妖刀の資格と激怒する者
氷牙竜で無事に1乙を決めました。
ムラマサと出会い、簡単な自己紹介をした。
名前や種族、城に潜入した目的など、信用を得られる事は全て話した。
「がはは! そうかそうか! 2日目に兄上を吹き飛ばしたか! がはははは!!!」
ソルの話をした後に俺の狐国へ来てからの話をすると、ムラマサは大きな声で笑った。
「それにヤマシロ様に認められてるとは......うむ。少し待っておれ」
ムラマサはそう言い残すと、部屋の奥から細長い箱を持ってきた。あれが妖刀なのだろう。
「この箱の中に、ひと振りの妖刀が入っておる。この国の者なら童でも知っておる、海神が持ってきた妖刀だ。こやつに認められる者ならば、こやつはお前に託そうぞ」
そう言って箱を開けると、深い蒼色の鞘に納められた、禍々しい刀が見えた。
俺はムラマサさんを見ると、ムラマサさんは頷いて答えた。
「あ、ルナ君。私が試してもいい?」
「ソルが?......まぁ、いいけど」
これでソルが認められたら面白いしな。
「気を付けよ。妖刀に呑まれれば私とルナで貴様を斬らねばならぬ」
「はい。ルナ君なら殺ってくれます」
えぇ。俺は恋人だろうと容赦なく斬れますよ。昔から打ち合いもしていたし、躊躇いなど一切ないぞ。
そうして俺が後ろに下がると、ソルは箱の中から刀を持ち上げた。
「重い......」
「妖刀は重い。込められた思いの強さで、自身の重さが変わるからな」
へぇ、そうなんだ。ヤマシロさんの所で抜いた修羅は、重いと言うよりは『黒い』だったかな。
重量とか気にならない程、真っ黒な感情に押し潰されそうになるんだ。
「じゃあ......よいしょ!」
ソルが鯉口を切ると、鞘を水平に、真っ直ぐに勢いよく刀を引き抜いた。
抜かれた刃は真っ黒に染まっており、修羅の時とは違った魅力を放っていた。
修羅は意識を吸い込むような黒に対し、この妖刀は見る者を拒むイメージの黒だ。
「うん? 君も狐なの?......なるほど。いや、それは無理かな」
ソルが刀と会話している。第三者目線で見れば、相当おかしな光景だ。
「どうした? ソル」
「あのね、この子が私が良いってうるさいの。何でも製作者が狐獣人の人だったらしくて、私とシンパシーを感じたからだって」
「そうなのか......俺も試したいな」
「うん。取り敢えず元の状態に戻すね」
そう言ってソルは納刀し、箱の中に戻した。
「ルナよ。もし認められなければ、この妖刀はソルに渡すと良い。その方が、刀も喜ぶであろう」
「......あぁ」
俺は刀を持ち上げると、バチバチと青白い雷で手を弾こうとしてきた。
でも、この程度なら余裕で我慢出来るので、ゆっくりと柄を掴んだ。
するとどんどんと激しさを増した雷が手を包んできた。
「辞めよ。私の時と同じ、刀に拒まれておるのよ」
「うるさい......『戦神』」
戦神でVITを3倍に上げ、ブリーシンガメンの回復が上回るようにしてから呼吸を整えた。
そしてチェックだ。この雷は......良し、【雷神】で吸収出来る。
「はい、よいしょ」
俺もソルと同じ様に、鯉口を切って鞘を水平に、一気に引き抜いた。
すると俺の時は刃の色が違い、真っ白な刀身に紫色の波紋、更には刃全体に青白い雷が走っている。
「何と!」
「いやん! 強引だよ、ルナ君」
横でソルが体をクネクネさせて肩を触ってきた。
「何を言うとるんや......で、ムラマサ。これはアリ? ナシ?」
刀からえげつない量の雷が俺の手を弾こうとするが、ぜ〜んぶ吸い込んじゃうもんね!
雷専用掃除機ルナ君の誕生だ〜い!
「......刀の声次第ではなかろうか」
「それもそうだ。おい刀! 生きてるか〜?」
『死んでま〜す』
「死んでるみたいだ。ではこの死体は貰っていこう」
『「待て! / 待って!」』
納刀して帰ろうとすると、ムラマサと妖刀に止められてしまった。
「何でさ。これから家に帰って別荘計画を進めたいんだけどぉ」
『それなら僕をさっきの子に返してからにしな! あの子は僕の女だ! だから返すんだ! さぁ早く!』
「あ?.....叩きおるぞテメェ!『戦神』『雷霆』『マグナ』」
妖刀を抜き、刀身全体にマグナを貼り付けて雷霆を近付けた。
すると妖刀本来の雷は全てマグナに吸収、俺に伝達し、雷霆の更なるパワーアップに繋げた。
「ルナ君、どうしたの?」
「コイツがソルの事を『僕の女』と言いやがった。それは幾ら俺でもブチギレる案件なんでな......刀を扱う者以前に、俺は1人の男だ。ソルの為なら俺の流儀ぐらい捻じ曲げてやる」
剣に当たらない。
幾ら自分が不出来だろうと、剣に対して当たらない。そういう考えを持っていたが、こればっかりは許せない。
『ま、待って! 待ってください!』
「待つ訳ねぇだろ鉄屑が。あぁ、安心しな。鉄屑にしたらちゃんとオケアノスの元に持って行くさ。『お前の持ってきた妖刀、クソ野郎だったわ』って言ってな」
そう言って俺はどんどんと雷霆の出力を上げると、鞘を持つ左腕に刀が刺された。
「ルナ、待てぇい!」
「痛ぇな......なに?」
「強引にその刀を持って行くというのなら、私はお前を斬る」
「なんで?」
「それが海神オケアノス様から賜った事だからだ。『将軍ムラマサが認めた人物にのみ、妖刀を渡せ』と。私はそう言われた」
......そうだった。なんの為にここに来たのか、忘れていた。
「ソル、この妖刀欲しい?」
「要らない。勝手にルナ君の私を自分の物だと言い張る人は嫌いだもん」
『えっ......そんな......』
「じゃあ将軍。これ返すわ。また別の語り人が来た時にでも試してやってくれ。合格条件は知らんが、良い人そうだったら渡してくれ」
俺がそう言って納刀しようとすると、将軍は俺の左腕から刀を引き抜いた。
......この野郎。真っ直ぐ引き抜けよ。クソ痛ぇじゃねぇか。抉れてんだよ、肉が!
「貴様......いい加減にも程があるぞ」
その上説教か。面倒臭い野郎だ。
「そうだろうな。自覚している。でも今の俺じゃ治せそうにないんだ。ソルに関して何か言われると、どうも冷静になれない」
俺の明確な弱点でもある。故に掲示板なども見れないんだ。
自分への悪口ならまだ良い。だけどソルやリル......大切な人への悪口を見てしまうと深く心が傷付いてしまう。
昔の俺とは違うんだよ。自分が傷付けられる悲しみより、大切な人が傷付く悲しみの方が大きくなったんだよ。
「貴様はそれでも武士か?」
「いいや。武士を名乗った覚えも無ければ、武士と思った事も無い。ただのクソガキだよ」
「がはは!......では、私と一戦交えぬか?」
「嫌だね。将軍と戦う価値は無......」
「ルナ君!!!」
俺が言い切る前に、将軍は俺の腹に刀を突き刺した。
「戦え」
「はは......将軍が相手を待たずに人を刺すか......」
「生憎、私も将軍と名乗った事が無くてな」
「ふ〜ん。取り敢えず刀抜けよ。折るぞ?」
「ふっ、やれるものならやって......『斬』......」
在り来りな台詞に腹が立ったので、布都御魂剣を顕現させて一撃で刀を真っ二つにした。
俺は腹に刺さっている刀の半分を引き抜き、床に投げ捨てた。
「あ〜、痛かった......それと、今日は半月だ」
「......何を?」
「いいや? 月の光は俺を優しく照らしてくれるからな。力が入るってもんだ」
俺がそう言うと、ソルは数歩後ろへ下がり、観戦する態勢へ入った。
「妖刀よ。我に力を貸せ」
「将軍、元々妖刀持ちか」
「......」
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『将軍・ムラマサ』との戦闘を開始します。
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「切り裂け、鬼灯」
将軍がそう言うと、魔力刃に似た斬撃が3つ、俺に飛ばされてきた。
そして布都御魂剣で構えると、俺のHPが3割程消えていった。
「うん?......あぁ、なるほど」
この攻撃、魔力刃と違う点が3つある。
1つは『完全に見えない』ということ。
それに将軍は刀を振っていないので、斬撃の軌道も見えず、予測する事が出来ない。
2つ、『刀で受けれない』ということ。
厄介な事に、通常状態の布都御魂剣では貫通するらしい。
物理無効の魔法攻撃かと思えばそうでは無い。何故なら──
3つ。『サーチで見えない』から。
これは魔法攻撃では無い事の証明だ。どんなに少量の、例え消費MP1の魔法でさえサーチは捉えらる。
だがこの斬撃はサーチに映らなかった。
つまり、あの妖刀と将軍は、想像以上に面倒臭い相手だという事だ。
戦わずに帰りてぇな。
『ルナさん。あの斬撃は私でも見えません』
『ルナ様。私も見る事が出来ませんでした』
「いいさ。気にするな、2人とも」
「......貴様も妖刀を?」
「んな訳ねぇだろ。俺、今のところ妖刀に良い思いをした事がない。修羅を抜いた時も強制的に黙らせたし、そのクソ野郎は脅迫した......俺は妖刀が嫌いだ」
『ホントですよ! もう関わらない方が良いです!』
『ですな』
「全くだ。こんな事なら遊んで帰れば良かった」
いや、逆に『妖刀とは関わらない方が良い』という教訓を得たとすれば、ここまで来て良かったのかもしれない。
それに、自分の弱点を再認識したしな。
「妖刀でないのに意思疎通を図る......もしや付喪神か!?」
「だ〜いせ〜いか〜い。わぁ、将軍様って博識ぃ」
「......斯様な人物が何故妖刀を」
「言ったじょのいこ。オケアノスに俺が剣を渡したって。わぁ、ムラマサ君って忘れっぽいぃ。幻滅ぅ!」
「貴様......!!!」
『ありゃりゃ、怒ってますね。ルナさんって対人戦になれば煽らなければ気が済まない人なのですか?』
「いいや? まぁ、FS......別の世界で煽られまくったりはしたが、自分から煽る事は無かったな。こっちでは対人戦に有利だからやるけど」
『ですがルナ様。それは仲の良いご友人にはなされない方が宜しいかと。友好関係の破綻に繋がりますぞ』
「そう......だな」
俺がもし、マサキやアテナから、ソルに関して煽られたらどうなるだろうかと考えれば、仲の良い奴には煽らない方が良いと思えた。
士気を上げる為の扇動ならまだしも、ただ不快になる煽りはダメだな。気を付けなきゃ。
「爆ぜろ、鬼灯」
「『戦神』『グレイシア』」
「......燃やせ、鬼灯」
「『グレイシア』......なんで炎系統で対抗するかねぇ」
クロノスクラビスじゃあ消えなさそうだから使ってないが、龍神魔法はちゃんと効果がある事を確認出来た。
では、そろそろ終わりとしよう。
「『アクアスフィア』『雷霆』『魔纏』『魔刀術:雷纏』」
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『死を恐れぬ者』が発動しました。
『最弱無敗』が発動しました。
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『あ、満足4点セットだ!』
『良かったですね、フー様。私は羨ましい限りです』
2人は何を楽しみにしとんじゃい。しかもイブキまで乗ってるし、どれだけ魔刀術を楽しみにしてたんだよ。
「じゃあな......『雷』」
「喰らえ、鬼灯」
別れの言葉と共に放った最速の斬撃は、いとも容易く妖刀に呑まれてしまった。
「吐け、鬼灯」
「『転移』」
将軍が妖刀の鞘を俺に向けた瞬間に将軍の真後ろに転移した。
そして俺が元々居た方を見ると......床がゴッソリと抉り取られていた。
ソルは大丈夫か?
そう思い、ソルの方を見ると無傷の様だった。良かった。
「転移だと!?.....本物の魔法士でもあったか」
「あぁ......第2ラウンドと行こうか。将軍」
これは本当に面倒臭い戦いになりそうだ。
村クエストしかやってません。何故なら、受付嬢ちゃんが可愛いからです。
え?集会所の受付嬢も可愛いだろって?.....HAHAHA!!
さて、そんな話は置いておいて次回の話です。
次回、『赤い月』お楽しみに!