伝説の刀鍛冶・ヤマシロ
れじぇんだりー
◇山小屋へ向かう道中◇
『グォォォォォ!!!』
「ソル」
「は〜い!『イグニスアロー』パキューン☆」
『グォ......』
ソルの魔法により、2本の角が生えた筋肉の塊とも言える人型モンスター、『オーガ』が一撃でポリゴンとなって散った。
「お疲れ様。そう言えば限界突破したんだっけ?」
「そうだよ。まだルナ君には言ってないけどね......当ててみて?」
ここでか。まぁ、限界突破前と見た目があまり変わっていない事を加味して、ただ能力が強化された種族なのだろう。
何かこう、前とは違う感覚は無かったか?思い出せ、俺。前までのソルの違いを思い出せ......!
「前より......」
「前より?」
「前よりモフモフ度が増した。それが限界突破によって得たものだな!」
「うん。それは普段からルナ君が私をモフってくれてるから、そのお陰だろうね。限界突破が原因じゃないのは確実だよ?......いつもありがとう」
ソルが照れた顔で感謝を伝えたが、その顔は俺の心にダイレクトアタックしている。
「お、おう。こちらこそありがとう......それで、何の種族になったんだ?見た目は殆ど変わってないだろ?」
「変わってないね。いや、正確には変えてないね。変えられるけど、変えていないの」
「見た目が変えられる種族......化け狐的な?」
「惜しい! 今の私は『白狐』なの。白い狐だよ?」
「でもユー、ホワイトなフォックスではないぞ?」
「ふっふっふ......ではお見せしよう。本来の私のを!『変化』、解除!」
ソルが魔法を解除すると、一瞬のうちにソルの毛が金から白に変わっていった。
「どう? 可愛い?」
今のソルは、真っ白な髪に先端の黒い可愛い狐耳。そして尻尾も、耳と同じように先端が黒かった。
白と黒の良いバランスがとれた、とても可愛い狐っ娘だ。
「う〜ん、愛してる」
俺は堪らずソルに抱きついた。これは我慢出来ない。
「えへへ。実はルナ君に気に入られないと思って、ずっと妖術で前の姿にしてたの。だから気に入ってくれたなら嬉しいな」
「何を。俺はソルがどんな姿になっても大好きだぞ。それだけは何があろうと変わらない。今の姿も、とても可愛いよ」
「ありがとう......ありがとう」
最後にソルにキスをしてから、また歩みを進めた。
「そう言えばリルは反応が薄かったが、知ってたのか?」
「はい。母様が限界突破した時に隣にいましたからね。あの時、母様の焦りようは凄かったですよ?『嫌われるかも〜!』って」
「本当に焦ったよ。どれくらい焦ったかと言えば、稲荷ちゃんに聞きに行くレベルで焦ったね」
神界まで行くとは......めちゃくちゃ焦ったんだな。
かく言う俺も、急に髪色が変われば焦るだろうな。いや、焦ったんだ。反転の空中神殿の時は、その最たる例だ。
では、ここは何と言うべきか?
『俺も分かる』と言うべきか?......違う。ソルが欲しいのは共感ではないだろう。
では、『辛かったよな......』と言うのか?
これも違う。アクション次第では正解になるだろうが、これは俺らしくない。俺だけの、俺だからこそ導き出せる答えがあるはずだ。
それは──
「ありがとう。打ち明けてくれてありがとう」
ソルの手を優しく包み、お礼を言った。
「......大好き」
ソルは一言だけ返し、俺の手を一緒に頬に擦り付けてきた。優しく、暖かいソルの体温が伝わり、俺は自分の選択は間違いではなかったと、そう感じた。
「父様〜、母様〜。行きますよ〜! もう小屋は見えてるんですからね!」
「はいよ〜......じゃあ、行こうか」
「うん。あ、でも待って! 茜ちゃんは私の事を知らないから......『変化』良し。じゃあ行こっ!」
「あぁ」
俺は気が回らない自分に多少の苛立ちを覚えながら、ソルと一緒にリルに着いて行き、茜さんに情報を貰った小山まで来た。
俺達は4回ノックし、返事を待った。
『誰だ?』
「こんにちは。俺はルナと言います。茜さんに呼ばれて来ました」
「ルナ君の付き添いその1です」
「父様の付き添いその2です!」
『あん?......ホントに来たのか。まぁいい、入れ』
小屋の主がドアを開けてくれたので、軽く会釈をしてから入った。
すると、椅子の上で石像のようになっていた茜さんが動き出した。
「あ、ルナさん!......どうっすか? ヤマシロさん。この人なら大丈夫でしょう?」
「待て、赤いの。その前に挨拶だろう。白いの。お前は誰だ?」
茜さんがヤマシロと呼んだ、筋骨隆々のお爺さんが俺を指さして聞いてきた。
白いの......俺か。
「語り人のルナです。赤いのに呼ばれて来ました」
「ちょっ「黙ってろ」うっす」
茜さんがヤマシロさんに黙らされた。
そしてヤマシロさんは、俺を値踏みする様な目で見た後に、棚からひと振りの刀を取り出した。
「白いの。これを抜けるか?」
急展開に驚いたが、ヤマシロさんの持ってきた刀をよく見た。
まるでブラックホールかの様に意識が吸い込まれる程の暗く、黒い鞘に入った刀だ。何となく、これを抜いてはいけない気がする。
「これは?」
「フッ......抜けたら教えてやるよ。試してみな」
このまま断っても話が続かなさそうなので、俺は刀を抜く事にした。
刀を受け取る途中、フーが心配そうに声を掛けて来たが、何か起こるのは分かっているので大丈夫と答えた。
「いきます......ん゛っ! ぐぅ......あぁ!」
「ルナ君!?」
「父様!」
鞘を持ち、柄を握って数センチ程刃を抜いた瞬間、真っ黒な刃が見えた。
が、その刃を見た瞬間、頭の中に真っ黒な言葉がぶつけられるイメージの頭痛がした。
いや、これはイメージではない。本当にぶつけられている。
『殺セ』『斬レ』『殺セ』『血ヲミセロ』『切リ裂ケ』
まるで本当に斬られているかの様にHPが減るが、俺は無視をして刀を抜いた。
「本当に抜きおった......クックック、化け物よのぉ」
「はぁ、はぁ、はぁ......何なんです? この刀。さっきから殺せ殺せうるさいんですけど」
「ソイツは『妖刀:修羅』と言う。本物の修羅にしか抜けぬ、神器と同等の妖刀じゃ」
本物の修羅という言葉、凄く心当たりがある。それは俺の称号【戦神】の1つ前の称号、『修羅』だ。
同エリア内で1万体のモンスターを倒せば手に入る称号だが、もしかしてこの刀、称号を持っているかどうかで装備出来るか変わるのか?
「ねぇ、それ私も触っていい?」
「辞めとけ、黄色いの。お前さんにはそもそも資格が無い。修羅に至りもしないで触れれば、お前さん、死ぬぞ?」
「でも「ダメだ、ソル」......ルナ君?」
「コイツ、魔剣なんかよりよっぽど明確な意志を持っている。それも、悪意の塊だ。俺はソルにこの気持ちを味わって欲しくない」
黒い。黒すぎる。生き物を殺す事しか考えていないバカな妖刀だ。故に、誰かの心を傷付けるのは簡単だろう。
俺はソルに傷付いて欲しくない。これは、過去に傷付けられた者でもかなり辛いからな。
「フンッ......白いの、返しな」
「はい」
ヤマシロさんに修羅を返すと、いとも簡単に修羅を握って鞘に納めた。この人もモンスターをぶっ殺しまくったのだろうか。
「ヨシ。白いの、今度はお前さんの武器を見せろ」
『嫌です』
『私はそもそもルナ様以外には触れられませんので、問題ないです』
わお、めちゃくちゃ嫌われてるな、ヤマシロさん。
「嫌がっているので御遠慮ください」
「ん?......付喪神か?」
「えぇ。俺の相棒です」
「ソイツはお前さんの自作か? それとも誰かから貰い受けたか?」
「2人とも自作です」
「フンッ......そうかい。なら、白いのには俺の刀は要らねぇな。同格かそれ以上の奴に武器を作るほど、俺は自尊心がデカくねぇ」
え、じゃあこれからどうすれば良いんだ? 分からなくなってきたぞ。
「ヤ、ヤマシロさん! 私に刀を打って欲しいっす! 言ったじゃないっすか!『刀に振られない実力を持って来い!』って!」
「ハッ、それは赤いのがそれだけの実力を付けば済む話だ」
おぉ、正論パンチ。でもどこまで鍛えたらいいか、それを分かってないから困ってるんじゃないか?
「じゃあ手っ取り早く鍛える方法を教えてくださいっす!」
「チッ、うるさい奴だ......仕方ねぇ。紹介状を書いてやるから、そこで鍛えてこい」
そう言ってヤマシロさんは3枚の紙を取り出した。
「取りに来い。赤いの、白いの、黄色いの」
そうして手渡された紙を見てみると、とんでもない内容が書かれていた。
「狐国最高の道場、『刀道』に入門しろ。黄色いのは兎も角、赤いのは学びがあるはずだ」
「げぇっ! 面倒くさそうっす......って言うか、何でソルさんは大丈夫なので?」
「そりゃあ、白いのの次に刀を振れるからな。ただ修羅ではない、才能と努力を重ねた者よ」
「どうも」
おぉ、ソルが褒められるのは俺も嬉しいな。道場時代、共に研鑽を積んだ仲だ。俺とソルの技術は2人で作ったも同然の物。
それを褒められたら、俺だって嬉しくなる。
「ぐぅ......分かったっす。じゃあここを卒業すれば、刀は打ってくれるっすか?」
「あぁ、いいぞ。せいぜい刀道で扱かれる事だ。学んでくるといい」
ヤマシロさんがそう言うと、俺達の目の前にウィンドウが出てきた。
◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆
『狐国道場:刀道に入門&卒業しよう!』
<報酬>
・『ヤマシロ』が刀を打ってくれるようになる。
<概要>
狐国最大の道場、『刀道』に入門しよう!
場所は地図にかいてあるぞ!
◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆
こうして、伝説らしい刀鍛冶『ヤマシロ』に特殊クエストを貰い、刀道に入門する事となった。
妖刀.....イブキはギリギリ神器なのでルナ君は大丈夫です。
半神半妖の刀が、夜桜ノ舞のポジションでしょうね。
では次回『刀道流道場』お楽しみに!