生産職のお友達 後編
本日2本目です。楽しんでくださ〜い
「ではまず、簡単にポーションの作り方からおさらいしましょうか」
ギルドハウス(お城)の1階、調薬用の生産室にて、4人で『美味しいポーションの作り方講座』を開いた。
「いえ、それなら十分知っているから、早く内容が知りたいわ!」
「ヒメ、落ち着け。さっきの鍛冶で見た通り、基本から違う可能性もあるんだぞ。しっかり聞く価値はあるだろう」
「うんうん。これは俺たちの大きな躍進に繋がるでしょうし、ちゃんと聞きましょう!」
「......それもそうね。聞く」
良いですねぇ。黙って聞いてくれるのは教える身としても助かるよ。
「ではまず、ポーションとは何でしょうか。ヒメヒメさん、お答えください」
「ポーションは薬品ね。その気になれば、毒にも薬にもなるわ」
「はい、大正解です。ポーションはHPやMP、状態異常を回復させる効果だけでなく、毒のポーションもあります。例えば、これとかね」
俺はそう言って自分の血と回復ポーションを混ぜた毒薬を取り出した。
「「「何それ?」」」
「毒薬です。簡単に作れて、数秒で死ぬ毒。でも重大な欠点があります。見てて下さいね?」
そう言って俺はポーションの蓋のコルクを外し、毒薬と称した液体を一気に飲み干した。
そして数秒経っても異常が無いことを確認し、話を続けた。
「これは俺の血によって作られた毒ですので、血の持ち主である俺には効きません。このように、毒は毒でも『効く毒』と『効かない毒』がある事を知っておいて下さい」
「「「は〜い!」」」
掴みは完璧だ。ここからちゃんとしたポーションの話に持って行けるだろう。
「では毒について触れたので、今度はポーションについて。ポーションは錬金術で作る場合と、調薬スキルで作る2パターンの作り方がある事を知っていると思います」
「はい!」
俺がそこまで言うと、ハイドロさんが真っ直ぐ手を挙げた。
「ハイドロさん」
「逆に、それ以外の方法でポーションは作れるのでしょうか!」
「作れます。それを説明しますので、気楽に聞いてくださ〜い」
俺は自分の前に鍋を置き、加熱用の魔道具を取り出した。
「はい、これを見て何か気付いた人はいますか?」
「はい!」
「ヒメヒメさん」
「『料理』スキルを使う......んだね?」
「その通り! 美味しいポーションとはズバリ、『料理スキルを使う』事なのです!」
「「「へぇ〜」」」
でもコレ、実は壮大な創作秘話があるんだ。
「俺も元々、調薬スキルで何とか出来ないものかと色々試していたんです。ギルドの依頼で頼まれたハチミツを貰って試したり、色んな果物の果汁をブレンドして入れたりと、本当に色々と試しました」
「だけど、どれも『微妙』でした。ポーション本来の薬の匂いはとれても、どこか調和しない臭さがある。それに果物の方が強すぎると、今度は逆に『ポーションの効果が落ちる』と散々でした」
「そしてソルと新しいアイデアを出そうと話し合うこと15秒。彼女の口からこう出たのです」
「料理スキルを使おう! ってね!」
「「「え?」」」
良い感じに回想出来ていたと思ったら、ソルが急に入ってきた。
「どしたんソル」
「ん〜、何か面白そうな事をしてるな〜って思って......来ちゃった☆」
「そのムーブは無神経な女がする事だから辞めなさい。ソルはもっと常識あるでしょうが。似合わないことは辞めた方が良い」
「ごめんなさい!」
「許す」
「出直します!」
「どうぞ」
流れるような動作でソルが出て行くと、今度は扉をコンコンとノックをしてから入ってきた。
「こんにちは。ルナ君の彼女やってます。ソルです」
「「「こ、こんにちは」」」
「用件は特に無いのですが、私も混ぜてもらっても良いでしょうか」
ソルが俺の目を真っ直ぐに見つめて訴えて来るので、仕方なく3人に聞いてみた。
「俺は大丈夫ですから、やっさん達が決めて下さい。出て行かすも混ぜるも、自由にしちゃっていいです」
「勿論大丈夫ですよ! 寧ろ大歓迎です! よろしくお願いしますね、ソルさん!」
やっさんが1番に立ち上がり、ソルに向かって綺麗なお辞儀をした。
「はい、お願いします。やっさんさん」
「さ○なクンさんやめーや。笑っちまうだろ」
「では、やっさんさんさんと」
「増えてる増えてる」
「ん〜......それではやっよんと」
「だから増えてるしその『さん』じゃねぇって! しかも呼びにくいわ!」
「え〜、じゃあどれが正解なの!? ルナ君教えて!」
「そりゃあ、やっさん君が正解だろう」
「それじゃあ『さか○さんクン』になっちゃうよ!?」
「もう何言ってるか分かんねぇよ!」
「どれが正解なの!? 本人が教えて!」
そうして2人で一緒にやっさんを見ると、生徒陣は必死に声を抑えて笑っていた。
こんなクソみたいな漫才で笑えるとは、人生が幸せに満ちていそうだ。うん。
「ははははっ! そのまんまやっさんで良いですよ! ははっ、ちょっと......ダメかも......あははは!」
楽しそうだなぁ、3人とも。俺はこの空気をどうしたらいいか全く分からなくて困っているぞ。
「良い夫婦漫才だな、ルナ」
笑いの波が去ったハイドロさんがそう口に出したが、まだ夫婦とは言えないのでは、という、俺の考えがある。
「う〜ん、まだ夫婦じゃないんで恋人漫才......ですかね?」
だが、そんな俺の考えをソルはズバッと斬り裂いた。
「いやいやルナ君。貴方の左手の薬指を見てくださいよ。そして私のも......夫婦じゃないっすか?」
「......ホンマや。これは夫婦漫才や!」
よく見たら俺の手にはシルバーリングが。ソルの手にはめちゃくちゃ綺麗な金の指輪が付けられとる!
これは完全に夫婦っすわ。夫婦漫才を名乗れますわ。
「ってそうじゃない! 話が脱線しすぎだ! ポーションの話はどこ行った!」
「ここにあるよ」
「何であるん......俺が用意したんだった」
一瞬、まともに頭が回らなかったが何とかギリギリ踏みとどまることが出来た。
流石にこれ以上話が脱線......脱線どころか違う路線に行っていたが、それを阻止しないと。
「はい。では話の続きをしますが、もう分かりますよね。鍋に元となるポーションと美味しい奴をぶち込んで適当に煮るだけです。そしたら美味しいポーションが出来ますよ」
「雑だね。あ、もし付与スキルを使ったら全部台無しになるから、ちゃんと料理スキルだけを使うのがコツだよ!」
「「「なるほど」」」
「それぐらいか? ウマウマポーションの作り方って」
「うん。やってみれば結構簡単だからね。でも錬金術で増やせないから、1個1個手作りなのが大変なんだよね〜」
「いいじゃん。その分作り手の愛が込められてるし」
「え〜、分かる〜?」
「分かる。その証拠に、たまに吐きそうなくらい甘いヤツ混じってるから」
「あっ......それは当たりだね。たまにやっちゃうんだよね〜、ルナ君の事を考え過ぎて、ハチミツ入れ過ぎちゃうの」
「妙にドロっとしていると思ったら、えげつない甘さだったんだ......アレ、回復ポーションじゃなくて良かったなぁ」
遠い目をして語る俺の手を優しく握り、ソルが俺の後ろから抱きついてきた。
「ごめんね。気を付けるね」
「いいよ。そもそもポーションを使う状況に持ち込んだ俺が悪いからな。職業剣士たるもの、相手との戦い方が悪いからヘマするんだ。俺の方こそ気を付けよう」
そっと体を反転させてソルの頭を撫でていると、3人がガン見している事に気付いた。
やらかしてしまった。ついついソルワールドに入ってしまった。
「あ、美味しいポーションは以上です。料理スキルを使うってのを意識して貰えれば、簡単に出来ますから」
「「「ハーイ......」」」
不味いぞ。3人から殺気を感じる。そのせいでソルのモフモフの尻尾と耳がピンと立っている。
「羨ましいぜチクショウ」
「私もいつか、あんな男に......」
「やはり良い人と良い人は結ばれる運命に......あぁ、涙が出てきた」
3人の怨嗟が籠った呟きを受け止めつつ、俺達は庭に出た。
「じゃあ、最後にフレンドになって解散しましょうか。生産関連で困った事があれば俺から聞きますし、逆に聞きたかったら何でも聞いて下さい」
「女の作り方を教えてくれ」
「努力してください。以上」
「クソがァァァ!!!!!!!」
天に向かって爆音の咆哮をあげるハイドロさんに、俺は1つ咳払いをして答えた。
「まぁ、俺は努力していなんですが、ソルが努力したのでね。相手を想う気持ちを原動力に動けば、自ずと結果は出ると思いますよ」
「......それっぽいな」
何故かハイドロさんからの信頼が薄いが、これから築いていけば良いだろう。そう信じよう。
そうして何とか2人とフレンドになれたので、今回の交流は上手くいったと言えるだろう。
これからは生産系で困ったら、この頼れる先輩に聞こう。
逆に戦闘関連で困っていたら、俺が助けに行こう。
双方が良い関係を築けるように、俺も頑張ろう。
「では、今日はありがとうございました」
最後に一礼して感謝を伝える。久しぶりに完全に赤の他人と関わって、俺にとっては良い刺激になった。
この経験を次に役立てられるよう、精進して参る。
「こちらこそ、とても勉強になりました。ありがとうございます!」
「「ありがとう」」
「はい! お疲れ様でした!」
そうして3人が門を出て行ったのを見送り、俺は庭で適当にソルと喋っていた。
「良いねぇ。ルナ君が誰かと関わろうとするの、お母さん嬉しいわぁ」
「誰が母親じゃ。でもまぁ、思ったんだよ。このまま2人だけで生きていくより、もっと色んな人を知って視野を広げた方が、より楽しくなるかなって」
「大正解だよ。私はずっとルナ君を応援してる」
そっと腕を絡めてきたソルに俺も体を寄せ、今日2回目の夕陽を眺めた。
俺は本当にこの子を幸せに出来るんだろうか。そう思ってしまう程にソルが眩しく感じる。
こんなにも明るい太陽を、優しく照らすことは出来るのか? この星を包み込める程、大きな器を俺は持っているのか?
どんどんと自分をマイナスに考える思考もあるが、絶対に俺は諦めない。
何としてでも幸せにしてあげたい......いや、するんだ。
大好きな人を笑顔にさせるのは、俺の役目だ。決して忘れてはならん。
「じゃ、そろそろ落ちるか。晩ご飯作ろう」
「うん!」
ネタに走りすぎたorz
それと体調をぶっ壊したので、3本目が出せなくなりました。
次回は少々お待ちください(´;ω;`)