その銀狼、満月に笑う 7
遂に!
「オークじゃん、めんどくさ」
午後の狩り一発目のモンスターはオークだった。ついてないな。
「あーあ、ソルがいたら楽なんだがなぁ......」
オークの攻撃は強くて早いし、肉は柔らかいがHPが多くて倒すのに時間がかかる。
ここにソルがいたらソルの超高火力の弓で、大体5発程度で倒せるのだ。
「しゃーない、頑張ろう」
『上質な豚肉』がドロップすることを祈って。
「よし、『茨よ』!」
まずは茨ちゃんで転ばす。が、
「えっ嘘!?」
オークが重すぎて、茨ちゃんでも転ばす事は出来なかった。
『ブモォォォ!』
「あーあ、怒ってら。弓でペチペチやるか」
俺は剣を持ってオークの元へ走る。
「やぁ豚君、ごめんね?」
そう言ってから右足の裏にある筋を切る。
『ブモォ!』
「はいはい、もう一本ね」
左足の裏の筋も、右足同様に切った。
『ブモォォォォオ!』
「すまんな」
俺はオークから離れ、弓を構える。
バシュン!
バシュン!
バシュン!
とりあえずセクスタプルショットを3回放った。
『ブモモモォ!』
18本の矢が全て頭に刺さり、ハリセンボンみたいになったオーク。
「ありゃ、やっぱり18じゃ足りんか」
やっぱりオークのHPはバカみたいに多いなぁ。
そんな事を考えたいたら思い出した。
「あっ!!!! 二刀流試してねぇ!!」
完全に忘れていた!せっかくフェルさんから武器貰ったのに一切使ってない!
「よし、オーク......死ぬなよ?」
そう言って弓を仕舞い、アイアンソードを2本取り出す。
左手に持つのが、高性能の方だ。利き手が右だからな。師匠の教えで左手でも剣は扱えるが、二刀流はやった事がなかった。
「リザルトのスキル習得のみオンにしてと」
もし二刀流がスキルとしてあるなら、習得できたか知っておきたい。
「さぁやるぞ!! って思ったが、どう構えればいいんだ?」
構え方が分からない。師匠は二刀流はやってなかったし、スパーダさんもやってなかった。
「要研究だな。とりあえずの構えでやろう」
右手の剣を中段に、左手の剣を逆手に持った。
「これ、真っ直ぐ斬るの難しいな」
少し素振りをしてみたが、中々『これだ!』って動きが決まらない。
『ブモォォ!』
「まぁまぁ、少し待ってくれハリセンボン君。君のお陰で俺は新しい戦い方を学べそうなんだ」
そうして何十回も、構え方を変えては素振りをし、上手くいかなければまた構え方を変える、ということを繰り返した。
そしてオークとの戦闘が始まって1時間程がたった頃、
「これだ!!!!」
来た!決まった!この構えは良い!
力が入り、剣筋は真っ直ぐに、そして剣を振りやすい構えが開発できた。
その構えは、両腕を真っ直ぐに下に下ろし、手首だけを上げて剣を持った構えだ。
切っ先は敵に。腕はリラックスして下ろせている。これなら構えで腕が疲れることは無い。手首は疲れるがな。
普段は下ろすようにしよう。
「待たせたな、ハリセンボン君。お別れの時だ」
そう言って俺は右の剣で切り上げ、左の剣で突く。
ポイントは交互にやる事だ。
本来、剣1本でやる、攻撃と攻撃の間に、左手の剣で攻撃をするのだ。
単純計算で2倍の速度で攻撃をする訳だ。
そうして何十回目かの斬撃でオークはポリゴンとなって散った。
気になるスキルは......?
「ない......のかな。二刀流スキル」
マジか......無かったか。まぁ、剣を2本持つ以外は普通の剣術と同じだもんな............
「ま、いいや。単純に剣撃のバリエーションが増えたし」
考えてもみる。
相手は右手の剣1本で戦っていて、その相手を追い込んだとしよう。
そして相手の左手へ攻撃を与える――その瞬間に左手に剣が握られたら。
ここで意識を二刀流使いに向ける。
すると相手はまず、驚くだろう。驚かなくても相手の意識はそっちに向けられる。そうすればそこから勝機が生まれる。
それに、格上相手に勝つには、虚をつくしかないのだ。
これはビギナーズラックでよくある事だ。
格上の相手というのは、自分自身の『型』もあり、ある程度、相手に対しての『型』もある。
だが初心者は自分の『型』がない。故に不規則なのだ。そして格上が『こいつはここで攻撃する』と考えていても、初心者は攻撃せずにいて、格上相手の思考を乱せる。そして運良くそのタイミング―虚をついたタイミング―で攻撃して、格上相手に勝利を得るのだ。
「大事なのはまぐれではなく、俺自身の意思で虚をつけるか、だな」
俺はショートカットインベントリ操作は毎日練習しているからな、日々上達して今では0.1秒で剣を取り出すことは出来る。
「剣、それもアイアンソードだけか」
だって名前が『ア』から始まるんだもん。1番上にあるから選択しやすいのだ。
お気に入り登録とかあれば、いいなぁ。
「よし、二刀流を考えるのはここまで。大分タイムロスしたな、早く狩りに戻ろう」
思考を切り替え、俺は狩りを続行した。
夕方──
「うっそぉおぉん!!!」
俺はあるモンスターから逃げていた。
「なんでピクシーがいるんだよぉぁぉ!」
そう、『物理無効』のピクシーだ。
レアモンスターだから、出会わないと思っていたのだ。
え? インフィルクロウ? アイツは知らん。なんかアイツから寄ってくるんだもん。
だが、ピクシーは違う。もう既に12時間以上アルトム森林にいるが出会わなかったのだ。だから、『あぁピクシーは出会わないんだな』と高を括っていた。
「認識範囲広すぎるぞピクシー!」
ピクシーは片手に乗るサイズの人型の妖精だ。
だが、どうしてかな、敵を認識する範囲が広いのだ。
そうして俺は、夜になるまで逃げ続けた。
「もう......無理......帰り......たい............」
ヘトヘトだ。さっきようやくピクシーの認識範囲から出れた。だが、もう3時間ほど全力疾走した。体力が持たない。
「あぁ......俺......の............VIT......頑張ったな............」
もうね、自分ってより自分のVITを褒めたいよね。
『良くここまで頑張った』と。
そうして30分ほど休憩した。
「......ふぅぅぅ。よし、回復した」
体力がようやく回復した。
回復ポーションで体力は回復しないのかな?調べればよかった。
「ま、もしスタミナポーションなるものがあったら、ここで回復ポーションを無駄にするだけだ」
俺は俺自身への言い訳を作った。
ここでふと、顔を上げた。そこには――――
「おぉ......綺麗な満月だな。池に反射しているのも凄く綺麗だ」
俺は池の所まで逃げていたらしい。
「本当に綺麗だな。これならピクシーに感謝......しねぇよ!!! このクソがぁ!!」
3時間も全力で走らされた。それがどれだけしんどかったか。普通の人の『走法』スキルを10個分くらい取った気分だわ。
「......よし、写真を撮るか。ソルに見せよう。はい、パシャリ」
撮った写真を確認した。
「うんうん、綺麗だな。ソルは喜んでくれるかな?」
そろそろ帰ろうか、そう思い、後ろへ体を向けたとこで『それ』はいた。
「なぁに? こいつぅ?」
そこには、体高3m程の、銀色の毛をした狼がいた。
『人間、か。久しぶりに食べるな』
喋ったァァァァ!!!!!
そしてウィンドウが出てきた。
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『幻獣狼:フェンリル』との戦闘を開始します
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「え? 幻獣?」
遂に出会いましたねぇ...。
次回、フェンリルとの戦いですね。
頑張って凝ります。楽しんでくださいね!




