狐の噂
(^・ェ・^)きつね!
◇狐国の宿、ロビーにて◇
「お、おはようございますっす!」
「「おはよう」」
「......す」
狐国に来てから2日目。宿に泊まり、朝に茜さんと集合した。
茜さんがまたぎごちなくなっているのは、俺とソルは同じ部屋だったからだろう。
そしてリルは、俺に抱っこされながら半分寝ている。
「あ、リルちゃんはおねむっすか」
「......昨日、父様と母様がうるさかったのであまり寝てません......」
「え? え?......え?」
茜さんがこちらを2度見、いや、3度見した。
「2人で景色を見てたんだよ。ほら、ここって二階建ての大きな宿だし。それで景色を見ていただけだぞ?」
「うるさかったのは......アレかな? 甲冑を来た人を見付けた時かな」
2人で浴衣来て旅行気分を味わっていただけだ。だから何も問題はないだろ?
確かに、遅くまでテンションは上がっていた。普段のリルなら寝ている時間まで見ていた。だが、ただ夜景を見ていただけなんだ。
「し、信じるっす」
「別に勘違いしてくれてもいいぞ? どう思うかなんて、人それぞれだしな」
「......やっぱり半信半疑っす」
ですよね。俺もそんな事を言われたら半信半疑にジョブチェンジするわ。
『ルナさん、アホですか? アホですよね? アホですね』
「アホアホうるさいなぁ。船長になるのか?」
『なりませんよ! どうして誤解を解かなかったんですか!』
「いや、言ったじゃん。人それぞれの考え方がある、って。考えてもみてくれよ? 勘違いから始まる良い事ってあるだろ?」
『その内99パーセントはバッドエンドですけどね』
「だいじょぶだいじょぶ。それにほら、ソルにも聞いたらいいじゃん......ソル、ソルは今回の茜さんの勘違いをどう思う?」
「そうだね......その勘違いが現実だったら、私はすっごく嬉しかったね......」
「な?」
「『な? じゃないですよ!!』」
赤と青に怒られてしまった。俺、紫になりそう。
「朝からうるさいですねぇ。目が覚めちゃいましたよ」
ギャーギャー騒いでいたら、抱っこしていたリルが完全に起きたようだ。
俺はリルの頭を撫でてから隣りに座らせようとすると、俺にしがみついて座ろうとしなかった。
可愛い抵抗だな。良かろう、抱っこされ続けるといい。
「で、茜さん。今日はどうするんだ?」
「えっと、今日は噂話を聞いて特殊クエストを発生させるっす。私はこの噂話のフラグを踏んで無かったので、特殊クエストが出なかったんっすよ」
「ほへ〜。どんな噂?」
「さぁ? 私は知らないっすね」
「そうっすよね」
「あ! 私の『っす』を盗らないでくださいっす!」
「はいはい......じゃあ行くか。朝ご飯は道中で食べよう。ここの人との交流から噂にも繋がるだろう」
「了解っす!」
「ふふっ、デートだね」
「どんな食べ物があるんでしょうかね?」
「さぁな。よく街を見てからのお楽しみだな」
という訳で、俺とソルとリルは浴衣に着替え、完全にお祭りに遊びに来た家族の見た目になった。
「まるでお祭り参加者っすね。私、逆に浮いてないっすか? ほら、原住民の方も和装だから......」
「知らぬ。他の語り人も西洋の鎧を着ている故、差程目立たぬ」
「ルナ君のロールプレイキター!」
「あはは、そうだと良いっすね」
ソルが尻尾を250bpmのメトロノームの様な速度で振っているが、大丈夫なのだろうか。いつかちぎれて飛んで行ったりしないよな?
「じゃあここらで一旦別れるか。お互いに特殊クエストが発生したらまた合流しよう。ソル、行くぞ」
「了解っす! ではまた後で!」
「ルナ君のロールプレイ......」
今度は一瞬で尻尾がしょぼ〜んと垂れ下がった。感情表現豊かな尻尾だな。凄くモフりたくなる。
俺は左手でリルの手を繋ぎ、右手でソルの手を繋いで歩いた。
こうすればソルも喜んでくれるだろう。
そうして狐国の街を歩く事数分、団子を売っている屋台を見付けた。
どうやら店主は、狐獣人のおっちゃんのようだ。
「あそこにしようか。並んでないし、丁度いい」
「おっけ〜」
「初めて見る食べ物ですね」
お、それならお団子の美味しさを知ってもらえる良い機会だな。
「へいらっしゃい! 何を注文で?」
屋台の前の部分にお品書きがあり、そこには色々な団子やお餅があった。
「リルとソルはどうする?」
「私、みたらし団子で!」
「父様に任せます」
「ならみたらし団子2つと、五平餅を1つください」
「あいよ! 700リテのところを......家族割引で600リテだ!」
「おぉ、ありがとうございます!」
俺は600リテ支払い、みたらし団子と五平餅を受け取った。そしてその時に軽く聞いてみた。
「あの~、最近、何か話題になった事とかありますか?」
「最近? あぁ、そう言えば妖刀の話題があったなぁ。気になるか?」
「えぇ。是非教えてください......いただきます」
俺は2人にみたらし団子を渡してから、自分の分の五平餅をひと齧りした。
あまじょっぱい醤油の味が広がって、とても美味しい。
「おう! それで妖刀の話だが、兄ちゃん、クラーケンって知ってるか?」
ア゜......俺は全てを察した。
「いえ、知りません」
「「げほっ! げほっ!」」
ソルとリルが同時に噎せてしまった。大丈夫だろうか?
「大丈夫か? ほら、お茶。団子は気を付けて食べろよ?」
俺はモスベリーの葉っぱから作った冷たいお茶を2人に渡した。
「あ、ありがとう」
「ありがとうございます、父様」
「美味しそうで何よりだ。それでおじさん、クラーケンって何ですか?」
「クラーケンはな、でっけぇイカの妖怪さ。兄ちゃん達、ロークスから来たんだろ? それならクラーケンがいた海を渡ってるよ」
「そうなんですか!?」
クラーケンガイタノカー。シラナカッタナー。
「あぁ。それで妖刀の話だが、随分と前に妖刀を乗せた船がロークスに向かったんだよ」
「えぇ」
「それでな、その船がクラーケンに襲われたんだとよ。それも、帝王なる化け物に」
「......え、えぇ」
「そしてこれは......数ヶ月前だったかな。海神様が港に来てな。綺麗な『どれす』に身を纏った、えらいべっぴんさんの女神様が」
「ん? あぁ、なるほど。それで?」
オケアノスかな? アイツ、『帝衣:海の衣』を着たんだな。
っていうかアレって、男なら羽織袴になるんじゃなかったっけ? 性転換したのかな?
......俺の『反転の横笛』みたいに。
「それで、海神様が妖刀を持ってきたんだとよ。
『友人である語り人が、狐国の妖刀を奪った帝王を討った。そしてその語り人から妖刀を受け取り、狐国に返しに来た』って言ってな」
「おかしい」
おかしい。おかしいぞ。流石にこれは2人も首を傾げている。
それもそうだ。なんてったって、俺がオケアノスに渡した『帝剣:海閃』はロングソードだ。間違っても刀ではない。
では何故、オケアノスであろう海神は妖刀を持って来た?
妖刀の出処は? 他のプレイヤーがオケアノスに渡したとか?
いやでも、それはおかしい。マサキ達と話した時、マサキ達はオケアノスの存在を知らなかった。
攻略の最前線を走るマサキ達ですら知らない神と、交流の深いプレイヤーがいるとは思えない。
「兄ちゃん。おい、兄ちゃん!」
「......あ、何ですか?」
「餅、嫁さんに食われてるぞ?」
「え?」
右手に持っていた五平餅の刺さっている串を見てみると、ソルが釣れていた。大物だな。
「美味しいか?」
「うん!」
耳をピコピコと動かしながらソルは笑顔で答えてくれた。
「そりゃ良かった。リルも食べるか?」
「いいのですか? では、いただきます......おぉ、こちらも美味しいですね!」
リルは目をキラキラさせて喜んでくれた。嬉しいね。屋台のおじさんも頷いてるし、皆ハッピーになるよ。
「じゃあおじさん、五平餅をもう1つと、餡子の団子を1つ、あときな粉餅ください」
どうせだし、色々なお団子たちを食べようじゃないか。
クラーケンもとい、妖刀の話も聞きたいし。
「あいよ! 700リテだよ!」
「お金です......ありがとうございます」
俺はリルに五平餅を渡し、ソルにきな粉餅を渡した。
「ありがとうございます、父様!」
「ありがとうルナ君。はい、あ〜ん」
「どういたしまして。あ〜ん......美味し。じゃあお返しに、あ〜ん」
ソルから1口貰ったきな粉餅は、とても美味しく、甘かった。
あぁ、ソルが可愛すぎて心臓がポン☆しそうだ。おじさん、骨は拾ってくれ......
「あ〜む......甘くて美味しですな」
あかん。ソルが可愛すぎる。大体、浴衣が似合いすぎなんだよ。そんな姿を見たら、急に抱きつくぞ? いいのか? おん?
「っとと、妖刀の話だった。おじさん、オケアノスは他には何も言ってなかったんですか?」
「お? 兄ちゃん、海神様を知ってたのか。まあいい。続けるぞ。それで海神様が
『妖刀は将軍ムラマサが保管しなさい。将軍が認めた人物にのみ、この妖刀を渡してください。妖刀の力は生半可な人間では耐えられません。それこそ、帝王を討った友人であろうと......』
そう言って海神様は海に帰ったんだよ」
「ふ〜む......」
俺はおじさんの言葉に頭を悩ませれていると、急にウィンドウが出てきた。
◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆
『特殊クエスト:狐の噂』が発生しました。
<報酬>
・なし
<概要>
狐国に返ったと噂される妖刀の謎を追おう!
妖刀に近付くには、刀に纏わる人に
話を聞くのが良さそうだ。
妖刀はどうやら、何者かの力を封じたらしい。
◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆
どうやらソルにも特殊クエストが発生したらしく、こちらを見てから頷いた。
「オケアノスで確定だな。おじさん、ありがとう」
「良いってことよ! それにしても兄ちゃん、どこで海神様の名前を聞いたんだ? 俺でもこれは、聞くのに結構時間がかかったんだぞ?」
俺はリルが五平餅を食べ終わったのを確認してから、おじさんに答えた。
「それは海神の友人が俺だからですよ。帝王クラーケンから入手した剣を、俺は海神オケアノスに渡しましたからね。
......これを信じるかどうかはおじさんの自由です。では、ごちそうさまでした」
おじさんに挨拶をして、俺達は歩き出した。
「ねぇルナ君、何で最初に嘘ついたの?」
「そりゃあ、あれは『知らない』って答えるのがクエストフラグっぽかったからな。まぁ、多分それは違ったけど」
ウィンドウが出たタイミング的に、多分違う。
「じゃあ何が原因なんだろう?」
「多分、オケアノスの言葉だ。『将軍ムラマサ』コイツがキーだろう。このクエストは、プレイヤーをムラマサに近付ける要因の1つなんだろうな」
「なるほど」
「つまり父様は、夏に倒したクラーケンに、秋も終わりそうな今に絡みつかれた訳ですね!」
「う〜ん、ちょっと意味が分からないが、因果と言いたいならその通りだな」
これで帝剣の説明文にあったエンプレス構文も、覚書も、あそこにオケアノスがいた事も繋がった。
あの日帝王クラーケンを倒した時から、このクエストは生まれたんだろう。
「じゃ、茜さんと合流するか」
そう思って茜さんにボイスチャットを繋げた。
『ルナさん! 助けてくださいっす!』
『何があったんだ?』
かなり切羽詰まった様子だな。面倒事なら関わりたくないものだ。
『ちょっと特殊クエを踏んだんっすけど、相手が伝説の鍛冶師なる者でして......『ワシに刀を求めるなら、刀に振られぬ実力を持って来い!』って言ってくるんす!』
『ふむふむ。刀術部門2位なら、別に良いんじゃないか?』
『いや、それを見せてもダメなんす! ですのでルナさん。代わりに来て欲しいっす! マップは送るっすから!』
茜さんがボイスチャットを切り、マップ情報が送られた。
どうやら北西に見える、大きな山の中の小屋に居るらしい。
「えぇ......俺、刀求めないんだけど......」
「ふふっ、でも行ってみる甲斐はありそうだよ?」
「そうですよ! もっと父様の腕が上がるかもしれませんよ?」
流石に2人に言われちゃあ、行くしかない。
「しゃあない。取り敢えず行くか」
「「お〜!」」
エンプレス構文は伏線に進化したようですね。流石だ.....
これ、本来なら『語り人達が──』ってオケアノスが言うのですが、どこかの誰かがオケアノスと友人になった上に、帝王クラーケンを単独討伐したので『語り人の友人が──』となっています。
では、次回『伝説の刀鍛冶・ヤマシロ』お楽しみに!