なるほど。ここが地獄か
ラージャン出ないじゃん!って思っていたら、まだ私のハンターランクは6でした。
緊急クエストやり忘れていた.....クッ!
やっさん達と出会ってからリアルで2週間が経ち、11月も終わりに近付いてきた。
俺はこの2週間で南へ東へ海を飛び、別荘を建てるに良さそうな土地をずっと探していた。
途中でMPが切れて海に落ち、苦しくない溺死を数度経験したり、ドラゴン15体の群れに撃墜されたりと色々とあったが、めげずに空を飛び回っていた。
そして今日、土曜日の朝。遂に発見したのだ。
別荘を建てるに良さそうな島を。
だが──
『グォォォォ!!!!』
『ガァァァァァァァァ!!』
『キュィィィ!!!』
「なるほど。ここが地獄か」
そこは、魔境とも言える地獄の島だった。
そこに現れるモンスターは全てレベル500越え。複合属性魔法で攻撃するのは勿論、罠や巨大な巣を作っているモンスターで溢れていた。
ドラゴンですら恐れるような巨大な芋虫。そしてその成虫であろう、黒すぎてぼやけて見える蝶。
更には全身に氷の羽が生えている美しい巨大な鳥など、どれも化け物が勢揃いだ。
「リル、メル、アルス。来い」
俺はテイム組3人衆を呼び、それぞれに武器をプレゼントした。
「リルはツクヨミさん・改二を。アルスは俺の武器の試作品の全てを。メルには龍核を」
「「ありがとうございます」」
「パパ、いいの?」
「あぁ。ちょっとこの島のモンスターを全て蹴散らすだけだ。俺の力よりお前達の力の方が大きいからな。遠慮せずに使え」
「うん」
「じゃあ皆。散開!」
俺が指示を出すとリルとアルスは左右に分かれ、メルは俺の傍で龍核を持っていた。
「いただきます」
メルがそう呟いてから龍核を齧ると、メルの髪が銀色から雷を纏った金色に。左右の目は変色し、右目が金、左目が緑色になっていた。
そして最後にドラゴンの角が頭から生えると、こちらにくるりと回ってからはにかんだ。
「じゃ、じゃあ行ってきます。待っててね?」
「おう。気を付けてな〜」
「うん!」
いつもの子供っぽい喋り方からしっかりとした喋り方に変わり、背中から厳つい翼を生やして飛んで行った。
「目には目を。歯には歯を。地獄には地獄をぶつけてやろう......クックック」
化け物みたいなモンスターが揃う場所に、化け物を歯牙にもかけない人物を送り込む。
些か敵が弱い気もするが、リルの安全を考慮すれば丁度良いくらいだろう。
『グギャァァァァ!!!!』
3人の撃ち漏らしたであろう芋虫が、俺に向かって吠えてきた。
「キッッッモ。取り敢えず君達を根絶やしにしないと島が取れないんでねぇ。悪いけど消えておくれ」
俺はそっとイグニスアローを行動詠唱で連発し、250本ほど撃ち込んだあたりでポリゴンとなって散っていった。
人差し指を指揮者の様に振るだけで魔法を飛ばせるのは、非常に気持ちが良い。何せ、1度振っただけで2本のイグニスアローが出るので爽快感があるのだ。
「つ〜か硬すぎだろ。こんなの普通のプレイヤーはどうやって倒すんだよ」
戦神を使っても80本は撃ち込まなければならないし、更に不死鳥化を使っても40本は確定だ。
HPがバカみたいに高いのか防御力がぶっ壊れてるのかは知らんが、これだと掃討に時間がかかるだろう。
そうなってはダメだ。モンスターを根絶やしにするには速度が重要なのだ。何故か?
それは、島を手に入れる為だ。
俺は今回、土地探しをするに当たってフレンドの全員に聞いたんだ。『自分の土地ってどうやってゲットするん?』ってな。
すると皆は口を揃えてこう言ったんだ。
『島なら制圧。陸なら買う』と。
陸に関してだが、イニティなどの街にも空き地があり、その土地をリテで買えるらしい。だけど値段が馬鹿にならないらしく、ヴェルテクスの敷地と同じだけの大きさを買うとなれば、軽く億は必要になるんだとか......
そして島の方はめちゃくちゃ単純だった。
その島に巣食っているモンスターを全滅させることで所有出来るとの事。
だけどこれは運ゲーと言われているらしく、弱いモンスターが大量に居るパターンの島は当たりで、強いモンスターが大量に居るパターンが大ハズレらしい。
「俺は世界で最も不運な男と言えるだろう......化け物しかいない島に来ちまったもん。ちくせう」
ちなみに、マサキ情報によると今までに発見されている島で1番難易度の高いと言われている敵のレベルが、確か350だったはずだ。
マサキ......最高難易度更新したぞ。後で素材を分けるからな。
『父様。ボスらしきモンスターと遭遇しました。現在はアルスさんと共に交戦中です』
『パパ。島の周りは全部倒したよ。後は真ん中にいるデッカイのだけ』
おや、娘ズから連絡が来た。俺も急いで向かおう。
『お疲れさん。メルも真ん中のヤツに向かってくれ。俺も直ぐに行くから』
『分かりました。では戦闘に参加します』
『行っくよ〜』
マサキ情報にはボスがいるなんて事は無かったが......高難易度故だろう。頑張って倒そう。
「『不死鳥化』『フラカン』『戦神』『ストレングスエンハンス』『インテリジェンスエンハンス』『ブラストボム』」
俺は大量のスキルと魔法を使い、『最初からクライマックス戦法』で島の真ん中に向かって飛んだ。
木々の上空を飛び、凄まじい速度で流れていく景色はとても爽快だ。風が体を刻む感覚でさえも、心地よく思える。
「──ほいっ、到着」
3人が交戦している場所は丁度島のど真ん中で、この部分だけ木が生えてなく、少し広い草原になっていた。
「パパ、そっち行った!」
『ギュキキキ!!!』
金属を打ち合わせた様な音と濁った声を出すモンスターの見た目は、一瞬で逃げ出したくなるような巨大なムカデだった。
無数の足をパタパタと動かしながら移動する姿は、ホラーとグロを掛け算で合わせた様な、地獄をその身に写した存在だ。
「うひぃぃぃぃ! キモイキモイキモイキモイ!!『イグニスアロー』『イグニスアロー』『イグニスアロー』ぉぉぉぉ!!!」
嫌だ。無理。マジで無理。生理的に無理。帰りたい。
『ギュキ?』
俺のへなちょこイグニスアローをものともしないムカデは、その気持ち悪い頭部を傾けて俺に目線を向けてきた。
「うぅぅぅぅ......」
「主、1度退避を」
いつの間にか後ろに来ていたアルスが俺を抱え、大きく後ろへ下がってくれた。
「パパ、大丈夫?」
「大丈夫ですか?」
「無理......ムカデはマジで無理......3人に任せていい?」
「それは難しいです。せめてソル様がいらっしゃれば倒せるかと。我達にあのモンスターは強すぎます」
「えっ、人数増やしたら最初からやり直しなんだけど......仕方ない。すまんが1回帰るぞ」
苦渋の決断だ。殲滅中の島に別のプレイヤーが来ると、また1からモンスターがスポーンするシステムなのだが今回ばかりは仕方ない。
ソルと指輪に託したい。俺にはアイツが倒せない。
『ギュキキキキキ!!』
「キモイ......『テレポート』」
最後に一撃加えようとしてきたムカデの前で空間魔法を使い、俺達は家の庭に帰ってきた。
「はぁぁぁァァッフゥ」
まさかの出来事に大きな溜息をつき、芝生に仰向けで寝転がった。
式神達とメイド達が手入れしている芝は、ベッドにも負けず劣らずのやわからさと寝心地だ。
「主、我はソル様を呼んで参ります」
「頼む......あ、ムカデって事も伝えてあげてくれ」
「御意に」
アルスが城の方へ向かうと、リルとメルも俺の横で寝転がった。
今のメルは龍核覚醒状態を解いており、いつもの銀髪金眼スタイルだ。
「にしても、父様に苦手なものがあるとは思いませんでした」
「うんうん。パパ、なんでもいけるとおもってた」
「残念。俺はそこそこ虫が嫌いだ。正直、あの芋虫が限界だった」
「むしなんてこわくないのに」
「ですねぇ。意外な一面を見れました」
嗚呼、悲しきかな。俺は虫に対しては無力極まりない。
昔は虫を素手で触っていたけれど、中学生くらいから拒絶するようになったんだ。
戦闘でハイになっている時ならまだしも、島を入手するという重大な任務をこなしている時は絶対に無理だ。
「ル〜ナ君。ムカデに負けたって聞いたけど、大丈夫?」
アルスに呼ばれたソルが、寝転がっている俺を覗き込みながら声をかけてきた。
嬉しい。ソルが心配してくれるのはとても嬉しい。だがな、1つだけ間違いがある。
「負けてない! この翼を見てみろよ、死にたくても死ねないんだよぉ! だから負けてない!」
「おっと、それは失礼しました。それで、そのムカデを私が倒せばいいの?」
「......お恥ずかしながら俺には倒せそうにないので、討伐の程、よろしくお願いします」
直ぐに正座し、ソルに向かって頭を下げた。最早土下座に近い。
「フッ、よかろう。夫を支えるのは妻の役目。私が相手しようじゃないカッ!」
これは何も言わずにお願いしよう。ツッコんだら負けだ。こういう時のテンションはそのままにしておくのが正解だって、じっちゃんが言ってた。
「リル、メル。ソルのサポートをしてやってくれ。メルはこれ、雷龍と風龍の龍核。同時に使う時は考えて使えよ」
「うん。ありがと、パパ」
「分かりました。母様をお手伝いします!」
「じゃあルナ君。帰ってくるまでゆっくりしてて。絶対に島、取ってくるから」
何故だろう。ソルが言うと『島』と言うより『シマ』に聞こえる。
まぁ、暴力で勝ち取り、守る場所だからあながち間違っていないんだが......う〜ん。
「3人とも、行ってらっしゃい」
「「「行ってきます!」」」
「『テレポート』」
3人を地獄の島に送ると、俺は再度、庭の芝生に寝転んだ。
「のんびりさせてもらおう。頑張れ、3人とも」
まぁ、のんびりしないんですけどね。ハハハッ!
メル回で龍核覚醒について深掘り出来たらな、と思います。
折角『穏やかな日々』と銘打っているのですから、ゆっくりハイペースに休みなく激動の日々にして行こうと思います。
では、次回も楽しんでください!