実力確認!(後編)
「構え!」
リルの合図でミアは杖を構え、俺は何も持たずにリラックスした。
「始め!」
「『ウォーターボール』!」
どうしたものか。リルに剣を使えと言われているが、本当に剣を使って良いものなのだろうか。
ま、いっか。手加減スキルに命を賭けて、接戦を演じよう。
俺はウォーターボールが着弾する瞬間にアイアンソードを出し、ギリギリで被弾を回避した。
「おっと」
「『ファイアボール』『ウィンドアロー』」
衝撃で剣を弾き飛ばされた瞬間、ミアは2つの魔法で俺を追い詰めた。
しかも上手いことに、ファイアボールの後ろにウィンドアローを飛ばし、俺からはファイアボールしか見えないようにしている。
でも残念ながらサーチ君には全て筒抜けだ。対処しよう。
「よっ、はっ!」
俺は予備のアイアンソードでファイアボールを弾き、続くウィンドアローが俺に当たる前に予備の予備であるアイアンソードで防いだ。
「嘘......」
「剣は盾にもなるんですよ。じっちゃんが言ってました」
「はい?」
さぁ、そろそろ攻撃に転じよう。リルの言っていたように糸を使って、ギリギリで攻撃が当たった演出で終わらせるか。
俺は裁縫用の糸を左手に巻き付け、先端を俺の体の後ろから伸ばし、地面を這うようにして操作する。
そして右手には弓を出し、糸を巻き付けた左手で矢を番えた。
「よいしょっ!」
バシュン!
俺はミアの『頭の少し上』を通るように矢を放った。
ミアさんとの距離はそこそこ遠いので、矢がヒットするまでに1つは魔法を使うだろう。
「んっ、『ファイアウォール』!」
ミアさんが呪文を唱えると俺の矢は炎に飲み込まれて焼失し、炎の壁が消えた瞬間に裁縫用の糸が足元に辿り着いた。
プスッ!
糸の先端を足に刺し、1ダメージを与えた。
「勝ちました!」
「え?」
「そこまで!勝者、テスカちゃん!」
俺は周囲に散らばる剣を片付けてから、ミアに種明かしをする。
「ねぇ、私は一撃貰ってないんだけど」
「当てましたよ?足を見て下さい。小さな穴があるでしょう?」
「え?......うわ、ホントだ。いつの間に?」
ミアの右足の外側、踝の少し上辺りに、小さな小さな穴が空いていた。その穴からは極小サイズの血のポリゴンが滴っている。
「弓を取り出す前から糸を伸ばしていましたよね。その上、あの矢は完全に当てる気がありませんでしたよね?テスカちゃん」
「そうだね。リルは目が良いね!」
「えへへ〜」
近寄ってきたリルの頭を撫で、左手の糸をミアとリンカに見せ付けてから仕舞った。
「まぁ、一撃当てるくらいならどんなにセコくてもどんなに小さくても、勝利は勝利です。頑張りました」
「ねぇテスカ」
「はい何でしょう」
「貴女、Fire Shootってゲーム知らない?」
ヒィィィィ!!!この青髪女、気付きやがったのか!?
「知りません......と言えば嘘になりますね。配信を見るくらいはします」
「......そう。私的に今の糸、ワイヤートラップに感じたのだけれど......」
おいおいミアさん。アンタ思い込みが激しいぜよ。そんな事言ったら世の糸使いは全員FS経験者って事になっちまうぜ?
「それは思い込みよ、ミア。第一、テスカちゃんがFS経験者で何になるって言うの?」
「何にもならないね。テスカ、さっきのは忘れて」
「あ、はい」
ナイスアシストだリンカ。世間は狭いと言うが、本当に狭いみたいだからな。そういう小さな助けが、テスカトリポカの正体を遠ざけてくれるんだよ。
「では、ギルドで依頼完了の報告をしてから帰りましょうか」
やはり今日のリルは先頭に立つスタイルだな。頼りがいがある。
「そうしましょうか。テスカちゃん達は明日もやるの?」
「そうですね。少しだけレベルを上げてから、ダンジョンにでも行こうかと思っています」
ちゃんとした戦闘をしに......ね?
「あら、それなら私達も一緒に行っていい?」
終わった。テスカの体でダンジョン攻略は99パー無理だ。それこそ、メルでも連れて来ない限りはボス前で死ぬだろう。
いや、多分死なないけど。俺とリルだけ生き残ると思うけど。
「あ〜......リ、リルはどう思う?」
「私、明日は母様と遊ぶ約束をしているので参加出来ません」
終わった。【テスカ・オブ・ジ・エンドの死】だわ。
「ね、テスカちゃん。明日もやろ?」
「......は、はい」
「お姉ちゃん。めちゃくちゃ嫌そうだけど」
「い、嫌なの?」
嫌です。俺は『ノー』を言える人間だ。陽菜の猛烈な誘惑に全て『ノー』で返した人間だぞ。
そんな俺が、この程度の誘いくら「嫌じゃないです。明日もやりましょうか」
バーーーーーカ!!!!!
「ほらね?じゃあ、ギルドで別れましょうか。明日の朝、チャット送るから」
「ハ、ハイ......」
そうして俺がしょんぼりした顔で歩いていると、リルは無言で頭を撫でてくれた。
俺、もうイニティで活動したくない......自分の行動がアホすぎて笑えんのだ。うぅ......
あのSTRで弾かれるっておかしくね?って思った方、大丈夫です。
ルナ君がミアさんの魔法を防いだ時、ルナ君は魔纏を使っていない(使えない)ので魔法の方が強力なんですよ。
というか、魔法攻撃を物理で受ける事自体、中々おかしいですからね。本来は盾の役割ですから。
では次回、『第1回ギルド戦 〜星塔の輝石〜』お楽しみに!