刀道流入門 前編
刀術には、大きく分けて3つの流派がある。
攻めを基本とし、1対1の戦闘において、相手に休ませる暇なく攻撃を与える【刀鬼流】
逆に、受け身に徹し、的確に相手の攻撃を読み、一瞬の隙にカウンターを入れる【柳流】
そして最後。相見えれば死を突き付けられ、奇襲しようものなら即座に反撃される。刀鬼流と柳流の両方の強みを取った、地獄の様な修行を積まされる【刀道流】
......余談だが、狐国に来た数多のプレイヤーが刀道流道場に入門し、その全てが破門となったらしい。
現在の刀道流の門下生は、たったの3人だけとの事。全員現地人だ。
そして俺とソル、茜さんは、そんな刀道流の道場のすぐ前まで来ていた。
「お2人とも......マジで行くんすか?」
「行くよ」
「行くしかないだろ。リルが入れねぇんだし、チャチャッとクリアするしかないだろ?」
「......分かったっす。刀の為、私も頑張るっす」
茜さんが門を叩くと、誰かが出てきた。
出てきた人は、見た目は茶色の毛の狐獣人の男性だ。顔付きはかなりの美形で、男の俺でも憧れの念がチラつく程に美しかった。
刀の扱いも、きっと美しいのだろう。
「あ、君達......もしかして入門者?」
「そうっす! ヤマシロさんに紹介状を書いて貰ったっす!」
そうして茜さんは男に紹介状を渡すと、男は紹介状をじっくり読んだ後、こちらに近付いてきた。
「......っ」
男は無言で俺を見ると、急に抜刀の構えを取り、刀を抜いた。
「【霊剣】」
カンッ!!!
俺が男の初撃を弾いた瞬間、ソルが抜刀した。
『ソル、動くな』
『......うん』
こんな奴、ソルに殺させる訳にはいかないからな。
にしても随分な歓迎の仕方だ。これなら破門になる者というか、文字通りの門前払いを受けているのだろう。
さぁ、次の手を打たれる前に殺そうか。
「『斬』」
「ッ!? ──ま、参りました!」
俺は男の首を刎ねる直前に霊剣を消し、1歩だけ下がった。
これは不意打ち対策だ。戦いにおける『参りました』が試合終了の合図だなんて、誰も言っていないからな。
布都御魂剣に手を掛けて男の行動を待っていると、男は刀を地面に置いて両手を上げた。
「すまない。本当に参った。僕の負けさ」
「......次は?」
「ないよ。刀道流門下生、テンゲン様の一番弟子として誓おう」
「......生憎、テンゲンなるものを俺は知らんが......信じよう。だが次に襲いかかれば首を落とすぞ?」
「あぁ。本当にすまなかった。紹介状に君の事が書いてあって、つい気になってしまった」
そう言って男は俺に頭を下げた。
コイツ......信じない方がいい気がする。取り敢えずソルだけは全力で守ろう。茜さんには済まないが、俺は1人を守るので手一杯だ。
「僕の名前はイオリ。さっきも言った、ここ、刀道流道場の門下生であり、現師範テンゲン様の一番弟子だ」
「ルナだ。話の流れで入門する事になった」
「ソルです。次にルナ君を斬ろうものなら、私も君の首を刎ねるからね」
「あ、茜っす......何があったかサッパリ分からなかったっす」
「あはは、本当にごめんよ。それで、君達の目的は何かな? 刀道流を習い、力を手に入れる事?それとも、より強い人を求めて旅をしてるとか?」
「俺はさっきも言った通り、話の流れで入門する事になったから、取り敢えず卒業が目的かな」
「私も同じ」
「私は、ここを出ればヤマシロさんが刀を打ってくれると言うので、その為に来たっす!......あ、正確には『刀に振られない実力を得るため』っす」
「なるほど、分かった。なら着いてきて」
ソルの尻尾が逆立っているのが少し気になるが、俺も同じ様な感じだし大丈夫だろう。
そうして一織に着いて行くと、道場の中へ案内された。
「ようこそ刀道流へ。僕達は3人を歓迎するよ」
道場の床にはイオリの他に2人が正座をしており、その2人の前には推定50歳程の人間の男が立っていた。
「テンゲン様。新たな入門者を連れて来ました。3人の語り人です。左からソル、ルナ、茜と言う名前です」
イオリが男に頭を下げてそう言うと、男はこちらへやって来た。
......何か、デジャブを感じるぞ。
「へぇ、修羅......いや、それ以上か。お前さんは修羅の少し下。赤髪は......ちと厳しいが、鍛えれそうだな。
では......俺はテンゲン。刀道流の師範をしている」
テンゲンは俺達と握手をしてからそう言い放った。
「お前達にはこれから、正式な入門試験をした後、刀道流の修行に入る。いいか?」
「はいっす!」
え......これ、割とマジで時間かかるクエストかな。
どうしよ。凄く帰りたい。けど、オケアノスが持って来た妖刀を見てみたいし、その為にはどこかに入門した方が良さげなんだよな......。
「「......は〜い」」
ソルも同じ考えだったのか、2人でやる気のない返事をした。
「ハズミ、イヅナ!」
「「はい!」」
後ろで正座していた2人の女性の名前が呼ばれた。
「ハズミはソルと手合わせしろ。イヅナは茜を」
「「はい!」」
「イオリは「すみません。僕はルナに負けました」......ほう?」
「「え?」」
いやん。3人から注目を集めちゃった。恥ずかぴ!
「ならルナは俺がやろう。イオリ、審判はいいな?」
「はい」
「じゃあまずはハズミ、ソルのペアからだ」
俺達は道場の端に寄り、2人の試合を見学する事となった。
いや〜、久しぶりに陽菜......じゃなくてソルが道場に立っているのを見るが、やっぱり綺麗だなぁ。
浴衣と言う名の神器も綺麗だし、この数秒で5回は惚れ直したね。
「では。これより! 刀道流入門試験を開始する! 両者、構え!」
イオリの言葉にハズミは刀を抜いて構えたが、ソルは刀は抜いたものの、だらんと腕を下げていた。
これはソル、本気だな。よく見ておこう。
「始め!」
先に動き出したのはハズミだった。的確にソルの心臓を狙った突きの構えで走り出し、両手で抉るようにソルの胸を突いた。
が、その瞬間にソルが消え、ハズミの後ろに現れた。
「え?」
「『斬』」
「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
あっさりとハズミの右腕が切り落とされ、刀が床に落ちた。
チラッとイオリがテンゲンを見ると、テンゲンは頷いて返した。
「そこまで! 勝者、ソル!」
「ありがとうございました......『リザレクション』」
ソルが礼をしてから光明魔法を使い、ハズミの腕を復活させた。
ソルの唯一の超級魔法だが、効果が凄まじい。一瞬の内に部位欠損が治るのは戦闘面ではとても強い。
ただ、リザレクションは消費MPがバカにならんのだ。
確か、1回使うのに3万MP使うはずだ。
MPにSPを振っているからこそ使える、超回復魔法だな。
「お疲れ様、ソル」
「えへへ、勝った!」
帰ってきたソルの頭を撫で、軽く抱き締めた。
「感想は?」
「弱い。事前に禁止事項とか言わないから、妖術と転移でしゅんコロだよ」
「あ〜あ。まぁ、入門試験だしそんなもんだろ」
「まぁね。ルナ君がハズミさんなら、あの時どうしてた?」
おっと、それを聞かれるか。
「う〜ん、まず本体の動きを止めて幻影を消すかな。それから本体を斬る」
「おぉ、幻影を消す意味は?」
「そりゃあ、お前の幻影なら実際に攻撃が当たるだろ? 俺だって痛いは思いはしたくない。だから消す」
「あはは......参ったね」
正直、打てる手が多すぎるくらいだ。ルールの大切さを知れるな。
「さ、茜ちゃんの戦いを見よっか。茜ちゃんなら勝てるかな?」
「「無理だな」」
ソルの言葉に、俺とテンゲンが全く同じ言葉で返してしまった。
って言うかテンゲン、急に入ってきたな。
「あら? 2人とも同じ意見なの?」
「あの茜という者、まだ下地すら出来ていないからな。磨けば光る宝石だが、今の茜はまだ発掘すらされていない原石だ」
「俺はさっきと逆になると予想する。ソルがやったように、イヅナだっけ? あの人も魔法を使うと思う」
だって、イヅナさんは狐獣人だし、化かし合いをしそうな雰囲気があるもん。
......偏見の塊だが。
「イヅナ、茜。構え!」
2人が刀を抜いて真っ直ぐに構えた。
「始め!」
刀道流は唯一、入門試験にルールがありません。
故に、過去の試験には門下生が死んでいたり.....
ルールが無いと言っても、試合が続行可能かどうかで勝敗が決められますので、ソルは上手いこと勝利を収めましたね。
では次回、後編です。楽しんでくださいね!では!