焼き鳥
寝起きからゲームしたのに生きてる。なぜ。
星塔の第2階層。最初のエリアは火山エリアだった。
近くを熱く煮え滾る溶岩が流れ、その熱でHPがジワジワと減っていく。
「お前達はリジェネ系の効果持ってんのか?」
「僕は持ってるよ。ソル女王から賜った」
「私もソルさんから頂きました」
「了解だ。このダメージは俺の魔法でも防げないから、もし回復がなかった時の為に一応聞いておいた」
サーキュレーションは外気からの影響を完全にシャットアウトするが、地面からの物理的な熱には一切対処が出来ない。
「それにしても、鉱石採取ポイント多いな〜」
「鍛冶師の方にとっては天国みたいですよね」
「......そうだといいな」
「え?ルナさんは違うんですか?」
「違う」
先程から見える採取ポイントと、サーチで見付けられるポイントは全て採っているのだが、ここで取れる鉱石の意味が分からないのだ。
「だってさ、『溶岩プレート』とか、最早料理にしか使わないような物が出てくるんだぞ?これをどう武器にしろと?」
「それ、皆は火属性武器の材料として使ってるみたいだけど」
「あっ......スーッ......ごめん」
そう言えばそうじゃん。ガッツリ火属性要素を備えているんだから、武器に使えるじゃん!
あ〜もう、バカやっちゃったなぁ。
「君、昔からおっちょこちょいと言うか、案外簡単に分かることを見逃すよね」
「すぃあせん」
「そういう所を支えてくれる人が、ソルちゃんなのかな?」
その通りですよ翔君。いや、翔酸カルシウム。お前はなんて良い事を言う奴なんだ!
「そうだぞ。ソルは俺に無いものを持っているんだ。そしてその全てを俺にくれるんだ。しかも超可愛いんだぞ。こっちに駆け寄ってくれる時のあの表情は、もう......純度100パーセントの、幸せの感情に満ちているんだ。俺は男として、いや、人としてソルを支え、幸せにしたいと。そう思うんだ」
「めっちゃ語るじゃん」
「正に語り人ですね。ソルさんだけの」
「そう!ソルだけの「私だけの?」おぉい!......ビックリしたぁ」
火山で熱く語っていると、後ろからソルに抱きつかれた。
「や、ソルちゃん。こっちも追い付いたよ」
「お疲れ〜。虫は大丈夫だった?」
「僕とミアは無理だったけど、そこの男が殺ってくれたよ」
「おぉ〜!」
ソルは背伸びをしてまで俺の肩に顎を置き、後ろから翔達に話しかけた。
と言うか、何故ソルは後ろから来たのか。ソルは今、城で生産してたんじゃなかったのか?
「ソルはどうして火山に?」
「私は焼き鳥を作りに来たの」
「焼き鳥?」
「そう、焼き鳥。正確には3階層目に上がる為のボスを倒しに、ね。そういやルナ君達、もしかしていきなりここに飛ばされたの?」
「あぁ。もしかしてラッキーボーイ?」
「スーパーラッキーボーイだよ。火山スタートって、報告数がとっても少ないからね。ルナ君も一緒に焼き鳥作る?」
背中からギューッと抱きしめてくる辺り、断れない気がするなぁ。翔達も一緒に来てくれるなら別に良いのだが......
ってか、焼き鳥って何?
「質問:焼き鳥とは」
「解答:第2階層のボス『鳳凰』の事です。追記:今日の晩ご飯は焼き鳥です」
「久しぶりだな。タレ?塩?」
「どっちでもいいけど、ルナ君はどっちがいい?」
「う〜ん、タレかな。甘いヤツがいい」
「分かった。楽しみにしててね」
「あぁ」
「おい、バカタレとアホタレ。イチャついてないで行くよ」
「「は〜い」」
ちょっとソルと話していただけなのに、翔に怒られてしまったお。僕ちん何も悪いことはしてないのに。
いや、時間を使ったな......悪いな。
そうして鉱石の話は何処へ行ったのか、俺はソルと手を繋いで火山の攻略にシフトチェンジした。
◇◇
「弱いな〜、ここの敵」
「そりゃあルナ君のレベルからしたら雑魚だと思う」
「う〜ん......張り合いが無いと、どうも気合いが入らんな。半呪の腕輪でステータス落とそうかな」
火山に点在する洞窟に入り、4人で敵を倒していたのだが、どうもここの敵は弱い気がしてきた。
溶岩で出来たゴーレムとか、マグマのスライムとか、柔らかいモンスターが多いのだ。
「いや、ステータスじゃなくて武器を縛るか。フー、ちょっといいか?」
『私を縛ろうとするなんて変態ですね!......まぁ、別にルナさんになら「黙れ。霊剣を出してもらおうと思ったが、もういい」
『待ってください!ごめんなさい!ちょっとし』
俺は布都御魂剣を戻し、フェルさんから貰った、俺が初めて入手した刀を装備した。
「この子も懐かしいな。付喪神が宿る前に、良い感じに強化してあげたい」
名前の無い、ただの刀の黒い鞘を撫でていると、ミアが不思議そうな顔をしながら聞いてきた。
「いつもと違う刀ですね。昔に作った物ですか?」
「この子は俺が作ったんじゃなく、俺に鍛冶を教えてくれた人が作った子なんだ。確か、俺がロークスに行く時だったか......あれ、弟子を卒業した時だっけ。まぁ、そこら辺のタイミングで貰ったんだよ。俺が刀術を始めた時の、最初の相棒だな」
本当に懐かしい。リアルで何ヶ月も前だ。確か、俺とソルとリルの3人で貰ったんだよな。
「敵、来たよ。拘束するから3人で仕留めてね」
「「「了解」」」
曲がり道を抜けた先に居る敵を、翔が糸で拘束してくれた。
敵は立派な語り人だ。赤い髪に、犬のような耳を生やしたゴリラだ。
「おい翔!お前なんで俺を拘束するんだ!」
「さ、殺って!」
「じゃあな、犬ゴリラ」
「ま、待て!なんで味方で殺し......」
俺は手も足も出ないゴリラの前に立ち、一気に抜刀した。
一瞬の後、アテナを縛っていた糸がポリゴンとなって散った。
「......あ、ありがとう。助かった」
「いいよ。で、こんな所で何してたんだ?」
「鳳凰の為に作戦立ててたんだよ。全く......そこのクソガキは分かってたのに来やがったがな」
「フッ、ちょっとした挨拶だよ」
翔が顎を上げて、アテナを煽るようにして言い放った。
「そうか。なら後でタイマンしようぜ。闘術オンリーのな」
「え......僕闘術持ってないんだけど」
「残念だが俺も持っていないな。大分前に闘王に進化したんでなぁ?ちなみに80レベな」
「はぁ!?そんなん負け確じゃん!嫌なんだけど!」
「大丈夫だチビッ子。俺は手加減スキルをルナから教えてもらったからな。今のお前を全力で殴り飛ばせる」
「手加減の意味、辞書で調べてきたら?」
翔とアテナの言い合いが始まったので、俺はソルとミアを連れて先に進んだ。
大体2分ぐらい歩いた所で、ボスエリアらしき巨大な空間に出た。
「お、あれが鳳凰か。めちゃくちゃキレイだな」
ボスエリアの中央にある、溶岩の中から生えている1本の青い木に、鳳凰と思われる5色の羽を持つ鳥が立っていた。
「結構強いらしいよ。レベル300くらいあるんだって」
「弱いな」
「めっちゃ強いじゃないですか!!」
ミアと価値観の違いが出てしまった。
仕方ないよな。レベルのあるゲームなんだし、自身のレベルが高ければ高いほど、相手のレベルを見た時の意見が変わるものだ。
「取り敢えず行くか。ゴリラとチビッ子は......まぁ2人で行けるやろ」
「大丈夫だと思う」
「大丈夫......ですかね?」
「大丈夫だって。あぁ見えて相性良いから。じゃ、行くぞ〜」
後続の2人が勝てると信じ、俺達は3人で鳳凰との戦闘を開始した。
次に進むのに必要なのは、次に進もうという気持ちだけ。邪魔されても構っちゃダメなの。
分かってるのに反応してしまう。なぜ。
次回『全面戦争・前編』オタノしみ2