刀道流入門 後編
最近は1日1本投稿ですが、ゲームやら事情やらで忙しくて.....てへ。
い、一応ユアストって不定期更新ですからね?本当ですよ?
「そこまで! 勝者、イヅナ!」
「──あはは、負けちゃったっす」
イヅナさんとの試合に茜さんは負け、しょぼんとした顔で帰ってきた。
やはり魔法で翻弄されたのが痛かったな。『斬』の効果のように魔法も斬れたり、サーチのように魔法や相手、戦場そのものを見る術が無いと厳しい。
あぁ、どんな言葉を掛けたら良いのか分からない。でも俺が思うに、追い出される事はないだろう。
......だって、負けたら入門させないなんて、誰も言ってないし。
「ドンマイ。明日辺りにでも再戦すれば見えるものもあるだろ」
「そうそう。チャンスは沢山あるよ?」
「はいっす......」
えらく落ち込んでいるな。茜さん、真っ直ぐに前しか見てないから気付いてない事が多い。
「イヅナ」
「茜、筋は、良かった。でも、前しか、見てない」
「そうか」
テンゲンがイヅナさんと話していたが、この人、言葉の区切り方に癖があるな。
話すようになったら、慣れるかな?
「ではルナ。やろうか」
「へ〜い」
呼ばれたので適当に返事をして着いて行くと、刀道流の3人から冷たい目線を向けられた。
「ルナは何か、ルールが欲しいか? 例えば......勝敗条件とか」
「要りませんよ。死ぬまでやれってんなら、普通に殺しますし、寸止めがいいなら寸止めでもいいですよ」
「では、単純なルールにしないか?『刀術』のみで」
うわぁ......裏しかないルールじゃん。
特殊技は禁止しないし、そもそも『刀術のみ』という意味が分からない。
だってこれ、『刀術だけ使わない』というルールの可能性があるからな。
「もっと正確にどうぞ。正直、俺はお遊び気分なのでテンゲンが全部決めてくれて構わないですから。あ、テンゲンさん」
やべ。思考のフィルターを通さずに喋ったら呼び捨てにしちゃった。怒られる......よな?仮にも門下生になる者だし。
「ふっ......呼び捨てで構わんぞ。実力など、俺と差程変わらんだろう。それと、ルールは『刀を落とした方の敗北』これでいいか?」
「分かった。それと先に言っておくが、魔法はアリなんだな?」
「勿論。刀道流は、その魔法すら斬る流派だ。攻めに出ようと、守りに入ろうと、魔法を使おうと、貪欲に勝利を渇望する......それが刀道流だからな」
「ふ〜ん」
正直に言って、流派への興味が無い。誰が何をどうしようと、俺は楽しめればそれでいい。
そしてテンゲンと目が合うと、俺達は同時にニヤッと笑った。
「「やろうか」」
「これより! 刀道流入門試験、テンゲン対ルナの試合を行う! 両者、構え!」
安定の無形の構えだ。いや、これは構えとは言わないか。文字通り、構えと呼ぶのも烏滸がましい、ただリラックスしているだけだから。
対するテンゲンは抜刀し、左手を刃に添えている。
「始め!」
「『魔纏』『魔剣術:炎纏』」
おぉ! 魔纏込の魔剣術で来たか! オラ、ワクワクすっぞ!
「......『焔』」
あ〜ね。広範囲の横薙ぎの炎でやるのね。ダメだよ。ちゃんと刃で斬らないと。
「『グレイシア』」
さて、魔法の一合が終わったところでオープニングの終了だ。そろそろ本編に入ろう。
「『戦神』【霊剣】『魔纏』『魔刀術:雷纏』」
俺は敢えて霊剣を作り、正眼に構えた。テンゲンの次手で、この試合の全てを変えよう。
「ガハハ!『魔刀術:雷纏』」
おや。抜刀状態の雷纏か......となると、雷ではなく電で来るのかな。いや、固定観念を捨てよう。
ここはきっと、裏をかいて雷で来る!
「フッ......電」
はぁ、電の突きか。クソほどしょうもない......これは敢えて受けた方が楽しめるかな。
そして俺は、テンゲンの刀が俺の心臓を貫いたのを確認し、こっそりと電に使われている雷を奪ってから倒れた。
この時、絶対に刀を落としてはならない。敗北するからな。
◇━━━━━━━━━━━━━━━◇
『守護者の加護』が発動しました。
『死を恐れぬ者』が発動しました。
『最弱無敗』が発動しました。
◇━━━━━━━━━━━━━━━◇
「ぐっ......死......ぬ......」
「甘すぎる」
テンゲンが止めを刺そうと俺に近寄った。でも残念ながら、俺はそう簡単には死なない。
ゴキブリ並みの生命力を持つ俺を舐めないでくれよ?菌が付くぞ?
「想像以下だったぞ。ル「イブキ」がぁっ!」
ご丁寧に殺す前に喋ってくれたので、イブキを顕現させて足を切った。
攻撃力20の痛み、よ〜く味わってくれ。爪楊枝といい勝負だから。
「んぐはぁ!......毒......!?」
血のポリゴンを吐き出し、刀を落としてからテンゲンが倒れた。
麻痺毒に麻痺劇毒の組み合わせ。俺は喰らいたくないなぁ。
『ルナ様。あのままでは彼奴が死にますぞ?......それとも、元より殺す気で?』
「ステラ、『癒しの光』......『キュア』これで大丈夫だ。それと、テンゲンは刀を落としたからな。俺の勝ちだ」
チラッとイオリを見ると、頷いて答えた。
「そこまで! 勝者、ルナ!」
「ありがとうございました」
「クソ、負けた......ありがとう、ございました」
俺はテンゲンに礼をすると、テンゲンも立ち上がってから礼をした。
礼に始まりはしなかったが、礼に終わる事は出来た。
......お互いに殺る気に満ち溢れていたから、礼に始まる事が出来なかったんだな。
「はぁ......全員集まれ!」
テンゲンが号令をかけると、5人が集まってきた。
「ソル、茜、ルナの3人の入門を認める。これから刀道流を学んでくれ......それとルナ」
「ん?」
「俺に、戦い方を教えてくれ」
テンゲンが頭を下げた事により、道場内は混乱状態になった。
「テンゲン様! それでは僕達の刀道流が無くなりますよ!?」
「そうですよ......別に、これからも師匠の戦いを続けてもいいじゃないですか」
「うん、うん。刀道流、消えて欲しく、ない」
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『特殊クエスト:馬鹿につける薬』
<報酬>
・『天元刀:黒銘』
・称号『刀道流の覇者』
<概要>
現・刀道流師範テンゲンに稽古を付ける。
テンゲンは貴方の稽古により強くなるが、
その代償として刀道流を失う。
開始しますか?『はい』『いいえ』
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俺、こういうの1番嫌い。自分で始めた事に責任を持たず、門下生の事も考えずに自分だけ良い思いをしようとするの、大嫌いだ。
何かしらの補填をするならまだしも、コイツはイオリ、ハズミ、イヅナの事を放棄する気だろう?
こんなの、『いいえ』一択だ。そもそもやる気もない。
「断る。門下生もいる以上、刀道流を棄てる事は許されないぞ」
「.............」
「あとさ、『刀道流を学んでくれ』って言いながら刀道流を棄てようとするの、矛盾してるからな?」
「............」
これだけ言っても、テンゲンは一向に頭を上げない。
「はぁ......帰るぞ、ソル」
「うん」
「え、帰っちゃうんすか!?」
「当たり前だ。こんな奴が頭の道場なんて、学ぶ価値が無い。イオリの最初にやった、不意の打ててない攻撃も、コイツの考えた事だろう?......全く、剣に生きているように見せかけるとは、クソだな」
八つ当たりにも思えるが、合っているはずだ。イオリの本来の刀って、もっと真っ直ぐな刀のはずなんだ。
それがくだらない不意打ちに使われるのは、酷く勿体ない。
「......ルナ。僕の剣を侮辱するのか?」
「そうだ。お前の刀は本来、刀鬼流のような、真っ直ぐに猛攻撃をする流派にあるはずだ。それを不定形の刀道流に当てはめるには、真っ直ぐ過ぎて嵌ってないんだよ」
「えっ?.....うん」
「ハズミさんは剣を交えてないから分からないが、正直に振らないと、勝てるもんも勝てないぞ」
「......」
「イヅナは刀道流に合っているだろう。裏をかき、刀に振られない生き方は妖術にピッタリだからな」
「うん」
「ただ、やるならソルのように2手先3手先を打ちながらやれ。ワンパターンで攻略出来るほど、敵は甘くないぞ」
「......うん」
「そしてテンゲン。お前は酷すぎる。抜刀状態からの電とか、読み易いにも程がある。
これが刀道流の戦いと言うのなら、入門率0パーセントなのも納得だ。なんせ、刀鬼流と柳流の良いとこ取りだと思えば、両方とも中途半端だったからな」
「違う! ルナが強すぎたんだ!」
......は?
「テンゲン......お前何言ってんの?自分の弱さを認めずに他人を認めて、それが本当に合ってると思ってんのか?
それならお前、人に教える資格なんて無いぞ。3人が可哀想だ」
師匠は言っていた。『自分は弱い』と。陽菜には武術の才能があり、俺には努力の才能があると言い、師匠にはそれが無いと言っていた。
それでも、誰に教えを請うでもなく、愚直に鍛え上げたと。
情報化社会になった現代でも、武人で在りたいと願った師匠が積み上げた力に、俺と陽菜は負け続けたのだ。
俺達はそんな師匠を見てきたからこそ、自分の強さと、自分の弱さを知っているんだ。
正しく自分を見つめる事で、より高みへ至れると信じて。
それを知った後にテンゲンを見れば、如何に師匠が武人である事かを理解したぞ。
「鍛えろ。玉鋼じゃなく、刀に鍛えてから振れ。未完成な物を見せても、真に理解出来るやつは1人もいないぞ」
鉄と炭の塊を見て、誰が『素晴らしい武術ですね』と言うんだ。
「......はい」
「最後にこんな事を言う羽目になるとは思わなかったが、これで最後だ。じゃあな」
俺はソルの手を取り、一緒に道場を出て、さらに街まで出た。
「ルナ君、これからどうするの? 特殊クエストも無くなっちゃったし......リルちゃん呼んで、観光でもする?」
「いや? 妖刀に関して進める。取り敢えずヤマシロさんの所へ転移する」
「分かった」
そして転移しようとすると、後ろから声が掛かった。
「待って!......ください!......っす!」
「ルナ! 待ってくれ!」
何故か茜さんだけでなく、イオリとハズミ、イヅナさんまでもが来てしまった。
「お前ら、刀道流は?」
「「「辞めた」」」
あらシンプル。シンプルに予想外な展開を持ち出してきた。
「ルナ。僕達も連れて行ってくれないか?」
「どこに?」
「ルナの行く先に」
「家だぞ?」
「え?」
「だから、俺達は家に帰るんだけど......着いて来る気か?」
俺がそう嘘をつくと、今度はイヅナさんが前に出て来た。
「......行く。それで、強く、なれる、なら」
「イヅナさん。家に着いて行って強くなれると思ってるなら相当変だぞ?強くなりたいなら、回れ右して道場で素振りしな。その方が剣の腕は上がる」
「嫌。ルナに、着いてく」
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『特殊クエスト:3人の剣士』を開始します。
<概要>
3人の剣士、イオリ・ハズミ・イヅナを
行き着くべき場所に送り届けよう。
2人の男の未熟さを、3人に背負わせる事は
ないだろう。
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あ〜あ。余計な種を蒔いちゃった。ホント、俺は何してるんだろ。
ってかクエスト概要さんの『2人』って、確実に俺とテンゲンの事だろ。
クエスト概要さんに『未熟』って言われたプレイヤー、俺が初なのでは?
『ユアスト初! クエストの概要でバカにされる男・ルナさんです!!!』
「はぁ、分かったよ。責任取りますとも、えぇ」
「やった、ありがと!」
イヅナさんが俺に抱きついてきた。
身長がリルと同じくらいなので、何の違和感もなく受け入れてしまった。
「ダメ! ルナ君はあげないもん!」
そう言ってソルがイヅナさんを引き剥がし、俺に抱きついてきた。うん、落ち着く。
「俺はソルのものだから安心しろ......『テレポート』ほら、お前ら行くぞ。行先はヤマシロさんの小屋だから安心して着いてこい」
そうして、新たに3人の現地人を連れて小屋に来た。
ややこしい事になりましたね。
現状を簡単に説明すると、大元として【妖刀について知る】という事で、そのついでとして、
『茜の刀の為に刀道流に入門』→『カッとなって刀道流壊滅』→『門下生が着いてきた』→『これからどうしよう』
となっています。ただのトラブルメーカーですね。
根本的な解決策もありますが、まだ気付いていません。
では次回、『在るべき場所へ』よろしくお願いします!