魔王城に囚われの勇者より
初めて使うやり方で表現してみました。
田→田中正樹
山→山本守
早→早川雫
◇正樹side◇
月斗の家に泊まりに来た俺は、手伝う事も出来ないので守や早川に現状報告をしていた。
田『こちら、魔王城に潜入中の勇者。現在魔王とその妻がイチャついています』
山『邪魔をしたら命は無いと思え』
早『命惜しくば実況しろ』
田『今魔王は妻とハンバーグ作りを交代した模様です。妻が『腕疲れた』と言っていました』
田『あ、何かごく普通に『子供何人欲しい?』って話をし始めました。あっ、あっ、純粋な勇者には刺激が強いです!至急援護を!!!』
山『卍x灰になれ勇者x卍』
早『で、魔王はなんと?』
田『女の子が2人、と。多分リルちゃんとメルちゃんじゃねぇかなぁ』
山・早『あ〜』
田『あ、妻が戻るようです......ッ!!!!』
山『どうした勇者1号!』
田『今ッ......交代する瞬間......キス......を............』
早『勇者1号、ここに眠る』
田『実況辞めるわ。お泊まり楽しみます』
山『成仏してクレメンス』
早『乙。明日の報告を楽しみにしてる』
「あ〜、俺も彼女作ろうかなぁ」
あの2人を見ていると、恋人と過ごす生活が凄くキラキラして見える。
特に月斗は自分のコントロールが上手く、鈴原との距離の保ち方、近付け方が綺麗だから、より楽しそうに見える。
あんな風に、完璧に『好き』でいられる距離を維持出来るなんて、どうやっているんだろう。
「よ〜し、仕事終わり〜。風呂入れてくるわ〜」
「お、おう」
料理が終わった月斗が、今度は風呂を入れに行った。
流れる様に動くから、一瞬だけスルーしかけたぞ。
「ねぇ田中君」
「何だ? 鈴原」
次は鈴原から声がかかった。俺は気を遣われているのか?
「次に月斗君が戻って来たら、なんて言うか当ててみない?」
「う〜ん......そうだなぁ。普通に『ただいま』って言うと思うが」
「そっか。私はね、『一番風呂はお前が入れ』って田中君に言うと思うよ」
「何故?......って、優しいからか」
俺とした事が、月斗の野郎の器のデカさを見誤っていたな。
「違うよ。多分、今日も私がお風呂に突撃する事を読んでる。だから最初に田中君を入れるんだと思う」
「......」
誰か教えてくれ。これはなんて答えればいいんだ?
『そっか〜』で済ませていい事なのか? ダメだよな?
明らかに『ヤベェ瞬間』を起こす宣言をされた様なものだよな?
守、早川......俺は今、魔王城に囚われている。助けてくれ。
「まぁ、当たってるかは後で聞いてみよう」
「......だな」
俺、別に聞きたくない。逆に聞いた事で風呂に入りづらくなる。
くっ! これが魔王城で行われる拷問か! 卑劣だ!
そして数分が計画すると、廊下の方から足音が聞こえてきた。月斗だ。
「正樹、一番風呂はお前が入れ」
「えぇぇぇ!!!」
「やった!」
「ん? どうしたんだ2人とも」
嘘だろ。マジで鈴原の言った事が当たった......。
「ねぇ月斗君。どうして田中君を最初に入れるの?」
「どうしてって、どうせ今日も陽菜が俺の入浴中に入る気だろう? それなら最初に正樹を入れた方が、正樹の気が楽ってもんだろ」
「......」
「あはは、バレちゃってたか〜」
なんだコイツ。何あたかも『恋人と一緒に風呂に入る』事が前提で動いていんだ。おかしいだろ。
「なぁ月斗。普通、恋人でも一緒に風呂に入るのは嫌じゃないのか? こう、1人の時間的な、さ」
俺は堪らず聞いた。ここでの答えが、月斗の鈴原に対する気持ちが分かる。
すると月斗は俺の対面に座ってから、鈴原の方を見ながら答えた。
「嫌じゃない。嫌じゃない......が、正直水着は来て欲しいと思うな。裸だとほら......見えすぎるんだよ」
なんだコイツ。邪念を一切感じないんだが。人間か?
普通は『超嬉しい! 裸が見れるぜ!』とか、『邪魔。ゆっくりしたいのにゆっくり出来ない』とか、そんな意見のはずだろ!?
この2人、どこか頭のネジが飛んでいる気がする。そして余分なネジをそれぞれ1つずつ持っていて、それがお互いに飛んだ穴を埋めている。
そんなイメージがするぞ。
「え〜! 水着でお風呂はなくな〜い?」
「まぁ、ないな。温水プールとか行かないし、俺にとって風呂は全裸スタイルだし......はぁ。また精神修行の始まりか......」
疲れた顔で言うって事は、相当厳しい修行なんだろう。
「嬉しくないのか?」
「嬉しいに決まってんだろ? まぁ、嬉しいって言うより『ありがとう』って感じだがな。陽菜が心を開いているって感じがして、感謝の気持ちの方が大きい」
オイオイオイ、マジでなんだコイツ! 良い奴すぎんか?
ちょっと優しすぎんか!?
いや、優しいのか? おかしいのか? もう俺には何が何だか分からん!!
「さて正樹。空いた時間に何するか」
「どうするか、ねぇ......あ、彼女の作り方教えてくんね?」
2人を見ていたら、俺にも可愛い彼女が欲しくなった。
「すまんが分からない。俺を落としたのは陽菜だし、告白は俺からしたが......陽菜もしたしな。受け身だったんだよ」
「え〜、マジ? 鈴原からだっ......いや、この場合は違うのか」
「い〜や? 陽菜からで合ってる。俺、大阪から1人で東京に来たんだけどさ、陽菜は俺に隠れて東京に来てたんだよ」
「って事は何だ? 追いかけて来たって事か?」
「そうだな。しかも俺の家族と繋がってた。このマンションも学校も、全部陽菜に筒抜けだったぞ」
「......怖ぇ」
怖い。それだけ準備して、フラれたらどうする気だったんだ? 鈴原は。
「なぁ陽菜。あの時、もし俺にフラれてたらどうする気だったんだ?」
おいマジかよ。それ普通聞くか? 聞いちゃいけない事トップ5に入ると思うんだけど!?
「ん〜、OK貰えるまで何度もアタックしたかな。中学の頃には覚悟出来てたし、言ってしまえば背水の陣だったからね。進むしかなかったよ?」
「なるほどな。まぁ、あの時は友達とか陽菜しかいないから、断る選択はそもそも無いんだけどな」
「やった〜! 確定演出入ってたんだね!」
「人生ガチャは博打すぎンだろ。ギャンブラーだな、陽菜」
「ノンノン。確率100パーセントだからね。ギャンブルではないよ? それに、絶対に月斗君を落とせる自信は......まぁ無かったけど、想いは伝わると信じてたから」
「......そっか」
この2人が喋り出すと、謎のバリアで俺の介入が防がれるんだが。
あ〜、なんかもう、この家の壁になりたいな〜。ずっと2人の会話を聞くだけの人生送りたいな〜。
◇◇
「「「いただきます!」」」
あれから2人の会話をずっと聞いていると、晩ご飯が出てきた。家の一部と化した俺に、どうして飯が出てくるのだろうか。謎だな。
「美味い......美味いぞぉ!」
1口ハンバーグを口に入れると、肉の旨みが全身へ駆け巡る。まるで雷の様なハンバーグだ。
「うん、美味しいな。ありがとう陽菜」
「ふふっ、ありがとう。捏ねてくれてありがとね?」
「いいよ。これからも力や体力が要る作業は俺にやらせてくれ。陽菜が手を痛めずに済むようにしよう」
「うん!」
いい男だ。常に相手を想っている......そんな月斗の心が伝わる言葉だ。
あぁ、2人がこんなにも幸せそうにしていると言うのに、俺はゲームか勉強しかしていない。いや、それが学生というモノだろう。
だが、なんだ......この空間に居ると、心が浄化されていく。
俺も人間という生物として生きたいな。社会に生きたくない。
「「「ごちそうさまでした!」」」
「美味かったぜ! 鈴原、月斗!」
「それは良かった」
「ありがとね〜」
さぁ、ここからは地獄の風呂タイムだ。俺が入った後に何が起きるのかを考えないように、気を引き締めて入ろう。
あと1話、あと1話だけ出していいですかね!?
あと1話で10章を終わりにしたいんです!クッ!
次回『魔王の子どもになりたい勇者より』お楽しみに!