頭を使え、脳筋さん
短めdeath
「うわ、何アレ」
「アイツは『イラベア』ってモンスター。気色悪い外見だろ?」
「あぁ。SAN値がすり減りそうな見た目だな」
マサキと共に、霧の森を歩くこと数分。白と緑の混じった、ドロドロとしたスライムのような物を体に纏っている、気味の悪い熊に遭遇した。
『あらあら、厄介な奴を引いたわね』
「え、厄介なん?」
『えぇ。ま、気になるなら私を使わずに物理で行きなさい。私が言いたい事を理解出来るはずよ?』
「了解」
どんな風に厄介なのか、身をもって知るとしよう。
俺はステラを右手に顕現させ、左手はフリーにしてイラベアの前に立った。
『ジヂュルヂュルヂュル!』
「気持ち悪い声で鳴くな!」
『ヂュルルル!』
うわぁ、熊の体から触手を生やして来たんだけど。何なのコイツ、熊に寄生してんのか?
ロイコクロリディウムみたいなキモさがある。
「よっ! ......触手は斬れるな」
『ヂュルッ!』
続けて伸ばしてくる触手をぶった斬りながら近付くと、イラベアの表情が一気に変わった。
『ギュギャァァァ!!!』
「イラベアって...... 憤怒って事か?」
激おこプンプン丸の熊さんって、結構怖い。
さて、そろそろ首チョンパさせてもらおう。厄介と言われる所以を教えて貰わないと。
「そいっ!」
バスッ......
素早く繰り出した振り下ろしの一撃は、イラベアに当たった瞬間に全ての衝撃が吸収された。
「何この感覚......気持ち悪いな!」
『ね? 厄介でしょう?』
「あぁ。物理無効の熊さんという訳か」
『正確には違うわね。『強い力を吸収する』という事よ』
「そうなのか......イラベアって、もしかして『ダイラタンシー』からも取られてるのか?」
コイツ、名前の由来が複数の『イラ』の組み合わせなんじゃないか?
だって、もしもコイツがスライムみたいな奴に操られているとしたら、『傀儡』という言葉からも取られていそうだ。
『ギュァァァ!!!』
「マサキ先生。大人しく魔剣術使って良いですか?」
「許可する」
「ッシャ! 来い、ジュエルブレス!」
俺はステラを仕舞い、代わりに7色に見える宝石から作られた短剣を取り出した。
コイツは狐国の時に使うか迷った、魔剣術に命を懸けた短剣だ。
そしてコイツの威力を簡単に表現するなら、この辺りの木が全部灰になる感じかな。
『「何それ」』
「魔剣術用秘密兵器。その名も『核石剣:ジュエルブレス』ッ!」
「わーすげー」
『宝石の祝福ね』
その通り。この剣は宝石一つ一つに込めた気持ちが、それぞれの属性の魔剣術を強化してくれるのだ。
火属性なら、『ルビー』に『燃えるような情熱』みたいな、その色にあった気持ちで強化していったからな。
「イラベア、頑張って耐えろよ。『魔剣術:嵐纏』」
まず魔剣術を発動させる。これだけで極小規模の災害が起きる。
ジュエルブレスの周りに空気の塊が剣状に形成されていき、短剣があっという間に長剣に変わった。
『ヂュル!』
「いきますよ〜! ふんっ!」
サッとイラベアに近付いて剣を突き刺すと、スライムの粘性をもっと高めた様な、グチョグチョとした感覚を手に感じながらHPを削った。
『ヂュルッヂュ!!』
「オメェさん、HP高いな。トレーニングでもしてるのか?」
「弱肉強食」
「おぉ、それは良いトレーニングだ。一歩間違えたら死んでしまうが、ハイリスクハイリターン。君はどんどん強くなるだろう」
マサキの的確なツッコミを受け止めながら、イラベアの足を切ってから後ろに下がった。
『ルナ、それでアイツは倒せないと思うんだけど』
「勿論。まずは相手の力量を知らなければ打つ手が多過ぎて困るからな。小手調べってやつだ」
『ふ〜ん』
だって、最初から倒す気なら『戦神』も使ってるもん。
初めてのフィールドで初めてのモンスターとの戦闘だ。感覚を掴んでおかなければ、他のモンスターと戦った時に経験不足になってしまう。
よし、ここからはイラベア討伐にチェンジだ。
イラベアの攻撃は触手攻撃しかないはずなので、ある程度の距離を維持しながら魔剣術をぶっ刺すとしよう。
「『戦神』『魔剣術:海纏』......ここ!」
イラベアが俺に振り向いた瞬間、藍色に輝く海の塊を右目に突き刺した。
その瞬間、イラベアの内部から一気に水が噴き出し、イラベアだった物はポリゴンとなって散った。
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『イラベアLv218』を討伐しました。
『怒熊の心核』×1入手しました。
『怒熊の剛体粘液』×8入手しました。
称号『天災・剣』を獲得しました。
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「天災......せめて違う字が良かったなぁ」
甜菜とかで良いと思うんだ。俺は身内に対しては激甘だからな。上手く表現出来ただろう。
ただ、天災はなぁ......俺が駆除されそうだ。
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『天災・剣』
・一定以上の攻撃力を持つ魔法攻撃に1.1倍の補正
・悪天候の時、STRに1.2倍の補正
超高威力の魔剣術を放つ事で獲得。
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「取り敢えず、お疲れさん。アイツはルナくらいのステータスならほぼほぼ無効化するだろうから、今後も気を付けろよ?」
「ありがとう。まぁ、次に出会ったら初手で魔法使って灰にするから大丈夫だな」
「違いない。じゃ、進むぞ〜。この先は面白いダンジョンがあるからな」
「ダンジョンか......久しぶりだな」
最後にダンジョンに入ったのは、アルスと出会った時以来か。っていうかマサキの言う『面白いダンジョン』って、凄く嫌な予感がする。
大丈夫かな?
◇◇
「で、ここがダンジョンってワケ」
「木じゃないですかヤダー」
マサキにダンジョンだと言われた場所は、根から葉まで赤い木か1本生えている、少し開けた場所だった。
「触ってみろ」
「へいへい......マジかよ」
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『罪の宴・憤怒の調べ』に入りますか?
『はい』『いいえ』
※当ダンジョンは途中で帰還出来ません。
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「帰還出来ないって、死んだらどうなんの?」
「普通に街にリスポーンだ。ただ、徒歩や魔法で抜け出せないよ〜って事だな」
「なるほどなぁ......未クリア?」
「モチモチのロン。2階層目でパーティ瞬殺された」
「マサキのパーティで全滅とか、俺ら無謀じゃん。アホでしょ」
「いや〜、君にかかってますよ? ルナ先輩っ!」
「やめろ気持ち悪い......う〜ん、フー達を呼ぶべきか?」
『そこはルナの判断次第ね。刀を使うか使わないか、ってだけだし。私は呼んだ方が良いと思うけど』
「じゃあ呼びません。手持ちの武器で抗おうじゃないか。マサキ、行くべ」
「あいよ〜」
セレナの助言を完全に無視して俺はダンジョンに入った。
名前が実に意味深なダンジョンだが、それはクリア後に知れると信じよう。
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『罪の宴・憤怒の調べ』に入ります。
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さぁ、中身はどんなダンジョンなのでしょうか?
次回『悪魔の笑い声』お楽しみに!