買うより作った方がいいじゃん
狐国編の2話目ですね!
狐の名
かたる国こそ
化かしあい
なれど狐は
嘘をつかない
ゆずあめ
「おぉ、やっぱり和風建築は見ていて落ち着くなぁ」
「そうだねぇ。また稲荷ちゃんの所に行きたいねぇ」
「父様と母様のお気持ち、とっても分かります」
船に揺られること30分。俺達は狐国に上陸した。
刀術の習得が入国条件である狐国は、刀が映える、和風建築で溢れていた。
漆喰の白に瓦の黒。これだけで落ち着く雰囲気を感じているのは、俺が和風建築が好きな証拠なんだろうな。
「ル、ルナさん! 行くっすよ〜!」
「はいはい。ゆっくり行こうや」
茜さんが手を振って呼んできた。
......が、少しぎこちない。俺とソルの口移しのシーンを目撃したからかな?
「ルナさん、ミニマップにはちゃんと『鍛冶屋』『雑貨屋』とか、メモしといた方がいいっすよ」
「なんで?」
「いや、見た目じゃ分からないじゃないっすか。例えばあそこ。あそこは薬屋っすけど、向かいの建物は食品店っす。あの違いが分かるっすか?」
「分かる。例え分からなくとも、人に聞けば分かる」
わざわざマップにピンを刺さなくとも、覚えきれないところは街の人に聞けばいいじゃないか。折角の現地人との関わりを薄くするのは少し......いや、かなり勿体ない。
「ふふっ、茜ちゃん。ルナ君は街の人と話すのも楽しむタイプだから、マップ自体あんまり使わないんだよ」
「えぇ! 意外っす! ルナさんなら、もっと効率重視でプレイしてるのかと......」
「ないない。俺が効率を求める時はよっぽど切羽詰まってる時くらいだ。それ以外はのんびりマイペースに遊んでるよ」
今でも、リルと王都の探検に行くくらいにはマップは見ないからな。やっぱり、この世界に生きている実感を大切にしたいからな。
「へぇ。じゃあゆっくり案内するっす。って言っても、私が知ってるのは鍛冶屋くらいなんすけどね!」
「案内してくれるだけ嬉しいよ。ありがとう」
「ありがと、茜ちゃん」
「いえいえ! 気にしないで欲しいっす! では1件目、行くっすよ〜!」
そうして茜さんの案内で、1件目の鍛冶屋に来た。
あ、俺は万が一の可能性を考えて、フーとイブキを帯刀して歩いている。
ソルとリルも、それぞれ刀を腰に付けて歩いている。
これなら何かあった時、直ぐに対処出来るだろう。
「ここっす! では入るっすよ!」
茜さんが鍛冶場がオープンな鍛冶屋に入ったので、俺達も続いた。
「......らっしゃい」
「数日ぶりっす! クロガネさん!」
「ん?......あぁ、茜か。後ろの奴らは?」
「銀髪の方がルナさんで、金髪の方がソルさんっす! そして2人の間にいるのが、娘さんのリルちゃんっす!」
「「「どうも」」」
「フン......家族連れで来るような場所じゃねぇぞ」
うわぁ......関わりたくないタイプの人だ......嫌だなぁ。
「クロガネさん。貴方は今、どこを見てそう判断したっすか?」
「あ? そりゃあその男を見れば分かるさ。刀もまともに振れないような、ペーペーだろ」
その言葉を聞いた瞬間、リルが俺を掴む手にどんどん力が入る。
「クロガネさん。本当にそう思ってるんすか?」
「ったりめぇだろ? 俺が何年鍛冶師やってると思ってる。俺くらいになりゃあ、人を見ればソイツがどれ程武器を扱えるか分かるぞ」
茜さんの顔も曇り、俺は嫌な予感がしてソルの方を見ると、今までに無いくらい尻尾の毛が逆立っていた。
「すみません。俺達には貴方の武器は合わないようです。こんなペーペーはもう去りますので、もし機会があれば、その時によろしくお願いします......では」
俺はソルとリルを連れ、鍛冶屋から少し離れた。
道中に茜さんに場所を伝え、話が終わったら来てもらうように言った。
「ルナ君! どうして何も言わなかったの! ばか!」
「そうですよ! あの人、完全に父様の事を侮辱しましたよ!?」
ピリピリとする2人を抱き締め、優しく語りかける。
「落ち着け。クロガネは自分で言っていただろ? 『俺くらいになりゃあ、人を見ればソイツがどれ程武器を扱えるか分かる』って。だから、落ち着いて逆に考えてみろ」
自分を過信する訳では無いが、俺は俺自身の強さを知っている。
故に、あの人があの言葉を言った瞬間、『この人とは合わない』と思ったんだ。
今まで出会った職人......フェルさんやジンさんは俺の事を認めてくれた。
フェルさんはレベル1の時から信じてくれたし、ジンさんも鍛冶で関わるようになってから信じてくれた。
だが、クロガネとやらはそうじゃなかった。自分の何かしらの感情を優先し、客を突っぱねた。その上、客を侮辱するという、商人としてもやってはいけない事をした。
果たして、そんな鍛冶師が良い鍛冶師と言えるだろうか?
「......ごめんね。感情的になりすぎた」
「すみませんでした」
「いいよ。あの場で言わなかっただけ、2人は偉い」
ソルとリルの頭を撫で、茜さんが帰ってくるのを待った。
「すみませんでした。ルナさん」
「ん? あの鍛冶師の事か? それなら気にしないでくれ。2人の成長に繋がったからな」
「それでも......あそこを案内したのは私です。すみませんでした」
真っ直ぐに頭を下げる茜さんに、俺はどう対処したらいいのか分からなくなってしまった。
どうするべきか......なんて声を書けるべきか......分からん。
「まぁ、次は大丈夫だと信じよう。あ、でもさっきと同じような人でも構わないぞ? 俺はそこまで怒ってないから」
「はい。では、次の鍛冶屋を案内するっす!」
『ルナさん、中々良い答えをしたんじゃないですか?』
『ですな。ソル様やリル様の事を含め、茜様も次に繋がる道を見付けた事でしょう』
年長者からお褒めの言葉を頂いた。俺達とは別視点で見てくれているから、その言葉の大きさは格段に違う。
「だといいな。俺はオールハッピーは望まないが、ハッピーエンドは望む人間だから、これくらいが丁度なんだ」
隣で一緒に歩くリルの頭を撫で、また茜さんに着いて行った。
「ここっす! テツさ〜ん、いるっすか〜?」
「いるぞ。茜か、よく来たな。そちらの御仁は?」
爽やかだけどどこか芯のある顔付きのお兄さんが出てきた。
「どうも。ルナと言います」
「ソルです」
「リルです」
「......茜。この御仁は茜の友人か?」
テツさんが茜さんにそう聞くと、茜さんは申し訳なさそうな顔で聞いてきた。
「えっと......友人って言っていいっすか?」
「いいよ。フレンドになってるなら友人だ」
「では、ルナさんは私の友人っす」
「私はまだ恋人ですけどね」
「娘です」
おっと? お2人さん? 少し静かにしていようか。テツさんが困惑しているぞ。
「お、おう。茜は凄い方と友人になっているんだな......」
「へへっ、武術大会でコテンパンに負かされましたっす」
「こう言っちゃ何だが......だろうな。御仁、刀術のスキルレベルを聞いてもいいか?」
「えっと、今は刀将なので、刀術からの計算でいけば261ですね」
「「え?」」
あれ? 計算間違えた? いや、合ってるはずだ。刀術でレベル100。刀王でレベル100。そして刀将で61だから、合ってるな。
「ル、ルナさん! そんなにレベル上げてるんすか!?」
「御仁、御仁はやはり剣に生きる方だったのか!」
「いや、どっちかって言ったら魔法使いですよ? 魔刀術をバリバリ使ってますし、魔法の方が多数の敵と戦いやすいですからね」
レベリング中、刀将を上げるのは大変だった。
斬り方1つで攻撃力が変わるし、的確に弱点を突かないと、斬ってて気持ち良くないからな。
ただ、上手く斬ると凄く楽しいんだ。『あ! 今のは完璧に刺した!』とか、『この一連の流れは師匠の教えに通ずる!』とか、楽しんでレベリング出来たんだ。
「なら御仁! 是非俺の刀を見てってくれ! きっと御仁のお眼鏡に適う剣のはずだ!」
そう言ってテツさんは1振りの刀を見せてきた。
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『斬鉄剣』
Rare:21
製作者:テツ
攻撃力:1,510
耐久値:65,000
特殊技:《一文字斬り》
付与効果:『斬』『刀術補正:大』
『魔纏』『STR補正:特大』
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あぁ、うん。へぇ。そうか。
「ルナ君、すっごい微妙な顔してるよ?」
「御仁。この剣を見た御仁の率直な感想を聞かせてくれ」
「......いいですか? 確実に傷付きますよ?」
「傷付いたなら、鍛え直すまでです。それが鍛冶師ってもんでしょう? さ、御仁。感想を」
その考え方、凄く憧れる。俺は傷付いたらソルに治してもらう人間だから、鍛え直すという発想が出なかった。
そして俺が今から言うことは、俺が言われたら直ぐにソルに泣きつく言葉だ。そんな事を言いたくは無いが......テツさんが真剣な顔で聞いてるしな。言おう。
「最初に思ったのは、『買うより作った方がいいじゃん』ですね。俺の刀は自作の神器です。その神器を超える刀なら良かったのですが、この刀はそれ程までに至っていませんでした。
そして、そもそもこの子達は俺の愛刀です。
幾らテツさんが作る刀がどれ程素晴らしい物でも、俺はこの子達を手放す気はありませんからね」
『ルナさん......これはキュンと来ますね』
『付喪神冥利に尽きますな。ありがとうございます』
何があっても手放す気は無い。例え布都御魂剣の10倍強い刀を貰おうと、例え夜桜ノ舞の100倍強い毒の刀を貰おうと、俺は布都御魂剣、クトネシリカ、夜桜ノ舞を使い続ける。
それが俺の神器に対する思いだ。
「御仁のその言葉。この胸に刻みます。いつか、御仁のお眼鏡に適う剣が作れる時を楽しみにしてください」
「はい。ただ、楽しんで作ってくださいね? そうでなければ、その刀を超える刀は生まれませんよ」
「はい! ありがとうございました!」
テツさんが頭を下げて俺達を見送った。
「......案内する意味、無かったっすね」
「そうか? テツさんには良い刺激になったんじゃないか?」
「いや、あれは刺激どころか心折っちゃってるっすよ、テツさんの」
なら大丈夫だ。それもテツさんの目論見通りだからな。
「刀は玉鋼を折って叩いて鍛えるものだ。テツさんはこれから、闘志に燃える玉鋼となるんだろう」
「ふふっ、正に『鉄は熱いうちに打て』だね!」
「上手い!」
その切り返しは上手すぎるぞ、ソル!
俺もいつか、そんな返しが出来るような人間になりたいな。
「はぁ......仲良しカップルで、良かったっす」
もしかしたら次の章で出てくるかもしれないかもしれない人物の登場です。
確率は不明です。
次回、『狐の噂』お楽しみに!