幼女と幼女の朝のカフェ
ちょっと長めです。基本的にほのぼのしてるので、ゆっくりしたい時にでもどうぞ。
「父様。父様! 起きてください!」
「......嫌」
「ダメです! 今日は夕方まで遊ぶ約束をしたじゃないですか!!」
何と激しいアラームでしょうか。マイフェイスに狼耳でファッサファッサと撫でられ、起きてしまったではありまへんか。
って言うかまだ外は暗いんだけど。リルさん?
「......今何時よ。言ってみ?」
「えぇと......多分──」
昨日は狐城へ侵入するルートを確認して、今日は夕方まで狐国で遊ぶ約束をリルとしたんだ。
夜になったら忍者になるので、それまでは地形把握という名目でリルと遊ぶ約束を。
「──は、はい! 分かりました! 朝8時です!!!」
「違ぇよ朝5時だよ。ソルもまだ寝てるんだよ」
「父様......ダメです.....か......?」
半分閉じている俺の視界が、リルの可愛い顔で覆われた。
「近い。それともう少し寝なさい」
「私はたっぷり寝ましたよ? 昨日は父様達もうるさくありませんでしたし、計画書を読んでる途中から寝ましたので」
「......うるさない」
俺の背中に感じるモフモフから、関西弁のツッコミが流れてきた。
ソルは起きて......いや、寝てるな。1割覚醒、9割寝てる状態で答えたのか。
凄いなこのゲーム、リアルを再現しすぎではないだろうか。どんな処理で動いているんだ?
あぁもう。そんな事を考えていたら目が冴えちゃったぞ。
「はぁ.....俺も寝れないし、行くか」
「はい!」
俺はそっと反転の横笛を鳴らし、金髪幼女に変身した。
「あれ? テスカちゃんで行くのですか?」
「そんな風に言われてんのか。まぁ、こっちの方が厄介事も減りそうだからな。リルと手を繋いでいれば姉妹に思われるだろうし」
目当てはそこ。可愛い姉妹に情報を流してくれる、優しい優しいお兄さん達を見付けるのが目的なんだ。
ムラマサや妖刀に関係無くても、このゲームの人の話なら何かしら聞いておく価値はあるだろうからな。
「イブキ」
「はっ」
「ソルが起きたら、街でリルと遊んでると伝えてくれ」
「承知しました」
「フー、カモン」
『おはようございます。早起きですね』
「おはよう。有事の時は頼む」
『分かりました』
これで大丈夫かな? 誰とどこへ何をしに行くのかと、もしもの時を考えたぞ。
ぼく、えらい!
「じゃあ、行ってきます」
「行ってきますです」
「行ってらっしゃいませ。テスカ様、リル様」
おいおい。マジでそれで定着してんの?
でもまぁ、神話のテスカトリポカって、太陽と関係していたりするから別にいいかな。
名前からソルとの繋がりを感じます。えぇ。
そしてリルと仲良く手を繋いで街に出ると、プレイヤーの姿は少なく、現地人の姿が沢山見受けられた。
「ごはん食べようか」
「はい! 前みたいにお団子を食べますか?」
「それも良いけど......そもそも屋台があるのかな」
馬車の走る大きな道を見ても、屋台らしき店はどこも開いていない。
辺りを見ても、和服に身を包んだ大人達が荷物を運ぶ姿や、馬の世話をしているチャンネーくらいで、お店らしきものは見えなかった。
「嬢ちゃん達、どうしたんだい?さっきから突っ立って......」
俺とリルの後ろから、知らない男が急に話しかけてきた。
言おう。今の俺はただの女の子だ。知らない男に話しかけられたら警戒しなければならない。
よって、俺は布都御魂剣に手を掛けた。
低身長故に刀は抜きづらいが、気合いでカバーする。
そして男が1歩近付いた瞬間、俺は刃を見せようとして──
リルに右腕を掴まれた。
『ちょちょちょ! 何斬ろうとしてるんですか!』
「テスカちゃん。警戒しすぎです」
「おぉ、金髪の嬢ちゃんは武芸者なのか」
「......はい。それで、貴方は誰ですか?」
「俺は通りすがりの者だよ。2人が突っ立ってるから、何かあったのかと思ってな」
あ、もしかしてシンプルに優しい方でした? 俺、てっきりリルを狙うお粗末な人かと思ってた。
「まず、斬ろうとしてごめんなさい。それと心配してくれてありがとうございます。私達はここら辺でご飯が食べられる場所を探していたんですよ」
最初に謝罪だな。長ったらしく謝るより、スパッと最初に謝ろう。それから相手の意見を汲み、自分の目的を話す。
「ははっ、そうかそうか! それで、飯屋を探してるって事でいいんだな?」
「はい」
「なら良い店を紹介しよう。あそこに見える野菜の入った箱、分かるか?」
男が指を指した方を見ると、確かに野菜の積まれた箱をあった。
「あの箱の所を右に曲がれば通路があってな。その先にある飯屋がオススメだ。料金は高いが、味は確かだぞ。今日も開いてるはずだ」
あら親切。ならその店に行こうかしら。
「ありがとうございます。では、そこに行きたいと思います」
「ありがとうございました!」
「おう! いっぱい食って大きくなれよ!」
「「............」」
「す、すまん」
なんやかんやありつつも、通りすがりの人に教えてもらった店に行くことになった。
男の案内通り、野菜の積まれた箱の置いてある道を右に曲がると、人が2人くらいしか通れない路地に出た。
そして路地をそのまま進むと、洋風建築の落ち着く雰囲気のある店の前に来た。
.....この和風建築の海の中に、ポツンと佇むこの洋風な建物......違和感がある。
「ここか?」
「テスカちゃん」
「......ここ?」
「はい。そうです。多分ここだと思います」
『ここか?』は、リルの女の子センサーに引っかかるようだ。もっと口調を柔らかくしないとな。
......何でこんな事してるんだろう。
「入りましょうか」
「あぁ......じゃない。うん」
リルが前に立ってドアを開けると、店内から俺達に、コーヒーの良い香りが広がってきた。ここは喫茶店なのか?
「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」
「「は、はい」」
「では、お好きな席へどうぞ」
す、すげぇ。マジモンの『マスター』やん。リアルでは本格的な喫茶店とかあまり見ないせいで行ったことが無いが、この雰囲気は分かる。
「何か凄いとこに来たね。喫茶店とか初めてだよ」
「そうですね。とても落ち着きます」
「──ご注文はお決まりでしょうか」
マスターが店のカウンターから声を掛けると、俺の目の前にウィンドウが出てきた。
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秘境喫茶『ケリドウェン』のメニュー
『最高の叡智コーヒー』─200万L
『最高の霊感サンド』─3000万L
『最高の学問ゼリー』─5000万L
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何だこれ。『最高の』と名前についてるから、異なる品質のメニューがあるのかと思えば、この3つしかメニューが無いではないか。
ってか値段高すぎだろ! あの男、何が『料金は高いが』だよ! 高すぎるわボケェ!
......仕方ない。取り敢えず詳細を聞こう。
「マスター。メニューの詳細を聞いても良いですか?」
「えぇ、勿論ですとも。貴女方は魔女に好かれし者ですから」
やめろ。訳の分からないことをいいんじゃない。侵入ミッション前に余計な思考を入れないでくれ。
「では、『最高の叡智コーヒー』の詳細です。まず、なんと言っても香りが良いのです。店内に広がるコーヒーの香りは、すべてこちらのコーヒーによるものです。
そして、こちらのコーヒーには魔法攻撃力を1.5倍にする効果がございます」
「その効果時間は?」
「永続でございます。これは女神であり、魔女でもあるケリドウェン様が作るコーヒーだけの効果です」
やっば。戦神と不死鳥化の2つと合わせたら、イグニスアローが化け物になってしまうぞ。
それがたった200万......あの男の言い分も分かる気がするな。
「次に、『最高の霊感サンド』こちらは神界で採れた最高級の小麦を使ったパンに、ケリドウェン様が独自で育てられた野菜達を挟んだサンドイッチでございます。
値段は張りますが、魔法による攻撃を事前に察知する事が可能になります」
ありゃりゃ。サーチと被ってしまったな。サーチ君も魔法は察知......いや、空間魔法はサーチでは見る事が出来ない。
もしかして──
「その効果、空間魔法も察知出来るので?」
「......クフフ。お客様はお目が高い。その通り、空間魔法や古代魔法でさえも、察知する事が可能でございます」
「なるほど......」
理解した。このサンドイッチで得られる効果は、魔法を察知する点ではサーチより上だ。だがここに来て1つ、気になる点も浮上してきた。
「その効果達は、死んでしまったり魔法による状態異常回復で消えないので?」
「ご安心ください。消える事はございません」
「ありがとうございます。では最後のを」
「えぇ。『最高の学問ゼリー』は神界産の最高級フルーツ、『ウェルトゥム』を使用しており、貴女の知る全てのフルーツの味を教えてくれるでしう」
凄いな......ドリアンとか知ってたら地獄に変わりそうだ。
「そして効果の程は......魔法を使用する際、消費魔力が半分になります」
嘘だろ? みんな大好きぶっ壊れ効果が5000万で買えちゃうのか!?
「マスター。それは『マナ効率化』と重複しますか?」
「勿論です。合わせて4分の1の魔力で魔法を行使可能です」
......買いたい。買いたいけど、所持金は不動の5300万だ。
もしゼリーとリルの分のコーヒーを頼めば、残金は100万にまで減ってしまう。
でもなぁ。秘境って言うくらいだし、魔法的な何かで二度と来る事が出来ないかもしれないんだよなぁ。
「マスター。ここは再度訪れる事は可能ですか?」
「貴女にご縁があれば、現れるでしょう」
あ......99パーセント1度きりのやつだ。買うしかない。
「そうですか......リル、コーヒーでいい?」
「はい。ご飯の方はまた後で食べましょう。母様と一緒に」
「そうだね......マスター、『最高の叡智コーヒー』と『最高の学問ゼリー』を1つずつお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
そう言ってマスターはカウンターの奥へ行き、注文の品の用意を始めた。
「テスカちゃん。お金稼ぎ、しないといけませんね」
「......うん」
「テスカちゃんなら、冒険者よりも生産職が向いてると思うので、装備を作ってそれを売れば、かなりの大金になると思いますよ?」
「まぁね。さり気に知り合い以外に武器を作った事ないし、本格的に『ルナちゃん特製☆』シリーズを作る時かもな」
大分前に言った事だが、アリかもしれない。
神器レベルになれば売れないが、聖魔武具ならそこそこの値段で売れると思うからな。
今度、試してみようか。
「お待たせしました。こちら、『最高の叡智コーヒー』と『最高の学問ゼリー』でございます」
「「ありがとうございます」」
リルの前にはとても良い香りのするコーヒーが。
俺の前には7色に輝く綺麗なゼリーが置かれた。
食べ物に使った値段としては最高金額だな。たった1皿のゼリーに8桁も、それも5000万とは......効果を見ずに聞いたら呆れる値段だ。
「では、ごゆっくり」
「「いただきます」」
マスターが去ったのを確認してから、リルの様子を見てから食べようと思い、俺はリルがコーヒーを飲むのを待った。
「ほっ......コーヒーとは、とても落ち着く飲み物ですね」
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『リル』に『ケリドウェンの叡智』が授けられました。
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リルがコーヒーを飲んだ瞬間、ウィンドウ君が知らせてくれた。
「テスカちゃん? 食べないのですか?」
「ん? ちょっとリルの様子を見てただけ。食べるよ」
そう言って俺は小さなスプーンでゼリーを掬うと、スプーンに乗ったゼリーが様々な色に変化していった。
これはガチャか? ソシャゲのガチャよろしく、フルーツ味のガチャなのか?
ちょっと気になるので、ブドウと思われる綺麗な紫色になった瞬間に口に入れた。
すると口の中に弾ける様なレモンの酸味が広がり、その後にマスカットの様な爽やかな甘みが舌を刺激した。
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『ケリドウェンの学問』が授けられました。
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「美味しい。リアルでは絶対に味わえない、この世界ならではの料理の美味しさだ」
特定のフルーツの味に変化するゼリーなど、現実に存在するだろうか。いや、無いだろう。
見た目も美しく、味と見た目の両方が7色に変わり続けるゼリーなど存在しないだろう。
「ほら、リル。あ〜ん」
「え、いいのですか?」
「いいよ」
「では、あ〜ん......おぉ、美味しいです! 白銀マンゴーの味がしたと思えば、後味がモスベリーに変わりました!」
「なんとまぁニクス山尽くしな味に......」
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『リル』に『ケリドウェンの学問』が授けられました。
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オイオイオイオイちょっと待てェ!!!
それはアカンでしょ! 流石にそれはアカンやつでしょ!
......いや、待てよ? マスターは別に『完食したら効果が付く』とは言ってないんだ。
それならこれも、アリなのでは?
「父さ......テスカちゃん。私のコーヒーもどうぞ」
「あ、ありがとう......凄いな。鼻に抜けるコーヒーの香りというか、全身に抜けていく香りだ」
一縷の望みにかけて、俺はコーヒーを1口頂いた。
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『ケリドウェンの叡智』が授けられました。
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アイムウィナー。我こそが勝者なり。
使用MP4分の1。魔法攻撃力1.5倍。俺、魔法で生きていくわ。
それからリルとまったりした朝を過ごし、ソルからチャットが来たので帰ることになった。
「「ごちそうさまでした」」
「またのご来店を、楽しみにしております」
大金を失ったが、得られたものは大きかった。
久しぶりのリルと2人っきりで話せたし、俺はテスカちゃんモードだから対等に話せた。
フーが空気を読んだせいで俺達に話しかけなかったが、メイドさんという目から見れば当然のことなのだろう。
それから2人仲良く手を繋ぎ、ソルの待つ部屋へと帰った。
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名前:ルナ
レベル:402
所持金:1,758,120L
種族:人間
職業:『ヴェルテクスギルドマスター』
称号:『スライムキラー』
所属ギルド:魔法士・Sランク冒険者
Pギルド:『ヴェルテクス』
所持因子:『稲荷』他6柱
所持技術:『魔力打ち』他多数
《ケリドウェンの叡智・学問》
HP:20,060
MP:20,060
STR:20,060
INT:20,060
VIT:20,060
DEX:20,060
AGI:20,060
LUC:10,025
CRT:100(上限値)
SP:1,540
『取得スキル』
戦闘系:非表示
魔法:非表示
生産系:非表示
その他
『テイム』Lv4
『不死鳥化』Lv100
『マナ効率化』Lv0
『植物鑑定』Lv0
『毒物鑑定』Lv0
『動物鑑定』Lv0
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この喫茶店自体は、既にプレイヤーの中で話題になっています。
出現条件不明。値段の超変動。様々な話が飛び交っています。
ところで、先日某プ口セカにて皆伝の称号を獲得しました。
それによって音ゲーのモチベーションが爆上がりしてるので、暫くは1日1本になるかもしれないかもしれないかもしれません。
では次回『俺の忍術、暗黒魔法!』お楽しみに!