爺ちゃんしか勝たん
アルトム森林でモンスターを狩り、ストレス発散のついでに木材集めをしてからイニティに来た。
この街なら知り合いは現地人しか居ないし、喉の奥が詰まりそうな緊張感もなく話せるだろう。
そういった考えから、最初はイニティの冒険者ギルドへ足を運んだ。
「レイナさ〜ん、お久しぶりです〜」
「ルナさん! お久しぶりです。お元気ですか?」
「元気じゃないです。さっき語り人にボコボコにされましたよ。精神を」
「あらら......それで、今回はどのような用件で?」
「......オススメの木工職人は知りませんか? 出来れば優しい人で」
安心と信頼のレイナさんだ。俺に弓術を教えてくれた人であり、初心者の時に色々とアドバイスをくれた受付嬢だ。
「ルナさん、最初に紹介したリグナさんの所へは行ってないのですか?」
「リグナ......あれ? レイナさんが紹介してくれたのって、武器屋、防具屋、アクセサリー屋。それから服屋だけでは?」
「いえいえ! その後に木工道具屋をお教えしたはずです!」
自信満々に胸を張って言うレイナさんを見て、『これは俺が忘れてるヤツか......』と認識した。
「すみません。完全に記憶から抜けてます。出来ればもう一度教えてください」
「ふふっ、分かりました。リグナさんのお店は──」
◇◇
「──ココ、と」
レイナさんと少しだけ世間話をしてから教えてもらった木工道具屋に来た。
【木工道具店・リグナ】
何でもここの店主は、木に関する事のスペシャリストのようで、大工も出来る上に家具や食器、延いては植物の育成も出来るとのこと。
それに、俺にアクセサリー作りを教えてくれたタルさんのお父さんらしい。
『行くぜぇ!』
「はいよ」
洋風な白いドアを開けると、優しく木を打ちつける音のドアベルが鳴った。
入った人間を優しく出迎えるこの音に、俺は一聞き惚れした。
先程の音の正体を確認する為にドアの上方を見ると、数枚の木の板が、綺麗な星形にカットされたドアベルがあった。
「凄い。アレがこんな音を出すんだ」
『ね〜! 城のドアにも付けたいくらいだけど、付ける場所が無いね!』
「それを言うな。俺が泣く」
シリカが悲しい正論を投げつけてくるが、家のドアに付けたい気持ちはとても分かる。
別に誰か知らない人が入ってくる訳でも無いので、ドアベルを付ける意味は無い......無いが、この優しい音を聞けるなら別に付けたっていいじゃない。
「売ってたら買おうか」
「残念ながら売っとらん。アレは儂のお手製じゃからな」
ドアを再三チェックしてから呟くと、後ろから声がかけられた。
「そのドアベルを褒めたのは語り人ではお主が初めてじゃ。感謝する」
「いえいえ。少し心が荒れていたので、あの音が響いただけです」
「それでもじゃ。さて、お主の名前はなんじゃ? 儂は『リグナ』じゃ」
目の前にいる、髪は白いが50代くらいの元気な体をしているお爺ちゃんが目的の人物のようだ。
「俺はルナです。こっちの刀はシリカです。よろしくお願いします」
『よろしくね!』
シリカが元気な声で挨拶をすると、リグナさんは目を大きく開いた。
「おぉ、刀が喋りおった!」
「シリカは付喪神ですからね。軽く接してやってください」
『礼儀とかシリカは気にしないよ!』
「そうかいそうかい。よろしくな。して、ルナよ。
今日は何を買いに来たんじゃ? 生憎ドアベルは売っとらんが、他の物ならあるぞい」
優しい口調で声を掛けてくれるその姿は、まるで皆に愛されるお爺ちゃんだ。
「ちょっと待ってください。脳内で整理します」
そして俺は喋りたい事を整理しながら、別の事を考えていた。
俺は生まれた時には既に婆ちゃんが他界してたが、爺ちゃんは元気だった。俺が中学に入った頃に婆ちゃんの元へ行ったが......小学生の時はよく遊んでくれた。
一緒に果物を買いに行ったり、折り紙の綺麗な折り方など、お爺ちゃんと遊びまくったもんだ。
そんな爺ちゃんと、どこか重なる影がある。
よし、言いたい事が纏まったぞ。
「今日は家を建てて貰おうと思いまして。別荘を建てたいんですが、俺には技術や知識がありません。
そこで知恵や技術を持つ人間を探そうと思ったのですが、俺は友人が少ないんです。
そして、俺の数少ない友人のレイナさんに聞いたところ、リグナさんを紹介してくれました」
「おぉ、情報量が多いのぉ。順番に並べるか」
「すみません」
つい言いたい事を全部言ってしまった。気が緩み過ぎてるな。
「ふむ。まずルナは家を建てたいと。場所はあるのか?」
「えぇ。空間魔法でいつでも行ける島があります。土地の整備は9割方終わってます」
「ふむふむ。なら木材は? ルナの求める家が分からんから何とも言えんが、儂の所へ来るという事はログハウスなんじゃろ?」
「はい、ログハウスです。それと、木材自体を求めるならトレントから頂いたのと、宵斬桜の枝があります。
丸太なら土地を切り拓いた時の物が大量に」
「なるほどな。なら人材はどうじゃ? たった数人で出来るほど甘くはないぞ?」
「大丈夫かと。テイムしたオークとイビルゴブリンが合計28体。他にもロックゴーレムが沢山居ます。
あと、娘が2人と使用人が4人。木の世話係が1人。最後につ......彼女が1人居ます。あ、その人は語り人です」
「ほぉ。合わせて36人が追加......よし、いけるな」
ここまで流れる様に話していて思ったが、気になる事がある。
「リグナさん。今更ですけど、お受けしてくれるんですか?」
「ん? あぁ。大工仕事は久しぶりじゃし、第一にルナよ。お前さん、タルにアクセサリー作りを教えてもらったじゃろ?」
「え、えぇ。タルさんに教えてもらってから、アクセサリー作りにハマりました」
「フッ......息子が教えた人間がどれ程の技術を持った人物になったか、儂も気になっての。料金としてアクセサリーをくれんか? それで請け負おう」
あれ? これ、もしかして試されてる? 試されてるよね?
リグナさんがタルさんの技術を誇りに思っていて、その技術を半ば継承した俺に対し、どの程度の腕なのか試されてるな?
「分かりました。神器と聖魔武具ならどっちがいいですか?」
「............どっちでもええわい」
勝った。リグナさんがドン引きするくらいのアクセサリーを作ろう。家より高価な効果の豪華なアクセサリーを作ろう。
うん。
「それなら、どちらか完成した方をお渡ししますね。
では話を進めましょう。一応、年内までに完成させたいんですが大丈夫そうですか?」
「あ、あぁ。その人数なら大丈夫じゃ。うし、ルナよ。早速その土地へ儂を運んでくれ」
「分かりました」
リグナさんは店を一時的に閉め、別荘建築に尽力すると言ってくれた。
......が、幾ら何でもそれは申し訳ないので、一時閉店を辞めて欲しいと言ったのだが、『あれもこれもと手を出していたら、成せる事も成せん』と言い、押し切られた。
◇魔境の島◇
「おぉ......おぉぉ! 素晴らしいなルナ!!」
「......そっすね」
老人とは思えない程に大きく目を開き、その瞳をキラキラを輝かせているリグナさんの後ろで、俺は冷や汗を書いて立ちすくんでいた。
『これはシリカもドン引きするよ。お兄さん、ゴーレム達になんて言ったの?』
「土地の整備しといてって言った......はず」
『それが何で、城の建設予定地みたいになってるの......?』
俺達の目の前には、切り拓かれた土地の中心に、真っ白なレンガで枠取りされた硬い地面が広がっていた。
杭一本刺すのも苦労しそうな程、頑丈な地面だ。
『マスター。おかえりなさいませ』
『『『オカエリナサイマセ!』』』
「あ、あぁ。ペトラム......皆もお疲れ様」
地面を見て呆然としていると、横からゴーレム軍団がやって来た。
そしてゴーレム達を見たリグナさんは、今度はゴーレム達に目を輝かせた。
「ロックゴーレム! それも高レベルではないか!?」
「え? 高レベル......なのかな。基準が分かりません」
「そうじゃなぁ。大体レベル100を超えていたら、そいつは高レベルじゃろう」
「へぇ。ペトラムのレベルは......ん? 180?」
何か高くな〜い? 君、出会った時は50レベルも無かったような気がするんだけど。
どこでレベリングしたの? お兄さんに教えてご覧なさい? ほら、ほらほら。言っちゃいなよ!
「ペトラム。お前どこでレベル上げした?」
『それはここ周辺のモンスターを倒したからです。ラースドラゴンの方達に誘われて、土地の整備が終わった後に防衛戦に参加しておりました』
「ぼう......えい、せん......そうか。敵は500レベ超えてるもんなぁ、そうだよなぁ」
レベル差が開きすぎると入手経験値が減るのだが、魔境の島はそもそもモンスターの数の母数が違う。
湧く時は一気にモンスターが湧くので、例え入手経験値量が少なくても、質より量。数でカバーしていたんだな。
「えっと、リグナさん。そんな訳でペトラム達ロックゴーレムは、平均して約160レベルはあるみたいです」
「素晴らしい。ルナはテイマーとしても輝ける事だろう」
「テイマーですか。武術大会に項目が有れば、参加しましょうかね」
勿論、メンバーはガッチガチにして行くぞ。誰にも打ち破られないような、そんなメンバーで挑もう。
まぁ、テイマーの種目が無ければ全部無意味なんだけど。
「さぁ、早速始めましょうか!」
爺ちゃん(´;ω;`)
次回『掲示板 10』ジュエルスタンバイ!