シテ......コロ...シテ......
体調不良は精神から来ている事が判明し、そのせいでより悪化しました。
これはケツイするしかないですよね。ちょっと地下世界に行ってきます。
「オートマタ見っけ。アルス、手ぇ出すなよ」
「御意に」
フォラス鉱山をテクテクと歩く事数分。メイド服を来た人形のモンスター、『オートマタ』が出てきた。
コイツは服のバリエーションが豊富らしく、殆ど裸の様な外見から、王族と呼ぶに相応しい煌びやかな衣装に身を包む個体もいるらしい。
『オキャク......サマ......』
服のポケットからナイフやハサミを取り出す人形はとても恐ろしく感じるが、今から俺が行う行為の方が100倍は恐ろしいだろう。
「ごめんな。『マグナ』」
『ガガガガガガガ!!』
俺が魔法を使った瞬間、オートマタの行動が不規則になり、最終的に動かなくなってしまった。
「主、今何を?」
「磁力で攻撃した。完全には死んでいないから、暫くしたら復活すると思う」
「では、今の内に実験を?」
「あぁ。でもその前に『テイム』......は弾かれるか。よし、実験だな」
マサキ達に言われた通り、オートマタはテイムが出来なかった。
それと今のオートマタの状態だが、本来なら機械に磁石を近付けた事による故障だが、ゲーム的に言えばこれは『大ダウン』だろう。
完全に故障......死んでいればポリゴンになっているはずなので、それを考慮すると、このオートマタはまだ生きている。
「では、失礼します」
ステラをインベントリから取り出し、そっとオートマタの胸を開いた。
切った時に人間の肌の様な感触は無く、どちらかと言えば段ボールの梱包に使う、セロハンテープをカッターナイフで切っている感覚に近い。
「うわぁお、モンスターの神秘ぃ......」
「これは中々に......芸術的ですね」
オートマタの内部は無数の歯車で構成されており、その見た目は時計のムーブメントの様だった。
俺の魔法により一部が磁気を帯び、その状態を表すエフェクトとして稲妻が走っているが、今は逆に、オートマタの機構をより美しく魅せる補助をしていた。
「主」
「分かってるよ」
エフェクトが段々弱まっていくのを見たアルスが急かしてくるが、俺も俺で覚悟を決める時間が欲しかっただけだ。
「ごめんよ」
磁気を帯びていない歯車から順に取り出し、俺は1つずつ、丁寧にインベントリに突っ込んでいった。
1つ、また1つと歯車を外していく。
傍から見れば異様な光景だろうが、ここには他のプレイヤーがいない。
そのお陰でサーチをオートマタ内部だけに展開して、どの歯車が磁気を帯びているのかが鮮明に分かる。
『ガ......ゴガ......』
3分程で大ダウンから起き上がろうとしたオートマタだが、内部の歯車が噛み合わないせいで口しか動いていない。
オートマタがモンスターとはいえ、かなりエグい事をしていると自覚した。
俺がオートマタの立場なら......そんな事、考えるだけでチビっちゃう。
まぁ、もっとエグいホラゲーがVRであるんだけど。
「あと少し」
もう既に、何百何千と歯車を外しているが、中々綺麗に取り外せない部品もある。
歯車と歯車を繋ぐアームの様な部品や、3つの歯車の動力を同時に伝える棒状の部品など、100パーセント完全な状態で取り出すことが出来ない部品もあった。
そしてオートマタの解体を初めて30分。遂に全ての内部機構を取り外すことに成功した。
『シテ......コロ...シテ......』
インベントリに入っている凄まじい量のアイテムを確認していると、作品でよくある、意思だけ残って体が大変な事になっている人間みたいな発言が聞こえた。
「主」
「分かってるから。オートマタがこんな事を言うと思わなかっただけだ」
これはある意味、命を頂いた訳だ。人間が動物を殺して食べる様に、開拓作業に必要なオートマタを作る為にオートマタを殺している。
「いただきます」
最後にそう言ってからステラで首を斬り、オートマタはポリゴンとなって散った。
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『オートマタ』を討伐しました。
『機械人形の部品A1』×5入手しました。
『機械人形の部品A2』×13入手しました。
『機械人形の部品A3』×8入手しました。
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・・・・・・
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今までに見た事が無い量のドロップ品の種類が表示されたが、分類で分ければそうでもなかった。
まず、オートマタの部品は各『AからG』まであり、それぞれのアルファベットに対応した番号が『1から100』まである。
これを組み立てる地獄の作業を乗り切れば、1体のオートマタが完成する訳だな。中身は。
そして全ての部品をインベントリに突っ込んで思ったんだが──
「これ、相当レベル高くないとインベントリに入りきらないじゃん」
俺のレベルは累計で602。つまりは6,020スロットのインベントリがあり、それぞれに99個まで入れる事が出来る。
今回オートマタから取った部品は、種類にして約700種類。
今の俺でも他のモンスターの素材や武器、道具など、色々な物をぶち込んでいるので2,000スロットは使っている。
そこに新たに700スロット以上も使うとなると、最低でも270レベルは必要という事になる。
「オートマタの入手って、本来は数人がかりでやる事なんだろうな」
「またしても人手の話になる訳ですね」
「だな。しかも今回、設計図とか部品を入れる本体とか手に入ってないから、めちゃくちゃ険しい道に足を踏み入れたな」
「努力あるのみ、ですね」
「あぁ」
まぁ、設計図などのアイテムがあるのかは知らんが、俺には頼りになる生産職の先輩がいる。
そしてあの人達なら、分からないアイテムがあればこう言うだろう。
『取り敢えずオークションを見よう』ってな。
「上手くゲットした語り人が売りに出してるかもしれん。見付けたら買うとしよう」
「成程。全て主が1からやる必要はないという事ですね」
「そういう事だ。さぁ、予備の部品としてもう何体か部品を分けて貰ってからゴーレムのテイムをしよう」
「主に人の心は無いのですね」
「フッ、俺はよく化け物と言われるからな。周りからの目など、とっくの昔に死んでいる」
そうしてアルスと雑談を挟みながらフォラス鉱山を進み、とある気付きがあった事以外は、順調に部品集めが進行した。
そしてとある気付きの事だが、それは単純だ。
『フォラス鉱山にゴーレムが出ない』
このエリア、ゴーレムの代わりにオートマタが出現するのを忘れていた。先程モンスターリストを確認して、ロックゴーレムの項目が無いことに気付いたんだ。
「で、またここに帰ってきたと」
「ドゥルム鉱山ですね」
初心者が最初にぶち当たる壁。ロックゴーレムをテイムしに、俺達はドゥルム鉱山へ帰ってきた。
『ガガ......ゴゴゴ......』
「うっはぁ! 初手ロックゴーレム来たァ!」
「運が良いですね。さ、主。テイムを」
「任せろ!」
オリハルコン製の糸を右手に、アダマント製の糸を左手に装備してロックゴーレムを拘束し、脚部を切断していく。
アダマント製は丈夫なのでロックゴーレム自体の拘束に使い、オリハルコン製は鋭いので攻撃に使う。
操帝スキルをフルに使ったゴーレムいじめだ。
『ガガ......ガガガガ!』
「お、抵抗を辞めたな。それじゃあ『テイム』!」
左手にかかる力が弱まったのを確認し、俺はテイムを発動させた。
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『ロックゴーレム』をテイムしました。
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「よっしゃぁぁぁ!!!!」
「ここ最近で1番の声ですね」
「ったりめぇだ! 今日何時間かけてテイム失敗してると思ってんだ。こんなの嬉しいに決まってんだろ!」
昼間に出発して今は深夜。ここに来てようやく1体目のテイムが出来たんだ。喜びは一際大きい。
『マスター、命令ヲ』
「あ、ロボットタイプっすか。これは困った」
ロックゴーレムから念話が来たが、完全に道具としてのモンスターに成り果てている。
これではいかん。もう少し会話が出来るモンスターが良い。
「君に名前を付けよう。だからもう少し、柔らかく喋ってくれ」
『ソレガ命令デスカ?』
「あぁ。もっと自分の意志を前面に出してくれ。テイムしたからには君と仲良くなりたいからな」
『分カリマシタ。デハ、個体名ヲ』
ロックゴーレムかオートマタをテイムしたら、まず最初に付けようと思っていた名前がある。それをこの子に授けよう。
「お前の名前は『ペトラム』だ。よろしくな」
『はい。マスター』
こうして俺は、初めて普通のモンスター『ロックゴーレム』をテイムした。
ちなみに犬子君もオートマタから部品を取って倒してます。怖い。
そういえば次回は300話のようです。ビックリ。
本来の予定なら完結しているのですが、どうしてこうなったんでしょう。
まぁ、ダラダラと惰性で書くくらいなら、スパッと完結させますのでよろしくお願いします。
では、次回もお楽しみに!