後片付けは、全員で
狐国編の総集編見たいな感じになりました。
次回まで狐国で活動するので、その次から第10章の始まりです。
「月斗君。起きて」
陽菜の優しい声で、脳が体を起こそうと頑張り始めた。
「もう7時半だよ。起きないと遅刻しちゃうよ?」
「......ぁ」
「しょうがないなぁ」
そう聞こえた瞬間、俺を優しく包むオフトゥンが剥ぎ取られ、陽菜が俺の服の中に手を突っ込んできた。
「うわぁ!......あぁ......おはよ、陽菜」
「おはよう月斗君! 朝ご飯作ってあるから、一緒に食べよ?」
「あい」
起こし方に文句を言いたかったが、起こしてくれたのに方法まで文句を言ってはダメだと思い、そっと飲み込んだ。
「う〜わ、陽菜がいなきゃ初めての遅刻をしてたな」
「ふふっ、一緒に住んでるからこその強みでもあるよね。どっちかが寝坊した時、もう片方が起こせるからさ」
「あぁ。ありがとう陽菜」
「えへへ〜。こちらこそ、一緒に住まわせてくれてありがとっ!」
そんな会話をしながら朝食を食べ、さっさと家を出て学校へ向かった。
道中、陽菜と手を繋いで歩いていると結構視線を集めたが、慣れてしまったものだ。
「そんなに見たいものなのかねぇ」
「ホントにね。男女で手を繋いで登校とか、高校生カップルなら定番なんじゃないの?」
「知らんけど、ってか?」
「うん!」
可愛いな。本当に可愛い。今すぐにぎゅ〜っとしたいくらいには可愛い。でもしてはいけない。流石に周囲の目があるからな、手を繋ぐだけにしておかないと。
「はぁ。にしても寒いなぁ」
「冬とも言えるからね。乾燥の酷い季節だし、気を付けないと」
「乾燥......気にした事無かったかも」
「ふふっ、乾燥とか保湿とか、もっと肌の事を気にするようになったら、もっとカッコよくなるよ?」
「え〜、別にカッコよくなったって......陽菜の目を奪えるのか」
「そうなのです。ですのでお肌に気を使ってくれますゅか?」
噛んだな。まぁでも、好きな人にもっと見られたいという気持ちもあるし、陽菜の為に気を使うのもいいかもな。
「ちまちまとやるよ。色々教えてくれよ?」
「もっちろん!」
そうして教室に入り、いつもの正樹と朝の雑談中。
「そう言えば月斗、今日はゆっくりだったな」
「......そうか?」
「あぁ。いつものお前なら俺より早く教室に居るからな。何かあったのか?」
「何かあったとして、何故聞こうとするのかが気になるぞ......まぁ、ただの寝坊っす。将軍のせいで頭が疲れてたんだ」
「おぉ、そう言えばクエストのアレ、やるのか?」
アレとは何なのか。多分狐国の主的なやつか?
「クエストの内容を見てないから知らん。国の主になるイベントなら、俺は全力で逃げるぞ」
「プフッ......アレはそんなクエストじゃねぇよ!」
「......どんなクエストだ?」
まさか予想が外れるとは思ってなかった。だってクエストの名前【狐国の主権】だぞ?将軍のポジションにプレイヤーが代わるんじゃないのか?
「アレは街で知られている人物を将軍にしようってクエストだ。プレイヤーはなれないから、有名な現地人を選ばなきゃならん」
「......ムラサメさん一択?」
「俺もそう思ってたんだがなぁ......今はイオリが熱い」
「イオリが?」
「あぁ。アイツは女子からめちゃくちゃ人気な上に、男にも『良きライバル』として人気でな。ムラサメ師匠と同じ......いや、イオリの方が投票されてるかな」
「「へぇ〜」」
変なクエストだな。将軍の死がトリガーなんだろうが、何故現地人から選び、将軍の席に座らせなきゃならんのだ?
いや、当たり前か。国王が亡くなったら、王を継ぐ者が次の国王になるんだもんな。
「陽菜はイオリに投票するか?」
「うん。あまり良い気はしないけど、その方が良さそうだし」
「だな。何かあれば、皆が斬り捨てるだろうし、俺もイオリに入れよう」
それから少し、将軍との戦闘の話や、妖刀の人格についてを正樹に話した。
◇昼休み◇
「はい月斗君、お弁当」
4限目の授業が終わると、陽菜が俺の机にお弁当を置いてくれた。
「ありがとう。いつの間に作ってたんだ?」
「......6時くらいに?」
「おいおい。ちゃんと寝たのか?陽菜に倒れられたら困るぞ?」
「ふふっ、月斗君は心配性だね〜。いや、愛されてると言うべきか......」
「いや、本気で心配してるんだが。昨日はそこそこ遅くまで付き合わせて悪かったが、体に気を付けて欲しい」
本気で陽菜の体を心配している。そこには一切のおふざけは無い。
将軍との戦い......いや、狐城に潜入するのに付き合わせた俺が全ての元凶だが、それでも気を付けて欲しいと思う。
「......うん。なら月斗君も、気を付けてね?」
「あぁ」
「おっす。何話してんだ?」
正樹が弁当と椅子を持ってやって来た。前の席の人、大丈夫か?
「ん〜とね、月斗君に愛されてるな〜って話」
「......俺が聞いても大丈夫なやつ?」
「さぁ?」
確かに俺はワガママだな。甘えん坊モードのリルくらいワガママだと思う。知らんけど。
「あそうだ。月斗〜、放課後ユアストやらね〜?」
「いいよ。何がしたい?」
「空の旅」
「「空の旅?」」
正樹さん。貴方唐突に変な事言いますね。お兄さんは少々驚いていますわよ。
「空の旅......魔法で?」
「いや、魔法で飛べんのはお前と鈴原だけだぞ。俺が言ってるのはアレだ。ワイバーンだ」
「「あ〜」」
そう言えば、前にワイバーンに乗って飛んでるのを見たな。
次に飛んでいるのを見たら、1回撃墜してやろうかとも思ったやつだ。
「どこかに観光しに行くのか?」
「察しがいいな。俺は今回、お前をエルフの里に連れて行きたいんだ。あ、いただきます」
「「いただきます」」
話すのも良いが、お弁当を食べ損なうのは嫌だな。
「それで、エルフの里についてなんだが、そもそもエルフについて知ってるか?」
「知らない......陽菜、ありがとう。美味しいよ」
「ふふっ、これからも作ってあげる。楽しみにしててね」
「あぁ......で、エルフの里とはファンタジーの定番モノか?」
「その通り。ディクトからさらに進んだ所にある、『サクリス』と言う名前の街だ。まぁ、街というより『ジ・エルフの里』って感じだがな」
多分、森の中に里があって、大樹をくり抜いた空間を生活空間に変えたり、ツリーハウスの様に木に付属させて居住空間を作っているんだろうな。
「じゃあ有難く空の旅に参加するけど......何も起きないよな?」
「お前が起こさなければな」
「そうだね。月斗君が完全な傍観者になれば、面倒事とかは起きないんじゃないかな?」
「......俺、自分で起こした記憶がない」
少し論理的に考えよう。ロジカルだロジカル。
俺は今回の狐国でやった事に関して、1つずつ整理していこう。
まず、夏に帝王クラーケンと戦い、勝ってしまった事が始まりだ。あの時に帝剣と覚書を入手した事が全ての始まりだな。
次に、11月という、冬と言ってもいい秋に、ようやく狐国に行ったんだ。そこで茜さんと出会い、最初は行動を共にしてたんだよな。
それから、茜さんが特殊クエストに関して進めたいと言うから、俺達も特殊クエストを進めようと、噂話から聞いたんだっけ。
それでオケアノスが妖刀を持ってきた事を知り、その妖刀が元は帝剣という疑惑......半ば確信だが、それを信じて妖刀に近付こうとしたんだ。
後は伝説の刀鍛冶に妖刀を握らされたり、道場を潰して門下生を移植させたり、最後には妖刀の保管主であるムラマサに会うために、狐城に潜入する話になったな。
そしていざ、実際に妖刀を抜いてみれば、これが本当のクソ野郎だったんだ。思い出すだけでも叩き折りたくなる。
ソルを『僕の女』と言った事、絶対に忘れないからな。
そうして妖刀はフーに斬られ、俺は将軍も殺してしまったんだよな。何故か。
うん......今思えば何故将軍を殺したんだろう。妖刀の狐だけ斬って、将軍は生かしておけば良かったじゃないか。
うわぁ、俺本当にアホだな。何で将軍を殺してるんだよ。ムラマサ、アレでも『狐国を治めている』的な事を言ってたんだし、殺さないのが正解だろ。
はぁ......で、面倒事は自分で起こしたかどうかの確認だが、最後の問題は俺が原因だな。
「......あれ、弁当が無くなってる」
「私が食べさせたよ? 月斗君、思考のプールで50メートル泳いでたから、そのサポートに私が」
「ありがとう......でも記憶がねぇ!」
「どっちの?」
「弁当の。面倒事に関しては、将軍を殺したぐらいしか記憶に無いけどな」
「「あ〜」」
「ま、取り敢えず今日はイオリに投票して、それから正樹と合流って感じか?」
「おう。よろしく頼んます」
いやぁ......エルフの里、楽しみですね。狐国では動き続ける感じだったけど、エルフの里ではゆっくりしたいな。
野郎2人の旅行と行こうではないか。
いつも思考の沼に足を取られてるね、君。
オホン.....次回は、最後に狐国で遊んでから帰るお話となります。
お時間がある方は、是非ともお楽しみください。
もし、『狩りに行くから時間ねぇわハゲ!』という方は、そっと私がハードの電源を落としますね。では!