狂想曲、終演
羽の生えたミノタウロスに変身したサタンと交戦すること5分。俺は防戦一方の状態に陥っていた。
理由は単純。『サタンが硬い』からだ。
多分、VITが数十万はあるんじゃないっすかねぇ。刃が入らんのですよ。
そこでと思い、セレナで攻撃をしても......効いている気配がない。
これまでユアストを7ヶ月ほどプレイしてきたが、ここまで倒せないと感じさせる敵はいなかったな。
「あ......マナポ切れた」
『タイムリミットね。死ぬか殺すか選びなさい』
「当然ブッコロさ。頭痛がなんだ。吐き気がなんだ。帰ったらソルをモフればオールハッピーだ」
『はぁ......』
避けるだけの戦いって、本当につまらない。相手の攻撃を『見て』避ける、その繰り返しはかなり苦痛だ。
でも、こうして避けていれば見えてくるものもある。
例えば──
『フンッ!!!』
この掛け声の時の叩き付け。この攻撃の後は、絶対に3秒かけて床に刺さった剣を抜くモーションが入る。
そのタイミングに何か弱点が露出すると考えている。
「あ゛ぁ゛頭痛い」
『私としては、早めに死ぬことをオススメするわね』
「嫌だ。絶対にコイツを倒してから帰る」
『......病む前に決めてね』
「あぁ。サポートだけ頼む」
『はいはい』
次に振り下ろしが来た時、心臓だけじゃなくて目や耳も狙ってみよう。そしてら何か、見えるかもしれない。
『グオォ!!』
「違う」
これは横に切り払う攻撃。これでは隙が生まれない。
『ガァァァァァァァァァ!!!!!!』
「うるさい」
こちらはただの咆哮。ボリュームがデカすぎてHPが減り、耳からポリゴンが出る。
『フンッ!!!』
「キタ!」
よしよし。振り下ろしを避けて、剣が床に刺さる0.2秒前にセレナを構え、桜器の矢を番える。これでスタンバイ完了だ。
そして1射目は心臓に。続く2射、3射目はそれぞれ、目と耳に直撃した。
『グゥゥアァァ!!!』
3射のうちのどれかの矢が深く刺さった瞬間、サタンが大きく怯んだ。
「......やべ、速すぎてどれが効いたか分かんねぇ」
『耳よ。あの魔神、意外にも耳が弱点のようね』
「サンキューセレナ。じゃあ全部左耳だけに当ててくれ」
『右は?』
「近接でやる。まずは左を潰す」
『了解よ』
戦いながらテストをしなきゃいけない。魔法が効くのか、とか、剣で切れるVITなのか、とかな。
少なくともセレナで貫通は出来るので、勝機が見えたと言えるだろう。俺、もう少し頑張れ。
「ふぅ。隙タイム終わりか」
サタンの左耳に15本ほど矢をぶち込むと、遂にサタンが立ち上がった。
『オマエ......ワタシノミミヲ......ヨクモ!!!』
「よくもブモーってか? 牛らしいじゃん」
『ルナ。貴方はもう黙りなさい。つまらないわ』
「ごめん」
モーをかけるのは良くなかったみたいだな。今度は何をかけようか。
......いや、かけちゃダメなのか。MPが切れてるせいでまともな判断が出来んな。
『フンッ!!!』
「ヨシキタ!」
戦っている中でカウントしたが、大体5回に1回のペースで叩き付けをしてくるな、サタン。
以外と優しい行動パターンをしてくれていて、お兄さん嬉しいよ。
「そいっ、そいっ、そいぃ!!!」
セクスタプルショットを3回。系18本の矢を左耳に打ち込む。
『1本外したわ』
「ん。ならコイツ......でっ!」
6本で外すなら、5本で確実にダメージを与える。これならば安定したDPSが出せるだろう。
......そうか。コイツは短い隙にいかにダメージを与えられるか、つまり、高DPSの出し方を掴まないといけないモンスターなのか。
サタン君、君はもっと弱くなって道場でも開くべきだ。
初心者プライヤーにダメージの極意を教えるべきだと俺は思うぞ。
そして耳を撃って怯ませては追撃し、立ち上がっては振り下ろしを待ち、また耳を撃つというループを繰り返すこと3分。
遂に終わりが見えてきた。
「はぁ......はぁ......もうそろそろ俺も限界臨界神界深海」
『絶好調ね』
いや、もうホント限界なんす。MP切れが長く続いてるせいか、視界に白いエフェクトがかかる状態異常にもなっているんだ。
『ウ......コロシテヤル......ウゴクナ......アァァ!!』
サタンの遅い振り下ろしをヨロヨロと回避し、俺はセレナを構えた。
「サタン、つらい戦いをありがとう。これにて終演としよう」
『マダ......マダダ! オマエヲコロスマデ、演奏ハオワラナイッ!』
演奏だけ流暢に喋りやがって。完全に魔神となった訳じゃない事を示したいのか?
「残念。俺はもう帰りたいんでな......『戦神』」
ゆっくりと矢を番え、ミノタウロスの左耳に照準を合わせる。
「大好きな人と遊ぶのは、俺の人生の中で1番楽しい瞬間なんだ。こんな暗い空間より、ソルの近く......あの明るい空間が大好きなんだ」
ここまで真っ暗なのは、サタンが使った魔法を封じる魔法のせいだろうけどな。
「じゃ、さよなら。笑顔の方がお前に似合っていたよ」
最後にそう言葉を残し、俺はサタンの左耳に6本の矢を撃ち込んだ。
そして全ての矢がサタンの奥深くまで刺さると、俺のMPが回復するようになった。
『私は......憤怒の悪魔、サタン......笑みなど浮かべない』
最後にそう言って、サタンはポリゴンとなって散った。
だがあの瞬間、間違いなくサタンは笑っていた。
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
『憤怒の悪魔・サタンLv990』を討伐しました。
『悪魔の礼装・憤怒』×1入手しました。
『悪魔の魔剣』×1入手しました。
レベルが5上がりました。
『弓帝』スキルレベルが12上がりました。
『刀将』スキルレベルが3上がりました。
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
「え、これだけ?」
ってか刀使うの忘れてた。折角いつでも抜けるようにしていたのに、最後までセレナで戦っちゃった。
「称号無いんか......しょっぺ」
『偉そうな事を言うわねぇ。ギリギリだったクセに』
「う゛っ............あ、宝箱だ〜」
『今のはソルに報告ね。戦いの反省もせずに報酬だけを見るとは......ソルも呆れるでしょうね』
「やめてください。泣きますよ?」
『泣けばいいじゃない。ソルが胸を貸してくれるわよ? ......多分』
「よし分かった。ぜ〜んぶソルに報告してくれ。この戦闘の記憶にある言葉、行動の全てを話してあげてくれ」
『やっぱナシね。飴と鞭を間違えちゃった』
ダメだったか。まぁ、流石に今回の戦闘の反省点はよく分かっている。
戦う時の緊張感とか準備の悪さとか、挙げれば暇がないが......やはり1番は、『盾を使わない』ことだろう。
俺、どうしても武器で攻撃を受け流すことに慣れてしまっていて、盾を使うという判断を見失ってしまうのだ。
魔神憑依後のサタンだって、もしかしらパリィをする事で何かしらのアクションがあったかもしれない。
それなのに、戦闘中は盾を使うという判断を完全にデリートしていた。
この戦いで得た経験は、次に活かさないと武術大会で予選敗退決定だな。
「よし。箱開けて帰るぞ」
『ふふっ、それでこそ私のルナね。目付きが変わったわ』
「知らん知らん。さて、トレジャーボックスオープンヌッ!」
サタンが散った場所に現れた宝箱を開けた。
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
『憤怒の狂想曲の楽譜』×1入手しました。
『魔具:死を喰らう番の鳥笛』×1入手しました。
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
何と、中には2羽の鳥が繋がっている形をした笛が1つと楽譜が入っていた。
「何じゃこりゃ。楽譜っていうか、吹き方が書いてる紙じゃん」
『あらあら、とてつもない魔具を手に入れたわね』
「凄いのか?」
『超凄いわね。それ、吹けば死ななくなるわよ』
「それは凄いな。メルあたりにプレゼントしようか」
『貴方アホなの? 普通は自分で使うでしょ』
「いやいや、俺には不死鳥化があるからさ。俺1人だけが死なないより、2人が死なない方がよっぽど戦闘が有利に進むだろ?」
『......まぁ、そうね。私の言った事は忘れてちょうだい』
「忘れないよ。不死鳥化が使えない時、いざとなったら使えるからな」
柔軟な思考をするには他者の意見を取り入れないといけない。
自分1人の考えに1人で納得していれば、他人の言うことを聞く耳を持てなくなるからな。
例え小さな意識であろうとも、誰かの意見は聞くようにしよう。
「さ、帰るべ帰るべ」
そしてダンジョンの奥に出現した魔法陣に乗り、入り口に帰ってきた。
◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆
プレイヤー『ルナ』が『罪の宴・憤怒の調べ』を
クリアしました。これにより、一部ダンジョンの
情報が公開されます。
◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆
「ワールドアナウンス、久しぶりに出たな」
書き終えて思ったのですが、何故私は長い戦闘シーンをカットしているんでしょうね。
まぁ、単調な戦闘がダラダラ続くよりは良いと思うのですが、時々書いてて『ん?』ってなります。
さて、次回から○○の話になりますが、その前に久しぶりの掲示板を挟みたいと思います。
良ければ楽しんでいってください!では!