テスカであってテスカでない
『ブモォォォ!!』
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『イビルオーク』との戦闘を開始します。
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「遂に来たッ──ボス戦!」
「『ファイアボール』『ウィンドスラッシュ』」
あれから殆ど俺は喋らず、ボス戦まで来てしまった。
俺がテスカであってテスカでない事はバレていないが、テスカであって初心者ではない事がバレているんだ。
少なからず、この2人は俺に対し何かしらの疑問点は持っているだろう。
『ブモッ!!』
イビルオークが右手に持つ大きな棍棒を振り上げると、取り巻きの30体のオークが一気に動き出した。
「ヤッバ!ミア、壁出して!」
「『ファイアウォール』!ごめん、次でMP切れる」
「嘘!?くっ、しょうがない。私も魔法を......『ブモッ!』きゃあ!」
リンカがオークに殴られながらも魔法を使って攻撃していると、俺の所にも取り巻きの内の2体がやって来た。
『『ブーッ!モッ!』』
武器も構えずに棒立ちで居る俺に、オークは2体で同時に俺を棍棒で叩き付けた。
「痛い。お前達は連携を取るんだな。知らなかったよ」
俺は頭から少しだけ血のポリゴンを飛ばしながら、オークの連携に感心した。
「シリカ」
『どしたの〜?シリカを呼ぶ程ピンチって訳じゃなさそうだけど』
「ピンチだよ。俺、嘘つきたくなくなったから」
『......バラすの?』
「まぁ、それもアリかなって思い始めてきた」
今のオーク達、突然取り出した刀に耳を当てて話し始めるを俺を見て何を思っているのだろう。異常者かな。獲物かな。サンドバッグかな。
あ、また殴り始めてきた。痛い。
『う〜ん、シリカ、別にお兄さんである事は言わなくていいと思うけど』
「その心は?」
『だって、お兄さんの変態趣味がバレたら嫌でしょ?』
「別に趣味じゃないし。ただ女の子の体も動いていて楽しいって思ってるだけだし」
『それを趣味と言うんだよ?それも、ド変態の』
「テスカは酷く傷付いた。仲間に罵られ、オークに襲われ、きっと、女の子として悲しい目に逢うのでしょう......」
『どゆこと?』
「なんでもない」
シリカとコソコソ雑談している最中も俺はオークに殴られ、遂にオークの持つ棍棒にヒビの入るエフェクトが付いた。
『ブモォ!』
バキィ!!
「あ〜あ、壊れちゃったね。どうする?殴る?」
俺はオークに挑発すると、棍棒を失ったオークは走ってイビルオークの方へ向かって行った。
「おやびんに報告か。些か遅すぎる判断だ。まぁ、初心者向けダンジョンだしこんなもんか?」
最近のダンジョンは罪の宴だからな。フェンリルが雑魚モンスター扱いされるあのダンジョンに比べるのは、お門違いと言えるかな。
『ブモォォォォォ!!!!』
突如、俺達とは反対側に居るイビルオークが大きく吠えると、取り巻きオークが一気にイビルオークの方へ集まって行った。
「何?大技?」
「さぁ。テスカは......え?」
「どうしたのミ......ア......ッ!」
俺と少し離れた位置に居るリンカ達が俺を見ると、2人は両目が飛んで行きそうな程に大きく見開いた。
「あ、反転効果消された」
『お兄さんの変態趣味、フルオープンだね』
「辞めてくれる?浴衣も渋いのに変えたんだから、別に変態要素は見えないだろう?」
『テスカちゃんを知らない子は、だけどね』
耳が痛い話だ。お兄さん、耳鼻科に行かなきゃ。
「ル、ルナ?」
「そうですよ」
「え、え?」
「オークに変身解かれちゃいまして......えっと、すみませんでした」
まだ状況が飲み込めていない2人を見ながら、俺は頭を下げた。いや、土下座した。
「騙していて、本当にすみませんでした。言い訳をするならば、本来はリルと『ブモォォォォォォォ!!!!!』......倒してから話します」
「「え?」」
イビルオークの鳴き声に俺は立ち上がり、シリカを太刀に変化させた。
『お兄さん、今日だけでこの2人の人生3回分くらいのオドロキを与えたんじゃない?』
「『魔刀術:紫電涙纏』まぁ、その分俺は2人からの評価が落ちるだろうな」
『そりゃあ、それだけの事はしてるもんね』
「あぁ。『霹』」
技を唱えてから鯉口を切ると、刀全体に青白い稲妻が走った。
そして俺は鞘を水平にして真っ直ぐに刃を抜くと、HPを7割程度減らし、取り巻きを含む全てのオークを真っ二つにした。
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『イビルオーク』を討伐しました。
『オーク』×22討伐しました。
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「痛ぇなぁ、これ」
『これでも威力は抑えたんだけどね。お兄さんは力の入れ方が上手すぎて、逆に体に負担が掛かってるんじゃない?』
「分からないな。その辺は1度、フーに稽古を付けてもらうとしよう」
『フー姉ちゃん、喜ぶと思うな〜』
おっと、そんな事を話してる場合じゃない。リンカ達への謝罪をせねば。
俺は2人へ向き直り、頭を真っ直ぐに下げた。
「リンカさん。ミアさん。ごめんなさい」
「「........................」」
やっぱり、ダメだよなぁ。息をするように嘘をついてたし、そんな人間の謝罪なんて、受け取る価値も無いよなぁ。
はぁ......。
「あの、ルナ......さん?」
「呼び捨てでいいですよ、ミアさん」
「い、いえ。FSでもユアストでも、尊敬してるので......」
終わりました。俺は1人の人間として終わりました。
これが嘘をつくと言うこと。1人の人間として死ぬという事だ。ごめんなミア。イメージ、大きく崩したよな。
「その、上手く飲み込めていないんですが......本物ですか?」
「はい。ステータス全部出すので、それで確かめてください。俺の口から言っても、多分信じて貰えないでしょうし......」
潔くステータスを全て開示した。
俺は嘘をついても、ステータスは嘘をつかないからな。
「「よ、よんひゃく......」」
2人の表情は、驚きよりも納得の色が強かった。
『お兄さん、これからどうするの?』
「どうしようもない。傷心旅行にでも行く」
『どこに?』
「神界」
『稲荷ちゃんか。まぁ、それも良いんじゃない?』
つらい。今の俺、あの時のいじめっ子と同じ状況なんじゃなかろうか。人を騙し、傷付け......クソみたいだな。
それも冗談混じりの嘘じゃなく、人の印象を大きく変えるような嘘だったからな。
余計にタチが悪い。
「ルナ。ちょっといいかしら?」
「はい」
「どうしてテスカちゃんに変身?していたの?」
「イニティに行く時は、面倒事を避ける為に変装していたんです。ロークスだとPKや暴言厨が怖いので」
「暴言......どこにでも居るものね。ああ言うの」
リンカも経験あるか。だからこの気持ちも......いや、それは言い訳だな。共感と納得は別物だ。
「まぁ、そこは理解したわ。じゃあ、何で初心者だって嘘をついたの?」
「軽い気持ちですね。テスカでの活動はしていませんでしたし、あの時に冒険者登録したばかりだったので、軽はずみに初心者と言いました」
「......そう。私の目的に気付いてた訳じゃないのね?」
「目的?」
俺は思わず顔を上げて聞いてしまった。リンカの目的なんて、俺は全く知らないからな。
「本当に知らなさそうね。私の目的はルナ、貴方よ。貴方に勝ちたいと思って、このゲームを始めたの」
イビルオークの攻撃の1つに、『プレイヤーの全ての効果を解除する』というものがあり、それで笛の効果が切れちゃいました。
次回『9割の罪悪感』楽しんでください!