込んで全身を凍結させた。
その結果、俺達の前方に十数体の幻獣の氷像が立っている。
「は......はは......強くなったな......メル」
「お勉強の賜物ってヤツだよ、パパ」
「凄いなぁ」
何だか、メルに置いて行かれた気分だ。俺ももっと使える魔法を増やして、使い方や発動速度を考えた強力なコンボなんかを編み出したい。
「さ、鳥さんは俺の得意分野だ。頑張ろう」
俺は少しだけフラカンで浮遊し、フェニックス達と同じ高さにやって来た。
『ピィィィィィ!!』
『フィロロォォ!』
「うわ〜、これはヤバイでござる。『不死鳥化』」
3人に死ぬなと言った手前、俺だけ空中で死ぬのは嫌だ。
不死鳥化を使ってでも、フェニックスを落としてやる。
「ステラ。練磨とエクリプスを」
『はい』
ステラに指示を出すと、剣の先端から金と銀の光が打ち上げられ、幻獣達には大ダメージの金の光を、俺達にはバフが掛かる銀の光が浴びせられた。
これ、ちょっとマズイかもしれない。ステータスが高すぎて、魔法の調整がとても難しい。
例えるなら、ハンドルが極限までユルユルになった自転車だ。
ちょっと右に曲がろうとして、110度曲るあの感じ。
『ルナさん、大丈夫ですか?』
「大丈夫。フーは余計な制限かけるなよ。全力でやらねばならんからな」
『勿論です。でも、気を付けてください』
「あぁ」
深く息を吸って、怯んでいるフェニックスに注目した。
布都御魂剣を抜き、純粋な魔纏を施してから構えた。
そして──
「あっヤベ」
『あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
ボガァァァァァン!!!!!
フラカンの制御を誤り、思いっ切りフェニックスに体当たりをした。
『ピィィィ......』
「い......痛ぇ......」
『ばかぁ! ホントばかぁ!!! アレだけ気を付けてと言ったのにぃぃ!!』
不思議やなぁ。俺も十分に気を付けていたはずなんだが、何故か制御をミスってしまったんだ。
にしてもフラカンって、ここまで速度が出るのか。
以前はウィンドボムと併用して大惨事になったが、今回は単体でも脅威だ。
気を付けねば。
「さぁ、やろうか!」
『フィロォォ!!!』
『締まらない戦闘ですね......頑張りましょう』
練習無しで3.8倍以上のステータスで魔法を使えば、流石のルナ君でも事故りましたね。
ちなみに、ソルさん達もステータス倍増してるので、ルナ君程ではありませんが制御が難しくなっております。
バフとデバフは表裏一体.....おぉ。
次回『奥さん強いっすね!』お楽しみに!