家具屋姫
少し長めです
「リグナさん。これ、家の代金の神器です」
「......本当に持って来おった......信じられん」
「これを付けてれば事故で怪我をしても直ぐに治りますし、作業効率もグッと上がると思いますよ」
「ありがとう。大切にさせて貰おう」
「はい!」
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『プレイヤーハウス』を入手しました。
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リグナさんに『灑桜:神木』を渡し、家の代金として支払った。
これで晴れてあの家は俺達の物となり、あの島で暮らせていけるようになった訳だ。
だが、あの家には家具が一切無いので、これからインテリアなんかも考えねばならん。
流石に俺に全てを考えるのは無理だから、フー達の力を借りつつ頑張ろう。
「リグナさん、ここに家具って売ってますか?」
「あぁ、売っておるぞ」
リグナさんに聞いてみると、様々な項目の書かれたウィンドウが表示された。
「ありがとうございます」
俺はお礼を言ってからウィンドウに目を向けた。
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【家具】
『椅子』
・長椅子 50,000L
・椅子 8,000L
・アンティークチェア 920,000L
・ロッキングチェア 200,000L
『ソファ』
・1人掛けソファ 50,000L
・2人掛けソファ 75,000L
・3人掛けソファ 110,000L
・コーナーソファ 150,000L
・レザーソファ(任意) 一律300,000L
『テーブル』
・ダイニングテーブル(脚1〜10) 50,000〜500,000L
『収納・容量100〜1,000』
・チェスト(縦木目) 300,000L
・チェスト(横木目) 300,000L
・ロッカー 400,000L
『収納・容量5,000〜100,000』
・エンシェントチェスト 2,000,000L
・エンシェントロッカー 6,000,000L
・ブリュンヒルデチェスト 8,000,000L
『収納・容量∞』
・幻の箱 100,000,000,000L
『照明』
・シーリングライト 20,000L
・シーリングファンライト 50,000L
・ガーデンライト 30,000L
・シャンデリア(クリスタル) 800,000L
・シャンデリア(ダイヤモンド) 4,500,000L
・シャンデリア(任意) 1,000,000L
『カーテン』
・ノーマルカーテン(柄任意) 80,000L
・ブラインドカーテン 120,000L
『ラグ・カーペット』
・ラグ(柄任意) 50,000L
・カーペット(柄任意) 100,000L
『食器』
・木製食器(1セット) 50,000L
・陶器製食器(1セット) 250,000L
・鉄製食器(1セット) 250,000L
・銀製食器(1セット) 750,000L
・金製食器(1セット) 35,000,000L
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突っ込みどころ満載のウィンドウをありがとう、リグナさん。そして買えません。金が足りないので破産します。
残金、約800万リテ。拘ると一瞬で溶ける金額だ。
「お金稼ぎか......」
「ん? あぁ、今日買うならどれもタダでやるぞい。この神器、お釣りどころか儂から家具を贈る程には高価だからの。流石に儂も、本当に神器を持ってこられるとどうしようもないわい」
ほ、本当に良いのだろうか。果たしてそれは家の対価として成立しているのだろうか。
幾ら俺が困っているからと言って、あの神器だけでそこまで言うに至るのだろうか。
「男なら」
「はい?」
「男なら、女の為だけに物を選べ。本当にソルを想うなら、今ここで、ソル達の暮らすに値する家具を持って行け」
「リグナさん......」
それ、色々と間違いまくっている気がするんだけど。お爺ちゃん、優しさと甘さは履き違えちゃいけねぇんだ。
「でも「でももクソもない。ここで選び終わるまで、店の外に出さんぞ」......えぇ!?」
リグナさんがそう言った瞬間、俺に行動制限のデバフが掛かった。
この人......マジだ。マジで持って行かねぇと解放してくれねぇ......!
「分かりました。選びますよ。ただ、この『幻の箱』ってのも選んで良いのですか?」
「構わん。どうせ誰も買わん」
「言っちゃったよこの人」
確かに1000億リテなんて稼いでまで無限の収納を買うかと言われれば、まぁ買わないわな。
インベントリに困っているなら、レベルを上げるか課金すれば良いし、課金する程インベントリに困るゲームじゃないからなぁ。
「じゃあ、貰って行きます......本当に良いんですね?」
「あぁ。誰にも買われずにいるより、ルナの家に置かれた方が箱も喜ぶ」
「では」
全ての値段が『0L』と表示されるウィンドウから『幻の箱』を選び、インベントリに入れた。
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『幻の箱』
Rare:──
製作者:リグナ
『収納数:0』
『収納上限:∞』
その箱にはアイテムが無限に入ると言う。
その箱は壊れる事が無いと言う。
その箱を作りし者は、職人という肩書き
では飽き足らず、神の領域に足を踏み入れ
ていると言う。
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幻の箱、まさかの神器でした。という事はリグナさん、現地人では俺が初めて出会う、神器を作った人間だ。
「ほれ、他にも持って行かんかい。そんなんじゃソルは満足せんぞ」
「そう......ですね。遠慮なく選ばせて頂きます」
「あぁ」
孫を見るお爺ちゃんの目をしているリグナさんと話しながら、あの家に良さそうな家具を幾つか頂いた。
「リグナさん、改めてありがとうございました」
「気にするな。儂も初めて神器を創る者と出会えたんじゃ。良い経験になった」
「それでは失礼します」
「あぁ。また来るといい」
最後に一礼してから店を出て、別荘建築の話が終わった。
「よし、後はプレイヤーが作った家具も見るか。フー、シリカ、イブキ」
「なになに〜? どしたのお兄さん」
「珍しいですね。イニティで戦闘ですか?」
「これ、2人とも!......ルナ様、申し訳ありません」
「ははっ、気にするな。これから語り人の作った家具を見るから、3人の力を貸してくれ。流石に俺1人で決めるのは気が引ける」
大人の中でも、この3人は特に話しやすいからな。気軽に意見を貰い、俺も意見を言えるだろう。
プレイヤーの店もかなり増えて来たし、家具屋なんかもあると思う。多分。
「あった。『家具屋姫』だってさ」
「名前が特徴的ですね。お姫様ですか」
「リルちゃんか〜」
「4文字で考えさせるとは、良い名前ですな」
ミニマップでイニティのプレイヤーショップで調べると、中々面白そうな店を見付けた。
取り敢えず何が売ってるのか見てみよう。
「こんにちは」
「あ、は〜い!いらっしゃ......ぇぇえええ!!」
黄色と青色のコントラストが、まるでお姫様の様なイメージを与える綺麗なドレスに身を包んだ女性が答えたかと思うと、後ろへ下がりながら叫んだ。
「ルナさん、罪でも犯しました?」
「なんでやねん。ただ入っただけだろ?」
「でもお兄さん、あの子はお兄さんを見て叫んだよ?」
「えぇ......やっぱ語り人と会う時は反転した方が良いのかな......」
あんまり頻繁に金髪ロリになりたくないんだよな。知り合いに見付かった時の反応が怖いんだ。
でも、この状況はどうしたものか。店員さんは壁に張り付き、俺達は棒立ち。異様すぎる。
「あ、あの」
「ひゃい!」
「ここは家具屋......ですよね?」
「そうでございます!」
「どんな家具が売っていますか?」
「売っていません!」
「え?」
「あっ」
家具屋なのかそうじゃないのか、全く分からんな。とても困った。他の店に行くべきか......。
「ルナ様。ここは私が聞いて来ましょう。ルナ様はこちらでお待ちを」
「あ、ありがとうイブキ。頼んだ」
「お任せを」
いや〜ん、イブキさんの配慮上手ぅ。俺達は店に置いてある、小さい家具のモデルを見るとしよう。
すると面白いソファを見付けた。
「見ろ2人とも。ドラゴンの革のソファだってよ」
「ルナさん、ラースドラゴンの革のソファをリグナさんに作らせましたよね」
フーから痛い言葉が聞こえる。確かに、リグナさんに超レアドロップの黒龍の皮を渡し、黒革のソファを無料で作って貰ったが......あの技術に似た物があるんだから驚くだろ。
「フー姉ちゃん。あんまりそういう事言っちゃダメだよ!」
「......すみません」
「気にすんな気にすんな。2人も色々と見て、良さそうなのを見付けたら報告してくれ」
「「は〜い」」
楽しく買い物をしよう。予算は厳しいが、この街に売っているのならそれなりに安いと思うからな。多分買えるだろう。知らんけど。
知らんけど......ソファ500万リテ......うっ。
◇◇
「ルナ様。店主の方とお話をして来ました」
ショップのミニモデルを見ていると、イブキと姫店主が俺の元へやって来た。
「ありがとうイブキ。えっと、店主さんは始まして。ルナです」
「は、初めまして。家具屋姫を経営しています。プレイヤ......語り人のシェイラと申します」
シェイラさんのドレスを摘んで挨拶をする姿を見ると、ロークスに居る王女の顔が頭に浮かんできた。
「......」
「......」
「......」
「......」
不味い。俺達2人とも、コミュニケーション能力が絶望的に無い。目を合わせはすれど、口が全く開かない。
「お兄さんお兄さん! カッコイイ椅子があったよ!」
「あ、シリカ」
無言の時間をシリカが破壊してくれた。ありがとう。
「なになに〜? なんの話してたの〜?」
「いや、何も」
「あ、そう? ならこっち来て来て! すんごいカッコイイ椅子見付けたの!」
「あぁ。分かった」
俺はシリカに手を引かれながら、カッコイイ椅子とやらを見せてもらった。
◇イブキside◇
「申し訳ありません。ルナ様は初対面の方と話すのが、少々苦手でして......」
「い、いえいえ! 私こそ、何も話せなかったです......」
何故ルナ様は私やご友人方と話す時は積極的なのに、初対面の方には酷く消極的なのか。少々疑問ですな。
「ルナさんって、普段からあまり喋らないのですか?」
「いいえ。普段はご自分から、私やあちらに居る青髪のメイドなど、家の者に話しかけて下さいます」
「そ、そうなんですね!」
「えぇ」
まぁ、本当の普段のルナ様を語るならば、ずっとリル様やメル様と遊んでいる姿を語るのですがね。流石にこの場で話すには相応しくないでしょう。
さて、私も仕事をせねばなりませんな。
「シェイラ様のお勧めする家具などはありますか? この度、ルナ様は別荘の家具を選びに来ていらしているので、店主のお勧めを知りたいのです」
「あ、はい! 分かりました!......す、すみません。ルナさんを呼んで頂いてもいい......ですか?」
「ほっほっほ、分かりました」
この方も中々に交流が苦手のようだ。ルナ様程ではないが、店主としては致命的かも知れませんな。
◇ルナside◇
「オススメの家具?」
「はい。き、奇跡的に作れた物で......で、でも! 効果が凄いのでオスススメなんです!」
「スが多いですね。でも奇跡的に作れた物がオススメって、色々とおかしくないですか?」
オススメならそれなりの数を生産し、店で分かりやすい位置に置くだろう。それが何故、シェイラさんは案内が必要なくらい、分かりにくく置くのか......。
「あの、これなんですが......」
そう言われて出されたウィンドウには、二重の意味で驚愕する事が書かれていた。
◇━━━━━━━━━━━━━━━◇
『神器:ウロボロスの口』
Rare:──
製作者:シェイラ
『収納数:0』
『収納上限:∞』
値段:1,000,000,000L
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「......っ!」
まず1つ。収納上限無限の、壁に掛けるタイプの収納箱と言うこと。
そして2つ。お値段10億リテ。そして同じ性能の物を既に......持っている。
「ル、ルナさんなら買えるかな......って」
「......すまません。手持ちが800万程しかなくて買えません。それと、これは言い難いのですが......」
「い、いえ! 何でも言ってください!」
大丈夫だろうか。これを言う事で彼女は傷つかないだろうか。
だが、決意を感じる目で待たれてしまえば、俺も言わない選択をする事が出来ない。
「同じ様な無限にアイテム入るやつ......持ってます」
「そう......ですか。やっぱり、それもご自分で作られたのですか?」
おや、意外にも傷ついていない......様に見える。本当に傷ついていない、それは分からない。すまないな。
「いえ。そこの通りを進んだ所にある、リグナさんの店で頂きました」
「リグナ......やっぱり、現地人に習うのが生産の鍵なのでしょうか」
ん〜? この言い方から考えるに、シェイラさんはリグナさんの事を知っているっぽいな。
「まぁ、それが1番の近道だと思いますよ。俺も鍛冶はフェルさんに習いましたし」
「そうですか......ご意見ありがとうございます」
「いえいえ。シェイラさんのプラスになれば、俺も嬉しいです。シェイラさんが何を目指し、どのように努力をしているのか分かりませんが、良い結果を残せるといいですね」
俺がそう言うと、シェイラさんの顔が少しだけ明るくなった気がする。
さぁ、選んだ家具を買って帰ろうか。今日は正樹が来るから、早めにログアウトしないと。
「では、選んだ家具の購入をしてもいいですか?」
「はい!」
そうして俺は、長期間コツコツと貯めたお金を殆ど使った。
やはり『アイアン♪ソードっ!』を売って稼ぐより、モンスターを大量に狩って、その素材を売る方が早いし楽だ。
きっと、これからの金策は狩りになるだろうな。
次回『勇者正樹、大敗北』