アンドロメダは宿りたい
アッ
「──そうして、私が宿る瞬間に語り人の方が死んでしまいまして、行き場を失った私は悪魔に捕らえられてしまったのです」
アンドロメダから話を聞き、どうして捕まったのか。どうして宝箱にいられていたのかをハッキリさせてもらった。
「じゃあ、これからどうします?その人の所へ帰りますか?」
「いえ......くじ引きで選んだ語り人ですし、今は貴方の物です。出来ることなら、貴方の付喪神にさせてください」
「付喪神にさせてくださいって言われてもなぁ......」
これでアンドロメダが付喪神イベントという事が確定したな。
だが、1つ問題がある。
「俺、手持ちの神器は愛着度が足りないから、宿る場所が無いんだよなぁ」
星塔で手に入れた『アステリアの涙』は、そもそも使う予定が無いから愛着度上昇の期待も出来ないし、どうしたものか。
「父様父様」
椅子に座って頭を抱えていると、リルがちょんちょんと肩をつついてきた。
「どうした?」
「ステラさん......神器にしちゃえば良いのでは?他にも、あのアイアンソードさんに宿すのも手かと」
目から鱗が落ちるとはまさにこの事。あまりにも素敵な提案を貰ったせいで、脳が少し、フリーズしたぞ。
俺はリルの頭を撫でてから抱き寄せ、膝の上に座らせてからモフモフの狼耳に顔を埋めた。
「頭......良すぎる......!」
「えへへ、どうですか?」
「採用だよ。アンドロメダさんはステラに宿そう。ちゃんと宿せるように、これから神器レベルまで強化してくる」
「私もご一緒していいですか?」
「勿論。疲れたらリルをモフるからな」
では、どうやってステラを強化するか。
別荘の方にある収納に、本気で『化け物』と呼べるモンスター達のアイテムが入っているが、それを使うか。
それとも、神鍮鉄でそのまま強化するか。
ここで両方の選択肢を取ると、マモンが俺の家に来そうだから。どちらか片方にしよう。うん。
「ソル。製作者の1人であるソルにも聞きたい。つよつよモンスターの素材を使うか、神鍮鉄を使うか。どっちがいい?」
俺はアンドロメダに紅茶を入れてあげていたソルに聞いてみた。
「ん〜、モンスターかな」
「どうして?」
「だって私、ルナ君が鉱石以外で武器を作ったり強化してるの、殆ど見た事無いもん。だから......好奇心?」
好奇心。それも大事だな。ならモンスターの素材を使おうか。
「あっでも、神鍮鉄を使った方が強いなら、そっちを使って欲しいな」
「分かった、ならメインはモンスター方面で行く。神鍮鉄も、補助とかそんな感じで使わせてもらおう。
アンドロメダさん。少し時間がかかりますが、待っていてください」
「あ、あの......私の耳がおかしくなければ、今から神器を作ると聞こえたのですが......」
「その通りですよ。あなたの依代となる神器を作るんです。では、少し待っていてください」
アンドロメダにそう伝え、俺はイブキ達を降臨させてから別荘に向かった。
アンドロメダを1人にしないよう、お世話と警戒の意味含めて任せたのだ......だが、ここでも1つ気になる事が。
フーが全くと言っていい程、目を合わせなかった。ずっと下を向いて、元気が無さそうだった。
「やっぱり......いや......う〜ん」
「どうしたんですか?父様」
収納からモンスターの素材を選んでインベントリに入れていると、俺の唸り声にリルが反応した。
「いやなぁ。フーと、プチ喧嘩?みたいな事をしてな。思う所があったんだよ」
「それ、何故かフーさんが原因で起きた事だと思うのですが、気のせいでしょうか」
「大正解だよ。アンドロメダさんを拾った時に、『また新しい女か?』って言われてな。俺が、傷ついた拍子に、ちょっとだけ強く言っちゃったのがトリガーだ」
多分、フーとしては冗談として言ったのだろう。
軽く受け止められて貰えると、そう信じて。
はぁ。面倒だ。
これだから、何もしなければ全部俺を信じてくれるソルが好きなのだ。これだから、ちゃんと理解出来る冗談を言ってくれるソルが好きなのだ。
何で相手の事をもう少し考えてくれないのかなぁ。
どうしてまだ俺に構おうとするのかなぁ。
もう、考えるのが億劫になるよ。
人が人を好きになる理由なんて、この世には無数にあるだろう。
無数にあるという事は、相手が困る様な理由で好きになる事もある訳だ。
正に、俺に対するフーがそうなんだけどさ。
ちょっと、人付き合いが面倒な俺の心が見えてくる。
「まぁ、フーさんはおバカさんではありません。ポンコツさんではありますが、ちゃんと考えられるメイドさんです。きっと、後で謝りに来ますよ」
「かもな。さ、鍛冶に余計な思考は持ち込んではダメだ。集中しよう」
必要なアイテムを持った俺は、リルと一緒に鍛冶小屋へと転移した。
◇8時間後◇
「──さて、何とか使うアイテムに魔力を宿せたな」
「今日はいつもより長かったですね。途中で寝ちゃいました」
「アイテムの癖が強いからな」
どうしてこんなに膨大な時間を使ってしまったのかって?それは簡単だ。
今回魔力を宿したアイテムは、それぞれが元来の魔力を持っている様な物達ばかりだったので、俺の魔力で塗り替えるのが死ぬほど大変だっただけなんだ。
「『魔神馬の神角』『月の輝石』『太陽の輝石』『金星の輝石』『冥王星の輝石』『星剣アステリア』『神鍮鉄』......これ程までの強力な素材、逆によくこの短時間でやったと思わないか?」
「頑張りました。父様はえらいです」
机に突っ伏してアイテムを広げていると、リルが頭を撫でてくれた。
ちっこい手なのに、貰える力は大きいなぁ。
「ありがとな、リル」
「いいえ。父様とゆっくりするのは、何だか久しぶりな気がします。ですから、私の方こそ『ありがとう』です」
「そうか?......そうか」
三賀日が終わらないと、俺達の両親が帰らねぇからな。
心からゆっくり出来るのは、1月4日からだろう。
ゲーム内とはいえ、両親の存在は大きいからな。完全に陽菜と2人っきりになるまで、緊張した状態が続くだろうな。多分。
「じゃあ作るか。ステラ、頼むぞ」
休憩用の椅子から金床前の椅子に座り、ステラの刀身を指でなぞった。
さ、手順をリファインしていこう。
「まずは神鍮鉄で補強して、馴染ませてから金星と冥王星を合成しよう。それからアステリアと合体させて、月と太陽でコーティング。最後に神角で仕上げだな」
「どうして輝石を2回に分けるのですか?1回で4つとも使った方が、楽じゃないですか?」
ノンノン。これはお菓子作りで『卵を2回に分けて入れる』様なイメージなんだよ。
「えっとな、輝石は接着剤みたいに使うから2回に分けるんだよ。最初の2つが主にくっ付ける仕事をして、後の2つが固まった2つを1つにする......そんな感じ」
「......?」
「ははっ、リルはあまり考えなくていいさ。のんびりしてな」
俺の説明に首を傾げるリル。そっと頭を撫でやれば、ブンブンと尻尾を振ってくれるのは嬉しいな。
「これより、ステラの改造オペを始めます。『イグニスアロー』......では、メス......じゃなくてハンマー」
「はい」
ステラが割れないように、且つ溶けない温度で熱してから、カーン!カーン!と高い音を立ててステラを打っていく。
そしてある程度ハンマーに慣れてきたら、イグニスアローとアウラによって、とても柔らかくなった神鍮鉄をステラに纏わせていく。
銀色の刀身が金色に変わり、ステラの刀身が数ミリ程大きくなった。
「次、金星」
「はい」
リルから金星の輝石を受け取り、ステラの切っ先の方に置いてから打ち込んでいく。
何故金星の方を切っ先にしたかというと、金星の輝石の方が、冥王星の輝石より柔らかいからだ。
これは魔力打ちの時に感覚で分かったのだが、冥王星の輝石の方が少しだけ硬いのだ。
それもただ硬いだけでなく、金星は『受け入れてくれる柔らかさ』があるのに対し、冥王星は『拒絶する硬さ』
を持っていた。
そんなガチガチの冥王星の輝石は、剣で1番大事な根元の方の接合、及び補強を担当してもらう。
「ふぅ、良い感じだな。冥王星も取ってくれ」
「どうぞ」
「ありがとう」
前述した冥王星の輝石は、もう俺の手によって俺の魔力が宿っているので、『俺が』魔力打ちをすれば簡単に変形してくれる、聞き分けの良い子になっている。
え?恐怖で支配したんじゃないかって?
ボク、インテリジェンス、タカイ。マホウコウゲキ、ツヨイ。
冥王星は良い奴だったよ。さらば、プルートー。
「アステリア」
「はい」
2つの輝石による補強と糊付けが終われば、今度は星剣アステリアをステラにくっ付ける。
そう言えば星剣アステリア、1度も使ってやれなかったな。
一応1本だけ予備があるし、気が向いたら使おうか。
「父様、邪魔して申し訳ないのですが、アステリアさんはどんな能力なのですか?」
「これ」
リルの疑問に応えるべく、アステリアの詳細ウィンドウをリルの前に飛ばしてやった。
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『星剣アステリア』
Rare:43
製作者:──
攻撃力:1,900
耐久値:1,000,000/1,000,000
特殊技:⦅星斬り⦆
付与効果:『月光強化』『太陽光強化』
『星の蓄え:六等星』『剣術補正:大』
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「星の蓄え......そのままですね」
「あぁ」
アステリアには、刀身に6つの窪みがある。これは星の光を1分当てることで1つ埋まり、特殊技の⦅星斬り⦆によって、強化した斬撃を使えるという代物だ。
女神アステリアが使っていた、形状変化能力が無いのが残念だが、これでもかなり強力だ。
......使わないけど。
「よし、合成完了。もう少し待ってろよ〜、ステラ」
ステラに合成した星剣アステリアの柄を外し、俺はステラに話しかけた。
「実質子どもみたいなもんだからな、お前は。一緒にソルを驚かせてやろうぜ」
次回『神星魔剣・ステラノヴァ』お楽しみに!