メルちゃんは甘えたい!
ゆずあめは月曜日より火曜日の方が憂鬱になります。
「メル!『スロウチェイン』『遅炎』『ネヴァンレイン』」
「ありがとうパパ。『滅光』」
メルの援軍に来てすぐ、俺はデバフの魔法をこれでもかと敵にかけた。
5頭のフェンリルは勿論のこと、フェンリルをテイムした今日犬子君本人にもデバフをかけさせて貰った。
「ソルとリルはあっちの2頭を殺れ。こっちの3頭は俺とメルでやる」
「分かった!」
「分かりました!」
手早く2人に指示を出し、フェンリルのHPを削っていく。
「フー、おいで」
『はい。ここに居ますよ』
「ありがとう。『戦神』『魔刀術:雷纏』」
明確な意志を持つ敵だからな。ちょっとの油断が死に直結する。
「ん。『テンペストブレス』」
「『雷』」
メルと同じタイミングで魔刀術を使い、フェンリルを1頭ずつ倒していく。
デバフが聞いている内に終わらせないと、ひっじょ〜に面倒臭い事になるのは目に見えてるからな。
犬子君、ごめんよ?
「さて、犬子君。どうして貴方は1人でこちらに?」
「......仕返しさ。秘密兵器で、2人くらいは倒そうとね。でも、全部君にバレていたよ」
「う〜ん、知ったのはメルを送る少し前ですけどね。漁夫の利や、第2ラウンドを始めても大丈夫なように、ちょっと周囲を見ていたら犬子君を見付けただけです」
「周囲......君の周囲の範囲、おかしくない?」
「おかしいですよ。おかしくなきゃ、やってらんないのでね」
生き残る為に全力を尽くすなら、意地でも『1歩引いた考え方』をしないとならない。
すると当然、前に立ち続ける人とは違う考え方が出来る。
それが今回、たまたま『全力サーチ』だっただけだ。
「まぁ、取り敢えず今日のところはこれで帰ってください。殺したらデスペナで暇になるでしょう?」
「殺さないのかい?」
「えぇ。前は挨拶する前に消しましたから、今回はその補填です」
テスカに変身している時、この人に見破られたからな。
ちょっとカッとなって、滅光で消しちゃったのだ。
「分かった......ありがとう」
それから犬子君は何も言わず、綺麗に回れ右をして帰って行った。
「殺らなくていいの?」
「いい。ランキングも1位だし、もう少し星屑を集めてもらってから殺る」
「うわぁ......ルナ君、鬼だ......」
失礼な!旬の魚を釣るのは当然の事だろう?
痩せて身がパサパサの魚より、旬の時期で脂が乗り、身がプリップリの魚の方が良いに決まってるダルルォ!?
おっと、失礼。
「さ、帰るぞ。今日はもう帰って、生産でもし「だっこ」......はいはい」
3人を連れて転移しようとすると、メルにご褒美の抱っこをせがまれた。
「あ〜!ズルいです!私も抱っこしてください!」
「ダメ。きょうのパパはわたしのだから」
「「「え?」」」
「きょうはずっとだっこしてもらう」
マジかよメルさん!俺、今日1日ずっと抱っこしていなきゃいけないのか!?
「パパがいったもん。『気が済むまで抱っこしてあげる』って。だから」
そうでした。僕が原因でした。
「ル〜ナ〜く〜ん?」
「どうしたソル」
「明日は私を抱っこして!」
「体が大きすぎて無理だ......お姫様抱っこなら良いけど」
「ならお姫様抱っこで!」
どんどんレベルが上がるではないか。俺としては問題ないが。
「その代わりに別荘から出れんが......良いのか?」
「うっ......明日は............リンカちゃんに......生......産を教え......くっ!」
「はい、敗北者。リルは対抗するか?」
「大丈夫です。父様の近くに居られればそれで良いので」
「あら大人。ソルが反面教師になっているのかしら」
「うっうっう......いいもん寝る時に抱きつくもん」
おぉ、リルの大人パラメーターが上がる代わりに、ソルの大人パラメーターがグングンと下がっていくな。
今日はメルが甘えん坊モードだが、次はソルかもしれない。
◇◇
「あぁ〜、やっぱり家は落ち着く〜」
「おちつく〜」
今は星塔から帰り、別荘でロッキングチェアに揺られている。
膝......と言うよりお腹の上にメルを乗せ、島の暖かい風を感じていた。
「あ〜、そろそろ龍核を集めに行かんとならんなぁ」
「パパ、メルにいっぱいくれるもんね」
「あぁ。正直、生産に使うかメルにあげるかの2択しか選択肢が無いからな。生産は時々ミスするから、メルにあげた方が確実なんだよ」
錬金術で失敗した時とか、使ったアイテムが全部消えるからな。
今まで何個の龍核を無駄にしてきたか......あ。
「あ、別にメルが絶対に失敗しないって思ってる訳じゃないからな。時には失敗して、龍核を10個くらい無駄にしてくれて構わん」
「そんなしっぱいはしない」
「『してもいい』なんだよ。失敗や敗北を知らないと、成功や勝利に対する価値観はひねくれた物になる。俺はメルに、そんな子に成ってほしくないだけだよ」
一時期の自分がそうであった事から、メルやリルには等しく失敗を学んで欲しい。
俺を反面教師として、真っ直ぐに育ってくれ。
「にしても、メルの髪はサラサラだなぁ。撫で心地最高だぁ」
「ふっふっふ。ママがまいにち『お手入れ』するから、ちょ〜きれいでしょ?」
「綺麗だぞ」
「むふふ」
今日はやけにアクティブな甘えん坊モードだ。珍しい。
「あ、そうだメル」
「なに?」
「メルはアクセサリー欲しいか?気まぐれだが、久しぶりにアクセサリーを作ろうと思ってな」
「ほしい。カッコイイのがいい」
「了解だ。にしてもカッコイイのか......何だろう。腕輪や指輪かな」
見た目に拘ると言うことは、身に付けている時に自分で見れた方が良いだろう。
そうなると、髪留めやイヤリングは自分で見るのが難しいから辞めておこう。
だから指輪や腕輪などの、自分で見れる物の方が良いだろう。
「ママのゆびわ、カッコイイからあんなのがいい」
「おっほ......ゃく指輪か。流石にあの指輪クラスの物は無理だな。込める想いが違うから」
「ん〜、でもにたようなものがいい」
「分かったよ。じゃあ早速作りに行......はいはい」
椅子から立ち上がろうとすると、メルが足を絡ませて落ちないように抱きついてきた。
こいつァ大変でぇい。本当にずっとくっ付くつもりのようだァ。
仕方がないので、ちゃんと抱っこしてから城へ向かった。
ジカァイ『年末大掃除』オタノシミニィ.....(ねっとり)