罪の宴・強欲の賛歌
12章です
「お!兄ちゃんカッコイイねぇ!安くするよ!」
「ありがとうございます。でも、急いでいるので......」
「そっか!頑張ってな!」
「はい!ありがとうございます!」
俺はディクトから遥か西にある砂漠の街『カリディ』に来ていた。
ここはマサキ達が解放した4つ目の街であり、とても気温が高い砂漠の中心に広がる中規模の街だ。
ちゃんと広場には噴水があるので、これでいつでも砂漠にワープをする事が出来る。
「ここの住人、優しくて好きだわ」
『ルナさんなら沢山おまけして貰えるでしょうね......にしても暑っついですねぇ。私にも魔法かけてくれませんか?』
「俺はそこまで顔は良くないと思うがな。はい、『サーキュレーション』」
『涼しい〜!ありがとうございます!』
「へいへい。顔については触れなくて正解だ」
『普通とイケメンの間くらいですから、気にしないのが良いですよ。それにこれ以上魅力を増そうものなら、ソルさんに監禁されますよ?』
「ソルはヤンデレじゃねよ、ったく......『サーチ』」
フーと雑談を交しながら、俺はサーチを全力で広げた。
これで大罪ダンジョンを探そうとしているのだが、万が一見付からなかった時の為にメモを用意している。
まず、そもそも見付かっている大罪ダンジョンは5つ。
『憤怒』『強欲』『嫉妬』『傲慢』『色欲』の5つだ。
残りの『暴食』と『怠惰』はまだ未発見だな。
そしてそれぞれ、憤怒はエルフの森に。強欲は砂漠の中に。色欲はインフィル草原の裏ダンジョンに。傲慢は海の底に存在する。
肝心なメモの内容だが、各ダンジョンへの行き方が書いてある。『○○に見える岩を左に進むと〜』とか、そんな風に細かく書いてもらった。
そしてこれは、前にソルから貰った物だ。
ソルさん、本当にありがとうございます。
「はい、見付けた。サーチの妨害をするとか、それ自分の居場所を伝えるようなモンだぞ」
サーチで見れる場所をビュンビュン変えていると、ある一点の場所だけノイズが走るようになったのだ。
これは間違いなく、『強欲』のダンジョンだろう。
「良し、オモチャのセットが完了した!いざ行かん!」
◇◇
「ここか。洞窟だな」
サーチに走るノイズが一際強い場所に来てみると、砂砂漠の中に、目立たないようにひっそりと砂岩で出来た入口があった。
『今回のヌシはどんな方なのでしょうね?』
「さぁ、サタンの前例から見るに、中々にクセが強いキャラだとは思うがな」
『ルナさんも相当クセが強いですもんね!』
「君、俺の事悪魔と同じだと思ってる?」
『え?......違うんですか?』
悲報、自分のメイドに悪魔だと思われていた件。
まぁね?確かに悪魔も逃げ出すような事は散々してきたよ?
女神を怯みハメで倒したり、神龍と戦って勝利したり、そもそも悪魔と連戦したり......でも、でもだよ?
「悪魔はないでしょう」
『ふふふ、冗談ですよ。さぁ、行きましょう?』
「はいはい。じゃ、レッツゴーアヴァリティア」
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『罪の宴・強欲の賛歌』に入ります。◇━━━━━━━━━━━━━━━━◇
「あはん。入口消滅」
分かっていたが、ここもサタンの時と同じ様に、魔法や徒歩での途中帰還が出来ないダンジョンだ。
床や壁、天井までもが砂で出来ているこのダンジョンだが、やはり、一般的に想像しやすい『洞窟型』のダンジョンと言えるだろう。
真っ直ぐに伸びる道や左右に進行方向を変えられる道など、迷宮要素のある洞窟だな。
『ギシシシッ!』
『グギャッ!』
「うわ、うわうわうわ」
迷路に於ける右手の法則と呼ばれる方法で探索していると、肌が黄色いゴブリンと土蜘蛛を巨大化した様なモンスターが現れた。
ハッキリ言おう。この蜘蛛、キモイ。
「フッ、だが引いてる場合じゃない。今の俺には『コレ』がある。いでよ!!『月華』ッ!!」
シュン!!
『ギシ?』
『グギャ?』
「あ、あれ?」
右手から銀色の魔法陣が出たかと思ったら、魔法陣が一瞬にして塵になった。
「あぁ、もしかして『強欲』だけに、魔法陣の魔力を盗られちゃったのかな?」
『......それにしては、変な消え方でしたがね』
「それもそうだな。だが、取り敢えず『斬』」
『ギシャ......』
細かい事は後で考えるとして、布都御魂剣で蜘蛛とゴブリンを真っ二つに断ち切った。
2つの死体はポリゴンにはならず、砂に飲み込まれる様にして消えていった。
「『おや?』」
非常に面倒臭い予感がしてきた。
「それより検証だ。『アクアスフィア』」
本当に魔法が吸われるというのなら、アクアスフィアも飲み込まれるだろう。
「ありぇぇえ?何で君は存在出来てんだ〜?」
俺の予想に反して、アクアスフィアは普通に生成することが出来た。
『......さて、答え合わせでもしましょうか?』
「えっ、さっき発動出来なかった理由、分かるのか?」
『分かりますよ。一応、思い出すと思ってシンキングタイムをあげましたが、ダメだったみたいですね』
「思い出す?」
『えぇ。何故先程の月魔法が発動しなかったのか、その理由は過去に教えて貰っていますよ。プロフェッショナルから』
月魔法のプロフェッショナルって......リルかな?
でも俺、過去にリルから月魔法の注意点とか──
『──父様、これは月が出ていないと使えないのです。ですから、あまり期待はしないでくださいね?』
「あ゛っ」
『思い出しましたか』
せやせや、前に言ってはったわ。『月ぃ出てんと使えんで〜』って。
うわぁやらかした。これじゃあ新しいオモチャで遊べないじゃん!
「はぁ......普通に攻略するか」
『えぇ。それが賢明かと』
とほほ。夜になったら使ってみるとしようか。
「じゃ、改めて攻略再か「ルナ君?」......ん?」
突然後ろから声をかけられたので振り向いて見ると、そこにはソルが立っていた。
『あれ?ソルさんと合流する予定でしたっけ?』
そんな予定は無い。それに、ソルは......陽菜は今、リアルで二度寝中のはずだ。居る訳が無い。つまり......
「グッバイ偽物。『イグニスアロー』」
「待って!私はホン......」
ソルそっくりの体が燃えると、そこには全身が金色の毛に覆われた狸が倒れていた。
そしてHPが削りきれていなかったのか、ピクピクと動きだした。
「この化け狸が......せめて狐になって出直せ」
俺は再度イグニスアローを狸に浴びせ、砂に飲み込まれたのを確認した。
『ルナさん。今の敵、ソルさんそっくりだったのに容赦ないですね?』
「当たり前じゃん。モンスターだぞ?」
『それでも、ですよ。普通好きな人の見た目だったら、傷つけるのを厭いません?』
「な訳。ソルは時としてライバルだ。いざ戦うとなれば、俺は一切の容赦無しにボコボコにする......ボコボコに出来れば、だけど」
ソル、めちゃくちゃ強いからなぁ。ボコボコにされるのは俺の方だろう。
「まぁでも、ソルの見た目をされるのは腹が立つ。見付けたら問答無用で消し炭にしよう」
俺はこのダンジョンに対する想いを少しずつ固め、歩き出した。
「もし本物が来たら、潔くごめんなさいするしかないがな」
保険かけとこ。罪の宴は何があるか分からないし。
月魔法は本来、フェンリルだけのものですからね。
使い方はフェンリルに聞くのが1番良いでしょう。
次回『これは夢か?それとも悪夢か?』お楽しみに!