家より高価な豪華な効果
「母様。夕方は怒鳴ってすみませんでした」
「ううん。私こそごめんなさい。リルちゃんの事、あんまり考えていなかった」
ソファで俺の隣に座っているソルに、リルが正面に立って謝った。
「これからは、ちゃんと私の気持ちも話します」
「私も。ちゃんとリルちゃんの話を聞くようにするね」
2人とも耳をペタンと垂らしていて可愛いのだが、ここでそれを口に出してしまえば俺は空気の読めない男と思われるから辞めておこう。
自制心自制心。自らを律する力を鍛えねば。
「リルちゃん、おいで」
お互いの謝罪が済むと、ソルは両手を広げてリルを抱きしめようとした。
「はい!」
リルはそれに答えると、華麗にソルを避け、俺に抱きついてきた。
「え゛っ」
「おっと、どうしたリル」
「んへへぇ......父様ぁ〜」
「はいはい」
可愛い。尻尾も扇風機みたいに振ってるし、どれだけ喜んでいるんだ?
「リル......ちゃん......」
「残念だったな」
「うわぁぁぁん! リルちゃんに裏切られたぁぁぁ!!」
両手で顔を覆って叫ぶソルを横目に、俺はリルのブラッシングを開始した。
帰ってくる前にリルに頼まれていたし、ちゃんと綺麗にしてあげよう。
「そ、そうだ!」
隣から名案を思い付いたような顔が見えるが、嫌な予感がする。
「メルちゃん、ちょっと来て」
「んぇ......うん。なに?」
メルが凄く嫌そうな顔をしてるが、そろそろメルは寝る時間だもんな。そりゃ嫌に思うか。
「メルちゃん。パパとマ「パパ」......ッ!」
ソルの言葉を予測して答え、そっと俺とソルの間に入り込んできた。
流石に可哀想だし、フォローしなきゃね。
「ソルも愛されているんだし、気にする必要は無いだろ」
「いいもん! 私もルナ君大好きだもん!!」
あ、自分の土俵を下げやがった。上手な逃げ方をしたもんだな。素直に感心する。
「良かったですね、主」
「そうだな。一人ぼっちのあの頃には、もう戻れんわ」
アルスの言葉に現状の幸せを噛み締め、4人で寝ながらログアウトした。
◇ ◆ ◇
「陽菜。晩ご飯作るぞ」
「モチモチのロン。任せて!」
「任せない。今日は俺も手伝うよ」
流石にいつも任せっぱなしだと罪悪感がこんにちはしてくるからな。ここは1つ、一緒に作る事で罪悪感君をさようならしよう。
「ふむふむ。旦那力を上げに来た訳ですな」
さっきまでの俺、さようなら。罪悪感なんてどうでもいいわ。陽菜の負担を減らして一緒に作る事で、より美味しく感じられる方を俺は取るぞ。
「旦那力が何かは知らんが、陽菜の為にやろうではないか。さぁ、操り人形を手に入れた陽菜さんはどのようにして使いますか?」
「オイオイ月斗さん。そんな事言っちゃうとトンデモネェ使い方しちゃいますよォ?」
「オイオイ陽菜さん。幾度のどエロい戦場を乗り越えてきた俺が、今更適うとでも?」
「......よし。お肉......切ろっか」
「はいよ」
勝ち申した。我、勝ち申した。
この同棲中、陽菜はたまに脳みそ破壊攻撃を使ってくる。
ある時は一日中下着だけで居たり、ある時はず〜っと俺に引っ付いていたりと、それはもう幸せな時間で......ハッ!
大丈夫。まだ俺の脳は生きている。頑張れ、あと1年の辛抱だ。それからは自由に生きていけるぞ。
◇◇
「「いただきます」」
まぁ、人手が増えたからって作る料理が変わる事は無いんですけどね。
「美味しいお味噌汁やでぇ」
「美味かろう美味かろう。私の誇りじゃ」
「うめ、うめ」
「うめぇかぁ、そうかぁ」
やはり陽菜の味付けは最高だ。比較するようで悪いが、母さんの料理より好きだ。俺の舌と調和する。
ほんと、この料理を毎日食べられるだけで幸せってもんよ。
「そういえばクリスマスが近いね」
「そうだな。伝説の神クソゲーをやるのが楽しみだ」
「う〜ん『冬のゲーマー 〜恋人を添えて〜』って感じ」
「斬新な料理だな」
「ふふふっ、でもクリスマスにデートに行かないのって、ある意味恋人らしくないのでは?」
「そんな事ないさ。人には人の過ごし方がある。去年まで1人だった俺が、2人になったからと言って急に変わるのは難しいんだ」
「なるほど。それもそうだね。まぁ、家だとリラックス出来るし、そっちの方が落ち着けるよね〜」
「あぁ」
外に出れば色々なイベントがあるだろうが、大抵のイベントは家の中でも起こせるからな。
手を繋いだり、ハグをしたり、人目を気にする必要も無い。
......故に陽菜の制御が外れる可能性もあるが。
「ま、その時はその時だ」
「どうしたの?」
「何でものぉ。さ、食べ終わったらアクセサリー作らんとな」
「あれだけ作ってたら、リアルでも作れないのかな」
そんな上手い話、あれば良かったですね。とても欲しいです僕。
「無理だ。ずっと作ってると分かるが、システムの補助がめちゃくちゃ大きいんだ。特にDEX。アイツは俺を狂わせた」
「そんなに?」
「そんなに。だから逆に聞くが、陽菜はゲームで料理を作った後にリアルで作って、何か違和感は無いのか?」
「無いね。寧ろ、より愛情を込めて作れるからリアルの料理の方が好きだし得意だね」
「......そうか。ありがとう」
「ふふっ、どういたしまして」
ちょっと照れる。いや、結構照れる。陽菜のサラッと人を温める言葉を掛けてくれるの、とても好きだ。そして尊敬する。
◇ ◆ ◇
「さぁ、戻ってきました地獄のアクセサリータイム!」
「いぇい」
「本日の助手はメルさんです!」
「いぇい」
「はい、作業に入りまーす」
「いぇい」
陽菜と晩ご飯を食べた俺は、2人分の洗い物をしてからユアストにログインした。今日は陽菜がお風呂を洗ってくれるそうなので、それまでに完成させよう。
「ほっうせっきほっうせっきランランラ〜ン」
まずは核石の作成からだ。だが、今回の核石は一味違う。
「メル、こっち来な。聖なるパワーの充填だ」
「は〜い」
そう、宝石を聖具的な物に加工し、龍核に魔力を宿してから核石にする。そうする事で、時間短縮して聖魔武具となるアクセサリーが作れる。
あ、メルを呼んだのは、ただ単に癒されながら作ると聖具が出来やすいからだ。
聖具ブースター・メルだ。
「可愛いなぁメル。大きくなったら美人さんになるぞ」
「いまはびじんじゃないの?」
「勿論美じ......美少女だな。メルは少し、括りが違う」
「ふぅん」
「何だメル。『大きくなったらパパと結婚する〜!』的な事が言いたかったのか?」
「ううん。わたしはずっとパパといるから、けっこんするいみない」
「あら可愛い。いつまでも一緒に居ような〜」
「うん」
それからもメルと話ながら作業を続け、宝石を聖具にし、魔力を宿した龍核と合成することで核石の作成に成功した。
今回の核石は、何故か緑色に光っている。不思議だ。
「パパ、それどうするの?」
「ん? これは腕輪に埋め込むんだ。それとな、意外性を重視して、木の腕輪にこの核石を使う」
「木のうでわ?」
「そうだ。リグナさんは木工職人だから、宵斬桜の枝を使った木製の方が良いと思ったんだ」
「うん......きれい、だとおもう」
メルが真っ直ぐに核石へ視線を向けているのは、龍核だから、という事ではないだろう。この石に秘められた想い、そして木の様に強い力を感じていると思う。
......明日、メルのアクセサリーも作ろうかな。メルの真の強さを感じるような、そんなアクセサリーを。
◇◇
「ふぅ......出来た」
「すぅ......すぅ......」
リグナさんへのアクセサリーが完成した頃には、メルは俺に全てを預けながら眠っていた。
「今神龍と戦っているプレイヤーは、ウチの神龍の可愛さを知れないんだろうなぁ」
寧ろ恨みが多そうだ。あの強さは反則級だし。
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『灑桜:神木』
Rare:──
製作者:ルナ
『付与効果』:【灑心】『断木』
『DEX補正:特大』『VIT補正:特大』
『生産系スキル補正:特大』
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【灑心】
・効果発動時、疲労度が全回復する。
また、自信に付与されている全ての
バッドステータスを解除する。
・HP、MPを全回復する。
・クールタイム5秒
『断木』
・効果発動時、どんな道具でも一撃で
木を切断する。
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「フフ......我ながらぶっ壊れアイテムを作ったもんだ」
これは家の代金だ。これをリグナさんに渡した時に、ようやくあの家が俺達の家となる。
灑桜の効果っょい。
次回は久しぶりのガッツリ陽菜さん回です。
次回『これはマズイ』お楽しみに!