ピンポーン♪大星壊〜!
ぶへっ(大型連休が明けていつもの日々が辛く感じるも、やはりそこにも道があった、あってしまった人の鳴き声)
「ルナ。状況は?」
「リルと森で遊んでます。木の実がね、美味しいの」
「......敵は?」
「倒した!星屑は10個あるよ!」
「で?今何してんの?」
「リルと木の実食べてます。酸っぱくて美味しいよ?」
「......はぁ。似た者親子」
俺達が敵を3人倒した後、森を探索しながらピギーを待った。
そしてピギーが俺達と出会ったのは、たまたま森で見付けた木の実をモッシャモッシャと2人で食べている時だった。
それとさっき分かった事だが、ゲーム内時間で今日、翔達とは合流出来ないらしい。
なんでも、リンカが『もっとレベルを上げたい』と駄々を捏ねたそうな......
「じゃ、探索しましょ。まだまだこのエリアにも、敵が居るんでしょ?」
「居る。北に900メートル先に5人。東に8.3キロ先に15人。南に20キロ先に4人。西に850メートル先に8人」
俺はマップを円形ではなく線上に広げ、東西南北の直線上に居る敵の情報をピギーに渡した。
斜め方向の敵の位置は分からないので、まだまだ沢山敵は居るだろう。
「......何でそこまで分かってるのに動かないかなぁ」
「木の実が美味しいから。ねぇ?リル」
「そうですね!」
ちなみに今食べているのはレモンの様な見た目の果物だ。優しい酸味と体を包み込むような甘さのある、赤色の食べ物だ。
味としてはブドウに近い。
「まぁ、ピギーなら分かるでしょ?私が待っている理由」
「そりゃあね。やり合わせて、星屑が集まったところを漁夫の利でしょ?」
「そうそう。だからピギーも、食べよ?」
俺は誰もが落ちそうな声で果物を渡し、首を傾げた。
戦闘中じゃない今なら、全力でテスカを演じられる。
「うっ......アンタ、本当に女の子の真似が上手いね」
ピギーは木の実を受け取りながら、嫌そうな顔で俺に言い放ってきた。
「真似も何も、今は女の子だよ?」
「そうですよ。テスカちゃんは女の子ですよ、ぴーちゃんさん」
「はぁ......まぁ、変装するなら割り切った方が良いか。分かった。アンタはテスカね?私より身長の低い女の子」
「何故そこを強調する。成長期だぞ?」
「私も、ね......フフっ」
なんだコイツ。俺が小さくなったからって、急に身長でマウント取り始めるじゃん。
意外と面白いところあるんだな、ピギー。
「それで?どれくらい待つつもりなの?アンタの事なら、2パーティくらい潰れたら行くんでしょ?」
「いや、最後まで待つよ。オーダーは『1度も死ぬな』だからね。相手がどんなに強くても戦えるように、安全策を取るの」
「なるほど。今日は私達しか居ないし、それもアリか「と見せかけて倒しに行く」......はぁ」
敵を倒したい。ランキングのボーダーは分からないが、上はもっと沢山星屑を持っているはずだ。
それ故に俺達が1位になるには、とにかく倒しまくるしかない。
今日は俺とピギー、それとリルとメルにアルスだって居る。
上手く動けば、沢山星屑を集められるだろう。
「おいで、メル、アルス」
「ん」
「ここに」
「今から敵を倒しに行く。アルスは南に。メルは東に。リルはピギーと一緒に西に行って。北は俺......私が殺る」
「ぴーちゃんさん。細かい指示はお願いしますね?」
「いいよ。リルちゃんだけなら、私でも動かせるだろうし」
リルとピギーが作戦会議をしている間に、俺は黙ってメルに炎龍核を渡し、頭を撫でた。
「メルが倒すのは15人の語り人なの。つらくなったり、苦戦しそうなら何時でも私を呼んで」
それを聞いたメルは炎龍核を齧るの、髪が真っ赤に染まり、左目だけがルビーの様な紅い綺麗な瞳に変化した。
「大丈夫。灰に変えるのは得意だから。テスカ......ううん。パパこそ気を付けて。メルにとって、パパが1番大切だから......」
おいおいオイオイ!どうしたんだメル。随分と可愛い事を言ってくれるじゃないか。
これには流石に、俺もテンションが上がるぞ?
「あぁ。俺も危なくなったら直ぐに逃げる」
「うん......」
抱きついてきたメルから頬にキスを貰い、メルを送り出した。
「あ、あっ、あっ、あぁぁ!父様がメルちゃんとキスしました!!これは由々しき事態です。直ぐに母様に報告です!」
「別に頬っぺならいいだろ。家族らしくて良いじゃないか」
「で、でも!」
メルのキスを見たリルが騒ぎ立てるが、何故そこを気にするのか。フーじゃあるまいし......
「ならリルもすればいいじゃん。それならメルと対等だろ?」
「......母様に怒られません?」
「頬っぺならセーフ。前は口にしようとしてたからアウトだったんだよ」
「では......」
そう言って恥ずかしそうにするリルから頬にキスを貰った。
「え、えへへ。欲を言えば、テスカちゃんじゃなくて父様が良かったです」
「ダンジョンから出れば姿を戻すから、その時に好きにするといい」
「分かりました。では、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
最後に立派な狼の耳を撫で、リルを送り出した。
俺がリルと話している間、ピギーはずっと2つのウィンドウを操作していた。多分、フレンドチャットと掲示板だろう。
情報の輸入と意見の交流をしていたんじゃないかな。
「では主。我も行って参ります」
「あぁ。あと、この姿の時は『お嬢様』と呼んでくれ。その方がアルスに合うだろう」
「御意に。ではお嬢様、行って参ります」
「行ってらっしゃい」
アルスは雷となって、凄まじいスピードで南へ飛んで行った。
「では俺もやるかね。フー、シリカ、イブキ、セレナ」
『やっと出番ですか。というか珍しく本気の装備ですね』
『全力だー!!!』
『ほっほっほ、これは楽しみですな』
『遠くの敵は任せなさい。守るわ』
服も『神衣:花鳥風月』に着替え、若草色の着物に変化させ、この森のエリアで1番視認されにくい姿に変えた。
敵の居る位置が森エリアかは分からないが、森じゃなくて草原でも大丈夫なので問題はない。
「『戦神』『雷霆』『魔刀術:雷纏』」
敵にバレないよう、接敵の500メートル前まで雷霆を伸ばした。
今回は雷霆をレールに、魔刀術で加速して移動する。
カラーズと一緒に冒険した時の、あの移動法だな。
「ふぅ......『雷』」
バヂィィィ!!!!
森の木をクトネシリカで斬りながら、アルスよりも早い速度で目的地に着いた。
「思いっ切り草原だ」
クトネシリカを納刀して周囲を見渡せば、背の低い草が生い茂る草原が広がっていた。
後ろには先程まで居た森があり、反対に北を見れば、雪山エリアが遠くにあるのが分かる。
『あの、今の音でバレてると思いますよ』
「大丈夫大丈夫。『サーチ』......アッアッアッア!」
「居た!金髪のロリ!お前ら早く来い!!」
サーチを付けた瞬間、8人のプレイヤーがこちらに向かっているのを確認し、うち1人は俺のすぐ近くまで走ってきていた。
『さぁ、今こそお兄さ......テスカちゃんの出番だよ!』
『お嬢様。頑張りましょう』
「殺るか。『魔刀術:紫電涙纏』」
布都御魂剣とクトネシリカに、滴るような雷のエフェクトを出しながら俺は2本の刃を抜いた。
今回は抜刀術じゃなく、シンプルに敵を斬る。
最速ではなく確実に。1人も生きて返さない。
『ルナさん!私の方は解除してください!それでは死にます!』
「別にいい。『不死鳥化』」
着物から炎の翼を生やし、俺は構えた。
右手のクトネシリカは刃を前に向けて下に降ろし、左手の布都御魂剣は刃を後ろ向けて構えた。
『珍しい構えね。初めて見たわ』
『私も初めてお目にかかりましたな。この構えで斬れるのでしょうか』
斬れるんですよ。これで。俺の体がイメージ通りに動けば、この1回の斬撃で8人程度なら簡単に斬れる。
「『ストレングスアップ』『テクニカルアップ』『一閃 』!!」
「『フレイムボール』『バーニングウィンド』!」
「『ストレングスダウン』『ディフェンスダウン』今だ!殺れ!!」
おやおや。デバフまで掛けてくるとは鬱陶しい。
まぁ、0.9倍程度の攻撃力では何の問題もない。この攻撃から耐えるなら、0.2倍以下まで俺の攻撃力を下げないと。
じゃあ、決めますか。
「『霹』『雷』」
右手で縦に切り裂いた後、極限まで人間離れした速度で時計回りに回転し、斬撃を斬った。
細分化された雷の斬撃は称号【雷神】の効果で操り、8人の心臓に向けて飛ばした。
そうして俺が技を使った0.2秒後、8人は一斉にポリゴンとなって散った。
「はぁ......はぁ............ちょっと、休憩」
俺は4人を降臨させ、草原に寝転がった。
今の魔刀術は負担が大きすぎる。そもそも紫電涙纏で技を使うのが大変なのに、それを2つ、しかも別々の技を使った。
超高速、超強力な魔刀術の技。『霹』
高速かつ、空間をも容易に斬る技。『雷』
霹は物理、雷は魔法よりの攻撃だ。
本来の俺のINTなら、ここまでが限界だろう。
この場合の限界とは、『頭痛がしないで扱えるレベル』を表している。
だが今回、俺は【雷神】も使った。というか、霹を斬ったんだ。その動きが本当にしんどいのなんの......もうやりたくない。
「ルナさん。膝枕しましょうか?」
「いい......少しゆっくりさせて」
「チッ、まぁ傍に居るので、何かあったら言ってください」
「うん......」
何か酷い舌打ちが聞こえた気がするが、多分気のせいだろう。俺の知ってるフーは舌打ちなんてしないもん!完璧そうに見えるだけの、ポンコツメイドだもん!
「あら、この辺りの草、殆ど薬草ね。それもかなり珍しい種類の」
「ふむ。では周囲の警戒をしながら採取しましょう」
「えぇ。後でお茶にしましょ」
「分かりました」
俺の横でフーは正座し、イブキとセレナは薬草採取に行動を移した。あれ?シリカはどこに行った?
「見て〜!デッカイ狼捕まえた〜!!!」
遠くからシリカの元気な声が聞こえ、俺は少し起き上がって声の方向へ顔を向ける。
すると信じられない光景を目の当たりにした。
なんと、シリカはフェンリルであろう狼を両手で担ぎ上げ、こちらに全力ダッシュしていたのだ。
「フー......あれ、フェンリルじゃね?」
「フェンリル......ですね」
『離せ!おい!クソっ、離しやがれ!!!』
「も〜、キャンキャンうるさい狼だなぁ。黙らないと食べちゃうよ?」
『......』
シリカがフェンリルを掴む手に力を入れると、フェンリルは何も喋らなくなった。
「ねっ、この狼を今日のご飯にしない?」
『殺してやる!お前ら絶対に殺してやるからなぁ!!』
尋常じゃない殺意を振りまいてるんだけど、このフェンリル。
「フェンリルって美味しかったっけ?」
「「美味しくない」ですよ」
「じゃあいいや。シリカ、森に返してあげなさい」
「え〜!折角捕まえたのに〜!」
ダメだ。それにフェンリルなら他のプレイヤーが倒しに行くだろうし、俺達が倒すメリットが無い。
まぁ、他のプレイヤーが倒しに行く前に、そのプレイヤーを俺が倒すけど。
そんな事を考えていると、シリカの捕まえたフェンリルがプルプルと震え出した。
『俺の飼い主がここに向かってるからな。ハハッ!お前らはもう終わりだな!ハハハ!!』
「おい、なんかフェンリル壊れたぞ。何したんだシリカ」
「そうですよ。フェンリルを発狂させるなんて、シリカさんは本当に付喪神の力なんですか?」
「な、何もしてないよ!ただ前足と後ろ足を持ってるだけだもん!」
それが原因だと思うけどなぁ。
「カムイ、どうしたんだい?『ヤバいヤバい!』ってずっと言ってたけど......」
シリカがフェンリルを離そうとした瞬間、シリカの背後から何者かが現れ、フェンリルを光に変えた。
光に......つまり、今のフェンリルはテイムモンスターと言う事だ。
俺は堪らずシリカの後ろに居る人間を見てみると、少しだけ知っている人間の顔だった。
「今日......犬子さん?」
「ピンポーン♪大星壊〜!でも、残念ながらこの情報は共有させないよ。『魔剣術:炎纏』」
「もう、星を壊そうとしないでください」
犬子君が俺に剣を振り下ろそうとした瞬間に俺は指を鳴らし、犬子君の動きを『クロノスクラビス』で封じた。
「ッ!?......この魔法......まさか」
やべ。バレるのは面倒だ。
「君、もしかしてル「『滅光』」
犬子君が俺の正体を暴く前に、龍神魔法で消した。
戦神の効果が切れていたが、咄嗟にフーを刀にして装備したのが大きかったな。多分、布都御魂剣を装備しないと倒せなかっただろう。
「お兄さん......今のマズくない?」
『不味いですよね。あの人、相当強い語り人のようですし......』
「さぁな。ま、犬子君クラスが1人ならまだ大丈夫だ」
『という事は、2人以上なら......』
「ちょっと俺1人じゃ厳しい。頭を使わないと勝てないだろう」
勝てないとは言わない。だが、負けないとも言えない。
彼は現在、ユアストで前線を走るプレイヤーのはずだ。
俺の知らないモンスターを山ほど倒し、俺より強い武器を持っている可能性だってある。
これは少し、厄介な事になりそうだ。
「じゃ、ちょっと寝るわ。フー、膝貸して」
「やった〜!ささ、こちらへ!」
「呑気だな〜。シリカ、ちょっと罪悪感あったのに......」
俺がフーの膝に頭を乗せると、シリカはちょっぴり悲しそうな顔で呟いた。
「気にするな。これはギルド戦だ。シリカがやった事はギルドマスターである俺がやった事とも言える。だから、気にするな」
「う、うん。でも」
「でもじゃない。俺がギルドを作り、クトネシリカを作った以上、シリカの責任は俺にもある。気にするだけ無駄だ。シリカは明るく笑ってろ」
ウチの明るい存在が暗くなると、ギルド全体が暗くなる可能性がある。それ故に、シリカは常に元気で明るく居て欲しい。
「うん!お兄さん大好き!」
「ぶへっ......重い」
幼女のお腹に思いっ切りダイブするとは、シリカは鬼だな。
「敵が来たら教えてくれ。じゃ、おやすみ」
俺は隠しパラメータの疲労度が限界近い事を察し、瞼を閉じて意識を手放した。
ケリドウェンの効果を持ってなくても、犬子君をワンパンするのはキツイでしょうね。
流石ルナ君。運が良い.....
次回『メイドさんは心配性』お楽しみに!