その銀狼、満月に笑う 6
魔法作成のレクチャーですわよ。
アルトム森林での狩りが始まって数時間。
お昼になったので、ソルにマネーレトレントがいた場所の近くに集まろう、とメッセージを送った。
「さ、ソルが来るまで茨ちゃんの練習だな」
俺は一足早く、マネーレトレントのいた場所の近くに来ていた。
何を報告しようか。茨ちゃんは絶対だ。後はそうだな、魔法の使いすぎでMPが0になった時の症状の辛さとかかな。
「『茨よ』ここにおいで」
詠唱をして茨ちゃんを出す。MPを50食うが、大体30秒で1MP回復するので問題ない。自然回復でMP上限を増やすとか、何年かかるんだ?
「あぁ、茨ちゃん。俺はMPにSPを振り合いよ。もっと君や蔦ちゃんを使ってあげたいんだ......」
この子達はかなり便利だ。MPがあればな。
『MPさえあれば』戦闘後の矢の回収も格段に楽になるし、『MPさえあれば』敵の拘束や、棘のダメージもそこそこ期待できる。そう、『MPさえあれば』
「はぁ......レベルを上げるしかないな」
『最弱無敗』めぇ......!!
見た目は大きく、中身は小さな悩みを抱えつつ、ソルを待った。
そして数分後──
「やっほ〜、お待たせ、ルナ君」
「おう、お疲れさん」
ソルが来た。どれから報告しようか。
あっそうだ
「なぁソル、魔法は使ったか?」
「魔法? いや、全然使ってないね。作ろうと思ったけど私の知識が足りなくてイメージが出来なかったよ。それについてルナ君に聞きたいこともあるんだ」
俺が今から言おうと思ったことにクリーンヒットだな。
「そうなのか。俺は魔法を使ってみてな、便利なんだが、足りないと思ったんだ、色々と。それで、蔦の魔法は力が弱すぎる事に気づいてな、魔法を新しく作ったよ」
「えっ! ルナ君魔法作ったの? 教えて教えて!」
めっちゃキラキラした目で見てくる。ふふふ、期待に答えて進ぜよう。
「まず何から教えるか......あっ、魔法の作り方は覚えてるよな?」
そもそも作り方を忘れていたら話す内容が半減だからな。
「うん! バッチリ覚えてるよ! だから私も作ろうと思ったんだけどね......」
おう......目に見えてションボリしてる。可愛いやつだ。
「それはすまない事を聞いたな」
頭を撫でちゃった。キャー! 耳が! モフい!
「ううん! いいの!」
うんうん。ソルは笑顔でいてくれ。
「じゃあまず、俺も魔法の作成に失敗した話からだな」
「えっ!? 失敗したの?」
「あぁ、成功してから気づいたが、最後の最後でミスってた」
「どんなミスだったの?」
「簡単だ。『魔法の名前』だよ」
「え? 魔法の名前って、そこまで大きなミスに繋がるの?」
だよな。俺もそう思ったよ。
「俺もそう思ったんだがなぁ、成功したらこれは大事だなって感じたよ」
消費MPを無視するなら別に気にしなくて良いんだろうけど。
「まぁまず、魔法を作るに至った経緯からだな」
そこから蔦をゴブリンに使った話までした。
「──でだな、魔法を作ろうと思ったんだ。イメージは出来てたから後は名前だけだった」
「初めは名前を『ソーンバインド』にしたんだ。するとどうなったと思う?」
クイズ形式で行ってみるか。
「う〜ん。拘束に特化して、棘が弱かったとか?」
残念、違います。そもそも使っていません。
ごめんな、前提を話していなくて。
「違うな。答えは『魔力切れになった』だな」
「魔力切れ? どうして? もしかして作るのに大量のMPがいるとか? それなら私、魔法作れないや......」
「少し違うぞ。魔法を作った時、確かに少しMPが減ったが本当に少しだ。そしてそれと同時に、その作った魔法が発動するんだが、その時に切れたんだ」
「さて、ここで問題だ。俺の最大MPは520。この時、『ソーンバインド』に持っていかれたMPは幾つでしょ〜うか? ちなみにキリがいい数字だ」
ソルは20秒ほど考えてから、答えた。
「確か、事前に蔦を使って30減って居たんだよね? それならその時のMPを490として、魔法作成に90、魔法発動に400とかかな? 400ならキリがいいし」
マジか。
「正解だ! すごいぞソル!」
ソルの頭をわっしゃわっしゃと撫でた。
素晴らしい、良くこのクソみたいな問題で正解を導いたな。
「えへへ〜ありがとう!」
「うんうん。それでな、次はかなり重要な事だ。ソルは魔力切れになった事はあるか?」
「なったこと無いね」
「そうか。なら絶対に魔力切れにならない方が良いかもな。メチャクチャしんどいぞ。MPの説明には『目眩や倦怠感を引き起こす』って書いてあるが、度合いがやべぇ。フラッフラになるぞ」
それからMPポーションの話や自然回復の話、後は出てきた魔法陣の予想や音について話した。
「――それで、名前を『茨よ』にしたら『カチッ』となってな。消費MP50の茨ちゃんが出来たんだ」
「なるほど。名前だけでそんなに変わるんだね」
「あぁ。だからソルも魔法を作るなら音を目安に気にしてみてくれ」
「うん! 分かった! ありがとう! ......それで、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
なんだろう。答えられることなら何でも答えるぞ。
「いいぞ。どうしたんだ?」
「あのね、『聖属性』がそもそもどんな属性なのか、分からないの」
それから光は含まれるのか、とか。聖属性で攻撃する方法は無いんじゃないか、とか。色々話した。
「そっか、それもそうだね」
「ってかさ、聖属性ってバフが掛けられるんじゃ無いのか? 今使ってるの、3つだけだろ? 確かバフは無いとのことだし......」
「確かに! 私、回復やバフを掛けるって言ったのに、バフの魔法が使えない!」
「なら作ろう。本来なら誰かから教えてもらうことも出来るんだろうが、作るのも面白いだろう」
そうしてソルはバフの魔法を作ることになった。
俺の中のバフのイメージは、STRのバフなら『体に魔力を纏わせる』イメージだな。魔力が何なのかは知らんが、それでも行けると思う。
「......よし、イメージできた。名前はどうしよう」
名前は大事だ。それだけで消費MPが8倍になったりするからな。
「決めた。『テクニカルアップ』!」
そう唱えるとソルの前に黄色の魔法陣が出てきた。
「さぁ、どうなるかな?」
「ドキドキだね!」
1つ目、『カチッ』
2つ目、『カチッ』
3つ目、『カチッ』
そして4つ目、『カチッ』
「名前だな」
「うん!」
最後に5つ目、『カチッ』
「やった!! やったよルナ君!」
「あぁ! おめでとうソル!」
そうしてソルはDEXを強化する魔法、 『聖属性』『テクニカルアップ』の魔法を作った。
「それ、消費MPはどれくらいなんだ?」
「えっとね、掛ける時間で変わるみたい。1分で10MPだって。上昇値は1.2倍」
ヤバいな。ソルが自身に使ったらとんでもねぇDEXになる。
「すげぇなそれ。生産の時や弓での狩りで大活躍だな」
「そうだね! まぁでも、獣人補正でMPと威力半分だし、あんまりかな」
「補正を忘れてた。って事はこのバフはデバフになるのか?」
もし、そうだったら不味すぎるだろ。
「いや、違うみたいだね。(獣人補正時1.1倍)って書いてあるよ」
「良かった。まぁ、それでも1.1倍は高いな」
なんせ100が110に、1,000が1,100になるんだぞ。
「そうだね! 私が自身に使ったら3,100とちょっとのDEXになるもん」
うっわぁ。
もう、『うっわぁ』だよ。
高すぎるだろ3,000て。俺の約7倍じゃん。そんなんで弓使ったらマジで銃になるんじゃね?
「これからもSPはDEXに振るのか?」
興味本意で聞いてみた。
「うん! レベルアップでも増えるし、SPもガッツリ振るよ!」
あぁ......もう弓だとソルが最強だろ。他のプレイヤーを知らないから、なんとも言えんが。
「頑張れ。というかそのSPなら弓が壊れる事もあるんじゃないか? 『その弓では弱すぎます』って感じでな。ははっ!」
冗談めかして言った。
「それね、気になってたんだ。私の予想だと多分、本当に壊れるよ。弓術レベルのおかげで今日の狩りは大丈夫だけど、このままメンテナンスせずに明日も使ったら壊れるね」
マジかよ!!
「マジか。そうなると俺のアイアンソード君も心配だな」
「ふふ、大丈夫だよ。私はSPや獣人の補正で高くなってるからこうなってるけど、ルナ君のステータスなら大丈夫だよ」
ディスりとも取れるが、ソルはそんなこと言わないからな。多分。ただアドバイスを貰ったと捉えよう。
「そうだな。俺が残りSPを全部STRに振ったりしない限りは大丈夫だろう」
フラグじゃないぞ。間違ってもそんな事はしない。
「それ、フラグじゃない?」
「ちがーう! フラグではない! それにな、フェルさんに命をかけてこの剣を守ると言ったんだ。それを『あ、俺のステータスに耐えられませんでした。てへぺろ』とか言えねぇよ!!」
「ふふっ! そうだね! じゃあ、狩りに戻ろっか? 夜はどうする? どれくらいに集まる?」
切り替えが早いなぁ。
「......そうだな、24時くらいでいいんじゃないか?」
「分かった! なら、それくらいにメッセージを送るね!」
「あぁ。それじゃ、頑張ろう!」
「おー!」
お昼の報告が終わり、俺達は狩りに戻った。
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―なるほど......だから――はあんなに............
――と――の邂逅は近い―
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少し関係ない話をしますが、掲示板のコテハン考えていたら、力作が生まれまして。掲示板3か4辺りで出せたらなと思います。
次回、午後の狩りですね。
ゴブリン、いや、トレントやオークも、君達はどれだけ倒されるんですかね?




