エルフすげぇ!
あと数話はサクリス編です。
「村長。コイツが俺の親友のルナだ。その隣がルナの付喪神の......ごめん忘れた」
「セレナよ。忘れないでちょうだいね?」
「すみません」
村長の家に入ると、中は豪邸とも言える内装だった。
職人が作ったであろう木彫りのモンスターの置物や、踏んだら足音が消えるカーペットなど、凄く貴重そうな物で溢れていた。
ログハウスの豪邸を初めて見たが、とても勉強になる。
別荘は1から建てたいからな。参考にさせてもらおう。
「ルナ、セレナ。よろしく頼む。私はサクリスの長をしている『ナディ』と言う者だ。女の身だが、この村では1番腕が立つと自負している」
「ルナです。マサキに誘われて遊びに来ました」
「私はお付きね。ルナが私に対する認識を改めさせようと思った次第だわ」
アルカナさんに似ているが、ナディさんはエメラルドグリーンの髪色だから、血縁者とかではないのだろう。
というか『この村では』って発言、エルフ全体を見ればアルカナさんの様な強い人がゴロゴロ居るって事なのかな?
「それで、お前達はサクリスに来て、何をして遊ぶんだ? 村長の私が言うのもなんだが、ここはあまり良い物とかは無いぞ?」
「そりゃあ、ここの特産品のアレを買いに来たんですよ」
「あぁ、アレか」
マサキとナディさんがニヤリと笑いながら話しているが、俺はサクリス初心者なので分からない。
「アレって何だ?」
「フッ、それは実物を見てのお楽しみだ!」
「そうだな。私達サクリスの住民ににとっては必需品だが、人間からすれば面白い物だろうな」
分かんねぇよ。何だよ『アレ』って。お前は常連客か。
「あ、ナディさん。アレはアリナちゃんの所にあるよな?」
「あるぞ。お前の事は認知してるはずだし、大量に置いてるだろう」
「ありがとう。じゃあルナ連れて行ってきますわ!」
「あぁ。行ってこい」
「って事でルナ、セレナさん。行くぞ!」
「はいはい。ちゃんと説明してくれよ?」
「おう!」
取り敢えずマサキに着いて行って、それから判断しよう。
ナディさんはエルフの必需品と言っていたけれど、一体何のアイテムなんだろうか。楽しみだな。
そして歩いている最中、ふと気付いた。
「手が寂しいな」
「手?」
「あぁ。普段はソルやリル達が手を繋いでくれるんだけど、今回はいないからな。だから手が空いてるのに違和感を感じてしまった」
散歩に行く時。狩りに行く時。買い物に行く時。いつもソルやリル、メルの誰かと行っていた。そしてその時は、決まって手を繋いで歩いていたんだ。
だから、こうして歩いている時に手を繋いでいない事に、少々の寂しさを覚えてしまった。
「そうなのね。なら私が手を繋いであげる」
「遠慮しとく。俺は寂しさの我慢も出来る、良い子だから」
「良い子は遠慮しないものよ?」
「別にいい。帰ったらソルを抱き締めれば、全部チャラだから」
「くっ......ソルの力が大きすぎるわね......」
当たり前じゃないですか。この世で1番大好きで、1番大切な人だぞ?
そんな人が俺に齎すパワーは、並大抵のものではない。
「──ルナ、ここだ。アリナちゃんの店」
「ここですかい。木の中を倉庫にするとは、キツツキもビックリだろうな」
「ははっ、まぁな!」
セレナと雑談しながら歩いていると、目的地であるアリナさんとやらの店に着いた。
店の外観は木製の商店と言った感じだが、その後ろに立っている巨大樹を倉庫として使い、実に分かりやすい店となっていた。
そして念の為にセレナを弓にして背負い、マサキがドアを開けた。
「いらっしゃいませ〜、あ、マサキくん!」
カランカランと、ドアベルの音を立てて入店すると、金髪のお姉さんがカウンターから飛び出して来た。
「よっ、アリナちゃん。今日もアレを買いに来たのと、俺の親友を紹介するぜ」
「こんにちは。ルナです」
「私は『アリナ』です。ルナさんの事は、よくマサキくんから聞いています!」
俺の事......何か嫌な予感がするけれど、これは触れない方が良い気がしてきた。
好奇心猫を殺す。ここで気になって、自分の身を滅ぼすのは避けたいな。
「よろしくお願いします。それでマサキ、アレアレ言ってるのは何なんだ?」
「それはな......これだ!」
そう言ってマサキが見せつけてきたのは、緑色をした三角の宝石だった。
「これが何か、予想してみ?」
「分かった」
そう言って俺に宝石を渡すと、マサキはアリナさんと雑談を始めた。
「セレナはこれが何か分かるか?」
『分かるわよ。逆にこれを知らなかったら、狩猟神は名乗れないわね』
「それ程の物か......でもヒントは得たな。狩猟に関係する何かではある、と」
緑色だし、単純にあの霧を発生させる物か?
いや、そこまで甘いものじゃないか。だとすれば、もっと直接的な効果を持っているのだろう。
そうでないと、セレナの言っている事が過剰表現になってしまう。
「何だろう。体が霧に紛れるような緑色に変わるとか?」
『惜しいわね。ま、そこら辺はマサキに聞くといいわ』
「了解っす」
そしてマサキに俺の予想を話してみると、意外にも驚いてくれた。
「すげぇなお前。それはほぼ正解だぞ?」
「あはは、私が答えましょうか?店主ですし、ちゃんと説明出来ますよ?」
「お願いします」
マサキには悪いが、これが何か、詳しく説明してもらおう。
「ルナさんが手に持つそれは『隠緑の樹液』と言う物でして、使用すれば10秒間、相手から認識されなくなる物です」
「へぇ」
「樹液は霧を発生させている木からしか取れなくて、私はそれを見付けるのが上手なので、こうして店に樹液を置いてるんですよ」
なるほどな。入荷出来る所以とアイテムの効果が分かれば、この樹液の強さが分かるってもんだ。
そしてエルフの必需品という事は、皆はこれを使って狩りをしているのだろう。
獲物に見付からないようにして近付き、一気に仕留めて狩猟する......セレナの言うことも分かる。
「説明、ありがとうございます。お土産に3......7個ほど買っていきますね」
「はい!」
「アリナちゃんは安く売ってるからな。大量に買うならここしか無いぞ?」
「いや、俺は使わない。ソル達に『こんな物があったよ〜』ってお土産だ」
「......マジでお土産じゃん」
何を言っているんだか。最初からそう言ってるじゃん。
そして俺とマサキの話がひと段落した所で、アリナさんが隠緑の樹液に指をさして言った。
「ちなみに、霧の発生させる木はエルフにしか分からないので、エルフ以外の方が手に入れるには、お店で買うしかないんですよ」
「エルフすげぇ!」
俺、てっきり誰でも見付けられるものだと思っていたが、そんな効果もあるのか。
「ま、そんな訳で俺はここにちょくちょく買いに来るんだ。ダンジョンでハイドするのに超便利だからな」
「なるほど。確実に見付かるシーンでも隠れられる、と」
「そそ。俺は魔法と組み合わせて使うから、かくれんぼで負ける気がしねぇんだわ」
「この森じゃなかったら、俺の魔法で簡単に見付けられるけどな」
「うへぇ」
「ふふっ、お2人は本当に仲良しなんですね!」
「まぁな。今年初めて出会ったが、ルナは不思議な奴だからなぁ」
「そうか?」
「あぁ。ソルがお前を好きでいる理由も分かるし、『好きで居続けられる』理由も、分かるからな」
「ほぇ〜」
俺、不思議に思われていたのか。これは少々意外だ。
そしてソルが俺を好きで居続けられる理由......これは分からない。
こればっかりは感性というか、ソルの気持ちを知らないと理解出来ないだろう。
「ルナさん、彼女さんがいるんですか?」
「彼女以上、妻未満の子です。元気で明るく、優しい子なんですよ」
「そうなんですね!」
語り出したら止まらない系の語り人なので、ここでソルについては話さないぞ。
正直、ソルの良い所と好きな所を話し出せば、余裕で日が暮れるだろう。
逆に、悪い所は1つ2つしか出てこない。
「ルナ、ここじゃ一緒に住んでるんだもんなぁ......羨ましいぜ」
「フッフッフ......君も武術大会で優勝すれば家は貰えるのですよ。頑張ってみては?」
「その結果お前にボコボコにされたんだよなぁ」
「てへ☆」
「キモっ!」
「俺、腎臓よりは肝臓の方が好きだなぁ」
「そっちのキモじゃねぇ!」
時々陽菜が作ってくれるんだよな、レバニラ。あれは本当に美味しい。
そして、キモと言えば肝臓だ。カワハギの肝ポン酢なんかは、手が止まらなくなる美味しさをしている。
食べ物はそれぞれに良い所がある。感謝だ。
「あはは、お2人の相性は抜群ですねっ!」
アリナさんの言葉にマサキは白目をむいたが、俺は小さく笑ってから隠緑の樹液を7個買った。
「お買い上げありがとうございます!」
「長々と話しちゃってすみません」
「いえいえ! こちらとしても楽しかったので大丈夫です!」
そうしてマサキも隠緑の樹液を買うと、次は狩りに行く事になった。
何やらここは、想像以上に面倒臭いモンスターが出るとの事で、楽しみだったりする。
「多分ルナは勝てないから、俺が後ろでスタンバっとくわ」
「それ程か。まぁいい、全力で貫いてやろう」
「......貫ければな」
そんな不穏な言葉を発するマサキと共に、サクリスを出て森の中へ入った。
今回のタイトルは、上手くお話を纏めれたと胸を張って言えます。
さて、次回は狩りのお話ということで、タイトルは...
『頭を使え、脳筋さん』にしましょうかね。
では、お楽しみに!