学校だろうと変わらない
最近はプロゲーマーと戦うのが趣味になりました。
読み合い勝負、我慢勝負、エイム勝負...どれも血が沸騰する様な試合になるので、とっても楽しいんですよね。
「月斗く〜ん。起きなさ〜い!」
「......や」
「『や』じゃな〜い!起きな〜い!」
昨日はあれから普通に風呂から上がり、普通に寝た。特段変わった事はしていないが、俺はいつもより深く眠った。
「遅刻するの? もしくはズル休みかな?」
「......ふつ〜」
「普通に行きたいなら起きて。置いて行っちゃうよ?」
「いやだぁ」
「ほら、お〜き〜て」
「んぅ......はい、起きます」
朝から綺麗な声で起こされ、脳がゆっくりと覚醒を始める。
目を開ければ制服姿の陽菜がこちらを覗き込んでおり、時計を見ると7時50分を指していた。
「──ハッ!......よし、寝るわ。行ってらっしゃい陽菜」
「おい」
「だって間に合わないってこれ。初めての寝坊したわ」
「大丈夫。間に合うから。それに、遅刻するなら私も一緒にするから」
「いや、ここは俺に任せて先に行け!」
「だ〜め〜! 一緒に行〜く〜の〜!」
ダメみたいだ。仕方ない、直ぐに用意をして登校しよう。
◇◇
「お、月見里と鈴原、来たか。あと2分遅れてたら遅刻だったな」
「「はぁ、はぁ......はい」」
陽菜の助けもあり、何とか学校に遅刻せずに済んだ。
いつもの席に着くと、早川と山本が振り返って話しかけてきた。
「珍しいな。2人が遅いのは」
「ね〜! 2人とも寝坊したの?......フフフ」
ニヤニヤと笑いながら早川が聞いてくるが、多分早川の想像していることはしていないだろう。
「月斗君が50分に起きたからね」
「陽菜に風呂突撃されたからな」
「「......え? 一緒に住んでんの?」」
「「え? 知らなかったの?」」
あれ? そう言えば同棲してるって事、正樹にも言ってないような......いやでも、正樹なら気付いてるか。たまたまこの2人が知らなかっただけだろう。
「よ〜し、ホームルーム始めっぞ〜」
担任の言葉で会話が切られ、普通の学校生活がスタートした。
◇昼休み◇
「月斗。今日泊めてくんね?」
陽菜からお弁当を受け取ったタイミングで正樹がそう言ってきた。
俺は陽菜の顔をチラッと見ると、陽菜は縦に頷いた。
「泊まるのはいいけど、何でこの時期に?」
「ただ単にお前の家に行きたいだけだな。一人暮らしの野郎の部屋を覗こうと思った」
「あの、俺陽菜と同棲してるから一人暮らしじゃないんだが」
「はえ?」
「え? 逆に何で知らないんだ? どっかで記憶捨ててきたのか?」
「いや、同棲ってゲーム内の話じゃなかったのか......」
「えっ、えっ、は......え?」
「取り敢えず落ち着いて月斗君」
おっと、陽菜さんナイスブレーキ。
にしても全く分からん。何故正樹ですら俺と陽菜が同棲している事を知らない?俺は言わなかったのか?
いや、言ったはず......本当に言ったか?
月斗お前、正樹にちゃんと『陽菜と同棲してる』って言ったか?
「いや知らん」
「どうした。まぁ、2人の生活を邪魔するのはアレだから辞めとこうとは思ったが......」
ちょい待て。家に友達を入れた事が無いから、初めての経験として正樹を招きたい。ここでヤツに気を遣わせる訳にはいかん!
「あ、あぁ。泊まるのは別に構わん。寝る場所無いけど」
「布団をくれたら床でいい」
正樹ィィ!! 流石にそれは風邪を引くぞお前ぇぇ!!!
「......陽菜、布団って2個ある?」
「あるよ。私の部屋の布団がある......っていうか、私の部屋で田中君が寝たらいいんじゃない?」
「おい鈴原。流石に女子の部屋で寝るのは不味いどころか犯罪だろう」
「ううん。別に私物とか殆ど無いから大丈夫」
「そうじゃなくて......鈴原はどこで寝るんだ?」
「月斗君のベッド。前からずっと一緒に寝てるから、そもそも私の部屋が使われないんだよね〜」
「「「え?」」」
「ま、そういう事なら正樹の分の布団はあるな。良かったな」
「え......何、俺もしかしてとんでもない所に泊まりに行こうとしてる?」
「「田中正樹、頑張れ!」」
「ッエ゜ー!」
正樹が喉の潰されたカラスの様な声を上げるが、ウチはそんな変な場所ではないと思うんだがな。
「取り敢えず学校終わったら用意して来いよ。平日に泊まりに来るんだから、明日の時間割も忘れずにな」
「......ウッス」
「お、サッカー部らしい返事だね、田中君」
「鈴原よ。俺はもう部活は辞めてるぞ。進路とか考えたら流石にサッカーやってる場合じゃねぇからな」
「あぁ、なるほどね。進路か」
そう言えば陽菜の進路はどうなんだろう。2年生の12月。そろそろ決めておかないと、どんどん後がつらくなると言われている時期だ。
「陽菜。陽菜の進路はどうなんだ?」
「あっ......全く考えてなかった」
「おいおい。それは太一さん達に怒られるぞ。進学するにしても、就職するにしても、ハッキリさせておいた方が良いだろう」
「月斗君。専業主婦ってのは......」
「ナシが良い。陽菜の負担が増える方には選ばないで欲しいかな」
一応、元一人暮らしが2人で同棲している訳だが、陽菜もずっと家に居てはストレスが溜まるだろう。
今の陽菜の趣味はゲームくらいしか俺は知らないし、膨大な時間を有効活用出来る手段があるとは思えない。
出来れば陽菜に負担の少ない道を選んでもらいたい。
「......まぁ、どうしてもその道を選ぶならちゃんと先生や太一さん達に相談しろ」
「分かった。でもまずは進学を考えてみる」
「それが良い。大卒の資格は人生に有利になるだろうし」
「う〜ん、そう言う月斗君が就職するの、ちょっぴり悲しいなぁ」
「それもそうだな。さっきのはガヤぐらいに捉えて貰ってもいい」
「嫌。月斗君の言葉だもん。ちゃんと受け止める」
全くもう。そんな事言われたら照れるぞ。俺も陽菜の言葉をちゃんと受け止めようか。レイジさんに大学とかの話も聞きつつ、将来を決めねばならん。
「可愛いなぁ」
「えへへ〜」
弁当を食べる合間を見て陽菜の頭を撫でた。可愛くて綺麗で、しっかりしたお嫁さんになってくれ。
「おい、2人の空間が出来ちまったぞ。どうする守」
「いや知らねぇよ。お前は今日、あの空間に飛び込むんだぞ」
「田中。アンタあの2人の邪魔するなら私がぶっ飛ばすよ」
「待て、待て待て。お邪魔はするが邪魔はしないから。ただ少し、月斗の生活が気になったし、1回くらいは友達の家に泊まりたかったんだ。本当に他意は無いんだ」
「「ほんとかなァァ??」」
「マジだから。大体、俺があの空気をぶった斬る勇気があるとお思いで?」
「「ないな / ね」」
「だろ? 言ってて悲しくなるが、俺に勇気は無いんだ......」
弁当を食べつつ3人の会話を聞いているが、確かに俺達の空間は中々に強固なバリアを張っていると思う。
正樹は力尽くで開ける事も出来ないから見ている事しか出来ないし、それなりの地獄を体験するんだろうな。
「頑張れ、正樹」
「月斗ぉぉぉ......」
悲痛な声を上げる正樹を見ながら、今日のユアストでやりたい事を纏めた。
今日リグナさんに腕輪を渡し、別荘の家具を揃えねばならん。だから家具を探しに行きたい。
「ォォォ頑張れ田中正樹。お前は親友の家に泊まるくらい出来るはずだ。例えその親友が恋人と同居していようと、俺ならば出来る!!! はず!!!」
自らを鼓舞する正樹の姿は、まるで激戦区へ向かう戦士に見えた。
次回『勇者正樹、死す』デュ○ルスタンバイ!
.....とはなりません。ご安心を。
次回『家具屋姫』お楽しみに




