実力確認!(前編)
◇ルナ(テスカ)side◇
「では、リンカさんとリルの決闘を始めますね〜。ルールは単純、どちらかが先に攻撃を当てた方の勝ちです。一本勝負なので、気を引き締めて頑張って下さい」
ちょっとした遊びでリルとの勝負を持ち掛けたら、口を開ける鯉よりも素早く食い付いたリンカ。
それに対し、ずっと俺に『なにやってんの?』って目線を送り続けるリル。
そして試合を観戦する気のミア。
最後に、聖属性の秘訣って何を教えればいいのか待ったか分からない俺ことテスカ。
インフィル草原に、ちょっとした地獄が出来ていた。
「じゃあ、構え。始め!」
俺の合図でリンカは直ぐに飛び出し、リルに剣を振り下ろした。
コイツ、リルを斬る事に一切の躊躇が無ぇ。
だが相対するリルは体をズラして避け、続く薙ぎ払いや突きも完璧に躱した。
「すご」
「でしょう?リルはすっごく強いんですよ〜」
杖を両手で持つ、空を映した様な髪のミアさんも、リルの戦闘スキルに驚いてくれた。
なんと言っても、レベルの差が酷すぎるからな。こちらは隠しているので自称レベル15だが、実際はリルが259、俺は442。
初心者と嘘をつくのも大概にしろと、そう言いたくなる程の差があった。
「ねぇ」
「なんですか?」
リルがギリギリで避け続ける姿を見ながら、ミアさんが声をかけてきた。
「テスカもリルみたいに動けるの?」
「無理ですね。リルの足を見れば分かると思いますが、リルは戦闘でリズムを持っていないんですよ」
「リズム?」
「はい。なんと言いましょうか......そう、順応型とでも言いますか、リルはある程度の戦闘では、誰に何を言われなくても対処出来るんですよ」
「それは......凄いの?」
「さぁ?まぁ、私よりは戦いやすいと思いますよ?リンカさんは」
「どういう事?」
「言葉のままですよ」
俺の戦闘スタイルは相手のリズムを乱しに行く事が多い。
例えば、武術大会魔法部門での一撃で終わった試合。アレなんかは、特にリズムの乱し方が分かりやすい。
大声を出して注目を集める。それだけで相手のリズムは大きく乱れるからな。
「さぁ、そろそろ終わりですね。ミアさんは何か知りたい事とかありますか?」
「いや、テスカが何を知ってるか知らないから、分からない」
「まぁそうですね。今のは聞かなかった事にして下さい」
「......まぁ、いいけど」
掴みどころのない人だ。フレンドリーでも無ければ拒絶する訳でもない。いや、俺は拒絶されてるかもしれんが。
「はぁ!」
「ツクヨミさん」
「しまっ」
リンカさんの大振り攻撃の後、リルはツクヨミさんを右手に顕現させてから優しく切った。
「はい、試合終了です。今の試合を録画してたのですが、データ要ります?」
「はぁ......はぁ......な、なんで?」
「なんでって、強くなった時に見返したりしませんか?『あ〜、この頃の自分はこんな動きだったんだ〜』って、振り返りません?」
「そ、そうね。じゃあ貰えるかしら?」
「はい」
俺は配慮上手なイブキをリスペクトして、ちゃんと試合映像を録画しておいた。
別にリンカに渡す為だけに録画した訳じゃない。今後、リンカと敵対した時に少しでも有利に動けるよう、俺の勉強の為に録画しておいたのだ。
我ながら腹黒い。真っ黒ルナ君だ。あ、テスカちゃんだ。
「では魔法の秘訣はまたの機会に、という事で──」
「テスカちゃん?次も私にリンカさんの相手をさせる気ですか?」
おっと、締めようと思っていたらリルから抗議の声が上がった。
「今日はテスカちゃんの為に外に出たのに、どうして私に戦わせるのですか?」
「えっ、いや、別に?」
「何が『別に?』ですか!テスカちゃんの運動の為にも、魔法ばっかり使ってないで剣で戦ってください!」
「......い、嫌」
「へぇ〜?そういう態度を取りますか。では母様に言い付けます。『テスカちゃんは何もしませんでした』と」
「ま、待って!それはやめて!」
リルにボコボコに言い負かされていると、横から2人が話しかけてきた。
「母様って、もしかしてお嬢様なの?」
「初めて見たかも、リアルお嬢様」
「い、いや。そう言う訳じゃなくて......」
不味い。元々城暮らしだったからリルはお嬢様と言うよりお姫様だ。それにアルスやイブキからはお嬢様然とした態度を取られてるし、割と本気で否定出来ない。
「テスカちゃん。良い機会ですし私と勝負しましょう」
「ダメだよ。リルとは勝負にならないよ」
「おお、勝つ気満々ですね!」
「違う!負けるって言ってるの!」
こんな所でリルと本気で勝負してみろ。一瞬で掲示板に載せられるぞ。
頼むから辞めてくれ......俺ののんびりライフを返してくれ......!
「じゃあテスカ。私とやる?」
「え?殺る?嫌ですPKにはなりたくないです」
ミアが俺の肩を叩いて聞いてきた。怖いです。
「そうじゃなくて、戦わざるを得ないなら私が相手になるよ?テスカの実力も知れるし、私的にはそっちの方が良いんだけど」
「いやそもそも戦わざるを得ない状況ってのが......はぁ」
ダメだ、リルが睨んでる。ちゃんと体を動かせと、そう言いたげな顔だ。
「仕方ないですね。ルールはさっきと同じでやりますか。リル、それで満足する?」
「はい!美しい勝利を期待しますね!」
「無様な敗北を掴み取ってあげるね」
「ふふっ、母様の前でもそんな事が出来ますか?」
「......くっ、分かったよ」
テスカの状態だとリルに負ける。何故かリルの方が大きく感じて、どうしても俺が小さくなっちゃうんだよな。
全く、可愛いお姉ちゃんは怖いもんだ。
「ミアさん、やりましょうか」
「うん」
そうして、特に意味の無いミアとの手合わせが始まった。
10章、全部綺麗にしてきました。後は9章から遡って修正していきます。
次回は後編です。では。