これは夢か?それとも悪夢か?
「フーよ。今の状況を一言で表すことは出来るか?」
『余裕です。『地獄』ですよね』
「正解だ」
「「「「「「ルナく〜ん!どこ〜!?」」」」」」
強欲のダンジョンを進むこと1時間。
一度に発生するモンスターの数がかなり増え、何体か放置して進んでいると、ソルに化けた狸共で溢れかえってしまった。
「なんかさ、時間経つ事に増えてる気がすんのよな」
『増えてますよ、確実に。先程までのソ「狸」......狸は10匹くらいでしたが、今は優に30匹は居ますから』
「はぁ......ここで大きな魔法を使ったら、砂が崩れる気がするからなぁ。どうしたもんか」
糸で縛ってから1匹ずつ処理するか?それとも魔法で精密射撃?
少し狭い空間での行動って、かなり面倒だ。
『ここはセレナさんに任せましょう』
「ま、それしかないよな。来い、セレナ」
『はいはい......って、あら。トランスラクーンまみれじゃない。厄介ねぇ』
あ、この狸の名前、トランスラクーンって言うのね。なんと言いますか、名前通りなんですね。
「今は魔法で気配消してるから、エイム合わせて貰って良き?」
『良き。矢は桜の枝でお願いね』
「あいよ。『桜器』」
チェリから定期的に貰える花弁を使い、30本程の矢を錬成した。
『ん〜......ん?何か奥から来てるけど、それも狙う?』
「あぁ。多分アダチェウスだろ。思いっ切りブチ抜け」
『了解。準備OKよ』
「ありがとう。『戦神』......では......そいっ!」
バシュンッ!!!
『『『キュゥゥゥ......』』』
スゲェ。一撃で5体以上倒しやがった。
今の矢、最後に当たった狸を標的に、その軌道に何匹もの狸の心臓を撃ち抜いている。
必中による変則的な矢の軌道を完璧に制御するとか、やっぱりセレナも只者じゃないな。
カッコイイわぁ。
『一丁上がり!また囲まれたら呼びなさいよ?じゃ、デートを楽しんで』
「デートじゃねぇよ」
セレナはインベントリに帰ったが、今の発言は後から起爆する時限爆弾だ。
それも、1番面倒臭い奴に対する、な。
『デ、デデ、デート......なんですか?』
「違ぇよ。勘違いすんな」
『そ、それはツンデレさんがよくやる『か、勘違いしないでよねっ!』的なア』
途中で仕舞ってやったわ。これだからセレナの発言は危ないんだよ。1人、クリーンヒットする奴が居るから大変なんだ。
『で、代わりにシリカが呼ばれた、と』
『私もですな』
「そういう事だ。これからよろしく」
俺はイブキとシリカを呼び出し、両腰に装備した。
「はぁ。ホント、どうしてソルしか見ていないのに他から求められるのかなぁ」
歩きながら狸やハリネズミを倒していると、つい心の声がポロッと出てしまった。
『お兄さん、それ、『あぁ、どうして俺はこんなにもモテるのか......』って言ってるのと同じだよ?』
「いや、モテてねぇよ。俺の事が好きなの、ソルとフーだけじゃん。んで、俺はソルが好きだからソルしか見たくないのに、フーが入り込もうとするじゃん?
んでんで更に、それをセレナがアシストするじゃん?
もう、それがつらいんよ......」
ソルと一緒に居られる。それだけを見れば、ここは夢の様な空間だ。だがそれはフーによってギリッギリで阻止される。
そして縮まったソルとの距離を離すように、セレナまでもがフーに加担する。
......このゲーム、拘りが強すぎる故に厄介だ。
どうしてゲーム側の住人に恋愛感情を持たせたんだ?
それは本当に必要あるのか?
それがあった所で、プレイヤーに何か得はあるのか?
得はある人も居るだろう。だが俺は違う。
万人受けを狙った作品ではないということは運営が既に明言しているし、『嫌なら辞めろ』の一言で片付けられるだろう。
でも、う〜ん......困った。
『ギシャ!』
「いてっ......よそ見してた」
右手の法則を使いつつも思考しながら歩いていると、いつの間にか近付いていた蜘蛛に頭をガブッと噛まれてしまった。
勿論、猛毒付きだ。
「フンッ!」
『ギシャ......』
「俺も君みたいに、砂に飲みこまれたいよ......」
あ、ここで死んだらどうなるんだろう。普通にベッドでリスポーンするのかな?
「よし、死のう!」
『お兄さん!?』
『ルナ様。どうかご一考を』
「考えた上での結論だ。ウジウジ考えても時間の無駄だし、これからはフーのケツを蹴っ飛ばして解決してやりゃあ良い。俺はソルだけを見たいからな」
自分で言っちゃあ何だが、俺は一途だと思う。
1人の人間に惚れて、1人の人間の幸せを願っている。
だからこそ、邪魔されるのが嫌いだ。
ハッキリ言おう。嫌いだ。
まぁ、今はやるべき事があるんだ。そちらを優先しよう。
「取り敢えず死んでみよう。このまま迷路を探索するより、余っ程刺激的だ。
ではでは〜?イブキを抜刀して〜?はい、ザシュー」
俺は夜桜ノ舞で、自分の足をグッサリ刺した。
「お、おぉ......おぉぉぉ......動けねぇ」
麻痺毒だもんな。ってかヤバ!とんでもねぇ勢いでHPが減りやがる!
「イブキ強すぎ......」
『申し訳ありません......』
俺は視界が真っ暗になるのを感じながらイブキを褒め称えると、体が地面の砂に埋もれて行った。
やはり普通には死なないようだ。
◇◇
「──うぅ、うぃ〜」
暫くすると、固い砂岩の上で目が覚めた。
辺りを見渡してみると、今度は砂岩の洞窟に出たようだ。
そして現在のステータスは1。デスペナルティのせいで全部1になっている。
の、だが──
「ん?100分だと?」
デスペナを受ける時間がおかしい。
俺のレベルは489だ。デスペナルティはレベル×2分だから.....つまり、978分無いとおかしい。
時間にして16時間ちょっとだが、それが100分になっているのはおかしいだろう。
おかしいおかしい言い過ぎて、頭がお菓子になりそうだ。
「バグ......じゃなさそうだし、後で考えよ。イブキ、シリカ。俺を守って」
「御意に」
「弱っちくなっちゃたね〜、お兄さん」
「うっせ。先に進めたんだから良いだろ?」
100分だけの我慢だ。それにここの敵なら、まだシリカ達でも何とかなるレベルの敵だろう。
「まぁね〜!じゃ、シリカは前に出て戦うから、イブキお兄さん、お兄さんの事を宜しくね?」
「勿論でございます」
「もし倒し損ねた敵がお兄さんに触れたら......分かってるね?」
「えぇ。無論ですとも」
威圧感凄いな。シリカってこんなに怖い子だっけ?
「1番安全なのはここで待つ事なんだが、それでも良いんだぞ?」
「ううん。進むよ。このまま待ってたら、死んでまで先に進んだお兄さんに、シリカ達は着いて行けなくなっちゃうからね!」
「そっか」
正直、不安はあった。レベルが上がる毎に降り積もっていくデスペナルティの恐怖は、東京タワー並に大きかったからな。
そこも分かった上で、優しく言ってくれるシリカには感謝しかない。
「フッフッフー!それじゃあ、シリカ探検隊、行っくよ〜!」
「「 おー!」」
そうして、シリカ先導の元、強欲のダンジョンの攻略が再開された。
シリカにノってあげるイブキさん優しい。
次回『一騎当千』お楽しみに!