将軍ムラマサとは
遅れちゃいました。
◇刀鬼流入門・2日目◇
今日はソルがお休みとの事で、リルをソルに預けて俺は道場へ行くことになった。
早いうちにムラサメさんと戦い、妖刀やムラマサという人物について聞きたいが、ちゃんと刀鬼流の地盤も固めたいな。
「行ってきます」
「「行ってらっしゃい」」
ソルに行ってらっしゃいのキスを貰い、リルの頭を軽く撫でてから道場へ向かった。
道中、打ち合う相手がいなかったらフーに頼むと、異常なくらいフーのテンションが上がった。
『うぇ〜い、ようやく振ってもらえるうぇ〜い!』
「頭、大丈夫か?」
『大丈夫な訳ないでしょう? 昨日は霊剣しか使ってくれませんでしたし、どれだけ私が寂しい思いをしてると思ってるんですか?』
「ほんの少しだけ」
『相手、いないといいですね......そうすればルナさんを真っ二つに出来ます......フフ、フフフフ!』
久しぶりにフーが壊れてしまった。最後に壊れたのは王女の時以来か?懐かしい......あれから半年経ってるとは思えないな。
そうして道場へ入ると、丁度マサキがムラサメさんに負けた所だった。
「お、ルナ!」
「おはよう。負けたんだな」
「まぁな......防御が間に合わなかったんだ」
マサキが立ち上がると、ムラサメさんが声を掛けてくれた。
「ルカもやるかの? 昨日言ったように、儂に勝てば教えてやるぞ?」
「やります。ルールはどうしますか?」
「回復無し、魔法無し、その他スキル無し、刀術と闘術のみ使用可能。これでどうかの?」
「了解です。魔刀術はどうしますか? 曖昧なラインですけど......」
「ふむ......なら魔刀術は有りにするかの」
「分かりました」
そうしてルール確認を終えると、自然とマサキが審判になっていた。
さぁ、朝から師範と試合......楽しみだな。
『ルナさんルナさん。あの子は使うんですか?』
「あの子?......どの子?」
突然、フーが訳の分からない事を言い出した。
フーの口ぶりからすると人の様に思えるが、多分武器の事だろう。
『ほら、龍核と宝石のあの子ですよ』
「あはん......アイツは刀じゃないからダメだろ」
フーの説明で理解した。夏の終わりに作った武器の話だな。
色んなドラゴンから手に入れた龍核と、魔力打ちで大 大量の魔力を宿した宝石で作った短剣の事だな。
『え? あの子って刀じゃないんですか!?』
「うん。アイツは短剣だからな。短刀ではない」
『そうなんですか......つまらないですね!』
「お前はアイツに何を求めてるんだよ......」
まぁ、試運転の時に大変な事になったのは覚えてるからな。
っていうか、もしアレをここで使えば道場が焼け野原になるぞ。フーは何を考えてんだ?
「ルナ、いいか?」
「あぁ、すまない。準備は出来てる」
「うむ。儂も問題ないぞ」
「了解。両者、構え」
審判をするのに熟れた様子のマサキが手を上げると、ムラサメさんは真剣を抜刀した。
対する俺も、左手で布都御魂剣の鞘を掴み、親指で鍔を押していつでも抜刀出来るようにした。
「......抜刀か」
ムラサメさんが軽く呟くと、マサキは手を振り下ろして試合開始の合図を出した。
「始め!」
「刀鬼流......『一閃』」
開始と同時にムラサメさんは斬撃を飛ばしてきた。
さぁ、攻撃を弾く前に考えろ。この斬撃を避けた結果と弾いた結果で、どのような展開になるかを。
まず、弾いた場合は俺の構えを見て、速攻で詰め寄って闘術でボコボコにしてくるだろう。
攻撃を弾くという事は、一瞬の隙が生まれるからな。これは防ぎようのない隙だ。
次に、避けた場合だ。これも単純、追撃がやってくるだろう。だって、既に次の行動に写ってるしな、ムラサメさん。
では俺が取るべき選択を決めようか。それは──
「『戦神』」
戦神で無理やりVITを上げ、斬撃をそのまま喰らった。
部位欠損する威力でもないので、2割のHPを犠牲にして第3の選択肢を取った。
「......ほう」
ムラサメさんが止まった。この1秒未満の隙、高くつくぞ。
「『斬』」
「ふんっ!」
ガキンッ! と轟音を道場内へ響かて、ムラサメさんは俺の攻撃を防いだ。
鍔迫り合いになるのは避けたかったが......仕方ない。
それより、戦神込みの隙を突いた攻撃でさえ防がれるとは思いもしなかった。これは完璧に『当たる』と思っていたからな。
だが後ろに引いている時間はない。ここは前へ。
俺は布都御魂剣に込める力をそのままに、左足を軸に回し蹴りをした。
「ぬぅっ!......やりおる」
これもただの回し蹴りではなく、足首を狙った回し蹴り。
確かこれは......師匠の苦手なタイプの蹴りだったかな。
弱点でもなく、大したダメージは与えられない。だけど後に響くダメージは残る。
今のムラサメさんの右足、殆ど力が入っていない。まずは1歩リードと言ったところか。
「【霊剣】『魔刀術:雷纏』『魔纏』......フー」
『はいはい。制御も怒りもしませんよ。お好きにどぅぅぅぞ』
「......『雷』」
「ぐはぁ!!!」
魔刀術に大きな補正の入る霊剣で、俺はムラサメさんの右腕をさようならさせた。
「そこまで! 勝者、ルナ!」
「待てぇい! 儂はまだ......」
「アレを見てもっすか?」
「......いや」
試合終了を宣言したマサキにムラサメさんは食ってかかるが、マサキが俺を見た時には既に、俺は次手の為に布都御魂剣を構えていた。
試合終了が撤回されようものなら、ムラサメさんの左腕もさようならだぞ?
「ルナ」
「ふぉいふぉい」
『まるまる』
え? フーさん、あの伝説の魔術学校の生徒を知っているのか!?
「ありがとうございました......ムラサメさん、約束通りムラマサとやらの人について、教えて下さいね?」
「あぁ、勿論じゃ......じゃがその前に、腕を治しても良いかの?」
「それなら俺が治しますよ。『リザレクション』」
光明魔法をムラサメさんに使うと、数秒かけてムラサメさんの右腕が復活した。
......ダメだな。やっぱりソルのリザレクションと違って、俺のはかなり遅い。『マナ効率化』で消費MPが少なくなってる代償か?
でも、他の魔法は遅くなってないからなぁ。
単なるスキルレベルの差......か。
「礼を言う、ルカ」
「いえ......では本題に入りましょう。ムラマサとはどんな人物か。教えて下さい」
「あぁ。ムラマサは儂の弟に当たる人間じゃ。儂と同じように刀鬼流を学び、そして柳流、刀道流までもを修めよった」
「「3つ......」」
つまりは何だ? ムラマサは圧倒的な攻撃力と攻撃速度、そしてその攻撃を全て防げる防御の技術と判断力。
更にはその2つの上位互換とも言われていた技術を持っていると?
何その万能タイプ。そら将軍にもなるわな。
「そして奴は、力と知恵を使い、将軍になった。ほれ、ここから北に行けば見える、大きな城が見えるじゃろう? あれはムラマサの城、名を『狐城』と呼ぶ」
「何故狐が? ここが狐国という名前だからですか?」
「いんや違う。名前は単に、ムラマサの嫁が狐獣人じゃから名前に狐が入っとる」
「「え......」」
ふむ......悪くない趣味をしているな、ムラマサ。君とは美味いジュースが飲めそうだ。
「ルナ、お前も城の名前を『フォックスキャッスル』にするか? 聞いてる限りじゃ、お前とそんなに変わらないだろ」
「いやいや、まだソルはお嫁さんじゃないから。甘々な彼女だから。ほら、次の話......」
「でも対外的には夫婦だろ? ならワンチャンあるんじゃ?」
「ほう、ルカの嫁も狐獣人なのか?」
ほら面倒な脱線の仕方をしちゃったじゃん。だから切り上げたかったのに!
「まぁ、はい。そうですね。昨日柳流に入門した狐獣人の子が、俺の......俺の............です」
ハッキリ言えねぇ。俺としては言いたい気持ちだが、ソルがそう言われても大丈夫なものか考える......うぅ。
「何じゃ。ハッキリせんのぉ」
「そうだぞ。今は他に人もいないんだし、ぶちまけちまえよ」
「え〜......本当にいない?」
「いねぇよ......多分」
信頼に欠ける『多分』だな。でもまぁ、ハッキリしておこう。誰にもソルを取られない為にも。
「ソルは俺のお嫁さんです!!」
「「「キャァァァァァァァァァ!!!!!!」」」
「え?」
何故......人がいる?数秒前までいなかったのに、何故こんなに人が?
「アレか、幻覚か。流石マサキだな。闇属性魔法も取っていたとは」
「すまん。お前に見せたのは『誰もいない幻覚』だ。今は完全な現実だ」
「ん?」
「だから言ったろ?『多分』って。悪いとは思っている......だが、これでルナもスッキリしたんじゃないか?」
「ん?......ん?」
俺はそっと立ち上がり、布都御魂剣に手を掛けた。
「待て待て待て! ごめん、ごめんて! 笑顔で刀に手を掛けないでくれ!」
『ルナさん、落ち着きましょう? ソルさんを『俺の女』宣言しただけで、ルナさんには害は無いでしょう?』
いやぁ、違うんだよフー。これはケジメさ。
「......俺、親友には対等で在りたいなって思うんだよ。ソルは勿論のこと、大切なマサキもな」
「お、おう」
「だから......その一環として、今の俺の気持ちも共有しよう」
「ん?」
「マサキ、死のうぜ!『斬』」
「ちょ待──」
キンッ!
マサキの首に当たるはずの俺の刀は、ムラサメさんの刀によって防がれてしまった。
「落ち着け。刀を持つものが感情に任せてどうする」
この言葉にハッとした。忘れちゃいけない事を忘れていた。
でも.....いや、でもじゃないな。落ち着こう。
「すみません」
刀を振らないようにフーを降臨させ、そのまま床に座った。
「刀が......まさかルカ、神器を使っておったのか!?」
「「え? 今更?」」
「今更とはなんじゃ今更とは! 神器じゃぞ!? 一生に一度、見れるかどうかも怪しい代物じゃぞ!?」
脱線しすぎだろ。ムラマサの話に戻そうよ。
「はいはい。フーについては後で適当に喋りますんで、今はムラマサについて教えて下さい。あと、ムラマサに妖刀を貰いに行きたいので、そこら辺の話も」
そうして、俺達は3......じゃなかった。4人で話を聞き、共に色々な話をした。
今更何を気にしてるんだと、そうルナ君に私は言いたいです。
次回『狐城侵入計画』お楽しみに(^・ω・^)