銀髪さん、武器を売る 後編
武器を売る(武器を売るとは言っていない)
アダマントと鉄とホープダイヤモンドを1対8.5対0.5で合金にすると、通常の鉄と比べ物にならない強度、魔剣術適正を誇る合金が出来る。
これは俺が作り出した、オリジナルの合金だ。
そしてこの合金、実は名前が無かった。
俺が独自に編み出した合金だからか、このゲームで初めて名前の無いアイテムに出会った。
流石に名前が無いのはおかしいと思い、ヘルプさんに聞いみたんだ。すると面白い答えが帰ってきた。
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新発見アイテムは製作者が名付け出来ます。
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俺はこのシステムに驚いたが、それならと思い、名前を付けてみた。
「出来た。『月鉄』」
はい。そのまま自分の名前から頂きましたありがとうございますどういたしまして。
「う〜ん、美しい。白く淡く光る鉄は綺麗だな」
我ながら良い名前をしていると思う。月の鉄、その名が相応しい見た目をしており、自信を持ってこの金属の生みの親を名乗れる。
「ま、コピーに使うんだけど。それ〜」
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『月鉄』を消費し、『月剣』の複製錬金をしますか?
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『月剣』
Rare:35
製作者:ルナ
特殊技:【月の導き】
攻撃力:3,100
耐久値:1,500,000/1,500,000
付与効果:『剣術補正:特大』『斬撃補正:特大』
『刺突補正:特大』『生命力吸収:10%』
『魔力吸収:10%』『全属性魔法補正:特大』
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「複製しま〜す」
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複製錬金に成功しました。
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そういや月剣は練習用で作ったので名前が適当だが、逆にこれはこれでアリだと思ってる。
これまでの武器のように凝った名前や自動で付けられる名前より、シンプルな名前の方が良い気がするんだ。
取り敢えず、今回売却する用の剣の銘を変えよう。何にしようかな〜、悩む。
「あ......アレにするか。前々から予定はしていたし、丁度いいな」
そうしてコピーした剣の名前が変更された。
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『ルナちゃん特製☆アイアン♪ソードっ!』
Rare:10
製作者:ルナ
攻撃力:310
耐久値:2,500/2,500
特殊技:《刺突貫通》
付与効果:『剣術補正:大』『斬撃補正:大』
『刺突補正:大』『生命力吸収:1%』
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「フッフッフ......フフフ......フーハッハッハ!」
性能は月剣の10パーセント程度にまで落ちているが、俺は初心者を対象に売ろうと思っている。
つまり、これぐらいが丁度いい感じの性能のはずだ。
市販のアイアンソードより10倍強く、8倍硬い。その上、付与効果で補正マシマシかつ、斬れば斬るほどHPが回復する継戦能力。
そんなの、初心者に打って付けの性能じゃないか!
「ハッハッハ! ハッハッ............はぁ。ログアウトしよ」
いやぁ、流石に陽菜の手伝いをしないと良い旦那は名乗れないだろうからな。
これからも一緒に暮らしていくんだ、ゲームとリアルの優先度を決めなければならない。
◇ ◆ ◇
「ひ〜なっ! 何か手伝えることはあるか〜?」
「お疲れ様。じゃあまな板洗ってもらえるかな?」
「任せろ」
隣で陽菜が唐揚げを作りながら、俺はまな板や包丁を洗って行く。
お互いに何も喋らないが、『隣に居る』という感覚だけで幸せなのだ。
大好きな人がすぐ近くに居て、料理をしてくれている。それも、2人で食べるご飯を。これ程までに心が満たされる事は他にあるか?
「いや、ない」
「何が無いの?」
「これ程までに幸せな時間は他にないと思ってな。だってさ、信じられるか? 小学生の時から一緒にいた人と、恋人になり、一緒に暮らしてる事を。俺は今でも『夢なんじゃないか』って思うぞ」
「えへへ、そんなに想って貰えるとは嬉しい限りだね!
実は私もね、今の生活が嘘なんじゃないかって、思う時があるんだ。毎日が楽しくて、嬉しくて......こんな日常なんて想像出来なかったもん」
陽菜が言い終わったタイミングで洗い物を終え、俺はタオルで手を拭いた。
「想像出来なかった、か......昔に思ったりしなかったのか?」
「したよ? したけど、ここまで幸せだなんて思わなかった。月斗君が近くに居るだけで笑顔になれるし、触れてくれたらすっごくドキドキする。こんなに幸せに満ち溢れてるなんて、ガキンチョの私にはイメージ力が足りなかった」
「なるほど......ん? そういや陽菜ってガキンチョらしさあったか? 俺の記憶の中の陽菜って、子供っぽさはあっても大人な思考をしていた印象なんだが」
それこそ、俺を道場に通わせた思考は5歳児とは思えないものだ。
『好きだから』ってだけで、人はそこまで成長するものか?
......するものだな。俺もFSでランキングを残した時は『好き』だから出来たんだ。『好き』は最高のモチベーションであり、最高の成長材料でもある。
きっと、陽菜も同じようなものなのだろう。『好き』に魅せられた人間だ。
「私は今だってガキンチョだよ? ず〜っと月斗君が欲しいと思ってるもん。もう10年以上経つのに、まだ追い求めてる」
イタズラっ子の様な笑みを浮かべてそう語る陽菜は、確かに子供っぽかった。
そんな陽菜にそっと近付き、頬を人差し指で優しくつつきながら言った。
「可愛いやつめ。早く手に入るといいな」
「ふふっ、もしかしたら相手の方から来てくれるかもしれないの。だから、待つのも手かな〜って思ってる」
「さぁ、待ってても距離は変わらんぞ〜?」
俺がそう言ったタイミングで最後の鶏肉を揚げ終え、火を止めてから陽菜が振り向いた。
「いやいや、急がば回れですよ。ここはじっくり煮込んで、最後に美味しくペロッと頂こうかなと」
「食われるのか......」
「食べちゃうぞ〜!」
そう言って陽菜は俺に抱きつき、キスをしてくれた。
しばらく陽菜の唇をハムハムし、お互いに満足してから離れた。
「私、超幸せ」
「俺は超超幸せ」
「んにゃ! それなら私は超超超幸せだもん!」
「なら俺も......陽菜と同じくらい幸せ」
「......いけず」
「ははっ、いけずな月斗君は嫌いですかな?」
「大大だ〜い好き」
最後にギューっとハグをしてから、晩ご飯の盛り付けを始めた。
いやぁ、こんな生活をしていて良いんでしょうかねぇ。そろそろ自分、デロンデロンに溶けて消えちゃいそうな気がするんですが......
よし、決めた。デロンデロンのドロンドロンに溶かされたら、逆に溶かし返してやろう。
それも等倍で返すんじゃない。倍で返そう。
そうして陽菜も倍で返してきたら、永遠に俺達は幸せでいることが出来る。
これからの目標......いや、目標というか、心がけることの1つだ。
『甘々スパイラルの構築』
これを気にしていこう。
「さ、食べよ〜う!」
「そうですな」
「では、「いただきます!」」
陽菜のお手製唐揚げを齧った。すると中からは鶏肉の旨みと、強烈なまでの生姜の香りが口いっぱいに広がった。
「美味しい......美味しいよ陽菜!」
「えへへ〜、ありがと!」
「生姜が効いていてとても美味しい。噛んだ後の生姜が通過すると、ちゃんと鶏の味と醤油の味がするんだ。これは今までに食べた唐揚げで一二を争うレベルで美味しい」
「んふっふ、嬉しいなぁ。また作ってあげるよ」
「ありがとう。楽しみにしてるよ」
「うん!」
それから恙無く食事が進み、洗い物やお風呂を終えてからのゴロゴロタイムにて──
俺は陽菜に膝枕をしていた。
「ふぁぁぁあ。月斗君、もう寝よ〜」
「そうだな。明日は本屋に行こうと思ってるから、俺も早めに寝るか」
「な〜に買〜うの〜?」
「建築学の本。別荘作りに役立てようと思って」
「お〜......ガチガチだぁ......すご......い〜」
ダメだ。もう陽菜の眠気が限界だな。ちゃっちゃと部屋に運んじゃおう。
そうして陽菜をお姫様抱っこしてベッドに寝かせると、俺はその横に寝転がり、毛布と布団を一緒に掛けた。
「すぅ......すぅ......」
隣から聞こえる可愛い寝息をBGMに、俺も寝るとしよう。
「おやすみ、陽菜」
陽菜の頭を優しく撫でてから両手を布団に入れると、ちょっとした事を思い出した。
それは『武器を作っただけで出品していない』ことだ。
ちょっと色々な事が重なってしまったから、大人しく出品は明日にしよう。
そう思い、俺は布団の中で陽菜の手を繋ぎ、意識を闇に手放した。
出品は明日になるみたいですね。楽しみです。
次回『おべんきょう』お楽しみに!
感想や気になる事があれば是非、気軽に書いてくださると嬉しいです。皆さんの言葉と触れ合えば、私もより成長出来ると思うので!
では、これにてドロン致します。