満月は割れて半月となる
3つのスマホゲームでイベントを走りつつ、5つのブラウザゲームのイベントをPCで走る、この沼に浸かったゲーマーを何とかしたいです。
また体壊しちゃう.....(´;ω;`)
突如、バン! とリビングの扉が開けられ、怒れる狼が入ってきた。
「父様! さっきの念話は何なんですか! 沢山の人の前で恥をかきました!!!」
耳もシッポも真っ直ぐに天井を向いている、銀色の狼さんがやってきた。
「リルちゃん......そっとしてあげて」
「何を! 母様は分からないはずです! 父様が念話で私に街中で大声を出させた事を......!」
「そうじゃなくて、ルナ君ね、灰になってる」
「え?」
どうも。確率50パーセント如きに惨敗し、灰になったルナ君です。
現在、ソルの太ももに抱きついて生を感じております。
「あの、どう見ても母様に抱きついてるだけなのですが」
「まぁ、そうなんだけどね。でも見て? よわよわルナ君、可愛くない?」
「......母様まで私を怒らす気ですか?」
「ち、ちち違うよ? 別に火の点いたマッチ棒に花火を近付けようとなんて思ってないから!」
「......」
ソルよ。何故自爆した。
火の点いたマッチ棒の海に火薬を抱えてダイブするとは、少々勇者気質すぎやしませんか?
「リル。こっちにおいで」
「いいです......もう。お部屋に居ます」
そう言ってリルは部屋の方へ歩いて行った。
すると、入れ替わる様にリビングにメルが入ってきた。
「パパ。リルちゃんおこらせたの?」
「メル? どうしたんだ?」
「リルちゃん、なきながらへやに入ってきたから。ひとりにさせてあげようとおもって」
メルが言った言葉を飲み込むと、俺とソルは顔を見合わせ頷いた。
「「謝ろう」」
やってしまった。そんな罪悪感が胸を覆う。
「ちょっと謝罪してきます」
「リルちゃんに土下座してきます」
「そんなんでゆるしてくれたら、リルちゃんは泣かないのにな〜」
メルに針を飲まされたが、全部俺達が悪いので吐き出す事が出来ない。
ちゃんと消化出来るよう、リルと和解せねば。
俺は部屋の扉を3回叩き、リルを呼ぶ。
「リル。入ってもいいか?」
「......ダメ」
リルの敬語が消えている。これは相当怒っているな。
「リル、ごめん。俺もソルも言い過ぎた。反省してる」
扉の奥からは返事が無い。
「リルの怒った点を教えてくれ。少しずつ解決していこう」
俺がそう言っても、リルからは返事が来ない。
流石に心配なので念話をかけようとすると、念話が拒否されてしまった。
「リルちゃん。さっきは火に油を注ぐような事を言ってごめんなさい。リルちゃんの事まで、ちゃんと考えてあげ「うるさい!」......」
初めてだ。リルが怒鳴ったのは。今回の件はそれ程大きな事態という事なのだろう。
あぁ、どんどん心が狭くなる。黒い何かで、心臓をギュッと挟まれている感覚だ。
「リルちゃ「ソル......今はそっとしておこう」
もう一度声を掛けようとしたソルの肩を掴み、止めた。
そして目を閉じて、昔を振り返りながら今回の出来事への関連性を探す。
「俺......ここまで人の心が知りたいって思ったの、初めてかも」
「ルナ君?」
「俺さ、察する力が無かったり、人への配慮が欠けることがあるだろ?」
「え? う、うん」
「それってさ、過去に人と関わらなかったのが原因だと思うんだ。人と関わろうとする意識が無いから、誰かの事を知ろうと思わない」
「だから、ソルを好きになった時、初めて『人の心を知りたい』って思ったんだ。この人はどんな事を考えて、何を思って行動しているんだろう、って。
......それに関する事は、過去に何度か聞いたよな?」
「うん。私が東京に行こうとした理由とか、だよね?」
「あぁ。それでもな、俺は『なんでこの人はこう考えているんだろう』程度だった。
でも今は、もっと知りたい。何故リルが怒って、何故俺達が油を注いだのか......完全に1から理解したいと思ったのは初めてだ」
キーは『何故怒ったのか』だ。
いつものリルなら、メッ! くらいで、怒りらしい感情を見せなかった。
だが、今回は怒りを前面的に出している。
その理由を俺は深く知りたいと思った。
誰かが本気で怒っている場面......俺には経験が少ないからどう対処すれば良いのか分からない。
◇◇
「で、私ですか。普通に部屋に突撃すればいいのでは? お2人の性格を受け継いでいるのなら、一発目は強引な方が良いでしょう?」
「ダメだ。フーは脳筋すぎる。女の子はもっと繊細なんだぞ」
「私も女の子なんですがそれは」
「あれ? 前に性別は無いとか言ってなかったか?」
「そんなの、とっくの昔に女の子にしてますよ」
「えぇ......」
まぁ、知ってたが。じゃなきゃ、あの時の事件は起こらなかっただろうしな。
「取り敢えずフーの案は却下だ。次、シリカ」
「はい! 今はそっとしておくのが良いと思うよ! リルちゃんの日頃の鬱憤が溜まっていて、それが爆発したとするなら......ガス抜きが終わるまで待つのが良いんじゃないかな?」
「......一理どころか、百理ぐらいあるな。頭に入れておく。次、アルス」
「我もフー様と同じく、突撃です」
「却下。次、イブキ」
俺が目線を送ると、イブキら優しい目で返してくれた。
「いやはや、中々に家族会議らしいですなぁ。私の意見としては、ルナ様がソル様を想うように、リル様もきちんと想うのが1番かと」
「......あの、俺がソルに抱いているのは恋心なんだが」
「えぇ。ですから方向性を変えるのです。
ルナ様。ルナ様はリル様を、ちゃんと娘と認識していますか?
ソル様を想う気持ちと同じ勢いで、リル様を娘と思っていますか?」
「ちゃんと......」
イブキの言葉を突っぱねるだけなら簡単だ。『俺とソルに子供は居ない』と、そう言えばいいからな。
だが、それはこれまでの生活が許さない。気付けばリアル時間で半年の時間を、ゲーム内じゃ3年以上の時を同じくしていて、今更リルを他人とは絶対に思えない。
故に、これはちゃんと考えなきゃいけない問題だ。
「リルは......リルは、俺の子だ。出会いこそ異常だが、その後は普通の親子だと思っている。例え他の誰かが違うと言っても、俺はリルを自分の娘だと、胸を張って言うぞ」
真っ直ぐにイブキの目を見て言うと、イブキはニコッと笑った。
「後はそれを伝えるだけですな。ささ、お次はセレナさんですぞ」
「え、その流れで私に言う? アンタやっぱり性格悪い!」
「ほう? ではどこが悪いのか、具体的に仰ってください。全て直して差しあげましょう」
イブキに立ちはだかったセレナが、溜息をついて頭に手を当てた。
「......はぁ、いいわ。それで私の意見だけど、ルナはリルが何で怒ったのか、それが分からないのよね?」
「そうだ」
「う〜ん、リル、貴方の念話でかなり大声を出していたし、貴方の念話が酷すぎたんじゃない?」
「俺の念話?」
「えぇ。あの子、貴方のせいで大声を出した後、近くに居た全ての人に謝ってたわよ?」
ここで思い出してみよう。リビングにリルが入ってきた時、何と言っていたか。
『父様! さっきの念話は何なんですか! 沢山の人の前で恥をかきました!!!』
......何も言えねぇ。あの時、変に大袈裟な事を言った俺が悪い。
冗談とは言え、それが原因でリルが恥をかいたなら俺のせいだろう。
リルの対応の意味を知らない俺が、ズカズカと土足で踏み込むのは最悪と言えるだろう。
「ちょ、ちょっと席外す。『転移』」
「ルナ!」
俺は自責の念に潰されそうになり、半ば逃げる形で転移した。
「はぁ......何やってんだろ......」
綺麗な満月の映る池に反射する、自分の顔がぼやけて見える。
今、自分がしている行動が何一つ理解出来ない。でも何が起き、何を思っているかは分かる。
ただ俺が悪かった。冗談が伝わらなかった。
ただリルは被害を被った。初めて怒鳴り声を上げた。
ただ──
「「仲直りがしたかった」」
後ろへ振り返ると、目の周りを真っ赤に腫らせたリルが立っていた。
「......」
「......」
お互いに何も言えない。いや、言わない。
何を言えば良いのか、どのように答えたら良いのか、どうやって話出せば良いのか、その全てが分からない。
.....今宵は満月だ。それはもう、綺麗な満月だ。
俺達の様な、半月が2つ重なった月ではない。1つの綺麗な満月だ。
俺達はただ、仲直りがしたかった。したかった......それなのに、あの満月が邪魔をする。
『ワォォォォォン!!!!』
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『幻獣狼:フェンリル』との戦闘を開始します。
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俺と対面するリルの背後に、大きな銀毛の狼が現れた。
次回『夜空に浮かぶ2つの月』