後は任せた!
「あ、もしもしアテナ?」
『お前から......リアルで電話だとッ!?』
「聞いてる?」
『あ、あぁ。なんだ?』
「ユアストのギルド戦のことなんだけどさ、ちょっとソルの両親も家に来てるから、もう参加出来そうにない」
『......マジ?』
「マジ。つまり、後は任せた!」
『オイ兄ちゃん、俺らァ兄ちゃん無しだどランキング維持が難しったらありゃしないんだが』
「それは分かってるよ。だからリルとメル、それからアルスをアテナ達に同行させようと思う」
『分かった。だが、そうなると堅実なムーブになるから、1位取れなくても泣くなよ?』
「泣かんわ!じゃ、またな」
『うぃ〜、お疲れ〜』
「お疲れ様」
多分、アテナに電話をしたの、番号を交換して以来だな。
久しぶりとか、そういう次元じゃない頻度だったが、ギルド戦の不参加を伝えられて良かった。
「ねぇ陽菜。あの電話はどういう?」
「あれは......月斗君の友達......友達?同僚?みたいな人が相手だよ」
「へぇ。お母さんの頭じゃ何一つ理解出来なかったわ。うふふっ」
陽菜と陽菜のお母さんである、陽奈さんが先程の電話について話していた。
「さっきの相手はチームメイトですよ。前にゲームの大会について、話したじゃないですか?あの時のメンバーの1人です」
「あぁ、あの!」
理解してくれて助かります。記憶力が素晴らしいですね。
「さて、じゃあちょっとリル達に伝えてくるとしますかな」
「リル?」
「あ〜リルは......陽菜、後は任せた」
直ぐに戻るんで、それまでに説明出来ていなかったら俺も参戦しよう。これはちょっと、伝え方をミスすると大変な事になるからな。
「えぇ!?えっとね、お母さん。リルちゃんは私と月斗君の......娘?」
「「「娘ェ!?」」」
「あっ、ち、違うの!娘だけど娘じゃないと言うか、なんと言いますか......」
陽菜よ。見事に選んではいけないワードを選んだな。
俺の父さん以外、その説明では誤解を招くぞ。
ちょっとだけアシストしてから行くか。
「ゲームの、ですよ」
「そうなの!」
「へ、へぇ〜、お母さんビックリしちゃった。今どきゲームで子どもが作れるのねぇ」
「あ〜いや、そうじゃなくて......はぁ。ゆっくり話すね──」
ごめんな、陽菜。皆が帰ったら労ってあげるからな。
俺は心の中で陽菜に謝罪し、ユアストにログインした。
◇ ◆ ◇
「おはよう」
「......はよ」
「おはようございます、父様。今日はどこへ遊びに行きますか?」
寝室の大きなベッドで、リルは寝転がったまま尻尾を振って聞いてきた。
「今日は大切なお知らせに来ました」
「大切?」
「あぁ。暫く俺とソルが遊べなさそうでな。こっちで言うと......1週間か2週間だ。どんなに長くても2週間だ」
「「えっ......」」
理由はリアルの事情なので言えないが、せめてログインが出来ないことは伝えておかないとな。
「まぁその、なんだ。ごめん」
俺が2人に頭を下げると、リルは涙を浮かべて抱きついてきた。
「そんなに長い時間も......寂しいです」
「俺も寂しいよ。だから、その代わりというか、ちょっとした任務を与えよう」
「任務ですか?」
「あぁ。リルとメルとアルスで、ヴェルテクスのメンバーのサポートをしてやって欲しい。優勝出来たら......そうだな。何か1つ、お願いを聞いてあげよう」
「何でも、ですか?」
「いいや?出来る範囲の事しかやれないぞ」
「それは『出来る範囲なら』何でも、という事じゃないですか!」
「違いますぅ。叶えられるお願いなら、ですぅ。言う事を聞くのと、お願いをするのは違うのですぅ」
リルのピコピコと動く耳をこねくり回し、俺の中の小さなポリシーについて話した。
「──あ、寝泊まりに関しては元々俺達が使っていた部屋を使ってくれ」
「は〜い」
「分かりました」
「では、俺はそろそろ戻るとしますかな。来年も宜しく」
「はい!」
俺は2人と一緒に城へ転移し、ギリギリMP切れで目眩の症状を感じながらログアウトした。
◇ ◆ ◇
「だからね、お母さん。別に私と月斗君はまだそういう関係じゃないの」
「ど、どうして?普通、年頃の男女の同棲なんて──」
あ〜あ、まだ終わってなかったみたいだな。
陽奈さんの言いたいことも分かるが、ここは理性の頑張りどころなのでね。
俺はもう少し、鉄壁の要塞で在り続けるつもりですよ。
「陽菜、まだ終わらなさそうか?」
「う〜ん、お母さんが頑固なの。私だって期待してるのに、月斗君の考えが覆せないから......」
「俺を落とそうとするな。というか、リルの話から大分逸れてないか?」
「「あっ」」
「やっぱりな。じゃあまず、リルの正体やら何やらから話しますか」
人ってのは、直ぐに話が逸れるものだ。俺もそうだし、陽菜もそう。案外見落としがちなのだ。
それから俺は、陽奈さんにリルやメル事に関して話し、ついでに陽菜の普段の生活についても話しておいた。
途中で恥ずかしくなった陽菜が俺の膝に座ったりしたが、概ね話す事が出来た。
「晩ご飯どうしようか。6人分は流石に無いよな」
ソファに座り、ゴロゴロしながら年末特番のテレビを見ていると思い出した。『食べ物無いじゃん』と。
すると隣で俺の肩に頭を置いている陽菜が答えてくれた。
「あ〜、それならおばさん達が買いに行ってるよ。しかも作ってくれるって!」
「......そうか」
「......私のご飯の方が良かった?」
俺の心を読んだように聞いてきた。
流石に陽奈さんと太一さんが居る前で『そうだ』と答えるのは恥ずかしいので、小さく頷いた。
「んも〜、そういうところが大好きなの〜!」
そっとキスをしてくれた陽菜の体温は、とても暖かかった。
「「お熱いね〜」」
椅子の方で座ってテレビを見ていた2人から言葉が飛んで来た。
「み、見るなぁ!ここは私のテリトリーだよ!」
「見せ付けてるのは陽菜だがな」
「見せ付けてないもん!これは......そう、誰にも月斗君を盗られないようにする為だもん!」
「そもそも盗る奴が居ない上に、陽菜のものなのにか?」
「そ・れ・で・も!」
俺を強く抱きしめる陽菜の頭を撫で、俺の気持ちも言葉にした。
「まぁ俺も同じ気持ちだから分かるがな。特に陽菜は危ないからなぁ......ちゃんと見張っておかないと」
陽菜は美人だからな。モテるだろう。だから、後から誰かに盗られないように、ちゃんと手を繋いで逃がさないようにしないと。
そうすれば必然、互いの距離も縮まるので一石二鳥だ。
「うん。ずっと見ててね?」
「あぁ。見るし触る」
「えへへ」
またまた抱きついてきた陽菜を撫でていると、陽奈さんと太一さんが話していた。
「アレ、普通は『重い』って言われないかしら」
「言われるだろうね。でも、逆に2人を見て近付く人が減るなら良いんじゃないかな。
僕、今までの月君のイメージと違う一面が見れたから、ちょっと驚いてそんな所に気が付かなかったけど」
「確かに。月斗君って、結構愛が深いタイプ?」
「かもね」
深いですよ。ずっと陽菜の幸せを願ってるくらいには、愛情深いと思いますよ。
「大好きだぞ、陽菜」
「わったしも〜!」
時々、全力で甘えてくる陽菜を受け止めるのが最近の幸せだ。
もっと陽菜を幸せにしてあげたいな。俺の手で。
次回『新年早々』お楽しみに!