9割の罪悪感
サイッ!ハッ!
「俺に勝ちたいって、どういう事ですか?」
「そのままの意味よ。私、FSでアルテミスに勝った事が無いもの。これでも世界1位よ?ランキングに載ってる人間には、1度は勝ちたいと思ってるのよ」
ちょっと言ってる意味が分からない。俺、Rinkaと戦った経験は無いはずだが......。
「私のメモにはね、倒したランカーの名前が沢山書かれてるの。2位の『coward』も、3位の『3Shine』も、上位のプレイヤーは殆ど載っているの」
「は、はぁ」
「でもね。貴方の名前だけ無いのよ。『アルテミス』。このたった5文字を書く為に、私は何度も何度も貴方に挑んだわ」
「挑んだって......それ、俺負けてるでしょう?」
世界ランキングって、数字だけ見れば1位と2位の差は1つしかないが、実際の経験や動き、練習時間などを含めると、1位と2位の間に、10位から100位までの実力差があるんだ。
それを知っているが故に俺は言う。
「Rinkaさんには勝てません。貴女の方が強いですから」
俺がそう言うと、リンカは拳を握りしめ、プルプルと震え出した。
「じゃあ......じゃあどうして!私は貴方に負けているのよ!!これまでに貴方と戦った回数は32回。その全てが貴方に殺されているわ!
ある時はワイヤーで誘導され、ある時はエイム勝負で負け、ある時は戦闘中のパーティの間にぶち込まれた!それなのに、それなのに......どうして貴方は私に強いって言うの!?」
「貴女と戦った記憶が無いからです。Rinkaさん。貴女は本当に『Rinka』という名前でやってましたか?」
これでも元はランカーな者でな。自分より上の人の名前を見逃すとは思えんのだ。
FSのバトルロイヤルのキルログはとても見やすい。
枠取りもフォントも見やすいから、例え戦闘中でもログに映る名前は目に入るんだ。
そしてそんなキルログの中に、俺は『Rinka』の文字を見た回数は圧倒的に少ない。
それこそ、32回も見ていない。3回くらいだ。
「お姉ちゃん、サブ垢使ってたよね」
「う......うん」
「そんなの、ルナさんに......アルテミスさんに伝わる訳ないよね?」
「......うん」
「それなのに、1位ともあろうお姉ちゃんが6位の人に当たり散らすの?」
「ご、ごめん。ちょっと頭冷やす」
リンカはそう言って、ボス部屋の壁に手を突いて考え始めた。
「あの、ルナさん」
「はい」
「その......これからも、私達と遊んでくれませんか?」
「え?」
嘘だろ?何でミアは俺とまた遊ぼうと、そう思えるんだ?
「下衆な話をするならば、私はルナさんとの繋がりが欲しいんです。困った時に聞ける相手と言うか、強い人と知り合いになりたいな......と」
「あの、嫌じゃないんですか?女の子に変装してた男と一緒にやるのって......キモイとか思わないので?」
「そりゃあ最初はビックリしましたよ?でもまぁ、キモイとか言うより、強さに納得した面が大きかったですね」
や、優しい。というか、ミアってこんなに喋る人だったのか。知らなかった。
『お兄さん、どうするの?青い子とまた遊ぶの?』
まぁ、折角知り合えたFSランカーだし、仲良くはしたい。
「えっと......宜しくお願いします」
「こちらこそ」
9割の申し訳なさと1割の感謝をこめて、俺はミアと握手をした。
そして改めて挨拶をしようと思っていると、リンカが帰ってきた。
「ルナ。私と決闘してくれないかしら。ステータスとかスキルは固定にして。どう?」
まぁそうですよね。元々俺目当てだったみたいだし。
よし、どうせだから色々と話してみよう。
「いいですよ。リンカさんが勝ったら、何を求めます?折角の決闘なんですから、何か賭けません?」
「え?......そうねぇ。ここで勝ったら、FSでも私と勝負してくれるかしら?勿論、1v1よ」
げっ、マジか。俺、強い人と1対1で戦うのは好きじゃないんだよな。
読み合い技術を鍛えるには良いのだが、勝負として活用するのは俺に向かない。
「本当にそれだけでいいですか?ユアストでの事じゃなくて」
「そうだよお姉ちゃん。勿体ないよ?」
「別にいいわ。最初からルナを倒すのが目的だったし」
う〜ん、決意が固そうだ。それに多分、俺に勝ったらリンカさんはこのゲームを辞めそうだ。
俺としてはちゃんと楽しんでもらいたいし、何か良い案を出そう。
「そうですか......では、俺が勝ったら2人とも、俺のギルドに入ってください。ミアさんも巻き込みます」
「え......」
「私がギルドに入って何か得はあるの?」
「えぇ、24日から始まるギルド戦での人数が増えます。
今のところメンバーが俺含めて2人しか居ないので、メンバー勧誘ですね」
「そう」
「はい。それと逆に聞きますが、俺がリンカさんFSで戦ったところで何か得はありますか?」
「......無いわね。ただの自己満足よ」
でしょうね。メモの話から大体は察していた。ただの戦闘狂だと。
さて、どうしたものか。決闘をするにしても話し合うにしても、まずはダンジョンから出ないと。
「決闘はインフィル草原でやりましょう。宝箱を開けて、あっちの魔法陣から外に出ましょうか」
「分かりました」
「分かった」
俺が提案すると2人は直ぐに頷き、行動に出てくれた。
『なんかサッパリしてるね!』
「あの2人は特に、な。国や世界で戦っていた人間だから、指示には直ぐに答えるんだよ。迅速な行動をしないと簡単に負けるからな」
『へぇ〜、でもなんであの2人をギルドに?』
「上手い上に強いからだ。ミアもリンカも、同レベルの人間と戦ったら絶対に負けないと思うぞ。それぐらいには強い」
『まぁ、それは見てたら分かるけど......男の人は誘うの?ハーレム作るの?』
「作る意味ねぇよ。男も勿論誘う。アテナとか翔とか、アイツらはまだ未所属だったはずだから誘うぞ」
『おぉ〜!人が増えたらお城が賑やかになるね!』
「そうだな」
マサキはギルド作ってたはずだし、誘えるのはニヒルのメンバーくらいか。そうなると、ヴェルテクスの殆どのプレイヤーがFS経験者となるな。
世界最高峰のFPSゲーの、それもランカーが集まるとは......FSで出会ったら泣いちゃうぞ。
◇◇
「ルールは私が決めていいかしら?」
「どうぞ」
「お姉ちゃん。ちゃんと負けてね」
「嫌よ!勝つ為にここに来てるんだから!」
ダンジョンを出てから少し話したのだが、どうやらミアはギルド加入に積極的なようだ。
別に俺が負けたところで、ミアは別に誘えばいいので、ここでリンカの敗北を祈る程の事ではないのだがな。
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
『リンカ』から決闘申請が届きました。
<ルール>
・相手のHPを1にした者の勝利
<制限>
・第1種族『人間』のレベル30のステータス制限
・全称号効果の無効化
・全装備品の付与効果、及び特殊技の無効化
・魔法の使用不可
・使用可能武器は2つまで
・全スキルレベルを1に固定
・HPが0にならない
申請を受諾しますか?『はい』『いいえ』
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
「これでいいわよね?」
「いいんじゃないですか?殆どプレイヤースキルの勝負になりますし」
「じゃ、早速やりましょ」
「分かりました」
使用可能武器に関しては......セレナとシリカでいいかな。
レベル30ならHPは確か......400か?それならセレナで一撃で倒せるだろう。
ただ、必中効果も無しに矢を当てられるかは分からない。
スキルレベルの補正も無いし、十中八九外すだろうな。
そう考えると、布都御魂剣とクトネシリカの方が良い気がしてきた。こっちなら、俺の経験がフルに活かせるだろうし。
うん、そっちの方が楽しいだろう。
「来い、フー」
『は〜い......って決闘ですか。何したんです?』
『安心して!ただの勧誘だよ!お兄さんが勝ったらあの2人がギルドに入るから、その為にフー姉ちゃんは呼ばれんだよ!』
『あ、そうなんですか。説明ありがとうございます』
俺はいつものように腰の左側に布都御魂剣を、右側にクトネシリカを差した。今着ている服も和服だし、見てくれは様になっているんじゃないか?
「二刀流?」
「そうですよ。手数って大事ですからね」
「そうね。高レートの武器の方が、近接戦はやりやすいものね」
全くだ。それだからアテナはサブマシンガン大好きっ子になったんだぞ。
「私も言っておくわ。剣と弓よ」
「そうですか」
別に相手の武器を聞いたところで、実物を見ていないのに信用する訳が無い。俺が予想するに、レンカは剣と糸だろう。
俺の背後に糸を設置して、罠として使うんだろう。多分。
「じゃあ、私が開始の合図を出しますね」
「お願い、ミア」
「お願いします」
「はい。では、構え!」
リンカは右手で剣を持ち、左脚を前に出した。これは見え見えのブラフだな。初手で決めにくるのだろう。
対する俺は布都御魂剣の鯉口を切った。スキルレベルを超えた、プレイヤースキルで勝負しようじゃないか。
「始め!」
ミア、急変。
次回『畑違いの挑戦者』お楽しみに!