星塔を駆け上がれ
一言、ASMR動画に付いてる広告を許さない。
鼓膜が10回くらい破れました。つらい。
「ハァ......ハァ......今何階?」
『87階層目ですよ』
「ありがとう......くっそ、もっと前からやっときゃ良かった」
『あと少しです。頑張りましょう』
リアルでは夕方になり、今日も両親がのんびりと過ごしている時。
俺はユアストで星塔の攻略を進めていた。
フーによれば、俺は現在87階層に居るらしい。25階辺りから必死でボスを倒していたから、色々な感覚が消えていた。
『ですがルナさん?そんなにボロボロの状態で戦わないでください。心配で心配で堪りません』
「大丈夫。HPは回復した」
『生命力の話ではありません。ルナさんの精神の話ですよ』
「......」
何も言い返せない。
だって、かれこれ10時間ほど戦いっぱなしだからな。流石に俺も、精神的に疲れない訳じゃない。
「少し、休憩するか」
『えぇ。それが最善です』
俺は装備している武器の大半をインベントリに戻し、布都御魂剣からフーを降臨させた。
俺はフーの青い綺麗な髪が見えると、地面に倒れて風を浴びた。
「ルナさん、今日の戦いでかなり成長しましたね」
「そんな気はしないがな」
「してますよ。今まで、槍と弓と糸と刀と剣。更に魔法を組み込んだ戦いなんてしてなかったでしょう?」
「する訳無いだろ......これまでの敵は弱かったんだし。あと、1つ忘れているぞ」
「何がです?」
「『拳』だ。俺が同時に扱う武器は、槍、弓、糸、刀、片手剣、魔法、拳の7つだ」
「虹ですね。それとも大罪ですか?」
「......どっちも?」
「強欲な人ですね」
大罪か。そう言えば高難度ダンジョンの罪の宴、憤怒を含め5つは見付かってるんだったか。
コンテストが終わったら、行ってみるのも良いかもな。
「あ、ルナさんルナさん。どうしてリルさんやメルさんを呼ばないんです?」
これまでの戦闘でリル達を呼ばなかった事に、フーは疑問を抱いたようだ。
「......言いたくない」
「どうしてですか?」
「こんな事を言えば、フーに嫌われるかもしれないからな。それに何より、リル達に対して『こう思っている』自分が嫌だからだ」
「思い、という事は、感情的な何かなんですね」
「知らん」
俺はインベントリから、コップに入った冷えたモスベリー茶を取り出し、グイッと一気に飲み干した。
「ふぃ〜。さ、次のボスを倒すぞ」
「全然休憩になってないじゃないですか。この階層の探索とか、しなくても良いんですか?」
「しなくて良い......と言えば嘘になる。だがな、今は上を目指したい気分なんだ」
「全く、ルナさんはいつも気分で行動しますよね。仕方ありません。私も着いて行きます」
フーは俺に一礼すると、刀に戻って俺の左手に収められた。
それから俺はアルテやエリュシオンなど、現在扱える武器を装備していき、合わせて9個の武器を身に付けた。
「じゃあ、行こう。ヴェルテクスを背負う人として」
何故、俺が星塔の上層を目指そうとしたのか。その理由はマサキ達の戦闘の後、ギルドに帰ってきた時にある。
◆ゲーム内時間・11時間前◆
「ルナ。お前、星塔は何階まで解放してんだ?」
「3階だけど。アテナもそうだろ?」
「は?俺は15階だぞ。ってか......あ〜、そうか。解放のメリットを知らないのか」
俺は大量のプレイヤーと戦い、数万個以上の星屑を持って帰ると、何故かアテナに階層解放のメリットを教えられる事になった。
「ルナ、簡単なクイズを出そう。1階で取れる薬草と50階で取れる薬草、どっちが高品質だと思う?」
「難易度的に考えてるなら、50階か?その薬草の種類にも寄るが、レア度を品質と捉えるなら難易度の高いエリアの方が高品質だろう」
「正解だ。それとお前、素材に興味はないか?」
「あるけど......なぁ、これ、クイズってより質問じゃね?」
「質問は英語でクエスチョンだ」
「......色々とツッコミてぇ......!」
ドヤ顔で言い放ったアテナに、俺は拳を強く握ったが......何とか耐えた。
「それでよ、ギルドメンバーの装備用に、高品質なアイテムを確保しておきたいんだ。だから、お前にとある任務を与える」
犬ゴリラが椅子に座り、突っ立っている俺の目を真っ直ぐに見た。
「星塔を完全攻略してこい。現状、最強のプレイヤーであるお前にしか出来ない任務だ」
「......俺、ギルドマスターなんだけどな」
「いいから行ってこい。どうせソルとイチャつくだけなら、ギルド全体の為に頑張ってくれ」
「へいへい。星屑は?」
「集められるなら集めてくれ。SD」
「また無理難題を......分かったよ」
SD、これはサーチアンドデストロイの略だな。この場合、視界に入った敵を全てなぎ倒せと言う事だ。
そんなこんなで、俺は星塔を攻略し、上層の素材を集める事になったのだ。
◆◆
『フィロロロロロロロ!!!!』
「うっさいなぁ。『アースドーム』」
あれから階段を上り、今は87層のボス『フロスアヴェム』と戦っている。
フロスアヴェムは、花畑の様に色鮮やかな羽根を持つ、大きな鳥のモンスターだ。
俺は暫く、様子見としてコイツの周りを走っていたが、攻撃パターンがかなり厄介だと感じ取った。
まず、咆哮から繋げられる羽根を飛ばす攻撃のコンボ。
フロスアヴェムが大きく鳴いた時、無数の尾羽がプレイヤーに向けて飛ばされる。
これは羽根の色によって属性ダメージが付与されており、赤は火属性、青は水属性といった様に、全属性攻撃を繰り出してくる。
しかもあろう事か、この羽根は目で追えないくらい速い。
俺はこのコンボが来た時、潔く魔法で防御することに決めている。
『ピュルリィ!!!』
「おっと、それはマズイ。『戦神』『フラカン』『アジリティエンハンス』『ウィンドブラスト』」
2つ目はこれ。ピロピロ笛の様な音で鳴いた後に使う、地面の草を花に変える攻撃だ。
今、俺の足元は1面の花畑となっているのだが、ここに着地すれば俺は間違いなく死ぬだろう。
だって、花の1輪1輪が牙と目を持ち、こちらをガン見しているからな。
『ルナさん、そろそろ決めましょう』
「あいよ。ってかコイツ硬いんだよな。シリカ〜、頼むぞ〜」
『分かった!全力でぶった斬っちゃえ!』
「『魔刀術: 火焔竜纏』『炎龍』」
クトネシリカの刀身が炎の龍に変わり、俺は足元のウィンドブラストで加速しながら斬りかかった。
『フュルルル!!』
「読めてる読めてる」
フロスアヴェムが俺の一刀を避けようとするが、それを対策しない程俺は馬鹿じゃない。
避けた先に刃が来るように飛行し、フラカンの全力で感覚を制御しながらフロスアヴェムの首を斬り落とした。
ドサッと重い音を残し、フロスアヴェムはポリゴンとなって散った。
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『フロスアヴェムLv370』を討伐しました。
『星華鳥の尾羽』×3入手しました。
『星華鳥の冠羽』×1入手しました。
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「全然レベル上がんねぇな。俺、一生レベル500になれん気がしてきた」
これまで結構な数のモンスターを倒しているが、全くと言っていいほどレベルが上がらない。
『最弱無敗』のお陰で1,540パーセントも経験値が増えているのに、どうしてなんだ。
『大丈夫ですよ。私達はずっと傍に居ます』
「傍に居るのはソルだけでいい。お前らは自由にしろ」
『じゃあ一緒に居ます。レベルが上がっても、私達を使ってもらえるように......』
「あっそ」
今日はやけに言葉選びが変なフーだ。悪い物でも食べたのだろうか。
だとしたら俺も食べているはず......俺、大丈夫か?
「まぁいい。さっさと次行くべ」
俺はクトネシリカを納刀し、次の階層へ続く階段を駆け上がった。
あ、アースドーム君はロックドーム君を元に、ルナ君が自然魔法を織り込んで強化した魔法です。
次回『階段で待つ者』お楽しみに!