開拓の要
ラスボスを倒しました。そして私はランスにハマりました。
「主。何をやっているんですか?」
「ん? アルスか。これはな、斧とか鎌とか鍬......島の開拓に使う道具を作ってんだ」
「なるほど」
ソル達が魔境の島(仮名)に向かってから15分が経った頃、俺はリビングで道具の組み立てをしていた。
完全にソル達が島を取れる事を前提にして動いているが、取らぬ狸の皮算用にならないと信じている。
「なぁアルス〜」
「何でしょう」
「人手、足りると思うか? あの島ってさ、かなり大きいじゃん?」
「島ですからね。ですが我々9人ならば問題ないでしょう」
「いやさ、確かに9人でも出来ると思うよ? でもさぁ、それ、何時間......いや、何日何ヶ月かかると思う?」
「......短期間では無理でしょうね」
「じゃろ? そんで儂ゃ思った訳さ。『人手を増やそう』とな」
島が広い。んなこたぁ分かっていた。島に湧く全てのモンスターを殲滅するくるいなら広さは気にならない。
でも開拓するとなれば話が変わる。
そして俺達は9人だ。男3人、女6人の集まりだ。
そんな人数でD○SH島の数倍はありそうな大きさの島を開拓するのは途方に暮れる。つまり、何が言いたいかと言うと──
「俺、テイマーになります」
「おぉ......着いて行きます」
「ありがとう。だけどそこら辺のモンスターをテイムする訳じゃないぞ。俺がテイムするのは、飛びっきり強くて、飛びっきりカッコイイモンスターだ」
「強くてカッコイイ......となると、やはりドラゴンでしょうか」
「んにゃ〜それもアリっちゃアリだが、もっと色んなモンスターを知らないとダメだ。ドラゴンだけが強くてカッコイイ訳じゃないだろ?」
「仰る通りです」
っていうかドラゴンが開拓作業に役立つのかどうか、まずそこから考えないとダメだ。
移動手段やモンスターからの防衛策としてなら良いかもしれないが、木こりや土地ならしの作業には一切向かないだろう。
メルみたいに人になれるならまだしも、ドラゴン形態だけだとすれば、ドラゴンのテイムは愚策だろうな。
「開拓の要はテイムモンスターだ。ソルの式神のモグラ君みたいな、一点特化したモンスターを探さなきゃならん」
「う〜ん......もしかしたら、ですが、イブキ様やシリカ様なら何かご存知かもしれません」
およよ、それは良いアイディィィアではなァァァいか。
「お〜い、イブキ! シリカ!」
早速2人を呼ぼう。この世界の先輩として、プレイヤーである私に知識をお恵みくださいな。
「ここに」
「来ったよ〜!」
「ありがとう。2人に聞きたい事があるんだ。漠然としていて申し訳ないが、何か強くてカッコ良くて島の開拓に向いてそうなモンスターはいるか?」
「「いない! / いません」」
「オーケーありがとう」
今のは検索候補が酷すぎる。ただでさえ2つの項目で見つかりにくいのに、3つ目が更に見つかりにくくしている。
「じゃあ質問を変えます。開拓に向いてるモンスターは何かいますか?」
「いるよ! それこそ、ドゥルム鉱山の『アースモール』とか、フォラス鉱山の『オートマタ』とか良いね!」
「他にも、『ロックゴーレム』も畑作業に向くでしょうし、ニクス山に生息する『モスマンモス』も、整地作業に向くかと」
「ありがと〜うございます」
なるほど。やはり土系統のモンスターが開拓向きか。となると今2人が言ったモンスターの他に、王都防衛戦にも出てきたステラアントとか良さそうだ。
「本当にありがとう。道具作りが終わったらアルス連れてテイムの旅に出るわ」
俺の言葉にアルスは無言で頭を下げ、それを見ていたシリカはサムズアップをしてから口を開いた。
「分かった! 狐ちゃん達には伝えておくよ!」
「もし何かあれば、直ぐに私達をお呼びください」
「あぁ。年内には開拓を終わらせたいから、早め早めの精神で行くぞ。2人はいつでも顕現出来るように心の準備だけしておいてくれ」
「「は〜い! / はっ!」」
「以上、解散!」
そうしてシリカはスキップをしながら戻って行ったが、イブキはそのままリビングに残った。
俺は不思議に思ったので、イブキの目をガン見しながら聞いてみた。
「どしたん?」
「ルナ様の作業をお手伝いしようかと」
「おぉ、ありがとう。なら頼むわ。こっちの鍬を組み立てたくれ。金属の部分と木材の部分を、魔道具で熱しながらくっ付けてくれ」
「承知しました」
イブキは気遣いのプロである。人手不足を補う前の作業で生じる人手不足問題に気付くとは、流石だ。
「では我も。我はこちらの、鎌の部分でよろしいですか?」
「おう。鎌は鋭いから気を付けてな。全部神鍮鉄で出来てるから、めちゃくちゃ痛いぞ。ちなみに俺は3回切ってる」
「......大丈夫ですか? 主」
「大丈夫。指が落ちただけだ」
「「............」」
俺も驚いたよ。ちょっと斧の部品を取ろうとして当たっただけなのに、指がポリゴンになったんだもん。
いやぁ、あの場にソルが居なくて良かったよ、本当に。見られたらどうなっていた事か......考えたくない。
「ほら、手を動かしな。今なら腕が落ちても直ぐにくっ付けてやるぞ。アフターケアまでバッチリだ!」
「気を付けます」
「私も」
「頑張れ頑張れ」
そうして10分が経つ頃には組み立て作業が終わり、俺とアルスはテイムの旅の準備を始めた。
「イブキ。もしソル達が早いようなら、先に道具一式持たせてやってくれ。後から渡すのは効率が悪い」
「お任せを。道具に関しては1人1セットでよろしいですかな?」
「あぁ。よろしく頼む。じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
テイムに使えそうな料理や保存食を持ち、俺はアルスを連れてペリクロ草原に来た。
この草原は沢山のエリアと接しているエリア......言い方を帰れば、『親エリア』だ。そしてそこからドゥルム鉱山やアルトム森林など、『子エリア』に繋がっているから、取り敢えずでここに来た。
「さっ、まずはドゥルム鉱山へ行こう。アースモールなるモンスターがいるとの事だが、俺はこれまでに見た事が無い」
「相当に珍しいモンスターなのでしょう。これは長丁場になるでしょうね」
「だな。じゃあ行くか。『転移』」
アルスを光に戻してから転移を使い、瞬時にドゥルム鉱山まで移動した。
庭から直接行くよりも草原を経由して転移した方がMP効率が良いので、毎度親エリアを経由してから子エリアへ移動するぞ。
「よし。『サーチ』全開!」
「見つかりましたか?」
「いや、まだ使っただけで見てないから。2秒で全部見れたら化け物だろ」
アルスが間髪入れずに聞いてくるので、思わずまともなツッコミを入れてしまった。
「う〜ん......それらしい反応は無いな。他の語り人の迷惑にならない程度に殲滅するか」
「再度出現するのを狙う訳ですね。分かりました。このアルス、主の右腕として敵を消しましょう」
「よろ」
それから少し作戦会議をして、プレイヤーに出会ったらそれ以上は前に出ず、引き返しながらアースモールを探す事にした。
多分、裏ドゥルムの方ではアースモールの代わりにララバジ先輩が出るからな。表でやり......ん? ララバジ?
「おいアルス。やべぇ事に気付いちまった」
「どうされましたか?」
「裏鉱山でララバジテイムした方が良くね?」
「あぁ、確かに。盲点でしたね」
「いや待て。ララバジの主食って石とか鉱石だったよな。だとしたら、実は作業には向かないんじゃね?」
「確かに。盲点でしたね」
「うん。今モンスターリストを見たけど多分ダメだわ。アースモールでいこう」
「はっ」
凄まじい速度で空回りし、何とか元の地点に帰ってこれた。
ここからはアースモール......モグラ探しの始まりだ。
レアモンスターだろうが何だろうが、絶対に見付けてテイムしてやるぞ!
ツインテールではありません。
次回はチマっと書いてるので、気長にお待ちを!
進捗や適当なお話は作者Twitterにて、こぼしてます。
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@yuzuame_narou_2
では、次回もよろしくお願いします!