様々な問題
ごーるでんうぃぃぃく?
「オーク達、アースモール達、ここまでありがとう。これから先は仕事が少ないから、先に休んでいてくれ」
『『『『『『はい!』』』』』』
木こりと丸太の確保を終えた俺はテイムしたモンスター達を戻し、1人思考のプールを泳ぎ始めた。
「ここら先は魔法で土を何とかするとして、肝心な建築をどうしようか。ゴブリンやオーク達に手伝ってもらうにしても、そもそもの知識量の問題もある」
「そんな事よりまずは家のデザインを決めよう。どんな家にするか考えてないと、始めるものも始まらない」
口に出した言葉の数倍以上の密度の思考をし、まず1と10......始まりと終わりを考えた。
「ゴールは外装の完成。スタートはデザインの決定。よし、この流れだ」
内装は後から考えられるので、外装をゴールにして動いていこう。
「パパ。オーク達が消えたけど、動くの?」
「あぁ。おかえりメル。取り敢えず家の外観を決めたいから、メルも一緒に考えようぜ」
「うん」
龍核覚醒した状態でメルが帰ってきたので、デザインを決めるのに協力してもらおう。
「俺はログハウスが良いと思うんだけど、リルはどう思う?」
「私メル」
「ごめん間違えた。メルはどう思う?」
「ん〜......パパが作りやすいので良いと思う。魔法で作るのが楽ならそっちの方が良いし、手作業で拘りたいのなら最初からパパが1人でやればいい」
「言葉の棘、痛いっす」
「私をリルちゃんと間違えた罪」
「すみませんメルさん」
口調が大人びているとリルと混じっちゃうんだよな。
あの幼い口調こそ、メルのアイデンティティというか、最初に触れる個性だと思ってる。
「でも、パパ次第だよね。どんな家に住みたいかって言うより、元の家をどんな風にしたいかだし......もう少し軽く考えなよ」
「......うむ。でもさ、最低限見た目を気にしたいじゃん?」
「見た目って、こんな魔境の島に誰か来ると思うの?」
「痛い、痛いって。メルの言葉全部刺さってるから!」
「現実を見よ? パパ」
「............はい」
メルの言うことも一理ある。こんな、空を飛べる移動手段を持った上に、高レベルモンスターがうじゃうじゃ湧く島に来る人間なんて居ないだろう。
ただ、招待した場合は別なんだよな。
ギルドハウスである城を開けて、別荘の方に本格的に住むとなれば、マサキやアテナとか、こっちの別荘に呼ばないとならない。
そうなった場合、ボロボロの家だった時に悲しくなる。
「メル。木と石ならどっちが好き?」
「木」
「じゃあ、屋根のある一軒家と豆腐みたいな四角い家ならどっちが良い?」
「屋根のある一軒家。そもそもそれが分からないけど、多分こっちの方が良い」
「ありがとう。取り敢えずログハウスで決定だな」
「わぁい」
元々予定していたログハウスで良さそうだし、次はどんな見た目にするかだな。
「アレだな。どうせやるなら、夢のハンドカットログハウスにしたいな。あんな家なら、ソルとずっと暮らせる」
「ハンドカットって何?」
「ん? あぁ、言葉の意味のままだ。手作業で加工した丸太を使ったログハウスだな」
「へ〜。大変なの?」
「大変だと思う。だってアレ、職人の技で出来ているからな。俺みたいなペーペーもいい所、ただの紙の知識を得た奴が作れるものじゃない」
「じゃあどうするの?」
「そりゃあ、職人の技なら職人を呼ぶしかないだろう。城の小屋建設で練習しようと思って出来なかったんだが、すっぽ抜けたな。
まぁ、語り人やら現地人やら、何かしら技術を持った人がいるはずだ」
「ふ〜ん」
俺がそこまで語ると、メルが俺の体をよじ登ってきた。
仕方がないのでメルが落ちないように抱っこすると、龍核覚醒を解いてから寝始めた。
「自由だなぁ。子供みたいだ」
「こども......だも......ん」
「そうだな。おやすみ」
「......うん」
それから少しの間、メルを抱っこしてたら思い出した。
「ゴーレム達、おいで」
『『『マスター。命令ヲ』』』
「おい、ペトラムはいるか?」
『ここに居ますよ』
ゴーレム軍隊の中から、俺が唯一『ちゃんとした名前』を付けたロックゴーレムが出てきた。
「ん。じゃあペトラム。お前をゴーレム隊のリーダーとして、この辺りの地面を踏み固めてくれ。具体的には、この広い空間を中心に20メートル四方くらいで」
『分かりました』
「あ、魔法が使えるなら使ってくれてもいい。魔力切れには気を付けてな」
『はい!』
「じゃあ皆、よろしく頼む。俺は職人探しをしてくる」
『『『イッテラッシャイマセ』』』
『お気を付けて、マスター』
「ほいほ〜い」
メルを抱っこしたまま指示を出し、俺は1度城に帰ってきた。
「おかえりなさいルナさん。メルさんは......寝てるんですか」
庭の芝を1歩踏むと、掃除中のフーとばったり会った。
「ただいま。メルはモンスター狩りでお疲れだ」
「なるほど。あ、引き止めちゃってすみません」
「気にしないでくれ。じゃあ俺は行くから」
「はい」
そうしてリビングを素通りして俺の部屋へ行き、メルをベッドに寝かせた。
小さく寝息を立てるメルに、暖かい毛布を掛けてから部屋を出た。
「メルちゃん、寝た?」
「うぁぁぁい!!......タイミング怖すぎだろ!」
部屋を出て扉を閉めてリビングの方へ行こうとした瞬間、後ろからソルに話しかけられた。
「あはは、ごめんね?」
「マジでビックリしたわ......ってか珍しいな、ソルがそっちの部屋から出てくるなんて」
「あ〜、作った小物を置いてたの。私の部屋の現状って、ただの物置小屋なんだよね。インベントリに入れても邪魔だし、使わない部屋に置いちゃおうと思って」
「そうなのか。売ったりはしないのか?」
「う〜ん、小さな人形とか木製の食器だから、売れない事は無いと思うけど......めんどっちいから」
「めんどっちいか」
「うん。めんどっちい」
めんどっちい......可愛いな。ソルが言うと可愛さが10割増だ。ついつい頭を撫でてしまうぞ。
目を細めて喜んでいるソルを見ながら、木工職人の問題をどうしたものかと俺は考えた。
まず、生産職のリーダーと言われているやっさんに頼る方法。
あの人なら絶対に優秀な職人を知っているだろうから、これは有力だ。
次に、現地人に聞きまくって職人を見つけ出す方法。
「あの〜」
こちらは職人と出会えるかは運によるが、出会えた場合は語り人なんかと比にならない技術を持つはずだ。
何故なら、外部の人間であるプレイヤーに対し、現地人はこのゲームの世界の住人だ。基礎として持っている知識の差がとても大きい。
「ルナく〜ん」
俺としては現地人に聞きまくる方法を取りたい。大好きな人と暮らす家なら、出来る限り拘りたいからな。
「ルナ君?」
「ん?」
「『ん?』じゃないよ。どれだけ撫でるの? 私の頭、禿げるよ?」
「おっとすまん。考え事してた」
「もう、しっかりしてね。もし悩みがあるなら私に相談してね? 何でも解決しちゃうから!」
ソルは、えっへんと言いたげに胸を張って宣言した。
「大きく出たな。でもまぁ、少し時間をかければ出来ることだからなぁ。あんま気にしないでくれ」
「そう? ならいいんだけど......それでメルちゃんは寝ちゃったの?」
「あぁ。魔境の島の防衛をしてもらっていた」
「あ〜、アレね。あの問題って何とかならないのかな? 毎回毎回手で倒してるけど、そろそろめんどっちいよね」
ここでも来たか。めんどっちい。
「それについても考えるか。マサキ達の情報だと、島を取ったらモンスターは湧かないはずなんだけどなぁ」
「私、島の取り方間違えたのかな」
少し暗い顔をして答えるソルに、俺はまた頭を撫でながら答えた。
「それは無いだろ。ちゃんとウィンドウで出てるし、何かしらの仕様かバグがあるんだろう」
「うへぇ、何とかしないとダメかぁ」
「まぁ、その時は俺もやるから安心してくれ。家の為に頑張るからさ」
「うん! 一家の大黒柱として、頼りにしてるよ!」
「......はい」
そこまでドッシリと構えられないが、出来る限り頑張ろう。
これからはメルが流暢に喋る機会が増えるかもしれませんね。
一種の成長として捉えて頂けたら嬉しいです。
次回『忘れられた木工職人』お楽しみに!
誤字報告や星評価、ありがとうございます!とても嬉しいです。