トイレットペーパーゲーム
6月から更に忙しくなるのに、もう既に体が限界。
んにゃぁぁぁあ(猫になりたい)
「陽菜。クリスマスが来たぞ」
「......ん」
「起きて一緒に遊ばないか?朝ごはん、出来てるぞ?」
「あ〜す」
「アース?......うぉっ」
12月25日、時刻は7時だ。そろそろ起きて学校に行く用意をしないと、終業式に遅れてしまう時間だな。
俺は陽菜を起こそうと肩を触ったのだが、触っていた右手を思いっ切り抱きしめられた。
「今日は起きてくれ。頼む。遊びたいんだ」
「んも〜......うん。おはよ」
「あぁ。おはよう」
流石に間に合わないと困ると思っていると、ゆっくりと目を開けてくれた。綺麗な顔だ。
それからは、いつものようにキスをしてから朝ごはんを食べ、一緒に登校した。
『この年末年始をね。え〜、ゆっくり過ごしてもらって、年明けに皆さんの元気な顔を見れる事を、私、校長は楽しみにしております。以上』
「あ〜終わった終わった。さっさと帰りてぇ」
「まぁまぁ。今日、帰りにどこか寄ってく?」
「どこかって言ってもなぁ。必要な物は大体買ってあるし、あんまり行く意味が無いんよな」
終業式が恙無く終わり、帰りのホームルームが始まる少し前。俺は陽菜とコソコソ話していた。
「ぐーたらさんめ。そんな生活してると、筋肉が無くなっちゃうよ?」
「一応毎日自重トレーニングはしてるがな。だから筋肉は増えなくても、落ちていないはずだ。陽菜を抱っこしても大丈夫」
「ホント!?」
「本当。それと、いつもソファで俺の膝の上に座ろうか悩んでいるの、知ってるからな。自分の体重を気にしちゃって、結構可愛いと感じたが」
一緒にソファに座っていると、陽菜はピクピクと動いたり、止まったり......行動に移そうとしているのを思考が制御し、でもやっぱり行きたいと思っている、そんな気持ちが伝わってくるんだ。
「女の子ですからね。体重は気にするものなのです」
「俺としては体重よりも体型を維持して欲しい。筋肉の密度を考えれば、鍛えれば必然重くなるし。俺は陽菜に健康でいて欲しいからな。今のままの、綺麗な陽菜でいてくれ」
「......!うん!」
今の陽菜が40キログラムだか50キログラムだか知らんが、体重を気にして今の綺麗なスタイルを崩されるより、筋肉を付けて今のスタイルを維持して欲しい。
綺麗な陽菜を、ずっと傍で見ていたい。
◇◇
「じゃあ陽菜。トイレットペーパーと呼ばれたゲームをやろうか」
「トイレットペーパー?」
「そう。神ゲーともクソゲーとも言われる『プロガン』。コイツはクソを拭う程の要素を持つ神ゲー......それが転じて、トイレットペーパーゲームと呼ばれることもある」
「へぇ〜、ばっちぃ通称だね!」
「紙はばっちくないがな。さ、やるぞ」
「うん!」
俺はテレビのチャンネルをゲーム機に合わせ、プロガンを起動させた。
『プロガンっ!至高の射手』
俺にとっては聞き慣れた、相棒の女キャラの声でタイトルコールがされた。
「あれ、意外と可愛い系のゲー『さぁ、敵をぶっ殺そう!』厶ではなかったね」
「そりゃあな。取り敢えず陽菜の武器を揃える為に武器収集のミッションに行こう。これは正直、めちょめちょ簡単だから直ぐに出来るぞ」
「めちょめちょかぁ。頑張ろう!」
「そうだな」
タイトルから1つ画面を進め、マルチプレイを選択した。
本当は初期状態ではマルチプレイが出来ないのだが、いつか誰かと一緒にやることを夢見て、もう1つデータを作り、少しだけ進めていた。
「じゃあまず、操作方法......と言ってもやってたら慣れるだろうし、簡単に説明だけするか」
「お願いします」
「はい、よろしく。まず、このゲームのジャンルはアクションシューティングゲームだ。自キャラを操作して、有利な地形に位置取り、相手を倒す......そんな感じ」
「ふむふむ」
「んじゃあ、ボタンによる操作は......やりながら覚えよう。陽菜に余裕が出来たタイミングで、小さなポイントとか教えるから」
「分かった!頑張る!」
それから陽菜にボタン操作や特殊アクションの出し方、後は特定の順番でボタン入力する事で発生するバグなどを教え、陽菜は立派なガンマン......という名のスナイパーになっていた。
「まさかスナイパーライフルが得意とはなぁ......ちょっと予想外」
「ふっふっふー。それもライフルだけじゃなく、遠距離戦が得意だったね!」
試しに武器収集のクエストを始めてみたのだが、陽菜の後方射撃が的確にモンスターの弱点に弾を当てていた。
正直、近距離戦でも狙いにくいような位置にある弱点を撃つとは思わなかった。その上倒すとは考えすらしなかった。
やっぱり、陽菜は凄い。その適応力に憧れる。
「弓もそうだけど、遠くの物を狙うのが得意なのかもな」
「それと、月斗君の心を狙うのも......ね?」
俺に凭れかかりながら上目遣いで呟くその姿に、思いっ切り心を撃ち抜かれてしまった。
「上手いよ。ゲームも俺を狙うのも」
こいつァ至高の射手ですわ。君がナンバーワンだ。ナンバーワンでオンリーワンだ。
◇◇
「そこ、ちょっと左上に偏差撃ちすると当たる」
「試すね......わぁお、びゅーりふぉー」
「あとそのポジションは針が飛んでくる」
「うん。思いっ切り脚に刺さってる」
「ちなみにそれ毒持ち」
「死んだ......うわぁぁぁん!!!」
流れる様に秒殺され、陽菜は再チャレンジしている。
今、陽菜が戦っているモンスターは『チュチュバリ』という名前のモンスターだ。
モンスターの性能としては、ユアストのアダチェウスに毒と射程を追加した感じだ。
ちなみに、これはまだ武器強化クエストの1つ目である。
「つ、月斗君はどこまでやったの?」
「149。ラスボス枠の強化素材が取れなくて詰んでた」
「ひゃく......よんじゅう......きゅう......」
「大丈夫大丈夫。チュバリ君は難しい方だからさ。2から11くらいまでは簡単だぞ」
「チュチュバリに比べたら、ですか?」
「勿論。武器入手の奴に比べようとしても、エンドコンテンツ武器を落とすモンスターでも比較にならんからな」
「このゲーム難易度設定おかしいよ」
「でも楽しいんだよな」
「そうなの!それがムカつく!」
そう、何故か楽しいのだ。
圧倒的な防御力。圧倒的な攻撃力。そして圧倒的な速度を持っていても、絶望する程じゃないと感じる。
それは偏に、ちゃんとモンスターに隙があるからだろう。
例えばチュチュバリは、針を飛ばす攻撃の前に隙がある。
1度丸まってから両手の爪を広げるようなモーションがあり、その隙に弱点であるお腹を撃つ事が出来る。
ただ、スナイパーライフルじゃ1発。アサルトライフルならマガジンの半分くらいで撃ち止めないと、追尾する針ミサイルで1発昇天するがな。
このゲームでも、戦闘に於けるリズムを知れる。それが今日、俺がこのゲームを陽菜とやろうとした理由だ。
「じゃあ、そろそろ俺も参戦しましょかね」
「月斗君はどういうポジションを取るの?」
「どこでもいいぞ。遠距離戦のアシストでも、近距離戦でパカパカ撃っても」
「それなら、出来る限り私に攻撃させる動きって出来る?こう、ダメージは私だけが出す感じで......」
「盾役か、分かった。ただ陽菜がダメージを稼ぐんだから、ずっと俺だけにヘイトを集める事は出来ないからな?」
「分かってる。アシストする感じでお願いします」
「あい」
俺は豆鉄砲よりも弱い、相手にダメージを与えない弾を装填出来る銃をセットした。
これは入手出来る時期が終盤なのに、威力がプロガンで最弱の武器なんだ。
ただし、特殊効果として相手の注意を惹き付ける効果がある為、今回は陽菜のサポートとして持って行った。
主役を陽菜とするならば、俺は全力で主役を立たせるモブとなろう。
「5秒リロードする」
「はいはい、稼ぎますよ〜」
「リロード完了。スタンダップ!」
「はい、脚をチクッと」
「完璧っすよ兄貴!ではお腹、頂きます」
MISSION SUCCESS!!
「お疲れ様。開始から2時間、ようやくチュバリ君を討伐出来たな」
「長かったでござる......ござるぅぅ!!」
陽菜がチュチュバリを倒したのは、もうお昼ご飯の直前だった。
『最後にもう1回!』と言ってチャレンジした時に、かなり余裕を持って倒す事が出来た。
被弾数は1。だが焦らずに落ち着いて動けていたので、陽菜もチュバリ君のリズムを掴む事が出来たのだろう。
「ほら、そろそろ離してくれ。晩ご飯が作れんぞ?」
「もう少し......もう少しこの余韻を......!」
「分かった。よしよし」
チュバリ君のお腹を撃ち抜いた後、今度は俺のお腹に抱きついてきた。
陽菜の綺麗な髪を撫でつつ、軽く抱きしめてあげた。
「──ふぅぅ、満足」
「そりゃ良かった。これからもチマチマと進めようか」
「うん!」
そうして俺達は、クリスマスの豪華な食事を楽しんでから、お風呂が沸くまでプロガンに熱中する。
「勝てるかなぁ、あのボス」
「勝つよ!」
「頼もしいな。じゃあ、レッツゴー」
「ゴー!」
みゃ〜お。
次回『クリスマスはゲームに限る』お楽しみに!