銀髪さん、武器を売る 中編
ス゜(睡眠時間がバラバラになった音)
「おきて〜」
この言葉が聞こえた瞬間、俺の止まっていた頭の回転が再稼働し始めた。
「ぅ......え......メル?」
「うん。いつまでたってもパパがもどないから、『だいいちじん』としてメルがおこしにきた」
「第1陣......あぁ、そういう事か」
どうやら、俺はガッツリ寝ていたらしい。
小屋を作る際の費用から場所、更には別荘を建設予定の土地の探し方なども考えていたら、脳がオーバーヒートを起こしたんだろう。
超長時間の戦闘と無理な思考が重なり、マイブレインは安全装置を稼働させたんだな。
「あ〜......おはよう、メル」
「おはようパパ。それとおかえり」
「ただいま」
悪魔の血の事は一旦置いておき、俺はメルを優しく抱きしめた。
「さて、メル隊員が派遣されたという事は、このまま待っていれば全員来てしまう可能性もあるということだな?」
「うん。ママがくじをつくってた」
「そっか。ま、早めに戻るか」
「うん!」
メルの頭を撫でてから、手を繋いで一緒に鍛治小屋からでた。
そして目に入る庭の風景は、普通の庭のように見えて、その実はソルの式神達が夜に掃除をしてくれている。
俺はその事を軽くメルに話し、リビングのドアの前に来た。
「......ソル、怒ってるかな」
「ママはおこらないよ」
「......ソル、心配してたかな」
「してた」
「......ソ「いいからあけて?」......うっす」
小さなことで弱気になるな、俺。
別に疚しい事をした訳じゃない。ちょっと『行ってきます』と『ただいま』が言えなかっただけなんだ。
ちょっぴり不安だな。
「じゃ、じゃあ行きます」
「はやく」
俺はドアをガチャリと音を立てて開けると、金色の物体が超高速でぶつかってきた。
「ぐふぅ!」
や、やばい。今のソル、表情が読めん。っていうかメルさん助けて!
今の状態は俺にソルぶつかり、その衝撃に耐えられなかった俺は後ろに倒れ、その上にソルが乗っている。
まるで動物の捕食シーンだな。俺は喰われるのか?
「......おかえり」
「ただいま。心配かけてごめんな」
「......うん。マサキ君から、すっごい強いモンスターと戦ってるってチャットが来たの」
「ほうほう」
「それで、心配になって私もチャットを送ったの。戦闘が終わったら気付くかな? って思って......」
「ごめん。気付けなかった」
ソルの綺麗な金髪を撫で、ぽんぽんと背中を優しく叩いた。
あの時の俺は疲労困憊だったからな。家に帰る事しか頭に無かったんだ。
その上、計画を練っている時は集中しすぎていたからな。確認すべき事も、やるべき事も、全て頭からすっぽ抜けている。
「すぅぅ......はぁぁ......無事で良かったよ、ルナ君」
「ガッツリ匂いを嗅ぐスタイル、嫌いじゃないよ」
「えへへ〜、久しぶりのルナ君だも〜ん!」
「1日だ......そうだな。俺も、久しぶりのソルだな」
不粋な事は言わなくて良い。今は大好きな人を、押し倒された状態で抱きしめよう。
「やっぱり悪魔の血とか臭わないな。ソルは分かるか?」
「あ、その話はシリカちゃんから聞いた。では少し失礼して......すんすん......クンカクンカスーハー」
ソルが俺を強く抱きしめると、体勢はそのままで、物凄い勢いで俺の全身を嗅ぎ始めた。
あぁ、なんだろう。こう......ソルが犬になってしまったな。狐というより犬だ。
普通は俺と鼻の間に小さな距離を開けて嗅ぐはずなのに、鼻をべちゃっと俺にくっ付けている。これはもう、確実に犬でしょう。
「すぅぅぅぅぅ......はぁ。臭わないよ!」
「見てたら分かるわ!」
「いや、本当に。いつもの良い香りしかしないよ?」
「そうか。ま、分かるのは付喪神だけっぽいな」
「な〜るほど? あ、リビング入る?」
「入る」
「では退きましょうかね、と」
そうしてソルが俺から退いたことにより、ようやく全員に顔を見せることが出来た。
◇◇
それから2時間ほど経ち、俺はソルに膝枕をしながらモフり、フーがリビングの掃除をしながらのんびりとしていた。
ソルをモフる至福の時間......この幸せを噛み締めよう。
「へぇ〜、じゃあガッツリ武器を売っちゃうんだね」
「あぁ。そこそこの性能の武器を量産して売ろうと思う。俺の考えとしては、初心者を対象に『安くてそこそこ使える武器』を目指す。これなら量で売れるからな」
今もそうだが、序盤って本当にお金が足りない。
そんな状況で武器を改善しようとしても、そこそこの武器くらいしか買えないだろうからな。
すると、窓を箒で掃除していたフーから衝撃的な言葉を貰った。
「あの、大前提として言いますが......ルナさんの作った武器って、下手すりゃ8桁いきますよ?」
「「え? そんなに?」」
「そんなに、ですね」
フーの言いたい事を纏めるなら、性能が良すぎるから高くなるんだろう。
でも大丈夫。その辺はきちんと考慮してある。
「安心してくれ。錬金術でコピーしまくるから。性能はゴミと魔剣の間を狙うつもりだ」
「えぇぇぇ!! 嘘でしょう!? 折角の技術を錬金術でコピーするんですか!?」
「当たり前じゃん。初心者が買えなかったら誰にも広まらないし、そもそも本気で作ったやつを誰が買えると思うんだよ」
「......そうですよねぇ。う〜ん......刀鍛冶として、コピーだけはつらいですねぇ」
「だろうな」
飽くまで刀鍛冶として、だ。
正直、込める思いを刀と普通の直剣で比べてみたら、圧倒的に刀が勝つのだ。
だから、コピー品を世に出すのは嫌なんだよな。
我が子を模したフィギュアを売るイメージか? 知らんけど。
ん? 我が子を模したフィギュア?......めちゃくちゃ欲しいな。
じゃない! 今は武器の話だ。
「ま、刀は初心者に向かないからさ。俺は直剣で勝負しようかなって思ってる〜」
「る〜!」
「妥当ですね。ではコピー元の剣を作るので?」
「あ、それはもう作ってる〜」
「る〜!」
「......そうなんですね」
練習で作った、魔剣以上神器未満の剣を使おうと思う。
素材はアダマント1に対して鉄8.5、ホープダイヤモンド0.5の合金を使って作成した剣だ。
性能として、市販のアイアンソードを超強化した、化け物アイアンソードですな。
「じゃあ、直ぐにコピーを作る〜!」
「る〜!」
「あぁもう! さっきからルールールールーうっさいですね! その謎の語尾をやめてください!」
「「ごめんなさい」」
怒られちゃった。もう制作に取り掛かった方が良いよな。
「じゃ、行ってくるよ」
「うん、行ってらっしゃい。あっちでの晩ご飯は何がいい?」
「う〜ん......う〜ん......う〜〜〜ん」
「ふふっ、そんなに悩んじゃうか〜」
悩む。悩むに決まっているだろう。もう冬とも言える気温の今、暖かい鍋系統のご飯にするか、いつも通りのご飯にするか。
「アレだな。唐揚げにしよう。生姜を沢山使ってポカポカにしよう」
「分かった! じゃあ漬ける時間も考えて、私はもう落ちるね」
「あぁ。俺もコピーを作ったら落ちるよ」
俺の膝から起き上がったソルとキスをして、それぞれのアクションを起こした。
リアルでは陽菜が料理を。ゲームでは別荘建築の為の最初の工程を俺が。
あ〜、早くログアウトしたいからチャチャッと作ろ。
次回は後編なので、次回予告という予告は出来ないのですが.....一言。
『甘いです』以上。お楽しみに!