銀髪さん、武器を売る 前編
ただいま
「たでぇま」
「おかえりなさい、父様」
「おけ〜り〜お兄さん」
「はい、ただいま」
サタンを倒してから家に戻り、リビングに入るとリルとシリカが出迎えてくれた。
近寄ってきたリルを抱っこして、心のHPを少し回復させた。
「ん.....お兄さん、もしかして強い悪魔と戦った?」
「戦ったけど......分かる?」
「分かるよ。悪魔の臭いがするからね。返り血浴びまくったでしょ!」
「浴びまくりフェスティバルだったな」
だって、頭にドッパンドッパン矢をぶち込んでいれば、血は飛びまくるだろうしなぁ。
でも、リルはそれに気付かなかったな。何ともない感じか?
「と、父様! 今すぐ離してください!」
「はいはい。ごめんよリル」
やっぱり気にするようだ。臭くてごめんね。許しておくれ。
「まぁ、嫌な臭いじゃないんだけどね。っていうかお兄さん、セレ姉は?」
「セレネぇさんは果樹園直帰。ウキウキしてたからそっとしておいた方が良い」
「了解〜」
それにしても、悪魔の臭いか......落としておこうかな。何かあったら嫌だし。
「シリカ、悪魔の臭いってどうやって落とすんだ?」
「ん〜とね、聖水ぶっかけたら一撃だよ!」
「ワシ聖水とか知らんわ。代用品は?」
「......分かんないや! シリカ、悪魔の血とかそのままだったし!」
ダメだ。シリカに聞いたのがいけなかった。
能天気と脳筋を備え持ったメイドに聞いてはいけないと、深く理解したぞ。
「じゃあフーにでも聞くか」
「うん......でもね、今の時間を考えて? 明日の方が良いよ?」
「そうっすよねぇ......今、夜中の3時ですもんねぇ」
そう。今の時間はゲーム内時間で午前3時20分。
深夜も深夜、ド深夜だ。この時間にフーを叩き起すのは可哀想だ。
「仕方ない。鍛冶でもして時間潰すか」
「いや父様、寝ましょう?」
「それはこっちのセリフだぞ? リルの方こそ寝なさい。大体なんでこんな時間に2人が起きてるんだ?」
そこが疑問なのだ。何故、この2人は深夜まで起きている?普段なら1番早く寝ているというのに。
「それは......その......い、言えません!」
「リルちゃんがお兄さんを待つって言うことを聞かなかったからだね。狐ちゃんも『寝るよ〜』って言ってたんだけど、頑固モードに入ってたね」
「ちょ、シリカさん!」
「あはは! シリカは嘘つかないもんね〜! あはは!」
あらあら。これ、もしサタンとの戦闘が長引いていたらどうする気だったんだろう。ちょっと気になるな。
でも──
「そうか......ただいま、リル」
「はい! おかえりなさい、父様!」
あかんわこの子。健気や。健気すぎる。
何でそんなに俺を待ってたのかは知らないが、睡眠時間を削ってまで『おかえり』を言いたいだなんて......嬉しいね。
「取り敢えずリルは寝るんだ。どうせ今日も俺の布団で寝ているであろうソルの所へ行ってこい」
「分かりました。では、母様の所で寝ます」
「あぁ。おやすみ」
「おやすみなさい」
最後にリルの頭を撫で、リビングから出るのを見送った。
「はぁぁぁ............しんど」
リルを見送り終わると、今日の疲れが一気に襲いかかってきた。
ソファにボフンと寝転がり、リザルト画面で討伐の再確認をした。
「だろうね。お兄さんが戦ったの、どんな悪魔?」
「サタン」
「うっわぁ......それはお疲れ様だ〜」
倒れた俺の頭を優しく撫でてくれた。
俺、マジで疲れたよ。黒龍から疲れっぱなしだったんだよ。
「もう悪魔と戦いたない。黒龍とも戦いたない。だって、アイツらスゲェ硬いんだもん。幾らリズムを掴めたからって、あんな地獄はもう嫌や」
「Oh......男が弱いとこを見せるところに惚れる人がいるけど、少し気持ちを分かっちゃったな」
「シリカは元男神だろ。やめてくれ」
「あはは! でも今は完全に女の子だよ? シリカいる?」
「武器としてなら。女はソルだけがいい」
「うっは! 狐ちゃんだけ『で』いいって言われるんじゃなくて、狐ちゃんだけ『が』いい......これフー姉ちゃんが聞いたら死ぬぞ」
「大丈夫。それならフーは500回くらい死んでるから」
「手遅れだったか......あはは!」
明るいヤツだなぁ、シリカは。疲労でフラッフラの頭には強すぎる光だ。
「ふぅ。じゃあ鍛冶小屋に行ってくる。お前も寝ろよ?」
「シリカとしてはお兄さんに寝ろと言いたいね」
「違いない。でも少し、少しだけ確認したい事があるからな。終わったら着替えて部屋に戻るよ」
「なら良し。行ってらっしゃい、お兄さん」
「いてきま」
リビングを出る前にシリカの頭をガシガシと撫で、俺は城を出た。
「う〜わ、何か式神増えてんじゃん」
鍛治小屋に行く前に庭を見てみると、総勢10体くらいのモンスターが庭の手入れをしていた。
初期から居るピクシーは雑草の根を抜き、赤いアルミラージの様なモンスターが、ピクシーの持ってきた根を焼いていた。
そしてモグラの様なモンスターが花を根っこごと持ち上げ、小さなロックゴーレムが土を張り替えていた。
「ははっ、小さなモンスターが頑張って仕事をしているの、可愛いな」
せっせと仕事をしている式神に何かご褒美をあげたくなったので、少し考える。
「ご飯は食べなさそうだしな......確か昼間に寝ることで体力回復させてるんだっけか」
前にソルがそう言ってた気がする。間違っていたら......ごめんね式神達。
「よし。この子達に小屋を作ってあげるか。社員寮的なヤツを」
そうと決まれば即実行......する前に──
「金で誰かに小屋作りを頼むか。デザインを参考にしたいな」
俺がこれから作ろうと思っている別荘は、俺が1から全部作りたい。
ゲームだからこそ出来る、木材集めから土地の確保。そして建築。
本来なら膨大な時間をかけて作る家も、ユアストなら8分の1の時間で作れるのだ。
それを踏まえた上で、デザインやら何やらを学びたい。
こればっかりは俺だけの思考では色々と至らない。
だから、誰かにサンプルを作ってもらい、俺のイメージの糧となってもらう。
式神達には、その副産物として寮が与えられるということになるな。
「すまんな式神達。ご褒美を副産物扱いしてしまって......でも、一石二鳥なんだ。許してくれ」
イメージの糧と式神の安眠。それが今回の行動の中心だ。
「なら依頼用の金を稼がんとな。遂に手を出そう。プレイヤーオークションに」
前々から気になっていたのだ。他プレイヤーの作る武器が。そんでもってどうやって売っているのか、とか、どういう目的で売っているのか、興味があったんだ。
鍛冶師としての地位とか、お金稼ぎとか、どんな理由で売っているのか聞いてみたい。
でもその前に、まず自分の目的とその実行だ。
『やってみたいけど手を出さない』人に『何が目的なんですか?』とか言われても、『はぁ?黙れボケ』って帰ってくる未来しか見えんからな。
まず俺の目的だ。『お金稼ぎ』が目的だということを主張しないと。
それと、武器自体は簡単に作れるから、何か印象に残る名前や売り出し方をしないと、そもそも俺の話を聞いてくれなさそうだしな。他の鍛冶師って。知らんけど。
「うん。もっと計画を練ろう」
そう思い、俺は鍛治小屋で金策計画を練り始めた。
今回、別タイトルの方が良い気がしてきた.....いや、いいのです!このまま走ります!(不動の心)
次回、後編です。お楽しみに!