神様にご挨拶
後編です。次回からエンジン前回で行きます。
キュキュ.....ギュルン!ボボボボボ(エンジンをかける音)
「......ここも行列、か」
「ルナ君大丈夫?休んでてもいいよ?」
「そうですよ。顔色が悪いです」
「メルといっしょにねる?」
「それはメルが眠いだけだろ?」
「うん」
俺達は初詣をする為に狐国へと来たのだが、なんとゲーム内で初詣をしようとする、俺と同じ思考の人間が大量に居た。
人の波は神社の外まで広がっており、中には現地人も混じっていた。
「あんまり良くはないだろうが、神界から直接行こう」
「稲荷ちゃんのお家に突撃だね!」
「バチが当たりそうですね......」
「しんかいかぁ......まぁいいや」
そうか。神界はメルにとっては居心地悪いのか。
メルに対して影響が大きいようなら帰ろう。無理してまで行く必要は無いし、中止になったらなったで後日、お参りさせて貰おう。
今日は少し、我慢してくれ。
◇神界・お稲荷さんハウス前◇
「こんにちは〜!」
「は〜い〜。ちょっと待ってな〜?」
ソルが大きな声でお稲荷さんを呼ぶと、家の中から返事が帰ってきた。
俺は背後に広がる、冬でもずっと紅葉している紅葉を見ながらお稲荷さんの登場を待った。
「ソルはんにルナはん、さらにリルはんと......メルはんやね。おはようさん。今日はお参りやんな?」
「そうだよ!」
「初詣に行ったんだが、人が多くてな。直接来た」
「ふふっ、そうかそうか。じゃあ今日は元日やし、おせちもあるで?取り敢えず入り〜」
「「「お邪魔します」」」
「おじゃましまうま」
一応神様の住む家だから、一礼してから入らせて貰った。
いやぁ、久しぶりにお稲荷さんハウスに来たが、相変わらず落ち着く雰囲気の家だ。
実家が元になっている故か、単にこの家が好きなだけかは分からないがな。
「はい、お茶。ゆっくりしてってな〜?」
「ありがとう」
お稲荷さんが5人分の緑茶を持ってきてくれた。
俺はメルが火傷しないか心配しながら見ていると、お稲荷さんから話しかけてくれた。
「せやせや、ウチなぁ?家族が増えたんよ〜」
「そうなのか。おめでとう」
「まぁ狐の子なんやけど」
「ペットかよ」
「ペットやないよ?家族っちゅうか、眷属やねんけど。ほら、おいで〜」
お稲荷さんが襖に向かって手を振ると、スっと付すが開けられ、奥からソルを小さくしたような、可愛い狐獣人の子どもが現れた。
「あ、あの......はじま......はじめまして」
「「「可愛い」」」
「ママにそっくり」
そして可愛らしい狐の子はトコトコと歩いて、何故か俺の膝の上に座った。
「え?」
「あれ?ルナ君?」
「ウチの眷属、取られてしもうた」
眷属ちゃんは俺の膝に座ると、尻尾をゆらゆらと動かしながら見上げてきた。
「おにいさん、良い匂いがします」
「匂い?」
「はい......えふふ」
俺の胸に抱きついて笑う姿は、いつものソルにそっくりだった。
「お稲荷さん。この子どうすれば?」
「あ、あげへんよ!天狐〜、ウチのとこにおいで〜?」
「いやです。主様よりおにいさんの方が好きです」
あらあら。何故か好かれてしまった。でも残念ながら俺はソルが大好きなんだ。君がもし、異性として俺を見ているなら、その想いは叶わないよ。
「君は天狐というのか」
「はい!主様に仕える、神に近い狐です!」
「そうか。じゃあお稲荷さんの言葉は聞いた方が良いんじゃないか?」
俺がそう言うと、お稲荷さんは首をブンブンと縦に振った。
「いやです。先程も言いましたが、わたしはおにいさんの方が好きなので」
「え゛っ......嘘やろ......?」
残念だったな、お稲荷さん。ミニソルに偉く好かれてしまったよ。
俺は天狐の頭を撫でながら、お稲荷さんに小さく謝罪した。
「ねぇ天狐ちゃん、私も触ってもいい?」
「いいですよ」
「ありがとう!......うわぁモフモフ〜!」
ソルに触られながらも、何故か執拗に俺の元を離れない天狐。
何故だ。何故君は俺から離れない。
「あ、お稲荷さん。こんなタイミングで悪いけど、去年はありがとう。今年もよろしく」
「あ......うん、ええよ。ルナはんの運気、死ぬほど下げといたるから......」
「辞めてくれる?天狐に関しては、俺はマジで何も知らないからな?」
「冗談や。天狐がルナはんを好きな理由は分かるし、少しの辛抱や......」
理由は分かる?どんな理由だ?本人に直接聞いてみるか。
「天狐。何故俺が好きなんだ?」
「わかりませんか?」
「分からないな」
「そうですか......では言いましょう。おにいさんは、わたしの運命の人なんです」
「あぁ、なるほど。思いつきか」
「ちがいます!本当ですよ!」
「えぇ?」
何なんすか、運命の人って。運命なんて自分の意志と行動による結果論なんだし、そんなのアテにならん言葉だろう。
天狐の耳がピコピコと動くの見ていると、お稲荷さんが顔を上げて言った。
「ウチから言うわ、ルナはん。天狐がルナはんを好きな理由は2つ。1つはルナはんの称号、『神に好かれる者』の効果や。もう1つはな、天狐はソルはんを元に創ったんよ......やから、ソルはんが大好きなルナはんが、天狐にも受け継がれとんねん」
「称号......あぁ、これか」
俺は自分とソルの前に、称号のウィンドウを出した。
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『神に好かれる者』
・神々からの好感度が上昇。
5柱の神から『神の因子』を受け取る事で獲得。◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
「わぁお、入手条件難しい」
「で?ソルを元に創ったって、どういう事だ?」
「言うたやろ?眷属や、って。天狐は『妖術』と神気、あとウチのイメージで創られた眷属やねん。そのイメージをする時に、ウチはソルはんを思い浮かべとってん」
「基本的に誰にでも優しく、1人の人間を愛し尽くし、ただ恩を受けるに足らず、恩を返していく......そんなイメージで創ったんや」
「え〜と?つまりは割と本気でミニソルだと?」
「まぁ、せやね。口調と見た目以外は、9割ソルはんや」
「私の......クローン!?」
クローンか。中々面白い表現をするじゃないか。
「へぇ〜面白い子を創ったなぁ。
......天狐、君はお稲荷さんの子なんだから、ちゃんとお稲荷さんの言うことを聞くんだぞ?」
「わかってます。でも今は、もう少しだけこうさせてください」
俺がそっとお稲荷さんの方に行くように言うと、今度は小さな体で抱きしめられてしまった。
この子、小さい割にパワーが物凄く強い。もしこの子と戦う事になれば、今のステータスじゃ厳しいかもしれん。
そう思える程に強い。
「ルナ君、私以外に抱きしめられたら嫌じゃなかったっけ?」
「嫌だぞ?嫌だけど、この子はソルの雰囲気があるからなぁ。そこまで拒絶しようと思えない」
「そう......帰ったら覚えていてね?」
「え?」
ヤバい。地雷を思いっ切り踏み抜いた。だってソルの目が笑ってないもん。口角だけ上げてるのに目が笑ってないから、めちゃくちゃ怖いんだけど。
俺、ギルド戦の前に何をされるんだ?
さて、そろそろ帰ろうかな。ピギーの代役を務めないといけないし。
「天狐、そろそろ退き。ルナはん達、暇やから来た訳やないんやし、そろそろええやろ?」
「むぅ......仕方ないです。おにいさん、また来てくださいね。待ってますから」
「あぁ。場合によっては行けないかもしれんが、行けたら行くよ」
「それ絶対来ないやつじゃないですか!主様。やはりわたしも......うわぁぁぁ!!」
何としても俺達に着いて来ようとした天狐を、お稲荷さんは謎の力で抱きとめた。
「ほな、皆元気でな。今年も良い年になるよう、ウチからも祈らせて貰うで」
「改めてありがとう。今年もよろしく」
「よろしくね!」
「よろしくお願いします」
「よろしゅう?」
「うん、よろしゅう。メルはんも元気にするんやで?ほな」
「まって!おにいさん、行かないでぇぇぇ!!」
「アンタは黙っとき。ほなな〜!」
最後まで抵抗する天狐を抑えつけ、お稲荷さんは俺達をギルドホームまで転移させてくれた。
「わお、全員帰ってきた。死んだの?」
「いや、初詣の帰りだ」
リビングへダイレクトに転移されたせいで、ピギーやリンカ達が何かを話している所へやって来たようだ。
邪魔するのも悪い、さっさと出ようか。
「じゃ、俺はひと暴れしてきますかな。新年初の大暴れ。全プレイヤーをなぎ倒す気で行くわ」
「頑張ってね、ルナ君。私はピギーちゃん達と生産するから、戦闘は任せたよ!」
「はいよ」
「あと......いや、いいや。気を付けてね」
何かを言おうとして途中で辞めたソルは、優しく俺の唇にキスをしてからピギー達の方へ行ってしまった。
「......めっちゃ意味深じゃん」
次回『状況・経験・判断』お楽しみに!