在るべき場所へ
ここからテンポ上げていきます。
「ったく、全て白いのが勝手にやった事じゃねぇか」
「はい......すみません」
ヤマシロさんに事情を話したところ、思いっ切り説教を受けてしまった。
それもそうだ。あとから思えば、全部俺が振り回してしまった事だ。もう、後悔しまくっている。
「で? 3人を連れて来て、どうする気なんだ?」
「イオリを刀鬼流に。ハズミは柳流に。イヅナをヤマシロさんの所に預けたいな、と」
ハズミは受け流しが得意という事をイオリから聞いたので、ハズミは柳流が良いと思ったんだ。
「......小狐を俺に?」
「えぇ。何故だか知りませんが、イヅナと相性の良い道場が消えてしまったので、修羅でもある貴方に預けるのが一番かな、と思いまして」
「フンッ......口が回ることだ。だが、お前が言うからには、この小狐も才能があるんだな?」
「......多分」
「あぁ? 多分だぁ? お前......斬るぞ?」
不味い! 妖刀を持ち出されちゃ俺も死ぬかもしれん!
「あ、あります! ありますとも! イヅナは才能の塊です! 可能性の獣です!」
「チッ......まぁいい。小狐、お前に才能が無ければ、容赦なく捨てるぞ」
「いい。強く、なれるなら、意地でも、着いてく」
「クックック......その心、折れたら終わりだな」
「うん」
あれ? 意外と相性が良い? ちょっとした出来心で押し付けてみたけど、もしかしたらジャックポットを引いたかもしれない。
「......で? 残りの5人の紹介状を書けと?」
「「お願いします」」
「お願いするっす」
「「お願いします。ヤマシロ様」」
「チッ......次は無いからな。これで道場を消したら、俺はお前達を斬る。狐国の為にもな」
「はい。もう勝手な事はしません」
「もう勝手な事はさせません」
ソルが保護者の様に対応すると、ヤマシロさんは5枚の紹介状を書いてくれた。
俺とイオリ、茜さんが刀鬼流に。そしてハズミとソルが柳流に。
「......ほらよ」
ソルと別行動......やべぇ、受け取りたくねぇ!
「......ルナ?」
イオリが怪訝そうな顔で見てくるが、気にしている暇がない。俺は今、窮地に立っているのだ。ソルと離れ離れという、俺の心の安定剤が離れようとしてるのだ。
「くっ......ぐぬぬ......う〜ん......いやぁ............はぁ。ありがとうございます」
「ふふっ、ルナ君、私は大丈夫だよ。誰にも取られないから安心して?」
そう言ってソルは優しく抱き締め、軽く頬にキスをしてくれた。
「......分かった。寂しくなったら言えよ?」
「うん。少しの間だけだから」
よ〜し。お兄さん、頑張るぞ〜!
ソル成分を沢山補給したので、これで暫くは大丈夫だろう。
もしソル成分が足りなくなったら、フーに相談してからリルと遊んだりして補填しようか。
こういう時のフーの反応って、面白いからな。聞いてみる価値はある。
「ルナさん......そろそろ行くっすよ」
「はいよ。じゃあ行こうか。まずはソルとハズミを柳流に送って、それから刀鬼流に行こう。『テレポート』」
俺は皆が街に転移していくのを確認していると、ヤマシロさんに話しかけられた。
「白いの」
「はい」
「餞別だ。ルナなら上手く使えると、そう信じてるぞ」
ヤマシロさんが、俺の手のひらより大きい何かを投げてきた。
っていうか今、名前で呼んだよね?『白いの』卒業したよね!?
◇━━━━━━━━━━━━━━◇
『緋緋色金』を受け取りました。
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何だこれは。ゲームでしか見た事の無い金属を、ゲームで受け取ってしまったぞ。
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『緋緋色金』
原材料:『──』『不滅の火種』
Rare:──
その身は永久不変の不滅の炎。
その身は太陽の如き赤く輝く。
その身は月の如く冷たく響く。
その身は雷を拒み跳ね除ける。
その身は神鍮を容易く超える。
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あら、格好良いフレーバーテキスト。俺はこういうの大好きだぞ。
それにこれ......『斬鋼ノ御魂』みたいに、既に神器になる事が確定している、エリート街道まっしぐらな金属じゃないか。
「行け。お前の求める妖刀は、想像以上に遠いぞ」
「はい。ありがとうございました」
俺は短くお礼を言ってから、テレポートで街に出た。
◇ヤマシロside◇
「ヤマシロ。ルナに、何を、渡したの?」
「フンッ......ただの燃えカスだ。俺には扱いきれない、大きな炎の......な」
「???」
「分からないならそれでいい。小狐は小狐の在るべき場所を、自分の手で掴み取れ」
「うん。ヤマシロ、イヅナ、鍛えて?」
「馬鹿言うな。俺は鍛え方を教えるだけで、鍛えるのはお前自身だ。そこを履き違えるようじゃあ......強くなる道は果てしない」
「......うん!イ ヅナ、頑張る!」
「それで良い。じゃあ、出るぞ。基本からだ」
そうして、イヅナはヤマシロの指導のもと、力と技の頂点とも言える『刀道流』を学ぶ道を歩んだ。
◇ルナside◇
「ん? 特殊クエストが......なるほど」
柳流の道場へ向かう最中、ウィンドウが出てきたかと思えば、特殊クエストの進行具合が表示されたのだ。
1/3と。つまり、3人の剣士の内、1人の剣士......イヅナを行く着くべき場所へと送り届けたと言う事だ。
どうやら俺は、本当にジャックポットを引いたようだ。
「ルナ君?」
「何でもない。それよりここが柳流道場か?」
「みたいだね」
刀道流とは違い、規模が大きな道場の門前まで来た。
どうやここが、受け身を主とし、カウンターで相手を撃破する『柳流』の道場のようだ。
「ルナ。ありがとう」
「気にしないでくれ。俺がやった事だ」
ハズミにお礼を言われたが、全部俺がやった事だ。ちゃんと在るべき場所に皆を帰さないといけない。
「じゃあね、ルナ君。行ってきます」
「あぁ。行ってらっしゃい」
ソルとキスをして送り出し、2人が門を潜ったのを確認してから振り返った。
するとそこには、顔を真っ赤にした男女の姿があるではないか。
「な、ナチュラルにキスしてるっす......」
「初めて見ちゃった......こんな場面......」
「まぁ、恋人ってこんなもんだろ?知らんけど。キスくらいは普通だと思うんだけどなぁ」
これが初恋なので、自分がどうとか、相手がどうとか全く分からない。客観的に見た自分もイメージ出来ないから、誰かに聞かないと俺達の関係の深さがどう見えてるのか分からない。
俺としては、ただ隣に居て欲しい存在だ。特に何をするでもなく、同じ空間に居るだけで楽しいと思えるからな。
「いやぁ、今のは恋人ってより......ねぇ?」
「そうっす......最早......ぅふっすよ」
「豆腐?何、俺が豆腐メンタルだと言うのか?正解だぞ?」
確かにソルが居ないとやる気が出なかったり、精神的に参る事がある。そこに関しては豆腐より脆いメンタルをしているだろう。
茜さんがそこまで見抜いているとはな......やはりこの人は強いプレイヤーだ。
「じゃあ行くぞ。俺が何か言って問題起こしたら嫌だから、茜さん先頭で頼む」
「何も起こさないと信じて先頭に立ってくださいっす」
「いや、トラブルから近付かれたら俺も嫌だし......分かった。分かったからその目をやめてくれ」
ジト目と言うか、軽蔑の眼差しだったぞ。
そうして30分ほど歩くと、目的地である、『刀鬼流』の道場に着いた。
「イオリ、心の準備はいいな?」
「勿論。あのテンゲンさ......テンゲンを倒した君が言ったんだ。僕は刀鬼流で生きるよ」
「......そうか。では」
俺達はそっと門を開け、刀鬼流の道場に入った。
次回、『刀鬼流のプレイヤー』お楽しみに!
いつも読んでくださり、ありがとうございます( ´:ω:` )