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赤い月

頭がぽわぽわしまふ.....

 将軍と接戦を演じること3時間。将軍の動きが段々と鈍ってきた。


 それもそうだろう。手に持つだけで心が疲れる妖刀を、3時間も振るい続けたんだ。心身ともに疲れているはずだ。



「はぁ......喰らえ、鬼灯」


「あはははッ! 解除、からの『斬』!」


「......咲け、鬼灯!」



 斬りながら、笑顔どころか笑い声が出ちゃってる俺に対し、将軍は息も絶え絶えに攻撃を防いでいる。



『あらら、楽しくなっちゃってますね、これは』


『ですなぁ』



 仕方ないだろ? 最初は苦戦すると思っていた相手が、段々と弱っていく姿を見るのはゲームの醍醐味なんだから。


 だけど、最低限気を付けないとならない攻撃もある。


 将軍が『切り裂け』と言えば転移しなければならない。



 流石にあの透明で防御不可の斬撃は危険だからな。




「爆ぜろ、 鬼灯」


「んにゃぁぁ!!!」



『うわ、最早人の言葉すら話さなくなりましたよ』


『これは後で、ソル様に色々とされるでしょう......色々と』



「ん〜、『魔纏』にゃ!」


「喰らえ、鬼「と思わせての『斬』にゃ!」......ぐぁ!」




 やったぜ。将軍の左腕、ゲッチュしたなり!

 ......ただ、その時に返り血を浴びまくったせいで視界が真っ赤だ。


 お陰で外に見える半月が赤い。




 俺がそう思っていると、将軍が例のクソ野郎ゲフンゲフン......妖刀をインベントリから出した。



「小狐丸。力を寄越せ」


「『魔力刃』」




 カンッ!




 将軍は、例の()()()()で魔力刃を弾いた。



「あぁ......ありがとう」



 将軍が、何故か恍惚とした表情で妖刀にお礼を言っている。


 ......にしても、これは不味いぞ。今までに覚えた行動パターンが全部パーになった。

 あのクソ野郎を使うようになって、将軍の行動パターンがどれだけ変わるかが今回のキーだな。




「あぁ、お前はあの者が憎かったのか......あの者が恨めしいのか......良い、良いぞ。私は全てを受け入れよう」




 将軍が妖刀に話しかけているが、俺はヒーローの変身シーンを待つ程優しくないので、既に魔法は沢山使っている。



「刺せ」



 俺がそう言うと、将軍に向かって氷の柱が15本飛んで行き、それに続くように、イグニスアロー君が30人程出張した。



()めろ」



 更に魔法を発動させ、今度はクロノスクラビスや遅炎など、デバフに特化した魔法を行動詠唱で連発した。


 流石に少し、頭が熱く感じてきたが、アドレナリンがドバドバ状態なので支障はない。

 将軍との戦いが終われば、ソルに癒してもらおう。



「小狐丸」


「【霊剣】」




 バキンッ!




 嫌な予感がしたので霊剣を出したが大正解だった。


 何故なら、今のタイミングで霊剣を出していなかったら俺は死んでいたからだ。




「何その技......早すぎ」


「うむ。この妖刀は良いな。貴様を相手するには丁度良い」


「妖刀頼りで剣を振るのか? お前」


「左様な事は気にした事が無いな。今は貴様を......斬れれば良い!」



 カカカカンッ!!!!



 不味いな。非常に不味い。行動パターンが変わるどころか、将軍の存在自体が変わった様な感覚がする。


 あのクソ野郎、将軍の頭でも乗っ取ったか? 的確に俺の苦手な突きを連発してくる。



『ルナ様。私を「無理」......分かりました』



 すまない。今の状態で二刀流で戦うのは無理だ。俺は某黒の剣士でも無ければ、宮本武蔵でも無い。


 将軍の攻撃を布都御魂剣で防ぐのに手一杯なんだ。



 ......ん? 待てよ。手一杯? って事は、手を増やせば良いんじゃね?



「イブキ」



 俺はギャリギャリと音を立てながら鍔迫り合いをしていた布都御魂剣を戻し、瞬時にイブキにバトンタッチさせた。



『ルナさん? どしました?』


「フー、出ろ」


『えちょ待っ』


「何っ!?」



 フーを降臨させると、将軍が後ろへ飛び退いた。



「神度剣を持て。2人でやる」


「えぇ......展開が急過ぎません?」


「早くしろ」


「はいはい......ご褒美は?」


「白銀マンゴープリン」


「ッシャオラァ!」



 フーさん、甘い物に弱くなってきましたね。とてもチョロくて僕は嬉しいです。


 そしてソル。そんなに恨めしそうな顔で見ないの。一緒に作ってあげるから、安心してね。



「......2人を相手など、久方ぶりだ」


「そうなん? ガンバ!」


「ガンバじゃないんですよ。ルナさんも頑張るんですよ!」



 フー......お前、武器が貰えない時に『奈良の鹿か?』って言いそうだな。知らんけど。



 そして将軍が妖刀を構えた瞬間、俺とフーは全く同じ動きをした。



「「『魔刀術:雷纏』......フッ」」



 完璧なまでのシンクロ具合だったので、2人で少しだけ笑った。俺、誰かとここまで同じ動きをするのは初めてだ。



「小狐丸。魅せろ」


「先に『(いなずま)』」


「じゃ後手で『(らい)』」



 将軍が妖刀の技を使った瞬間、フーの神速の突きが将軍の胸に刺さり、その2秒後に俺は将軍に袈裟斬りに斬った。


 だが、将軍はポリゴンとなって散らなかった。



「ルナさん」


「あぁ」


「『晴天』ほら、あそこです」


「さんきう」



 フーが聖属性魔法で将軍の位置を暴くと、俺は夜桜ノ舞に血を垂らしてから将軍に向かって突っ込んだ。




「位置がっ!?」


「よぉ......『魔糸術:縛雷(ばくらい)』」



 左手の糸で感電させて縛り、右手の夜桜ノ舞で優しく腕、足、腹と切った。


 肉を断つイメージではなく、皮をそっと切るように。



「......毒......小狐丸」


「【霊剣】......はぁ。間に合わなかったか」



 将軍が何がする前に斬ろうと思ったが間に合わず、全回復させてしまった。


 ってか何なのあの妖刀。攻撃も防御も回復も出来るとか、ただのチート武器じゃん。



「あ〜あ、ルナさんやっちゃいましたねぇ」


「るっせ。あのクソ野郎が万能なのも原因の一つだ」


「ですねぇ......『黒煙』」



 突然、フーが辺りを黒煙で覆いだした。


 理由は直ぐに分かった。あの妖刀、目が付いているんだ。将軍が持つ鍔の部分に一つ、目が付いている。



「私は支援に。『テクニカルエンハンス』」


「さんきゅ。【夜桜ノ舞】」


「ぐぁぁ!!!」



 ここに来て将軍に付けた数ヶ所の傷の一つ一つから、不可視の8連撃が将軍を襲った。


 何気に初めてのこの特殊技を使うが、改めて感じたね。



 夜桜ノ舞の殺意が高いと。



「もうそろ終わりにしよう。そろそろ寝ないと明日に響くからな」


「良い子はもう寝てますよ」


「......俺は悪い子だな。でもまだ間に合う」



 そろそろ寝ないと、明日の学校に響くんだよ。リアルの時間が迫ってるからな。


 もし起きるのに遅れたら、陽菜に何されるかわかったもんじゃあない。それにきっと、2人仲良く遅刻して要らぬ誤解を生むだけだ。



「抜かせ......小狐丸、出ろ」


「ふぅ。やっと出れた」



 う〜わ。あの妖刀が人に変身しちゃったよ。それもモフモフというより、ボサボサな毛並みの狐獣人の男の子に。



『ルナ様。躊躇ってはなりませぬぞ』


「何言ってんだ?」


『いえ。お相手がソル様に似てらっしゃるので......』


「おまっ、あれがソルに似てるとか正気か? アイツとソルを比べるのって、溺愛しているゴールデンレトリバーと野犬くらいの差だぞ!?」



「私がルナ君の......溺愛されてるペットォ!?」



「ソルも反応せんでいいわ!」



 仕方ないじゃん。ソルの髪色に一番近くて分かりやすいの、ゴールデンレトリバーぐらいなんだし。



「お前、僕を何て言った?」


「え? ゴミ箱の中に湧いてるウジ」


『「「............」」』



 やべぇ。狐君だけじゃなく、付喪神ズまで黙ってしまった。

 俺、何か気に障るような事を言ったカナー。



「ムラマサ」


「勿論」


「アイツを......」


「うむ」



「「殺す!!」」



 殺意に溢れてんなぁ。大体、人の女を取ろうとする奴なんてウジ以下の存在だろう?

 俺、結構優しめに狐君を例えたと思うんだけど、ダメだったのかな。



「ほい」



 俺に真っ直ぐな振り下ろしをしてきた狐君の刀を防ぎ、適当に鍔迫り合いをした。


 そして数回ほど打ち合うと、狐君の刀がポッキリと折れた。



「ぐっ......くそっ!」



 うわぁ。狐君、君が持ってる刀が弱すぎるよ。『斬』も使えないイブキに劣るような刀じゃあ、打ち合うのはオススメ出来ない。




「ルナさん。将軍を」


「あぁ」




 流石に相手が強さを偽っている可能性が(つい)えたので、フーに狐君をあげる事にした。


 ここでもし、家に連れて帰ろうもんなら俺が斬り捨てる。



「しょ〜ぐんさま。身体だいじょ〜ぶ?」


「フンッ......貴様を殺すくらいの余裕なら......あるわい」



 狐君を出してから、将軍が意識朦朧といった(さま)になった。



「あっそ。今度こそじゃあな」


「まだまだ......っ!」



 グサッ!



 最早俺のゆっくりとした突きすらも対処出来ず、そのまま腹にグサッと夜桜ノ舞が刺さった。



「小狐丸、私を生かせ......あ」




「ふぅ。首、取ってきましたよ。ルナさん!」




 フーが神度剣に付いた血を振り払い、俺に笑顔で報告してきた。



「お疲れ様、ありがとう......じゃあ将軍。逝ってら」



 最後に夜桜ノ舞の毒がまわり、将軍はポリゴンとなって散った。




◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆

 狐国の主『将軍・ムラマサ』が死亡しました。

 これより、全プレイヤーへ特殊クエストである

【狐国の主権】を開始致します。

◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆




 最後は何ともあっさりしていたが、更に面倒臭そうな物を遺して逝きやがった。




「ソル。帰るぞ」


「うん! フーちゃん、お疲れ様!」


「いえいえ。この程度なら造作もありません。それに、私はご褒美が楽しみで仕方がないのです」


「はいはい。帰ったら作るから。じゃあ宿に戻るぞ〜」




 そう言って宿へ戻り、俺とソルはログアウトした。




「面倒臭そうだよね。逃げる?」


「勿論。じゃあトイレ行ってくるわ」


「行ってらっしゃ〜い」





 そして用を足しながら思った。


(あの特殊クエスト、絶対国の主になるやつじゃん)と......



次回、『後片付けは、全員で』お楽しみに!

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