全面戦争・中編
前後編にしようか悩みましたが、やっぱり中編もぶち込みました。
楽しんでくださいね!
「おや?誰も死ななかったか。残念極まりないが、仕方がない。この手で斬るとしよう」
俺のギルド、ヴェルテクスとプロゲーミングチームのストレリチアが戦っている中、その中心地点に俺はぶっ飛んで来た。
『お兄さん、それ悪役のセリフだよ?』
『そうですよ。ここは『私が来た!!』って、腰に手を当てて言うんですよ』
「おいフー、それはアカンやつや。ってかいつの間に出てきてんだよ」
『戦ある所にフーあり、ですよ』
「なんやそれ......まぁいい。アシスト頼むぞ、2人とも」
『『ラジャー!』』
相手が俺を狙う前に素早く行動を起こし、腰の左側に布都御魂剣と夜桜ノ舞を、右側にクトネシリカを、背中にはアルテを装備した。
ガッチガチの戦闘編成だな。
「リル、メル、アルス。ソル達の所へ行け。時間は俺が稼ぐ」
「「はい!」」
「御意」
メルに氷龍核を渡し、3人を後ろの方へ走らせた。
さぁ、そろそろやろうか。全面戦争。
「シリカ、『魔刀術:紫電涙纏』フー、『魔刀術: 氷塊煙纏』イブキ、血を」
クトネシリカからは紫色の雷が滴り、布都御魂剣からは塊のような冷気を発し、夜桜ノ舞は赤黒くオーラを纏った。
「『戦神』『不死鳥化』......ふぅ」
今の俺は相手から丸見えだろう。だが、それでいい。
アクションを起こされない限りは俺がこの戦場を支配する。
『敵、右前方に5人。左前方に5人です』
「あぁ......」
魔刀術の奥義を2つも維持をするのは中々に大変だ。
頭の中で常に何かが動いているような、そんな感覚を与えてくる。
頑張れ俺。刀を抜いて敵を斬る。それだけで良いんだぞ。
──あ、解決策み〜つけた。
「ははっ......『雹霹』」
◇今日犬子side◇
「マズイ」
「何が?」
「ルナさんが来てしまった」
「大丈夫だろ。人数的にも俺らが有利なんだし、親玉が来た感じじゃねぇの?」
僕は今、爆発的に広がった土煙の中から、銀色に輝く髪を見付けた。そしてその中から、金に輝く目がこちらを見るのが分かった。
蛇に睨まれた蛙とはこの事なのかな。一瞬で鳥肌が立っちゃった。
「リキヤ君。君は8人を連れて逃げた方が良い。君達ではあの人には勝てないよ」
「そんなに強いとは思えんがな。だってよぉ、強いならもう仕掛けてきてるはずだろ?それでも来ないって、ルナも仲間に何か連絡取ってんじゃねぇか?」
「......違う気がする。僕は何か、準備しているよう......に......伏せろ!!」
僕が仲間であるリキヤ君の腕を掴み、何かが動く寸前に小さな丘に隠れた......はずだった。
僕が隠れた瞬間、青白い光が辺りを包み込んだ。
「間に合わなかった」
隣にいたリキヤ君は、僕が腕を引いたにも関わらず、首を綺麗に真横に斬られていた。
それも、体全体を凍らせるオマケ付きで。
「もしかして腕を掴まれたタイミングを見られたのか?」
いや、違う。多分予測だ。あの人は僕が腕を引く事を予測して斬ったんだ。
恐ろしい。僕はただ戦慄する。
世の中にこんな人間が居るのか。10人の動きを予測し、とんでもなく集中力を使うであろう技を使い、相手を倒すなんて......
「ふっ、僕も散々やって来たじゃないか。カムイ、頼むよ」
そう言って僕は愛犬である、フェンリルのカムイを呼び出した。
『飼い主。悪い事は言わねぇ。ここは引け』
「いやぁ、それも考えたんだけどさ。僕も命を懸けて戦いたいなって」
『ハァ......飼い主、お前はアイツの怖さをまだ知っていない』
「怖さ?」
何だろう。ルナさんの怖さ......と言うより、強さは知っているつもりだけど。
『アイツ、上位神を付喪神に降ろしている。それも、あと少しで最高神になろうって者も』
僕はカムイの言いたい事が分からず、眉を寄せた。
『これが理解出来ない時点で飼い主はまだ弱い。神界について、よく学ぶといい。そしてあの銀色の人間、匂いからして怒龍をテイムしてやがる』
「どりゅう?」
『高位の悪魔の怒りから生まれた、真っ黒なドラゴン。正しく呼ぶならラースドラゴン。
今の飼い主じゃ......そうだな。20時間くらいかけて、ようやく生命力の1割を削れるってとこか。それくらい硬いドラゴンの事だよ』
な、何それ。今まで結構な数のエリアを解放してきたけれど、ラースドラゴンなんてモンスター、聞いた事すら無い。
未開放のエリア......じゃない。もしかして未攻略のダンジョンのモンスターか?
「ル、ルナさんはそれを倒したと?」
『倒す?なにバカ言ってんだ。テイムだよ、テイム。飼い主もやったろ?俺をボコボコにし、テイムを受け入れるまで何度も何度も挑戦する......それをアイツは、俺より遥かに強い奴でやってるんだよ』
「それって今の僕で『無理だ』ですよね」
分からないな。ラースドラゴン。彼はそのドラゴンを出してくれるだろうか。
「さぁ、そろそろ僕も......あれ?」
僕も戦おう。そう言おうとした瞬間、足が動かない事に気付いた。
そして僕の横に居たはずのカムイの首が僕の元に転がり、光となって僕の中に戻っていった。
「あ、お話終わりました?残りは犬子さんだけなんですが、もう殺っちゃっていいですかね?」
僕の横から、純粋な笑顔で僕に語りかける存在が居た。
「やっぱりフェンリル、カッコイイですよねぇ。強いし可愛いし、なんてったってモフモフですもんね。俺も、リルをモフっている時が1番生を実感しますよ」
な、何を言っているんだ?この人は。
というかどうしよう。どうやってこの場から逃げよう。
転移?
......無理だ。僕はまだ、空間魔法を取得していない。
では走る?
そんなの出来たらやっている。だけど足が凍って動かないんだ。
あぁもう!この状況はどうしたら良いんだ!?
「犬子さん。どうしてこんな戦いが生まれたんですか?後からウチのメンバーにも聞きますが、何故、こんなに規模の大きそうな戦いをしたんですか?」
こ、これなら答えられる。よし、よし。
「そ、それは星屑集めですよ。常に2位に立っているヴェルテクスから奪えば、ストレリチアはより高いポイントで1位を維持出来るのでね」
「なるほど〜、そういう事ですか〜」
ルナさんは、何か気の抜けそうな、そんな声で答えた。
「う〜ん、まぁいっか。じゃあね、犬子さん。このギルド戦の間、いつでもウチを狙ってもらって構いません。今回は前哨戦。お互いの手札の見せ合いっことしましょう」
「は?」
「取り敢えず、初戦は俺達の勝ちという事で。お疲れ様でした」
その言葉が聞こえた瞬間、僕はディクトにある、ストレリチアのギルドハウスにリスポーンした。
フェンリルは往々にして知識欲が深く、賢いです。
それ故にラースドラゴンの事も知っているので、犬子君に警告していましたが.....残念。
次回は後編です。つまり、戦闘です。
次回も楽しんでくれるとハッピーです!