悪魔と踊る狂想曲
更新遅れました。理由としては、ランキングが569位という悲しい結果にイベントが終わってしまったのが原因です。
次のイベントはまったりやるので、更新ペースは戻ります。
「フフフ......こうして強い人間と戦うのは久しぶりです」
「デュフフ......以前にも似た経験がござったか?」
「えぇ。かつて『勇者』と呼ばれた方と。まぁ、あの人間は途中で体力が切れてしまいまして......疲れたところをサクッと、ね。フフフ」
「オウフ、拙者はお主の様な化け物と戦うのは初めてでござる」
サタンと五分五分の勝負を続けること1時間。お互いに疲れは無いが、会話をする時間が増えてきた。
『ねぇ、さっきから笑い声が可愛くないわよ?』
セレナが怒気を混ぜた声色で言ってきた。ちょっとだけビビっちゃった。
「......やってみたかったんだ。『デュフフ、コポォ、オウフ、ドプフォ、フォカヌポウ』を。もう辞めるから怒らないでくれ」
『えぇ、それが良いわ。今の笑い方だと、ソルに嫌われると思うし』
「......そうだな」
会話をしながらも飛んでくる魔法を撃ち落とす。
サタンも俺も、戦い始めてから1歩も動いて無いが、これは動かないのではなく、動けないのだ。
俺は、サタンが近付いたら発動済みの魔刀術で斬るし、俺が近付いたら、サタンもサタンで何かしらの近接攻撃をしてくるだろう。
膠着状態に陥っている。非常に不味い状況だ。
「さて。そろそろ前奏を終わりにしましょうか」
「お、助かる。最後はデカい魔法をぶつけるか?」
「フフフ......それも良いですが、何分力が拮抗するでしょうし──」
サタンは右手に持つ杖を掲げ、ブツブツと何かを唱えている。
『希う。魔素消失の空間を』
『其は還る。我の血肉となりて、蘇らん』
サタンの詠唱が終わると、ただでさえ暗い空間が真っ暗になった。
「フフフ......これは狂想曲。形に囚われない、私達だけの曲で踊りましょう」
「へいへい。『サンダー』......ん?」
おかしい。魔法が発動しない。それどころか、ブリーシンガメンによるMP回復を超えるスピードでMPが減っていく。
「フフフ......演奏終了まで耐えてくださいね......フフフ」
なるほど。サタン君、この空間の魔素を消しちゃったのか。だから魔法が発動しないし、えげつないスピードでMPが無くなるんだ。
それに確か、前にフーが言ってたな。『魔素の無い空気は毒』だと。
『ルナ、早めに決着をつけるか逃げさない。魔力欠乏は貴方じゃ耐えられないわ』
「......いいさ。マサキが死んだ今、俺は隠す物も無いからな。持てるアイテム全て使ってアイツを倒す」
『......虚勢でない事を祈るわ』
さぁ、サタンが動く前に2秒でインベントリチェックだ。
──よし。自作マナポーションが300本あるな。
「なぁサタン」
「何でしょう?」
「お前って弱点あるのか?」
「ありますよ? 勿論」
「教えてくんね?」
「フフフ......潔いですね。でも、ご自分で私の弱点を見付けてください。何でもかんでも誰かに聞くのは、自身の成長の妨げになりますよ?」
「違いない」
ここからは、マナポが切れて俺の戦意が喪失するのが先か、サタンが死ぬのが先か。チキンレースといこうじゃないか。
「ふぅ............」
俺はマナポを一気に飲み、少ないMPを使って魔刀術を発動させた。
「おや、準備が整いましたか。それでは始めましょう」
どうやらサタンは律儀に待ってくれていたらしい。優しい悪魔だな。
サタンは白い手袋を外し、暗い空間でも分かる、真っ黒な爪を見せつけながら拳を握った。
そして俺も桜器の刀を構えると、サタンが口角を上げてステップを踏み出した。
1歩、2歩。1歩、2歩。
相手のを意識を誘導させるステップだな。知識として知っている。
ふむ......やはり見てしまえば誘導されるな。ここは思い切って、足音だけを頼りに戦闘しようか。
「フフフ......良い判断です。ですが......足りませんね」
その声が聞こえた瞬間、俺のHPが4割ほど消滅した。
何だこれは? HP上限を削る効果なんて、聞いたことも無い。
「面白いなぁ、その効果。『不死鳥化』」
流石に喰らい続けた場合の最小HP上限が分からないので、一応の対抗策として不死鳥化を使う。これなら、例え上限が1になったとしても死ぬことはない。
「おや、それはまた珍しいスキルを......フフッ!『ディ・バインド・エクストラスキル』」
サタンにデバフを掛けられたかと思えば、俺の不死鳥化が解除されてしまった。それどころか、俺の持っている全ての特殊スキルが灰色の表示になった。
今の状態は、一種のスキル制限のようだ。
特殊スキルの全てが使用不可になっているな。これは鑑定やテイム程度ならまだ良いのだが、不死鳥化やマナ効率化までもが使えないので、俺の戦闘力が圧倒的に落ちる。
「さぁ、ここまではシナリオ通り......ここからはアドリブです。より美しく、旋律を奏でましょう?」
不味い。今さっき使われたスキルが持つ、とんでもなく大きな罠を見つけた。
それは『テイム』だ。コイツが使えないと、リルやアルス達に念話を送る事が出来ない。
お助けキャラが呼べないとは、かなり不味い状況になってしまったな。
「先程から喋られておりませんが、演奏をする気はあるのですか?」
「いやぁ、俺は『踊る』と言われた記憶しかないんだけど......それに、耳障りなうるさいコーラスは1人で十分だろ?」
俺がそう返すと、サタンは爪が食い込むほど力強く拳を握り締めた。
そして先程までの穏やかな表情から一転、憤怒の形相で殴りかかってきた。
「私の事を侮辱人間は、これまでに何人もいました......悪魔だからと、モンスターだからと......ですが、私の演奏を侮辱したのはお前が初めてです」
サタンは喋りながらも拳を振るうが、激怒しているためか、非常に単調な攻撃になっている。
だが、喰らえば一撃で家に帰らされそうだ。絶対に喰らわないようにしよう。
だって、単調とは言っても速度が尋常じゃなく速いもん。
まるで弾丸だ。FSの弾丸の速度と同じくらいだ。
「クソ、クソクソクソ!」
「落ち着け。演奏をするのに、酷い精神状態じゃ良い曲にはならないぞ?」
「何を言っている! 私の曲は完璧だ! 常に完璧なのだ!!」
あら、いけない。煽ったせいで少し精度が上がってしまった。
さっきまでのパンチが真っ直ぐな線を描いているとしたら、今のパンチは曲線だな。俺をホーミングしている。
「ふっ......よし」
パンチをする腕を振りきった瞬間に生じる、ほんの僅かな隙を突き、刀でサタンの腹を貫いた。
「ぐっ! これしきで演奏を止められると思うな!」
「刀刺さった状態で言われたら、ただのギャグにしか見えんな」
腹からポリゴンを撒き散らす貴族服の男とか、ちょっとシュール過ぎるぜ。
それから10分ほど、新たな桜器を作り出してサタンと交戦した。
どうやらコイツは素手か魔法の攻撃しかしないようで、一定の距離を保って立ち回れば簡単に圧倒出来る。
「ほれ、もうそろ諦めて散りな。マナポが切れそうなんだよ」
今日はずっと戦闘続きで、俺にも疲れの色が見えていることだろう。それにサタンは動きが人間のソレなので、よ〜く見ないといけない。
つまり、常に頭を使って戦わないといけないのだ。
ラースドラゴンのように、無心でリズムを作れる相手ではない。それが非常にやりづらい。
そして距離を取ってセレナで矢を放つと、サタンの様子が急変した。
「フフフ......クフフフフ......フハハハハ!!!」
「お、遂に覚醒モードが来たか。残りHP何割なんだ?」
大概、こういう敵の覚醒ラインは3割だ。
極度に弱っている訳でもないが、ピンピンしていると言えるほど元気ではない。
そんな生と死の間が、大体3割くらいだからな。
「クハハハハ!!『宿れ、魔神』ッ!」
やばいよ。魔神宿しちゃったよこの子。先程まで人型だったのに、数秒で筋肉モリモリの羽の生えたミノタウロスになっちゃったよ。
『グオオォォォォォォ!! コロス......! コロシテヤル!』
「わお、殺意マックスじゃん。逆鱗に触れるとは正にこの事。私ルナちゃん、中々な悪手をチョイスしましたね」
『呑気ね〜。仮にもアイツ、魔神憑依体だからね? ルナの勝率は3パーセントくらいまで下がったんじゃないかしら』
「元々3パーセントから3パーセントってか? つまり100パーセントだ」
『は?』
謎理論をぶちかましていると、サタンが動き出した。
サタンが右手を掲げて出現させた金と紫の魔法陣から、長さ3メートルはあろう大きな剣を取り出した。
あれは多分、俺の使っている桜器と同じような錬金術なのだろう。
やはり錬金術は奥が深い。あの時、ヘルメスに習ったことを活かしきれないな。
「......んな事考えてる場合じゃねぇ。これどうしよ」
『取り敢えず回避しかないわね。ルナの嫌いな防戦一方の戦闘になるわ』
「う〜わ、時間かかるタイプか......ってか何でサタンは牛みたいな堕天使になってんだ? 趣味か?」
『ウルサイッ!!!』
強烈な振り下ろしを繰り出してきたが、まだギリギリ回避出来る速度だ。
あともう少し早くければ、俺の体は真っ二つだろうな。
「いや、マジでこれどうしよう」
次回『狂想曲、終演』楽しんでください!